「公務が危機に瀕している。公務の危機は、国民の危機である」―2025年3月の人事行政諮問会議最終提言は、この衝撃的な言葉で始まりました。国家公務員の採用難と若手の早期離職は、民間企業も共通して抱える課題です。本記事では、官僚離れの実態から、若手離職防止のヒントを探ります。
国家公務員の「なり手不足」の実態
人事行政諮問会議参考資料によると、国家公務員の採用試験申込者数は、総合職一般職ともに、この10年で約3割減少しています。さらに、採用後すぐに退職する若手が急増。2014年度採用の655人のうち、23.2%が10年間で退職しました。10年前と比べて約3倍で、2023年度には、採用後10年未満の退職者が203人と過去最多を記録しました。
若手官僚が離職する4つの理由
若手官僚の離職理由は、民間企業の若手社員にも当てはまる点が多くあります。2025年3月公表の「人事行政諮問会議最終提言」とその「参考資料」から、若手官僚が離職に至る理由を見ていきましょう。官僚からの転職者や課長補佐級職員へのヒアリング結果と提言のポイントも含めて、紹介します。
1. 厳しい労働環境と長時間労働
霞が関では「ブラック霞が関」と呼ばれるほど、過酷な労働環境が常態化しているとメディアで報じられてきました。深夜まで働く官僚が多く、国会対応や災害対応など突発的な業務も多発します。計画的な働き方が難しい環境です。
かつては「国を支える」という使命感で厳しい労働環境を乗り越えましたが、若手世代の中には、ワークライフバランスを重視する傾向も見られ、モチベーションの維持が課題となっています。
ヒアリング結果:
- 育児との両立が困難。もしくは、やりがいやキャリアを半ば諦めることを前提に両立をしなければならない。(離職者)
- 雑務が多く労働時間が長い割に成長を感じられない。(離職者)
提言のポイント:
「業務改善と長時間労働の是正」を喫緊の課題に挙げ、デジタル技術活用による業務効率化や、「長時間労働はやむを得ない」という職場風土や職員意識の転換が強く求められています。
2. 給与水準への不満
民間の大企業と比べて給与が低く、同期の民間就職者との差が目立つとされています。優秀な人材ほど早い段階で民間へ転職する傾向があります。
ヒアリング結果:
- 周囲の友人と比べて給与が低い。(離職者)
- 給与水準は明らかに低い。辞職した職員の転職先の給与水準は相当高い。(課長補佐級職員)
提言のポイント:
「実際の給与水準が外部労働市場で競争力があるか検証すべき」と強調し、政策立案や高度調整に関わる人材には、「職務分析・評価」基準のような職務と結びつきが強い給与設定を提案しています。
3. 年功序列による成長機会の不足
年功序列文化が根強く、若手が「早く成長したい」「能力を発揮したい」というニーズとの間に溝があります。すぐに活躍できる場が少なく、やりがいを感じにくい状況が続いています。
ヒアリング結果:
- 自身が何をどれくらいできるようになったのか目安がない。(離職者)
- 過去よりも昇任の年齢が遅れてきている。公務の年功序列の運用と人員構成を踏まえれば、近い将来それが変わる兆しも見えない。(離職者)
提言のポイント:
「納得感があり成長につながる評価」の実現が不可欠とし、より適したポストへの抜擢・登用も叶う、実力主義の人事管理への移行を求めています。
4. 精神的・身体的な負担
政治との関係で厳しい要求も多く、精神的・身体的な負担増加も離職の一因となっていると見られています。
ヒアリング結果:
- 国会対応など予見性の低い業務も多くプライベートと両立しづらい。(離職者)
- 各種ハラスメントの排除が必要。働き方を自分で決められるようにすることも重要。長時間労働の是正、いわゆるブルシット・ジョブ(取り組む意義を感じられないような業務)の撲滅、テレワークの推進も必要。(課長補佐級職員)
提言のポイント:
「ハラスメントの根絶」を始めとしたWell-being(ウェルビーイング)の実現、勤務間インターバル確保徹底の必要性を明記しています。
改革提言から学ぶ6つの離職防止策
人事行政諮問会議では、危機を打開するための改革を提言しています。ここでは、民間企業にも応用可能なものや、逆に民間企業を手本として取り入れた人手不足のための対策を見ていきましょう。
1.行動規範の策定
提言後直ちに行うものとして、全職員を対象とした行動規範策定が示されました。組織のパフォーマンス向上を目指す上で、人的資本の価値を最大化する必要があります。そのためには、組織と職員の業務遂行双方における目的や方向性の一致が不可欠です。具体的な「国家公務員行動規範」としての提案は以下のとおりです。
- ①「国民を第一」に考えた行動
- ② 「中立・公正」な立場での職務遂行
- ③ 「専門性と根拠」に基づいた客観的判断
行動規範は組織行動の枠組みとして機能することが期待されています。
2. 給与水準の適正化(賃金引き上げ)
官僚の給与を「大企業並み」に近づけ、外部労働市場と同等水準への引き上げを提案しています。提言では、政策立案や高度調整に関わる職員は「少なくとも1,000人以上の企業と比較すべき」とし、各職務の難易度や特性に応じた給与設定の必要性を強調しました。
3. 柔軟な働き方の導入
場所に縛られない働き方の推進として、以下の施策を全職員対象に3年以内を目処に実現することを示しています。
- 柔軟な働き方の更なる促進(個々の職員事情に合わせた休暇等)
- 短時間勤務の拡大
- 裁量勤務の導入
- テレワークの更なる活用
- 転勤の在り方の見直し
「フルタイム前提でない勤務を拡大するための部分休業・休暇や短時間勤務制度の適用範囲を、育児や介護などの事情がある職員に限らず、一般職員にも広げるべき」と明記しています。
4. 実力主義の人事制度
年功序列から職務基準・実力主義の人事管理への転換を提言しています。若手時代から実力次第で活躍の場を与えることは、若手職員のモチベーション向上に効果的です。
提言は「一つの組織で定年まで働くことを前提としない者は、給与面でも外部労働市場を意識している」との認識から、「職務の難易度・責任に見合った給与」実現の必要性を訴えています。
5. 働きがいと成長実感を得られる環境
若手職員が成長を実感できる育成・評価体制整備や、管理職によるマネジメント・キャリア支援強化を提言しました。
- 人事の納得感向上(キャリア形成支援として、配属理由などを丁寧に説明)
- 組織内や府省間の公募推進
- 休業からの職場復帰支援
- 金銭的・時間的な学びの支援
- 兼業・副業経験の後押し
「希望するポストに応募できる組織内公募や府省間公募による異動活性化」や「資格取得のための金銭補助導入」など、具体策を示しています。
6.人材確保につながる福利厚生の充実
優秀な人材獲得のために、これまでの採用方針を見直す提言がなされています。具体的には、以下に記す公務の魅力向上と発信強化です。
- 人材確保につながる福利厚生の充実
- 戦略的な公務のブランディング
提言では「国家公務員という仕事のブランディングを人材確保の観点から戦略的に行う」とされ、民間の採用スキームを手本とするような高い意欲が見られます。
また、人材確保につながる福利厚生充実も重視されています。「宿舎の建設・改修、オフィス環境整備や転居時の負担軽減などは志望者が魅力を感じる点」として、福利厚生の効果と重要性が示されました。
若手社員離職防止としての福利厚生
6つの離職防止策のうち、「福利厚生の充実」は民間企業でも即座に応用可能な対策です。次に、この福利厚生という観点から、若手定着への道筋を掘り下げていきましょう。
福利厚生の効果
質の高い福利厚生は給与や手当以上の価値を提供します。組織へのエンゲージメント向上、ワークライフバランスの充実、健康管理サポート、そして経済面での利点をもたらします。
諮問会議提言ではハラスメントの根絶とともに、「ウェルビーイングの実現」による休息や生活時間の確保について取り組むとされました。働き方を必要以上に管理するのではなく、勤務時間・休暇などの制度を柔軟化し、民間労働法制に近づけていくべきと明示されています。
公務以外を就職先として選択した学生へのヒアリング結果では、福利厚生を含めた働き方を学生が重視した結果、公務員への応募を見送る要素の一つになったと示されています。
ヒアリング結果:
- 地方出身であるため、東京で生活していくために住宅補助の手厚さを重視した。
- 土日勤務や長時間労働といった、精神面・体調面で不安になる要素の有無。
- 育休の取得しやすさや時間的・場所的に柔軟な働き方などが進んでいるかどうか。
食事補助の魅力と「チケットレストラン」
従業員のウェルビーイング促進において、食事は欠かせない要素の一つです。ウェルビーイングとは、単に病気でないという状態を超えて、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味します。栄養バランスのとれた食事は、体調・集中力・ストレス軽減にプラスです。
また、食事補助を一定の条件を満たして提供する場合、企業は福利厚生費として経費にでき、従業員は所得税の非課税枠が活用できるので税制上のメリットがあります。
食事補助は、福利厚生の一例として検討する価値があります。例えば、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、一定の利用条件下において所得税の非課税枠運用が可能な食の福利厚生サービスです。街の飲食店を社員食堂のように使えるため、自分の生活スタイルに合わせて、食事を充実させ、心身の健康や働きやすさを実現できます。
福利厚生による人材定着を促進
人事行政諮問会議の提言では、国家公務員の採用と定着課題に対応するため、組織文化や制度の見直しを含む多面的アプローチが示されています。示された知見は、民間企業の人材戦略にも有用です。
注目したいのは、国家公務員の若手離職防止策として民間企業を参考に、福利厚生充実が明確に提言されたことです。民間企業では住宅補助や食事補助など、従業員の日常生活をサポートする福利厚生が支持されています。特に食事補助など柔軟に利用できる福利厚生は、従業員満足度とウェルビーイング向上に貢献します。
食事補助の福利厚生サービス 「チケットレストラン」は、好きな店で、好きな時に、好きなメニューを選べる自由度によって従業員満足度を高め、若手定着にも効果的です。福利厚生の魅力を発信し、企業ブランディングにも寄与、採用・定着を促せます。
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