同一労働同一賃金は定年後の再雇用者にも適用される
定年後に嘱託社員や契約社員として再雇用された場合でも、「同一労働同一賃金の原則」は適用されます。多くの企業では再雇用後の雇用形態が有期雇用やパートタイムに切り替わるため、パートタイム・有期雇用労働法の対象となり、正社員との待遇差が不合理ではないかが問われます。
一方で、定年という節目を経て契約を結び直すという事情も、合理性を判断するうえで無視できないポイントです。退職金の支給や老齢厚生年金の受給見込み、業務負荷の軽減といった「その他の事情」が加味されるため、一定の待遇差は容認される傾向にあります。ここでの判断の軸は、待遇差の大小を単に割合で見るのではなく、個々の賃金項目や手当が「何のために支給されているのか」という本来の趣旨に立ち返ることです。
定年後再雇用制度の基本と高年齢者雇用確保措置の現状
厚生労働省の「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」(令和7年6月1日時点)によると、65歳までの雇用確保措置はすでに99.9%の企業で実施されています。
その内訳を見ると、定年を迎えた後に「継続雇用制度(再雇用)」を導入している企業が65.1%と引き続き多数派です。その一方で、定年そのものを引き上げる企業も31.0%へと年々増加しており、企業の対応は分かれつつあります。
多くの企業で「定年を維持しつつ再雇用制度で対応する」という形が定着している現状では、定年前後で雇用形態が切り替わるケースが避けて通れません。だからこそ、なぜ待遇に差が生じるのか、その理由を本人に対して納得感を持って説明できる環境を整えておくことが、人事担当者にとっての課題となっています。
出典:厚生労働省|高年齢者雇用状況等報告について
企業が定年後再雇用制度を適切に運用・整備するメリット
再雇用制度そのものは企業にとってメリットがある選択肢です。経験や専門知識を持つ人材を引き続き活用できるため、業種によっては人手不足の緩和につながります。取引先や顧客との関係を築いてきた担当者が継続して対応できる点も、引き継ぎに伴う時間や費用の削減に貢献します。新たに人材を採用し育成する場合と比べ、採用コストや教育コストを抑えられる点も利点です。
また、雇用環境の整備状況によっては「65歳超雇用推進助成金」の対象となる場合があります。継続雇用や無期雇用への転換、評価制度の見直しなどに取り組む企業を対象とした助成制度で、待遇差の是正とあわせて活用を検討する価値があります。
「同一労働同一賃金」で外せない最高裁判例
2018年6月1日、最高裁は、定年後再雇用者の待遇差を扱った長澤運輸事件と、有期契約労働者一般の待遇差を扱ったハマキョウレックス事件という、対象範囲の異なる2つの判決を同日に言い渡しました。
再雇用後の待遇差をめぐる判例|長澤運輸事件
長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)では、定年後に嘱託社員として再雇用されたトラック運転手の基本給・賞与の引き下げについて、老齢厚生年金の受給見込みや調整給の支給、定年退職金の支払いなどを理由に「不合理ではない」と判断されました。再雇用後の賃金は定年退職前より2割前後減額されていましたが、業務内容が同一であっても、こうした事情を総合的に考慮すれば不合理な引き下げにはあたらないとされています。
一方で精勤手当は、皆勤を奨励するという支給目的が業務内容の変わらない嘱託社員にも同様に当てはまるとして、不支給は不合理とされています。基本給や賞与のような制度全体にかかわる待遇と、個別の目的を持つ手当とでは、判断の枠組みが異なる点を示した判例です。
出典:全国労働基準関係団体連合会|09237長澤運輸事件
再雇用に限らない一般的な待遇差をめぐる判例|ハマキョウレックス事件
同日に判決が出たハマキョウレックス事件は、定年後再雇用に限らない有期契約労働者と正社員の待遇差が争われた判例ですが、同じ論理は定年後再雇用者の待遇差を検討する際にも参考になります。
無事故手当・作業手当・食事(給食)手当・通勤手当については、正社員にのみ支給する扱いはいずれも不合理と判断されました。安全運転の奨励や作業への対価、食費・交通費の補填といった支給目的は雇用形態にかかわらず当てはまり、転勤や配置転換の可能性といった正社員と契約社員の違いとは関係がないためです。皆勤手当も不合理とされましたが、支給要件を満たすかどうかの審理を尽くさせるため高裁に差し戻されました。一方で住宅手当は、転勤の有無という配置転換の範囲に差があることを理由に、不合理ではないと判断されています。
出典:全国労働基準関係団体連合会|09238ハマキョウレックス(差戻審)事件
再雇用者の待遇差が「不合理」と判断された際のリスク
待遇差が不合理と認められると、企業は正社員との差額分の賃金や手当の支払いを求められる可能性があります。対象となる従業員が複数いる場合、遡って請求されれば支払額はまとまった金額になり、対応にかかる時間や労力も無視できません。
訴訟や労働審判に発展すれば、対応の負担も増えます。加えて、判決や和解の内容が公になった場合、採用活動や取引先との関係にも影響が及ぶ可能性があります。待遇差そのものをなくすことは難しくても、支給目的を明確にし、説明できる状態を整えておくことが、こうしたリスクを抑える現実的な手段です。
また、対象となるのは訴訟にまで至ったケースだけではありません。再雇用者本人からの問い合わせや相談の段階で、担当者が説明に窮する場面はより日常的に起こり得ます。制度設計の段階で判断根拠を整理して、こうした個別の問い合わせにもその都度落ち着いて対応することが求められます。
待遇項目・手当別に見る合理性判断のポイント一覧表
2つの事件を参考に、合理的判断が必要な待遇や手当のポイントをまとめました。厚生労働省のガイドラインは、基本給・賞与・各種手当だけでなく、年次有給休暇、休暇制度、福利厚生施設、教育訓練、キャリア形成・能力開発なども対象としています。
また、正社員と定年後再雇用者の待遇差が「不合理」かどうかは、それぞれの待遇が持つ性質や支給目的に照らして個別に判断されます。「定年後の再雇用である」という理由だけで、一律にその待遇差が正当化されるわけではありません。
| 待遇項目・手当 |
差を設ける合理性 |
主な判断基準と留意点 |
| 基本給 |
容認されることがある(条件あり) |
職務内容、責任、人材活用、勤続・能力、定年後再雇用の事情などを総合考慮する |
| 賞与 |
容認されることがある(条件あり) |
支給目的が業績貢献・将来の人材確保・功労報償など何かを確認する必要がある。 |
| 作業手当 |
不合理となりやすい |
特定作業の対価であれば、同じ作業を行う有期雇用者への不支給は不合理となりやすい。ハマキョウレックス事件でも不合理とされた。 |
| 精勤手当・皆勤手当 |
不合理となりやすい |
出勤を奨励する目的は雇用形態を問わず共通するため、非支給は不合理と判断される。 |
| 無事故手当 |
不合理となりやすい |
安全運転・事故防止の奨励という目的が正社員と有期契約社員で共通する場合、差は不合理となりやすい。ハマキョウレックス事件では不合理とされた。 |
| 食事・給食手当 |
不合理となりやすい |
同額支給が基本となる。勤務日数・勤務時間・現物支給の有無など支給条件の確認が必要。 |
| 通勤手当 |
不合理となりやすい |
「同一要件なら同額」が基本的な方向性だが、実費補助の範囲、上限、通勤経路、勤務日数による按分などを確認する。ハマキョウレックス事件では通勤手当の差も不合理とされた。 |
| 住宅手当 |
容認されることがある(条件あり) |
転勤可能性がある正社員との役割の違いに合理性があれば差異が認められやすい。 |
| 家族手当 |
容認されることがある(条件あり) |
生活保障など目的に照らし、正社員との役割の違いに合理性があれば差異が認められる。 |
| 有給休暇 |
不利益な差を設けられない |
定年前から継続勤務していると評価される場合、定年退職・再雇用を理由に勤続期間をリセットし、付与日数や基準日を不利益に変更することはできない。 |
| 役職手当 |
役職・責任が同じなら不合理となる |
役職・責任が同じなら不合理となり得る。ただし、役職の喪失に伴い責任範囲が縮小した場合は、減額が認められるケースがある |
出典:厚生労働省|同一労働同一賃金ガイドライン
2026年10月1日法改正について
2026年10月1日からは、賞与、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、病気休職・休暇、夏季・冬季休暇、福利厚生などについて、改正ガイドラインが適用され、「支給目的」と「支給要件」の明文化がより強く求められるようになります。各待遇の支給目的、支給要件、職務内容、配置変更の範囲、継続勤務の見込みなどに応じて判断が必要です。
出典:厚生労働省|2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります―3つの改正ポイント
再雇用後に確認が必要な実務手続き
再雇用において、企業は待遇の設計とあわせて次の手続きを確認します。
| 確認項目 |
再雇用時の確認内容 |
|
健康保険・ 厚生年金保険
|
定年と再雇用が同日の場合、「同日得喪(どうじつとくそう、一旦喪失して再取得)」の手続きが必要(怠ると高い保険料が継続されるため要注意)。厚生年金は70歳で資格喪失。 |
| 雇用保険 |
週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合の加入手続きを確認する。65歳以上も要件を満たせば対象となる。 |
| 高年齢雇用継続給付 |
一定の要件を満たすと給与の大幅な引き下げによる生活を支えるための「高年齢雇用継続給付」の受給対象となります。60歳以上65歳未満、雇用保険加入、賃金低下率、被保険者期間などの要件を確認し、対象者に制度を案内する。 |
| 年次有給休暇 |
継続勤務として勤続期間と残日数を管理し、再雇用後の所定労働日数・時間に応じた付与日数を確認する。 |
| 労働条件通知書 |
契約期間、更新基準、業務・就業場所、労働時間、賃金、手当、保険、退職事項等を明示する。 |
| 住民税 |
特別徴収(給与天引き)の継続可否を再雇用者へ確認し、継続とならない場合は必要な異動手続きと普通徴収(本人納付)の納付方法を案内する。 |
待遇差トラブルを防ぐ3つの実務対応
再雇用者との待遇差をめぐるトラブルの多くは、次の3点のいずれかでつまずきがちです。
説明義務を果たす
「同じ業務をしているのに、なぜ待遇が違うのですか」と聞かれたとき、「再雇用だから」としか答えられないようでは説明義務を果たしたことにはなりません。企業は再雇用者から求められた場合、正社員との待遇差の内容と理由を、支給目的に立ち返って具体的に説明する義務があります。
待遇差を項目ごとに判断する
「総額で定年前よりいくら下がった」と伝えるだけでは、十分な説明を果たしたとは言えません。長澤運輸事件以降の最高裁は、賃金総額の増減ではなく、基本給・賞与・各種手当を項目ごとに、その支給目的に立ち返って判断する考え方を示しています。
支給目的を明文化し、定期的に見直す
就業規則や賃金規程に各手当の目的を定めていると、雇用形態を理由に支給の有無を分けることの説明が難しい点にも気づきやすくなります。名古屋自動車学校事件では、一審が「基本給のうち定年前の60%を下回る部分は不合理」という割合基準を採用しましたが、最高裁はこうした単純な割合基準による判断を否定しました。判断根拠を記録に残しながら、継続的に見直す必要があります。
手当の不合理性を解消する施策と福利厚生の見直し例
2026年10月に、パートタイム・有期雇用のルールが変わり、「同一労働同一賃金ガイドライン」もブラッシュアップされることから、待遇が今一度適正なものか点検が必要です。現在、正社員のみに支給している手当は、不合理とみなされる可能性があり、全従業員一律の運用へと見直すケースも生じるでしょう。
たとえば食事補助の見直しでは、全従業員一律で使える制度が一つの選択肢です。アウトソーシング型の食の福利厚生サービスなどは、雇用形態を問わず公平なルールで運用できるものがあります。
食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」もその一つです。コンビニ等を含む全国25万店舗以上の加盟店で毎日利用でき、非課税を活用した仕組みが特徴です。従業員利用率98%、契約継続率99%という実績があります。2026年4月の税制改正で非課税上限が月額7,500円に引き上げられたことも追い風となり、4,000社以上に導入されています。
関連記事:食事補助とは?福利厚生に導入するメリットや種類・支給の流れを解説
関連記事:【税理士監修】食事補助の非課税上限が7500円へ!給与にしないための非課税の条件を解説
再雇用における同一労働同一賃金でよくある質問(FAQ)
よくある質問とその答えをまとめました。
Q. 定年後に業務内容や責任が変わらない場合、基本給を減額するとどうなる?
A. 業務内容や責任範囲が定年前と全く同一である場合、大幅な基本給の減額は裁判で「不合理」と判断される可能性があります。ただし、退職金の支給状況や老齢厚生年金の受給見込みなどを考慮し、合理的な範囲内での一定の調整であれば認められるケースもあります。
Q. 再雇用者から待遇差の理由を聞かれた場合、何を説明すればよい?
A. 定年後再雇用者から「なぜ基本給や手当が下がったのか」と聞かれた場合、企業は職務内容・責任の範囲・配置転換の可能性といった正社員との違いに加え、退職金の支給や年金の受給見込みなどの「その他の事情」を踏まえ、待遇項目ごとに差の理由をその支給目的に沿って説明する必要があります。
安心して再雇用者が働ける環境を整備
定年後の再雇用者にも同一労働同一賃金の原則は適用され、正社員との不合理な待遇差は禁止されています。判断基準は賃金項目や手当ごとの支給目的です。説明義務を果たし、支給目的を明文化し、待遇差を定期的に見直すことが欠かせません。
食事手当は正社員のみに支給していると是正を求められやすい項目です。「チケットレストラン」のように雇用形態を問わず公平に導入できる食の福利厚生サービスは、全国25万店舗以上の加盟店で利用でき、非課税上限が月額7,500円に拡大された今、待遇差の解消と食事補助の充実を同時に進められる選択肢です。
関連ページ:食事補助を福利厚生で導入するならチケットレストラン
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