監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
中小企業の福利厚生は、大企業と比べて予算や担当者のリソースが限られ、何から着手すべきか迷いやすいテーマです。本記事では、就活生の意識調査による人気制度TOP10、費用相場、2026年4月施行の食事補助非課税枠拡大など最新の制度改正を取り上げます。自社に合う福利厚生選びの判断材料としてご活用ください。
中小企業に福利厚生が求められる理由
中小企業が福利厚生の整備に取り組む背景を、採用市場と従業員の意識の両面から確認します。
人材獲得が激化している
国内企業の99%以上を中小企業が占めており、限られた人材をめぐる獲得競争は日常的に起きています。大企業と比べて給与水準や知名度で見劣りする場合、求職者への訴求材料を別に用意する必要があります。福利厚生の充実は、給与以外の切り口で自社の魅力を伝える手段の一つです。
従業員が福利厚生を求めている
「2026年卒 大学生キャリア意向調査3月<就活生のワークライフバランス意識>」によると、就活生が大手企業の選考に参加した決め手として51.5%が「福利厚生が手厚い」ことを挙げています。
転職活動でも同様の傾向があり、ベター・プレイスの「福利厚生制度に関するアンケート調査」では、転職時に福利厚生を重視すると回答した人が79.4%にのぼりました。給与だけでなく、働きやすさや安心感を含めた待遇全体を見て就業先を選ぶ人が増えていることがわかります。
参考:マイナビキャリアリサーチLab|2026年卒 大学生キャリア意向調査3月<就活生のワークライフバランス意識>
参考:ベター・プレイス|福利厚生制度に関するアンケート調査
中小企業の福利厚生の課題
福利厚生の必要性は理解していても、中小企業特有の事情から着手しづらいという声もあります。代表的な2つの課題を見ていきましょう。
年々、法定福利費が増加している
企業が負担する法定福利費は、保険料率の見直しなどを背景に長期的な増加傾向にあります。さらに2026年には「子ども・子育て支援金」の徴収が始まる予定で、被保険者に対して新たな負担増が見込まれています。
こうした固定費は簡単に削減できるものではありません。単純な賃上げだけに頼らず、非課税制度を組み合わせた効率的な還元策を含めて検討する必要があります。
運用リソースが限られている
福利厚生を独自に構築・運用する場合、申請対応・利用上の管理、社内周知など継続的な事務作業が発生します。しかし中小企業では人事・総務の担当者が少なく、他の業務と兼任しているケースが多く、制度の見直しや新設に時間を割きにくい状況です。結果として、導入した福利厚生が古い内容のまま据え置かれやすく、利用率が伸び悩む要因にもなります。
中小企業が福利厚生を充実させるメリット
前述の課題を踏まえたうえで、福利厚生の充実に取り組む価値はどこにあるのか、具体的なメリットを紹介します。
従業員満足度を高められる
従業員満足度とは、企業の働きがい・働きやすさ・各種制度・職場環境などに対する、従業員の満足度を示す指標のことです。働きやすい環境や制度が整っている企業では、従業員満足度が高くなりやすい傾向があります。
関連記事:【2025年】従業員満足度が高い企業ランキング6選!取り組み事例も紹介
人材を確保できる
福利厚生が充実し、働きやすい環境が整っている企業は、求職者にとって魅力的です。採用がスムーズに進みやすくなることに加え、今いる従業員の定着にもつながります。同業他社と比べて福利厚生が見劣りしなければ、よりよい条件を求めて転職するといったケースを減らせるでしょう。
<福利厚生の充実度アップが人材確保につながった事例>
株式会社sumarch(導入事例はこちら)では、給与アップのほか、食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」の導入などにより、従業員の待遇改善に取り組んでいます。その結果「自社より好待遇の企業がなかった」と転職を考え直した従業員もいるそうです。
「チケットレストラン」の詳細や実質的な手取り額アップの詳しい内容は、こちらの「資料請求」からお問い合わせください。
業績アップにつながる
福利厚生によって従業員が働きやすい環境を整備できれば、業績アップにつながりやすくなります。
休暇制度やフレックスタイム制でプライベートとのバランスが取りやすくなれば、リフレッシュして仕事に臨めるでしょう。食事手当でバランスのよい食事をとりやすくしたり、ジムの費用補助で運動不足の解消に取り組みやすくしたりすれば、健康状態を良好に保ちやすくなり業務へ集中しやすくなることも期待できます。
研修制度や資格取得支援を行えば、従業員のスキルアップによってこれまでは難しかった商品やサービスの開発・提供ができるかもしれません。
人的資本経営につながる
経済産業省によると、人的資本経営の定義は以下の通りです。
人的資本経営とは、人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です
人材の価値を最大限に引き出すには、従業員が満足して働けるよう待遇を整備することも重要です。福利厚生の充実度アップは、この待遇の整備につながります。
関連記事:人的資本経営とは?事例を用いて解説!メリットや導入のステップ
非課税制度の活用で実質的な手取りを増やせる
物価上昇が続くなか、従業員が重視しているのは額面の増加だけでなく、実際に使える「実質手取り」です。給与を引き上げると税額も増えますが、一定の条件を満たす食事補助などの福利厚生は非課税枠を活用できるため、同額を給与として支給するよりも従業員の手取りを増やせます。あわせて福利厚生費として損金算入できるため、企業側の税負担軽減にもつながります。
中小企業が導入すべき福利厚生制度TOP10
予算や運用リソースが限られる中小企業でも、優先順位をつければ効果的に福利厚生を充実させられます。まずは求職者からの支持が厚い制度を確認しましょう。「2026年卒 大学生キャリア意向調査3月<就活生のワークライフバランス意識>」から、就活生が就職先にあってほしいと考えている制度TOP10を紹介します。
| 順位 | 制度 | あったら嬉しいと回答した割合 |
| 1 | 交通費支給制度 | 57.0% |
| 2 | 住宅手当・家賃補助制度 | 53.6% |
| 3 | 在宅ワーク・リモートワーク制度 | 42.7% |
| 4 | 有給取得率向上施策 | 36.6% |
| 5 | 退職金制度 | 36.2% |
| 6 | 時間単位で有給が取得できる制度 | 32.2% |
| 7 | 健康診断の受診補助制度 | 30.9% |
| 8 | 短時間勤務制度 | 28.1% |
| 9 | 食事補助制度 | 27.5% |
| 10 | 週休3日制度 | 26.6% |
ランキングからは、食事や住まいに関する福利厚生や、ライフワークバランスにつながる福利厚生などが、上位にランクインしていることがわかります。以下、制度の詳細を見ていきましょう。
関連記事:福利厚生がいい会社ランキングを紹介!従業員が喜ぶ福利厚生もチェック
参考:マイナビキャリアリサーチLab|2026年卒 大学生キャリア意向調査3月<就活生のワークライフバランス意識>
交通費支給制度
勤務先へ出社して仕事をする場合、交通費がかかります。この費用の負担を軽くする、もしくはなくすよう、企業が実施するサポートが交通費支給制度です。支給要件は以下のように企業が独自に定めます。
- 全額支給する
- 月3万円を上限に支給する
- 公共交通機関を使い通勤する場合のみ支給する
- マイカー通勤は距離に応じたガソリン代のみ支給する
- マイカー通勤は距離に応じたガソリン代を支給し敷地内の駐車場の無償利用を許可する
例えば都心部で駅から近いオフィスであれば、公共交通機関を使用した場合のみ支給するルールでも問題ありません。一方、勤務先が駅から離れている場合、マイカーで通勤する従業員が多くいると考えられるため、ガソリン代や駐車場の料金にあてる通勤手当の支給を検討する必要があります。
通勤費は非課税限度額範囲内での支給であれば、従業員の税負担を増やさずに現金で支給できます。
関連記事:【税理士監修】通勤手当・交通費の非課税ルール完全ガイド|2025年改正対応版
住宅手当・家賃補助制度
生活負担の軽減に直結するため人気があるのが住宅手当です。住宅手当は、給与扱いとなり、従業員へ支給すると所得税や住民税などの課税対象となります。
支給要件は企業が独自に定めることができ、「世帯主の場合に賃貸住宅の家賃充当分として月1万5,000円を支給する」といった具体的な規定が設けられます。
また、企業が従業員に寮や社宅として住宅を提供する場合には、以下の賃貸料金相当額を従業員が支払うことで、支給しても給与として課税されません。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)÷3.3(平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
参考:国税庁|No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき
関連記事:【税理士監修】住宅手当は課税・非課税どちら?それぞれのケースや課税額を解説
在宅ワーク・リモートワーク制度
業種によっては在宅ワーク・リモートワーク制度を設けてもよいでしょう。出勤するのが難しい場合でも、在宅であれば業務を継続できる可能性があります。フレックスタイム制とあわせて導入することで、従業員は柔軟に働け、定着率向上や採用時の魅力アップにつながります。
有給取得率向上施策
有給休暇が付与されていても、休みにくい環境では活用できません。上司が率先して有給休暇を取得して休みやすい雰囲気を醸成することや、業務効率化で有給休暇を取っても仕事が滞らない仕組みづくりをすることもポイントとなります。
退職金制度
長年の勤務に対する功労として、企業が従業員に支給するのが退職金です。従業員にとっては老後の生活資金にもなるため、将来の安定に向けて、希望する就活生が多いと考えられます。
時間単位で有給が取得できる制度
有給休暇の取得しやすさにつながる制度として、時間単位で利用できるようにするのもよいでしょう。通院・育児・介護などが必要になったときにも、仕事を続けやすい制度です。
健康診断の受診補助制度
企業は労働安全衛生法にもとづいて、1年に1回の健康診断を実施しなければいけません。これに加えて、より詳細な健診を受けられるよう、費用を補助する制度です。
従業員の健康への意識向上につながるため、健康経営を目指している場合にも有効な制度といえます。
短時間勤務制度
育児・介護などの事情がある場合に、所定労働時間を短縮して働けるようにするのが短時間勤務制度です。育児・介護休業法では、3歳から小学校就学前の子どもを養育する労働者は「1日の所定労働時間を原則6時間とする」ことが定められています。法律で定められている内容を超えて、従業員がより利用しやすい制度にするとよいでしょう。
食事補助制度
食事補助制度は、従業員の食費を企業が一部負担する制度です。日々かかる出費をサポートできるのはもちろん、非課税を活用することで給与を上げずに実質的な手取りを増やせます。2026年からは食事補助の非課税枠が月7,500円に拡大。より手厚い支援が可能になりました。
例えば、エデンレッドジャパンの提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」を一定条件下で導入すれば、非課税での運用が可能です。従業員利用率98%と多くの従業員に使われており、導入の手間やコストを抑えつつ従業員に喜ばれる制度を提供できるため、中小企業にも向いています。
サービスの詳細や食事補助の非課税枠については、こちらの「資料請求」からお問い合わせください。
関連記事:【2026年版】食事補助とは?福利厚生に導入するメリットと支給の流れ
関連記事:【税理士監修】食事補助の非課税上限が7500円へ!給与にしないための非課税の条件を解説
関連記事:【速報】 国税庁、食事補助非課税上限引き上げを施行へ! 2026年4月1日より
週休3日制度
週に3日の休日を確保できる制度です。育児・介護・病気治療など勤務日を減らしたい従業員の定着から、リスキリング・地域活動をしたい場合まで、幅広いニーズに対応できます。「働きやすい職場」として採用競争力のアピールにもなる制度です。
中小企業におすすめの福利厚生サービス
限られた予算やリソースでも、外部の福利厚生サービスを活用すれば、幅広い制度を効率的に導入できます。中小企業でも取り入れやすい代表的なサービスを紹介します。
選べる福利厚生「ライフサポート俱楽部」
2,000社以上の導入実績がある「ライフサポート倶楽部」は、1人につき月350円〜導入できる福利厚生のパッケージサービスです。ホテルリソル・ペット&スパホテル・リソルゴルフなど全国の施設を優待価格で利用できる他、介護や育児のサポートにまで対応しています。
自社独自の福利厚生を導入したいときには、基本サービスにプラスできる研修や社員旅行のプランを取り入れるのもおすすめです。従業員が好みや必要に合わせて受けるサービスを選べることで、福利厚生に対する利便性が高まります。
参考:リソルライフサポート株式会社|リソルの福利厚生サービス ライフサポート倶楽部
割引クーポンを提供「freee福利厚生 ベネフィットサービス」
「freee福利厚生 ベネフィットサービス」は、全国10万店舗以上で利用できる割引クーポンを提供している福利厚生アウトソーシングサービスです。例えば、コメダ珈琲・ピザハット・Uber Eats・noshなど食事に関連するクーポンの他、TOHOシネマズ・カラオケ館など休日を充実させられるクーポンや、洋服の青山・JINSなど衣類小物の販売店で使えるクーポンなどがあります。
日常的に使える割引クーポンを活用することで、従業員は家計の負担を軽減でき、実質的な可処分所得を増やせる仕組みです。初期費用0円、IDごとに400円〜利用できるため、少ない負担で従業員の家計をサポートできます。追加料金なしで、従業員の家族を招待することも可能です。
参考:フリー株式会社|freee福利厚生ベネフィットサービス
本の福利厚生「オフィス書店」
「オフィス書店」は従業員の教育に活用できる福利厚生サービスです。3カ月に1回ごとに本を入れ替えるプランには、おすすめ15冊・選書15冊が届く「選書プラン3」や、おすすめ30冊が届く「おまかせプラン」などがあります。
本をきっかけに、従業員のコミュニケーション活性化にもつながることが期待されている福利厚生サービスです。著者による読書会を開催しているのも特徴といえます。
おやつの福利厚生「オフィスグリコ」
設置費用やランニングコストをかけずに利用できる「オフィスグリコ」は、企業規模や設置スペースに応じて、最適な設置機材で導入できます。企業の負担は0円、かかるのは従業員が利用したときにカエルの貯金箱へ投入する金額のみです。
運用をサービススタッフに任せられるため、導入しても新たな業務が増えません。東京23区や大阪などのエリア内であれば、約2週間前後で導入可能です。
食の福利厚生「チケットレストラン」
ランチ代が実質半額になる食の福利厚生サービス「チケットレストラン」も人気です。日々の食事代を非課税でサポートすることで、従業員はバランスのよい食事をとりやすくなります。
「チケットレストラン」を導入した企業の中には、おにぎりやパンのみで昼食を済ませていた従業員が、健康に気遣い野菜のおかずを購入するようになったケースもあるそうです。
全国25万店舗以上の加盟店で利用でき、オフィスワーク、テレワーク、毎日異なる現場で業務を行う従業員などにも支給できます。
従業員利用率98%、契約継続率99%と、使い勝手のよさが高く評価されています。少額から始められるため、予算が限られている企業でも取り入れやすいサービスです。
中小企業で導入する福利厚生の選び方
中小企業で導入する福利厚生で迷っているときには、何を基準に選ぶとよいのでしょうか?代表的な選び方として、ランキングを参考にする方法や、従業員へアンケートを取る方法などを紹介します。
ランキングを参考にする
導入する福利厚生に迷っているなら、まずはランキングを参考にするとよいでしょう。自社にない福利厚生を導入する際に、求職者から人気の福利厚生を検討することで、人材確保につながりやすくなることが期待できます。
関連記事:【2026年版】福利厚生の人気ランキング!おすすめの福利厚生サービスも
従業員アンケートの結果を参考にする
自社の従業員に、導入するとよい福利厚生についてのアンケートを取るのも効果的です。今働いている従業員の意見を取り入れることで、自社の業務や環境に合う福利厚生を導入しやすくなります。ランキング上位の福利厚生をもとにアンケートを作成するのもおすすめです。
実績や導入事例を参考にする
制度を検討する際は、他社の導入実績や成功事例を確認するのも有効です。同じ中小企業規模での活用事例があれば、自社に置き換えたときの効果や運用イメージを具体的につかみやすくなります。サービス提供会社の公式サイトや導入事例ページを確認し、業種や企業規模が近い事例を探してみましょう。
従業員が利用しやすいか確認する
福利厚生は、導入しても利用されなければ効果を発揮しません。申請方法がシンプルか、スマートフォンで完結できるか、全国どこでも使えるかなど、利用のしやすさを事前に確認しましょう。特に在宅勤務や外勤など働き方が異なる従業員が混在する場合は、誰もが同じ条件で使えるかどうかも確認しておきたいところです。
公平性が高いかどうか確認する
内勤・外勤、正社員・パート、本社・支社など、従業員の働き方や雇用形態によって使える・使えないが分かれる福利厚生は、不公平感につながりかねません。誰でも同じ条件で利用できる制度かどうかを、導入前に確認しておきましょう。
非課税での運用ができるか確認する
福利厚生の中には、社宅制度・通勤手当・食事補助・健康診断の費用補助など、要件を満たせば非課税で運用できる制度があります。ただし、非課税の要件(企業支給額の上限、支給方法、従業員の負担割合など)は制度ごとに異なり、要件を満たさない形で運用すると給与として課税対象になってしまいます。
導入を検討している制度やサービスが、非課税の要件を満たせる設計になっているかどうか、事前によく確認しておきましょう。
関連記事:福利厚生の非課税・課税ルールを徹底解説【税理士監修・2026年版】
中小企業が福利厚生を運用するときのポイント
制度を導入したあとの運用の仕方によって、福利厚生の効果は変わります。運用面で押さえておきたい2つのポイントを紹介します。
社内外の発信
福利厚生は導入して終わりではなく、従業員に内容と利用方法を継続的に周知することで利用率が高まります。社内報や社内メール、入社時のオリエンテーションなどで繰り返し発信しましょう。
また、社外への発信は採用活動でのアピール材料にもなります。求人票や採用サイト、SNSなどで福利厚生の内容を紹介することで、他社との違いを伝えられます。
自社らしさの福利厚生の実施
福利厚生は、企業の考え方や目指す方向性(企業理念)に合わせて設計すると、従業員への浸透が進みやすくなります。制度を通して自社のカルチャーや価値観を伝えられれば、待遇の一つではなく、従業員が働く意味を実感できるきっかけにもなります。
福利厚生費の目安はいくら?
福利厚生の導入を検討するうえで気になるのが、実際にどの程度の費用がかかるかという点です。ここでは、企業規模別の福利厚生費を確認しましょう。
中小企業と大企業では福利厚生に違いがあります。厚生労働省の「令和3年就労条件総合調査の概況」で企業規模別の福利厚生費をチェックすると、企業規模で福利厚生費に差が出ているのは、給与額と「住居に関する費用」の差によるものといえそうです。
企業規模ごとに、1人あたり1か月の福利厚生費をチェックすると、要件を満たした従業員に適用するよう法律で定められている法定福利厚生も、企業が自由に導入できる法定外福利厚生も、企業規模が大きいほど費用は大きくなっています。
企業規模別、福利厚生費
| 企業規模 | 1,000人以上 | 300~999人 | 100~299人 | 30~99人 |
| 法定福利費 | 5万4,348円 | 5万804円 | 4万8,024円 | 4万5,819円 |
| 法定外福利費 | 5,639円 | 4,567円 | 4,546円 | 4,414円 |
1人あたりの1カ月の法定福利費の内訳も見ていきましょう。法定福利費は給与や賞与をもとに費用を計算するものが中心のため、企業規模が大きいほど金額も大きくなっています。
企業規模別、法定福利費内訳
| 企業規模 | 1,000人以上 | 300~999人 | 100~299人 | 30~99人 |
| 健康保険料・介護保険料 | 1万8,858円 | 1万7,540円 | 1万6,864円 | 1万6,012円 |
| 厚生年金保険料 | 3万197円 | 2万8,499円 | 2万6,443円 | 2万5,265円 |
| 労働保険料 | 3,942円 | 3,552円 | 3,534円 | 3,645円 |
| 子ども・子育て拠出金 | 1,105円 | 1,032円 | 906円 | 841円 |
| 障害者雇用給付金 | 87円 | 112円 | 181円 | - |
| 法定補償費 | 4円 | 2円 | 11円 | 0円 |
| その他の法定福利費 | 155円 | 67円 | 85円 | 56円 |
法定外福利費の内訳も紹介します。
企業規模別、法定外福利費内訳
| 企業規模 | 1,000人以上 | 300~999人 | 100~299人 | 30~99人 |
| 住居に関する費用 | 3,974円 | 2,506円 | 1,832円 | 960円 |
| 医療保険に関する費用 | 768円 | 710円 | 756円 | 660円 |
| 食事に関する費用 | 174円 | 427円 | 690円 | 849円 |
| 文化・体育・娯楽に関する費用 | 141円 | 161円 | 176円 | 183円 |
| 私的保険制度への拠出金 | 111円 | 157円 | 367円 | 1,027円 |
| 労災付加給付の費用 | 35円 | 67円 | 123円 | 159円 |
| 慶弔見舞等の費用 | 168円 | 198円 | 204円 | 172円 |
| 財形貯蓄奨励金・給付金および基金への拠出金 | 64円 | 34円 | 45円 | 41円 |
| その他の法定外福利費 | 204円 | 309円 | 353円 | 362円 |
法定外福利費全体では、企業規模が大きいほど1人あたりの費用は大きくなっていますが、すべての福利厚生が企業規模に比例して充実しているわけではありません。例えば「食事に関する費用」は、企業規模が小さいほど費用が大きくなっています。企業規模を問わず費用が同程度の福利厚生もあります。
事例で見る中小企業の福利厚生
中小企業の福利厚生について知るために、靴を中心としたECサイトを展開しているZAPPOS社の福利厚生について見ていきましょう。同社は「従業員の幸せこそが質の高いサービスを生む」という考え方のもと、独自の企業文化と充実した福利厚生で急成長を遂げた企業であり、中小企業の『戦略的福利厚生』の代表的なモデルケースとしてよく知られています。
9億ドルでAmazon傘下となったことでも知られているZAPPOS社は、現在も独立経営を継続中。フォーチュン誌「最も働きがいのある企業100社」で6位にランクインしたこともある同社の福利厚生は実に多様です。
- 医療保険
- 歯科保健
- 眼科検診・コンタクトレンズ・めがねなどの購入補助
- 生命保険
- フィットネス
- 給食
- 職場禁煙サポート
- 健康赤ちゃんプログラム
- 健康相談
- 養子縁組支援
- 不妊治療支援
- 職場での視力・聴力・血圧検診
- 健康増進のための取り組み
- マッサージチェア
- タクシーチケット
- 仮眠室
- メンタルヘルス不調の従業員をサポートするEAP/社員支援プログラム
- 非課税拠出制度への補助
- 有給のボランティア休暇
- 病気休暇
- 特別休暇
- 忌引き休暇
- ペット保険
- 駐車場サービス
- 授乳室
- 地元企業での割引サービス など
参考:社会保険労務士総合研究機構|中小企業の今後の福利厚生のあり方-求められる戦略的福利厚生-
自社のバリューを従業員へ提供しているのが特徴
ZAPPOS社の福利厚生の事例で特徴的なのは、制度を通して従業員へ自社のバリューを提供している点です。同社のコア・バリューは次のとおりです。
- サービスを通して「WOW!」を届けよう
- 変化を受け入れ、その原動力となろう
- 楽しさとちょっと変わったことを創造しよう
- 冒険的で、創造的で、オープン・マインドであろう
- 成長と学びを追求しよう
- コミュニケーションを通して、オープンで正直な人間関係を構築しよう
- チーム・家族精神を育てよう
- 少ない労力で、より大きな成果を得よう
- 情熱的であろう、そして強い意志を持とう
- 謙虚であろう
特に「Zappos Wishez Program」では、従業員が自分の願いごとを社内サイトへ投稿し、他の従業員が「かなえよう」と決断すると、ZAPPOS社協力のもとで実現されます。
これまでに「自宅の家具を新しくしたい」「なかなか取れないコンサートチケットがほしい」といった願いごとがかなえられ、従業員が「WOW!」と驚きの声をあげることとなったそうです。
企業理念を従業員へ浸透させ、自ら考え行動できるところまで落とし込むために、まずは福利厚生を通して従業員がバリューを体験できるようにしています。福利厚生は、企業の考え方や目指すもの(企業理念)に合った内容にすることがポイントといえるでしょう。
中小企業の福利厚生に役立つ助成金をチェック
福利厚生の導入や運営にかかる費用を抑えるために、国が提供する助成金を活用できる場合があります。
人材開発支援助成金
従業員に職務関連の専門知識や技能を習得させる訓練(OFF-JT等)を実施した際に、訓練経費や賃金の一部が助成されます。
| コース名 | 主な対象となる訓練・取り組み |
| 人材育成支援コース | 職務に関連した10時間以上の訓練(OFF-JT)や、OJTと組み合わせた訓練など。令和8年度より、中高年齢者実習型訓練が新設。 |
| 人への投資促進コース | デジタル人材育成、従業員の自発的受講、定額制(サブスクリプション型)訓練などを幅広く支援。令和8年度より、中小事業者向けに新規採用助成 ・職務代行助成が追加。 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業立ち上げやDX化に伴い、新たな分野で必要となる知識・技能の習得。令和8年度より「設備投資加算」の助成が追加。 |
| 教育訓練休暇等付与コース | 3年間に5日以上の有給教育訓練休暇制度を導入し、実際に休暇を取得して訓練を受けた場合。 |
人材確保等支援助成金
魅力ある職場づくりや、労働環境の改善を通じて離職率の低下に取り組む企業を支援します。
| コース名 | 内容と支給額の目安 |
| テレワークコース | テレワーク制度導入と導入後の実績に基づき申請可能
・制度導入:20万円 |
| 雇用管理制度・雇用環境整備助成コース | 諸手当、研修、健康づくり制度の導入で離職率目標を達成した場合に支給
・1制度につき20万〜50万円(上限80万〜100万円) |
| 中小企業団体助成コース | 事業協同組合等が傘下企業の職場定着を支援(合同説明会等)した場合、経費の約2/3を補助(補助上限あり) |
両立支援等助成金
仕事と育児・介護の両立や、女性の健康課題に対応する制度を導入した企業に支給されます。
| コース名 | 概要と主な支給額の目安 |
| 出生時両立支援コース | 男性従業員の育休取得を促進。
・男性労働者の育児休業取得:1人目20万円、2・3人目10万円 |
| 介護離職防止支援コース | 介護休業の取得・復帰:40万~60万円
介護両立支援制度の利用:20万~25万円 |
| 育児休業等支援コース | 復帰支援プランの作成と実施
・育休取得時:30万円 |
| 育休中等業務代替支援コース | ・代替手当の支給:支給総額の3/4(月上限3万~10万円)
・新規雇用:期間に応じ9万~81万円 |
| 柔軟な働き方選択制度等支援コース | 3つ以上の柔軟な働き方(時短・テレワーク等)を導入し利用
・20万〜25万円 |
| 不妊治療及び女性の健康課題対応コース | 不妊治療、月経、更年期の健康課題と仕事の両立を支援。
制度導入・利用により、区分ごとに30万円が支給される(最大90万円) |
助成金は年度ごとに支給要領や申請様式が更新されます。変更点を正しく把握し、最新のパンフレットを確認したうえで、社会保険労務士などの専門家と連携して申請を進めてください。
中小企業の福利厚生についてよくある質問
中小企業の福利厚生について、Q&A形式でチェックしましょう。
Q. 中小企業の福利厚生費の相場は?
A. 厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」によると、企業規模30〜99人では法定福利費4万5,819円・法定外福利費4,414円、100〜299人では法定福利費4万8,024円・法定外福利費4,546円です。従業員1,000人以上の大企業(法定福利費5万4,348円・法定外福利費5,639円)と比べて低く、企業規模が小さいほど福利厚生費は低くなる傾向があります。
Q. 中小企業が福利厚生を拡充するメリットは?
A. 中小企業が福利厚生を充実させると、従業員満足度の向上・人材確保・業績アップなどに役立つメリットがあります。
Q. 中小企業が導入すべき福利厚生は?
A. 中小企業は求職者が重視している福利厚生を取り入れるのがよいでしょう。
「2026年卒 大学生キャリア意向調査3月<就活生のワークライフバランス意識>」によると、交通費支給制度、住宅手当・家賃補助制度、在宅ワーク・リモートワーク制度などが人気です。
Q. 食事補助の非課税枠は2026年からいくらになった?
A. 令和8年度税制改正により、従来の一人あたり月額3,500円(税別)から月7,500円(税別)に拡大されました。非課税を活用すると実質的な手取りが増え、制度活用のメリットが大きくなっています。
Q. 外部の福利厚生代行サービスはいくらから使える?
A. 外部の福利厚生代行サービスは、従業員一人あたり月額350円程度から利用可能です。自社で運用するよりも管理の手間を大幅に削減でき、担当者が少ない中小企業に向いています。ただし、別途入会金等の費用が必要な場合もあります。
中小企業の福利厚生は食と住宅がポイント
中小企業の福利厚生は大企業と比べて手薄になりがちです。だからこそ、求職者が重視する制度を取り入れることが採用競争力の強化につながります。特に食事と住居に関する福利厚生は、多くの就活生が求めている制度です。
食事補助を導入するなら、非課税を活用して全国でランチが半額になる「チケットレストラン」を検討してみてください。従業員が喜ぶ福利厚生で、安定した雇用の確保につなげましょう。
関連ページ:食事補助を福利厚生で導入するならチケットレストラン
当サイトにおけるニュース、データ及びその他の情報などのコンテンツは一般的な情報提供を目的にしており、特定のお客様のニーズへの対応もしくは特定のサービスの優遇的な措置を保証するものではありません。当コンテンツは信頼できると思われる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性、適時性、適切性または完全性を表明または保証するものではなく、お客様による当サイトのコンテンツの利用等に関して生じうるいかなる損害についても責任を負いません。
社会保険労務士 吉川明日香
