少子高齢化の影響で労働人口が減少している昨今、多くの企業が人手不足や採用難に直面しています。さらに、長年勤めた優秀な人材がより良い条件を求めて転職するケースも増加傾向にあります。
企業にとって、離職率の改善は企業の未来を左右する重要課題です。本記事では、若手社員の離職率や離職理由、企業が実践できる具体的な離職防止対策について解説します。
平均的な離職率
厚生労働省による令和5年「雇用動向調査」(令和6年8月公表)によると、2023年における離職率の男女平均は「15.4%」です。性別ごとでは、男性は13.8%、女性が17.3%で、結婚、出産、育児などライフステージの変化が多い女性の方が割合が高くなっています。
2023年における平均的な離職率(男女計・性別):
2023年度 | 2022年度 | |
男女計 | 15.4% | 15.0% |
男性 | 13.8% | 13.3% |
女性 | 17.3% | 16.9% |
就業形態別に見ると、一般労働者の離職率は12.1%(前年比0.2ポイント上昇)、パートタイム労働者の離職率は23.8%(前年比0.7ポイント上昇)となっています。
2023年における平均的な離職率(就業形態別):
2023年度 | 2022年度 | |
一般労働者 | 12.1% | 11.9% |
パートタイム労働者 | 23.8% | 23.1% |
これらの傾向をまとめると、2022年度と2023年度の比較からは、すべての区分で離職率が上昇しており、労働市場の流動性が高まっている可能性を示しています。
若手社員の離職率
新卒入社した社員や若手社員は、他の年齢層と比較して離職率が高い傾向です。厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が38.4%(前年度と比較して1.4ポイント上昇)、新規大学卒就職者が34.9%(同2.6ポイント上昇)となりました。
また、事業所規模別就職後3年以内離職率は、以下のとおりです。
事業所規模 | 高校 | 大学 |
5人未満 | 62.5% (1.8%増) | 59.1% (5.0%増) |
5~29人 | 54.4% (3.1%増) | 52.7% (3.1%増) |
30~99人 | 45.3% (1.7%増) | 42.4% (1.8%増) |
100~499人 | 37.1% (0.4%増) | 35.2% (2.3%増) |
500~999人 | 31.5% (0.3%減) | 32.9% (2.2%増) |
1,000人以上 | 27.3% (0.7%増) | 28.2% (2.1%増) |
※()内は前年差増減
企業規模が小さいほど離職率が高くなる傾向があります。中小企業においては若手社員の離職防止に積極的に取り組む必要があると言えるでしょう。
出典:厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します
一般的に離職に至る主な理由
離職防止に効果的に取り組むためには、まず離職が発生する理由について、大枠を捉えることが肝心です。厚生労働省による令和5年「雇用動向調査」で離職理由を見ていきます。
【代表的な退職の理由(2023年)】
- 職場の人間関係が好ましくなかった:男性9.1%、女性13.1%
- 労働条件(労働時間、休日等)が悪かった:男性8.1%、女性11.1%
- 給料など収入が少なかった:男性8.2%、女性7.1%
- 会社の将来が不安だった:男性5.2%、女性7.1%
- 仕事の内容に興味を持てなかった:男性7.4%、女性5.0%
- 能力・個性・資格を生かせなかった:男性5.1%、女性5.4%
「職場の人間関係の悪さ」は男女ともに退職を決意する主要因(男性9.1%、女性13.1%)となっています。どれほど労働条件が良くても、人間関係がギクシャクした職場環境では社員の定着は難しいと言えるでしょう。
また、「労働条件の悪さ」と「給与の少なさ」を合わせると、経済的・時間的な待遇に関する不満が依然として主要な退職理由であるとわかります。男性では合計16.3%、女性では18.2%に達しました。
関連記事:「本当の退職理由」調査2024:退職理由アンケートから見える企業の課題
若手社員が離職する特有の理由
続いて、若手社員の退職理由をチェックします。令和5年「雇用動向調査」における、大卒新卒者に該当する20代前半(20〜24歳)の退職理由を見てみましょう。
若手社員の退職理由(20~24歳・男性)
- 労働条件(労働時間、休日等)が悪かった:11.4%
- 職場の人間関係が好ましくなかった:7.5%
- 仕事の内容に興味を持てなかった:5.8%
- 会社の将来が不安だった:4.9%
- 給料など収入が少なかった:10.5%
- 能力・個性・資格を活かせなかった:7.1%
若手男性は、全年齢層の男性と比較して、給与水準や自身の能力・個性を活かせる機会をより重視する傾向があり、これらの要素が不満につながると離職を考える可能性が高いようです。
「給料など収入が少なかった」(10.5%)の割合が全年齢層の男性平均(8.2%)より高く、「能力・個性・資格を活かせなかった」(7.1%)についても同様に全年齢層の男性平均(5.1%)より高くなりました。
関連記事:官僚なり手不足で23.2%が10年以内に離職!若手社員の離職防止策
若手社員の退職理由(20~24歳・女性)
- 労働条件(労働時間、休日等)が悪かった:15.6%
- 職場の人間関係が好ましくなかった:13.3%
- 仕事の内容に興味を持てなかった:3.9%
- 会社の将来が不安だった:8.7%
- 給料など収入が少なかった:9.1%
- 能力・個性・資格を活かせなかった:3.0%
若手女性の場合、「労働条件の悪さ」(15.6%)と「職場の人間関係」(13.3%)が特に高く、合わせると約29%に達します。この年代の女性は、働きやすさと人間関係の質に特に敏感であることが示唆されています。
関連記事:若手社員の離職はなぜ起きる?よくある理由と効果的な対策まとめ
関連記事:若手社員の離職率は約3割。離職理由から見る離職防止策を解説
若手社員の離職防止対策を怠るリスク
適切な離職防止策を講じなければ、離職率の改善は見込めず、企業は多くの不利益が生じます。どのようなリスクがあるのか見ていきましょう。
採用・教育コストの損失
株式会社リクルート就職みらい研究所の「就職白書2020」によると、2019年度の新卒採用コストは一人あたり平均93.6万円、中途採用では103.3万円でした。
採用コストは将来的なリターンが期待できる投資ですが、早期離職が発生した場合は、採用コストと研修費用が無駄になります。さらに、その社員が生み出すはずだった利益や教育担当者の人件費を含めると、実質的な損失は採用コストを大きく上回ります。
教育に費やした業務時間も損失です。早期離職者の増加は組織全体の生産性低下を招き、企業経営に大きな影響を与えます。
既存社員の負担増加
退職者の業務は、残された社員が担うことになり、彼らの負担は増大します。業務過多はモチベーションやパフォーマンスの低下を招き、ミスの増加につながる可能性もあります。そのようなミスが評価に影響し、更なる意欲低下を引き起こすという悪循環に陥りかねません。
また、「入社した社員がすぐに辞めていく」という状況は、既存社員の企業イメージを悪化させます。長年貢献してきた優秀な人材まで離職する連鎖反応を引き起こす可能性があります。
企業ができる「若手社員離職防止」9つの対策
前述の離職理由の分析から、若手社員の離職に大きく影響しているのは「人間関係の悪さ」「労働条件の悪さ」「給与の少なさ」「成長機会の不足」であることがわかりました。特に20〜24歳の若手層では、男性は「給与」と「能力発揮の機会」、女性は「労働条件」と「人間関係」が重視されています。これらの要因に対応した具体的な離職防止策を以下にまとめます。
経済的なメリットを明示する施策(給与面の不満に対応)
1. 評価制度の見直し
2. 福利厚生の拡充
3. 社員の希望を取り入れた制度の構築
成長機会を促す施策(能力・個性・資格を活かせない課題に対応)
4. 人事部門によるフォローアップ
5. 新入社員研修の活用
働きやすさを高める施策(労働条件の不満に対応)
6. 労働時間の管理と削減
7. 多様なワークスタイルの受け入れ
人間関係を良好に保つ施策(職場の人間関係の課題に対応)
8. コミュニケーションの改善
9. 心理的安全性の高い職場環境の構築
それぞれ詳しく見ていきましょう。
経済的なメリットを明示する施策(給与面の不満に対応)
男性の若手社員には、給与面の不満に対応した施策が効果的です。
1.評価制度の見直し
正当な評価と報酬は連動することから、若手社員の離職を防ぐためには、社員が自身の成果に対して正当な評価を受けているという実感を持つことが重要です。職場への信頼感醸成につながります。多くの企業で評価制度が導入されているものの、透明性の低さから「上司の主観や感情に左右されているのではないか」といった不満が生じ、離職の原因となる可能性があります。
人事評価制度で重要とされる要素は、一般的に以下の3つです。
- 透明性:評価基準や方法を被評価者に公開すること。
- 公平性:特定の評価対象者を有利・不利に扱わず、公平かつ公正な評価を行うこと。
- 納得性:評価結果や待遇に対して、社員が納得できる状態を目指すこと。
3つの要素を満たした制度を設計し、運用も適切かどうかを確認します。
2.福利厚生の拡充
福利厚生を充実させることは、若手社員の離職防止に効果的な戦略です。2025年卒の学生400人を対象とした大和ライフネクスト株式会社の調査によれば、企業選びで最重視する要素として「福利厚生が整っている(44.3%)」が挙げられ、「給与の高さ(39.8%)」や「職種に興味がある(32.8%)」を上回っています。
福利厚生が重視される背景には、税制上のメリットがあります。直接的な給与増加は所得税の影響で手取り増加が限定的ですが、福利厚生は非課税で還元できるため、同じ1万円でも社員にとってより高い価値が提供されるためです。
また、福利厚生の充実は経済的なメリットとともに、「企業が社員の生活や健康を大切にしている」という満足感も生み、帰属意識も高めます。実質的な暮らしやすさを支援することで、若手社員の離職防止、定着率向上に寄与するでしょう。
出典:オフィスのミカタ|2025年卒就活生は企業選びで「福利厚生」を重視!特に魅力を感じる制度は? 大和ライフネクスト調査
<福利厚生導入の成功事例>
食事補助の福利厚生サービスの一つである「チケットレストラン」は、福利厚生による求人での差別化、離職防止、定着率アップの成功実績があります。
M's ファーマ株式会社の場合、導入前に約50%だった「離職率」が、約10%に低下しました。
導入事例ページ:M's ファーマ株式会社様
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
3.社員の希望を取り入れた制度の構築
基本的な福利厚生を整えた上で、さらに効果的なのが社員自身の声を反映した制度設計です。給与や一般的な福利厚生が充実していても、社員エンゲージメントが低いと離職率の抑制は困難です。
企業の一方的な判断ではなく、社員の意見やニーズを取り入れた制度を構築することで、「自分たちの声が届いている」という実感が生まれ、満足度とエンゲージメントの向上につながります。
具体的な実践方法としては、定期的なアンケート調査の実施、福利厚生アイデアの社内公募、部署単位での希望集約などが挙げられます。
<社員の希望を取り入れた制度構築の好事例>
企業内を対象としたアンケート調査を実施し、希望者が多かった食事補助を導入した企業では、社員の声を反映した結果が満足度やモチベーションの向上につながったことが報告されています。
コンビニや飲食店を社員食堂のように利用できる食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」など、社員が日常的に利用できるサービスは、新卒採用時の企業魅力度を高めるだけでなく、食を通じた社員間の交流が促進されるという副次的効果も生み出しています。
社内アンケートで希望者が多かった食事補助を導入した企業の事例:株式会社ほねごり様
成長機会を促す施策(能力・個性・資格を活かせない課題に対応)
高い意欲を持って入社する若手に向け、成長できる環境を提供することも、離職を防止する効果的な方法です。入社時の期待に応える形で継続的な成長機会を確保できれば、若手社員の定着率は自然と向上するでしょう。
4. 人事部門によるフォローアップ
若手社員の早期離職を防ぐためには、新入社員教育において、人事部門の直接的な関与とサポートも不可欠です。多くの場合、配属部門の教育担当者が新入社員教育を行いますが、新入社員は疑問や不満を直接伝えにくい傾向があります。そのため、不安が蓄積し、早期退職につながる可能性があります。人事部門が第三者の立場から現状を把握し、親身なサポートをすることで、早期離職を抑制できる可能性が高まります。
入社後半年を目安に、これまでの振り返りや新たな目標設定を行うフォローアップ研修を導入すると、早期離職防止に効果的です。
関連記事:内定者の意識調査でわかる若手の本音|内定辞退・早期離職を防ぐ取り組みとは
5. 新入社員研修の活用
人材の定着率が低い場合、新入社員研修の充実も検討してみましょう。離職防止を目的とした新入社員研修は、実務開始前に必要な適性やスキルを身につける機会を提供するだけでなく、同期同士のつながりや連帯感を深める効果もあります。
同期との結束が強いと、仕事の困難に直面しても同期と励まし合うことで離職を踏みとどまるケースもあるでしょう。
関連記事:【2025年版】若手社員の離職防止に効く5つの即効施策|自社のリスクもチェック!
働きやすさを高める施策(労働条件の不満に対応)
若手社員が働き続けられる職場づくりとして、2つの取り組みを紹介します。
6. 労働時間の管理と削減
若手社員を含む多くの社員にとって、労働条件の悪さは退職の要因となります。長時間労働が常態化したり、サービス残業や休日出勤が続いたりすると、離職リスクを高めるため早急な改善が必要です。
近年、労働基準法が改正され、企業には社員の労働時間管理と有給休暇の取得義務が課せられました。若手社員の離職を防ぐためには、法律に沿って労働時間管理を適切に行い、必要に応じて削減することが大切です。法令遵守の観点からも重要な取り組みと言えます。
厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、取り組みやすい事例探しや、「働き方・休み方改善指標」を用いた自己診断により自社状況の客観的な判断が可能です。
7. 多様なワークスタイルの受け入れ
働き方改革が進む中、ワークライフバランスを実現する多様な働き方に関心が集まっています。労働者のワークライフバランスに影響する主な要因は、「働く場所」と「働く時間」です。
従来の勤務形態を見直し、以下のような柔軟な働き方を導入する企業が増えています。
- テレワークや時短勤務
- フレックスタイム制度
- コアタイムのないフルフレックス制度
- 選択的週休3日制度
- 勤務間インターバル制度
- 時間単位の年次有給休暇制度
個々の働き方に合わせた選択が可能な就業環境は、企業への愛着や帰属意識を自然と深め、離職を防ぐ効果が期待できます。
人間関係を良好に保つ施策(職場の人間関係の課題に対応)
女性の若手社員は、人間関係を理由に離職しているケースが多い結果からは、コミュニケーションを促す施策も離職防止につながると言えます。
8. コミュニケーションの改善
若手社員の離職防止には、良好なコミュニケーション環境を意識的に作る努力が必要です。AIを使ったトーク分析を企業のサービスに活かしているコグニティ株式会社が実施したZ世代の調査から、若手独特のコミュニケーションスタイルを紹介します。
調査結果では、Z世代(1990年代中盤〜2010年前後生まれ)の社員は、発言量が少なく慎重な傾向が見られました。
具体的には、Z世代は「えーと」などのフィラー(意味を持たない言葉で、話し相手との隙間を埋めるためのもの)使用が他世代の半分程度です。上司との会話量もX世代(1960年代〜1980年前後生まれ)と比較して7割程度にとどまっています。上司側も対応に戸惑い、話すスピードが遅くなったり、指示語が増えたりするなど、双方にコミュニケーションギャップが生じていることがわかりました。
対策として、1on1ミーティングでは「どう思いますか?」「どうするつもりですか?」といった答えやすいオープンな質問を増やし、沈黙を恐れず待つ姿勢が重要です。若手が意見を表明しやすい環境作りが、早期離職防止と社員エンゲージメント向上につながります。
出典:コグニティ株式会社|調査レポート Z世代のコミュニケーション特性 2024
9.心理的安全性の高い職場環境の構築
若手の発信力を高めるためには、コミュニケーションの活発化に寄与する「心理的安全性」を高めることに取り組みます。自分の考えや発言が否定されないことで、建設的な会話がしやすくなります。普段のなにげない会話からは、業務に関する気付きが生まれやすくなり、イノベーション促進効果も期待できるでしょう。
具体的には、以下の取り組みが心理的安全性を高めます。
- チャットツールのスタンプ機能などでポジティブな反応を増やす
- 議論の場では、メンバーの積極的な参加を促す
- メンバーやチーム共通の目標を設定する
- 業務内容・進捗を可視化し声掛けを促す
- 同僚同士横のつながりを強化できる社内イベントを開催する
出典:HRpro株式会社/SmartHR(労務管理)|あなたの組織は対応できている?「心理的安全性」を低下させる3つの問題
若手社員の価値観に寄り添い離職防止
今回紹介した離職防止策は、若手の本音を理解することから始まります。「人間関係がうまくいかない」「働き方が合わない」といった若手社員の不満を解消するには、公平な評価制度や柔軟な働き方の導入、Z世代の話し方に合わせたコミュニケーションを取り入れてみましょう。こうした対策を怠ると、採用にかけたコストが無駄になるだけでなく、社内の雰囲気も悪くなってしまいます。
福利厚生の充実は、ぜひ取り組みたい施策の一つです。若手社員の44.3%が企業選びで「福利厚生の充実」を最重視していることからも、採用面でも武器になります。
「チケットレストラン」などの食の福利厚生サービスは、毎日使える福利厚生として社員の満足度アップに一役買います。また、一定の利用条件を満たせば食事補助の非課税を満たすため、月額3,500円(税抜)の補助が要件となっており、企業負担も少なめです。少額より始められるため企業にとって導入ハードルは低く、給与よりも税制面でメリットがあります。
食を通じた会話から、若手社員の定着と職場のコミュニケーション促進にもつながります。まずは自社で導入するイメージを、膨らませてみませんか。
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