非正規雇用に関するデータを見ると、非正規雇用で働く人は増加している反面、低い賃金が課題になっていると分かります。課題を解決するには年収の壁への対策が必要です。賃上げにつながる対策をチェックしましょう。
非正規雇用は約4割
2023年の「労働力調査」を見ると、非正規雇用で働く人の数は2,124万人です。雇用者全体の人数が6,076万人のため、約4割の人が非正規雇用で働いていることが分かります。
業種や職場によっては半数以上が非正規雇用というケースもあるでしょう。業務に取り組むために欠かせない戦力として、多くの非正規雇用の従業員が活躍しています。
ここではまず非正規雇用の現状を見ていきましょう。
参考:総務省統計局|労働力調査(詳細集計)2023年(令和5年)平均結果の概要
積極的に非正規雇用を選ぶ人が増加中
非正規雇用の従業員に、非正規雇用の仕事に就いている理由を質問した結果、最も多かったのは「自分の都合のよい時間に働きたいから」でした。その他の回答も含めて、多い順にすると以下の通りです。
順位 |
非正規雇用の仕事に就いた理由 |
1 |
自分の都合のよい時間に働きたいから |
2 |
家計の補助・学費等を得たいから |
3 |
家事・育児・介護等と両立しやすいから |
4 |
正規の職員・従業員の仕事がないから |
5 |
専門的な技能を活かせるから |
6 |
通勤時間が短いから |
「正規の職員・従業員の仕事がないから」という消極的な理由から、非正規雇用を選んでいる従業員は年々減少しています。2023年も2022年と比べて14万人減って196万人です。2013年の342万人と比べると、大幅に減っているのが分かります。
一方「自分の都合のよい時間に働きたいから」「家事・育児・介護等と両立しやすいから」は上昇傾向です。仕方なく非正規雇用で働いているのではなく、プライベートとのバランスを取るために積極的に非正規雇用を選ぶ人が増えています。
非正規雇用で働く65歳以上が増加傾向
厚生労働省の資料を見ると、非正規雇用で働く人が増えているのは65歳以上です。65歳以上の非正規雇用労働者の推移をチェックしましょう。
年 |
65歳以上の非正規雇用労働者の人数 |
2010年 |
163万人 |
2011年 |
168万人 |
2012年 |
179万人 |
2013年 |
204万人 |
2014年 |
235万人 |
2015年 |
268万人 |
2016年 |
300万人 |
2017年 |
316万人 |
2018年 |
358万人 |
2019年 |
388万人 |
2020年 |
389万人 |
2021年 |
393万人 |
2022年 |
405万人 |
2023年 |
417万人 |
65歳以上の非正規雇用で働く従業員が増えているのは、定年を迎えてから再雇用で働く高年齢労働者が増えているからと考えられます。人手不足解消を目的に、高年齢労働者の活用を進めている企業もあるでしょう。
非正規雇用の課題は低い賃金
自分に合う働き方の選択肢として、非正規雇用を選ぶ人が増えています。ただし非正規雇用は正社員と比べて賃金が低いのが課題です。
厚生労働省の「非正規雇用」の現状と課題で、正社員とそれ以外の平均賃金をチェックしましょう。
雇用形態 |
平均賃金(時給) |
一般労働者(正社員・正職員) |
2,014円 |
短時間労働者(正社員・正職員) |
1,900円 |
一般労働者(正社員・正職員以外) |
1,407円 |
短時間労働者(正社員・正職員以外) |
1,392円 |
一般労働者も短時間労働者も、非正規雇用の方が平均賃金が低くなっています。またこの傾向はどの年代でも変わりません。
非正規雇用の賃上げは限定的
2024年の春闘では、パートやアルバイトを多く雇用している企業を中心に、非正規雇用の賃上げを行う企業が増えました。
例えば約40万人のパートやアルバイトが働いているイオングループでは7%の賃上げを、ドラッグストアを中心に展開しているウエルシアホールディングスは7.95%の賃上げを、家電販売の上新電機では6.19%の賃上げを実施済みです。
ただし非正規雇用の従業員が在籍している全ての企業で、非正規雇用の賃上げが実施されているわけではありません。非正規雇用の賃上げが行われている企業は限定的です。
関連記事:非正規雇用の賃上げをした企業一覧を紹介!賃上げ目的の福利厚生とは?
賃上げが進みにくい理由は推定組織率
非正規雇用の賃上げが進みにくいのは、賃上げを要求するための正式な窓口が少ないことと関係しています。賃上げを目指すとき、企業へ要求や交渉を行うのは、労働者が主体となって組織している労働組合です。
厚生労働省の「令和5年労働組合基礎調査の概況」によると、非正規雇用の従業員が参加する労働組合数を雇用者数で割った推定組織率は8.4%と低い割合となっています。
賃上げの窓口となる労働組合に参加している非正規雇用の従業員が少ないため、正社員の賃上げほど進みにくいのでしょう。
「年収の壁」も賃上げが進まない理由
非正規雇用の賃金がなかなか上がらず低いままなのは、「年収の壁」とも関係していると考えられています。
「年収の壁」とは、一定の年収を超えると配偶者の扶養から外れ、税金や社会保険料の負担が増えて、実質敵な手取り額が減ることです。
賃上げで時給が上がると「年収の壁」の範囲内で働きたいと考えている非正規雇用の従業員は、労働時間の調整を行わなければいけません。
特にパートは「年収の壁」を意識して毎月の労働時間を調整する人が多く、賃上げが歓迎されないこともあります。
関連記事:【社労士監修】非正規雇用の賃上げは課題だが年収の壁問題も!福利厚生が救世主に
複数ある「年収の壁」
「年収の壁」を超えるまでは、収入があっても配偶者や親などに養われているとみなされるため、税金や社会保険料などの負担が発生しません。「年収の壁」を超えると、税金や社会保険料の負担が増えるため、ある一定の収入までは手取り額が下がります。
より多く働いているにもかかわらず、受け取れる金額が減る事態を避けるために「年収の壁」を超えないよう労働時間を調整する非正規雇用の従業員は少なくありません。
ここでは複数ある「年収の壁」について、どのような仕組みでできているのかを見ていきましょう。
関連記事:【税理士監修】年収の壁とは?6つの壁の仕組みと対策を徹底解説
住民税が課される「100万円の壁」
年収が100万円を超えると住民税の課税対象です。住民税は地方自治体へ納める地方税のため、所得税とは別の「年収の壁」ができます。税率や控除額は自治体ごとに定められているため、住んでいる自治体によって税額が異なる点に注意しましょう。
税金も社会保険料も負担せずに働きたいと考えている場合には、年収100万円を超えない範囲で働くこととなります。
所得税が課される「103万円の壁」
103万円の壁は所得税が課税され始める年収です。給与所得控除額55万円と基礎控除額48万円の合計額が103万円のため、年収103万円までは所得税が発生しません。
所得税が発生しない範囲で働きたいと考えている非正規雇用の従業員は、この壁を意識して働き方を調整することがあるため、103万円の壁と表現されます。
社会保険料の負担が増える「106万円の壁」「130万円の壁」
年収が106万円を超えると、パートやアルバイトなどの非正規雇用で働く従業員は、配偶者や親の扶養を抜けて自身の勤務先で厚生年金や健康保険へ加入しなければいけません。対象となるのは、以下の要件を満たす非正規雇用の従業員です。
- 従業員101人以上(2024年10月以降は51人以上)の企業で勤務している
- 年収106万円(月8万8,000円)を超えている
- 週20時間以上勤務している
従業員100人以下(2024年10月以降は50人以下)の企業でも、パートやアルバイトなどの非正規雇用が年収130万円を超えると、社会保険の被扶養配偶者の対象から外れます。この場合には自分で国民年金や国民健康保険へ加入しなければいけません。
以前より年収が増えても、社会保険料の負担分を差し引くと、手取り額が下がるケースもあります。手取り額を減らさないよう、年収106万円や年収130万円以下になるよう労働時間を調整することが「106万円の壁」や「130万円の壁」です。
配偶者特別控除に関わる「150万円の壁」「201万円の壁」
年収が一定以下の非正規雇用の従業員は配偶者の扶養家族として扱われ、配偶者の税額を計算するときに配偶者控除や配偶者特別控除を受けられます。
配偶者特別控除で満額の38万円の控除を受けるには、年収150万円以内になるよう調整が必要です。また年収201万円を超えると配偶者特別控除が受けられなくなります。
年収の壁・支援強化パッケージで賃上げをサポート
パートやアルバイトなどの非正規雇用の従業員が「年収の壁」を意識せずに働けるよう、国は年収の壁・支援強化パッケージによるサポートを行っています。具体的にどのようなサポートを実施しているのかを、厚生労働省の資料をもとに見ていきましょう。
キャリアアップ助成金で106万円の壁対策
106万円の壁対策として、キャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース」が、2023年10月から設けられました。
年収106万円(月8万8,000円)を超えたパートやアルバイトが、従業員101人以上(2024年10月以降は従業員51人以上)の企業で週20時間を超えて勤務している場合、厚生年金や健康保険へ加入しなければいけません。
これでは年収が増えても、天引きされる社会保険料により手取り額が少なくなる人もいるでしょう。年収106万円を超えても、従業員の手取り額を減らすことがないよう活用できるのが、キャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース」です。
従業員が負担する社会保険料相当額を上限に、企業が社会保険適用促進手当を支給すると、従業員1人につき最大50万円の支援を受けられます。助成金を受け取るには、キャリアアップ計画書の提出が必要です。
参考:厚生労働省|年収の壁対策として労働者1人につき最大50万円助成します!
被扶養者認定の円滑化で130万円の壁対策
従業員100人以下(2024年10月からは従業員50人以下)の企業で働いているパートやアルバイトなどの非正規雇用の従業員は、社会保険の被扶養者の対象外です。ただし年収130万円以上になると、自分で国民年金や国民健康保険へ加入しなければいけません。
2024年度の国民年金保険料は月1万6,980円です。国民健康保険料は自治体により異なります。ここでは新宿区のケースを見ていきましょう。前年の総所得金額等が25万円であれば、40~64歳以外は月5,467円、40~64歳は月6,842円です。
合計すると、40~64歳以外は月2万2,447円、40~64歳は月2万3,822円の負担増となります。
将来受け取れる自分自身の年金額を増やすという面ではメリットもありますが、手取り額を減らしたくないと考える人にとってはデメリットです。
ただし社会保険料の負担を避ける目的で勤務を調整していても、繁忙期や人手不足によって年収130万円を超えることもあります。このようなときには被扶養者認定が活用できるかもしれません。
突発的な理由で年収130万円を超えたことを企業が証明すれば、年収130万円以上であっても期限付きで被扶養者認定を受けられる可能性があります。
また被扶養者認定は新たな「年収の壁」を作り出すことがないよう、上限額は設定されていません。
厚生労働省の「事業主の証明による被扶養者認定Q&A」によると、被扶養者の年収が配偶者や親などの被保険者の年収を上回ると、被扶養者が主に生計を維持しているとみなされて被扶養者認定が削除されるとあります。
参考:
日本年金機構|国民年金保険料
新宿区|令和6年度 国民健康保険料 概算早見表(総所得金額等)
厚生労働省|事業主の証明による被扶養者認定Q&A
資料の公開で配偶者手当への対策
年収の壁は税金や社会保険の負担増のみが原因ではありません。非正規雇用の従業員の配偶者が勤務する企業が、従業員に支給している配偶者手当を理由に、非正規雇用の従業員が就業時間を調整するケースもあります。
例えば「配偶者が年収106万円までの従業員に月1万円の手当を支給する」といった要件で配偶者手当を実施している企業であれば、配偶者手当を受け取るために年収106万円までで働こうと勤務時間を調整することもあるでしょう。
このように企業が作り出している「年収の壁」対策として、配偶者手当の廃止を検討し始める企業もあるかもしれません。ただし単に配偶者手当を廃止するだけでは、不利益変更とみなされる可能性がある点に要注意です。
不利益変更とならないよう制度を変更するには、基本給の賃上げや子ども手当の増額などと同時に実施しましょう。
従業員からも意見を募り、自社に合う制度になるよう、よく検討するとよいでしょう。厚生労働省では制度の見直しに役立つフローチャートを掲載した資料「配偶者手当を見直して若い人材の確保や能力開発に取り組みませんか?」を公開しています。
参考:厚生労働省|配偶者手当を見直して若い人材の確保や能力開発に取り組みませんか?
非正規雇用の手取りアップには第3の賃上げが有効
「年収の壁」を意識して働くことの多い非正規雇用の従業員に対する賃上げは、労働時間の調整につながります。賃上げを行うことで多くの従業員が労働時間を調整すれば、人手不足に陥ることもあるでしょう。
このような事態を避けつつ、非正規雇用の従業員が受け取る実質的な手取り額をアップするには、第3の賃上げが役立ちます。
第3の賃上げとは、定期昇給による第1の賃上げ、ベースアップによる第2の賃上げに続く、福利厚生サービスを活用した賃上げのことです。
福利厚生サービスの導入による第3の賃上げが、手取り額アップにつながる理由を確認します。
関連記事:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
第3の賃上げが手取り額アップにつながる理由
第3の賃上げで活用するのは、一定の要件を満たすことで所得税が非課税となる福利厚生です。福利厚生として手当を支給する場合、手当は原則として給与とみなされ所得税がかかります。
ただし特定の福利厚生は一定の要件を満たすことで、給与とは扱われず所得税がかかりません。この仕組みを利用すると、従業員の実質的な手取り額を同額の定期昇給やベースアップを行ったときよりも増やせます。
参照:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
税負担が増えない分、手取り額アップを従業員が実感しやすいのもメリットです。
第3の賃上げが非正規雇用の手取り額アップに有効な理由
非正規雇用の従業員の賃上げを行うと「年収の壁」を超えてしまい、税金や社会保険料の負担が発生することもあるでしょう。
一方、要件を満たすことで所得税が非課税となる福利厚生を活用した第3の賃上げでは、支給した福利厚生は給与として扱われないため「年収の壁」に影響しません。
「年収の壁」を超えることによる手取り額の低下を避けられるため、雇用形態を問わずに活用しやすい賃上げの方法です。
関連記事:食事補助は課税される?給与にしないための非課税限度額
導入や運用の手間を抑えて第3の賃上げが可能な福利厚生サービス
第3の賃上げを実施するときには、福利厚生サービスを活用すると、導入や運用の手間を抑えつつ実質的な手取り額アップが可能です。
ここではおすすめの福利厚生サービスとして、借り上げ社宅を提供する「freee福利厚生」と、食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」を紹介します。
freee福利厚生
freee福利厚生の導入により従業員に提供できるのは、借り上げ社宅です。企業が従業員へ住宅を提供するとき、一定額の賃料相当額を従業員から受け取っていれば、企業が負担した補助金額により従業員の税負担が増えることはありません。
従業員へ提供する住宅を企業が購入して用意すると、制度の導入や運用にコストがかかりますが、freee福利厚生であればコスト負担は不要です。
今従業員が住んでいる賃貸物件の賃貸借契約を、企業と物件オーナー間で結び直し、企業が従業員に賃貸物件を提供するため、従業員は今の住居に住み続けながら実質的な手取り額アップがかないます。もちろんこれから引っ越す賃貸住宅でも同様に利用可能です。
従業員の基本給の一部を借り上げ社宅の補助金額とすることで、従業員の手取り額アップとともに、企業の負担する社会保険料額も減らせます。
参考:
freee福利厚生
国税庁|No.2600 役員に社宅などを貸したとき
チケットレストラン
エデンレッドジャパンが提供している「チケットレストラン」は、食事補助の福利厚生サービスです。食事補助は要件を満たしていれば、従業員の税負担を増やさずに提供できます。
同額の賃上げを行うときよりも、税負担が増えない分、実質的な手取り額を増やしやすいサービスです。
全国にある25万店舗以上の加盟店で食事を購入できるのも魅力といえます。いつも異なる現場で仕事をしている従業員や、テレワークで仕事をしている従業員、オフィスで働く従業員など、どこで働いていても利用しやすいでしょう。
コンビニ・ファミレス・牛丼チェーン・カフェなどで利用できるため、昼食にはもちろん休憩時に利用できるのも魅力です。
利用率が99%、従業員満足度が93%と高いのも特徴といえます。従業員に喜ばれる福利厚生で、人材確保につなげたい場合にも有効です。
実際に株式会社ハートコーポレーションや日本ナレッジスペース株式会社など「チケットレストラン」の導入が人材の採用や定着につながっている企業の事例もあります。
非正規雇用のデータから分かる課題を福利厚生で解決しよう
非正規雇用で働く従業員が増えています。他の仕事がなく非正規雇用を選んでいるのではなく、「自由な時間で働きたい」「プライベートに合わせた働き方がしたい」といった積極的な理由で選択している人が増えているのが特徴です。
ただし賃金は正社員と比べると低い状態が続いています。非正規雇用の従業員は賃上げに関する窓口である労働組合に加入している割合が低く、賃上げの動きが正社員ほど広がっていないため、春闘での賃上げは限定的なものでした。
また「年収の壁」を意識して働く非正規雇用の従業員は、賃上げにより壁を超えることで税金や社会保険料の負担が増えるのを避けたいと考えるケースも少なくありません。労働時間の調整が発生し人手不足につながる可能性もあることから、従業員も企業も賃上げを歓迎しにくいのも賃金が低い要因です。
「年収の壁」に影響せずに実質的な手取り額を上げるには、福利厚生サービスを活用する第3の賃上げが役立ちます。要件を満たすことで従業員の税負担を増やさずに提供できる福利厚生を利用すれば、同額の賃上げを行うよりも従業員の手取り額アップが可能です。
第3の賃上げを行うときには、食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」がおすすめです。非正規雇用の従業員の待遇改善を検討しているなら、まずは資料請求を行いサービスの詳細をチェックしてみませんか。