監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
春闘による賃上げ要求に対し、交渉を待たずして満額回答など賃上げを表明する企業が続々とニュースになっています。2024春闘では「定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上の賃上げ」を要求をしていますが、早くも賃上げ5%以上を表明している企業が多いようです。
本記事では、2024春闘の要求を受け、賃上げ5%以上を表明した企業について紹介します。昇給率の計算方法などの知識も含め、賃上げについての理解を深めるのにも役立ててください。
賃上げとは?
野村證券によると、賃上げは次のように定義されています。
「賃金の増額のこと。あらかじめ労働協約、就業規則等で定めた制度に基づき、年齢や勤続年数、業績に応じて定期的に引き上げる『定期昇給(定昇)』と、賃金表の改訂で基本給の水準を引き上げる『ベースアップ(ベア)』に分けられる。」
ポイントとしては、定期昇給とベースアップの2つに分けられることです。
- 定期昇給:毎年階段を1段ずつ上がるように、定期的に給与が上がること
- ベースアップ:物価上昇などを理由に、全員一律で給与が上がること
実際に、2024春季生活闘争方針によると、2024春闘では以下の要求がされています。
- 賃上げ分(ベースアップ)3%以上の賃上げ
- 定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上の賃上げ
賃上げを実現する場合、具体的には2つの賃上げの組み合わせとなっていることを押さえましょう。
出典・参照:野村證券ホームページ証券用語解説集「賃上げ」
参考記事:【春闘2024】要求内容を3つのポイントで解説!企業ができることは?
なぜ今賃上げが必要なのか?政府の賃上げ方策を解説
出典:首相官邸「物価高を上回る所得増へ」
物価上昇が続く今、賃上げしないと実質手取りが下がることは周知の事実でしょう。しかし、賃上げが必要な理由はそれだけではありません。政府は賃上げが「日本のデフレ脱却」にもつながると考えています。
日本は30年に及ぶデフレが続いています。デフレとは、物価が継続して下落する状態のことです。モノ・サービスの需要と供給のバランスが崩れてしまい、需要が供給を上回ることで物価が下がってしまいます。
長期的なデフレにより、コストカットを強く意識し、取引先企業との価格・賃金を含む人材への投資の機会が奪われました。その結果、企業の成長率が低い状態となり、低賃金が蔓延化するという悪循環が生まれます。
岸田政権では、政府主導で賃上げを推進していますが、その目的は賃上げをキックとした好循環を生み出すことです。賃上げが購買力を高め、適切な物価上昇につながる好循環を生み出すと考えています。賃上げは、日本の経済を悩ませてきたデフレ脱却のための大事な取り組みなのです。
出典・参照:野村證券ホームページ証券用語解説集「デフレーション」
出典・参照:首相官邸「物価高を上回る所得増へ」
賃上げ率・昇給率とは?
賃上げにおいて、賃金がどのくらい上がったかを計算する方法も確認しましょう。賃上げ率・昇給率とは、賃上げや昇給後の給料が以前の給料に比べて何%上がったのか、その割合を示したものです。賃上げ率も昇給率も、「定期昇給」と「ベースアップ」の合算で計算するなど計算方法に違いはありません。昇給率という場合は個人に対する賃上げ(つまり昇給)のことを指すことが多いようです。したがって、ベースアップを重視する春闘では、賃上げ率という表現が用いられます。
賃上げ率・昇給率の計算方法
賃上げ率・昇給率の計算方法は、以下の計算式で求められます。ここでは、一般的によく使われる昇給率の計算方法を確認しましょう。
- 昇給前の給与×昇給率=昇給額
たとえば、月給が20万円で昇給率が1%の場合は以下のようになります。
- 20万円×1%=2,000となり、2,000円が昇給額
月給が25万円で、翌年25万5円だった場合は以下のとおりの昇給率です。
- 26万円÷25万円=1.02となり、昇給率は2%
出典・参照:あしたの人事「昇給率の計算方法とは?中小企業と大企業の平均昇給額・昇給率を解説」
春闘に見る日本の賃上げの現状
賃上げは、春闘と関わりが深いです。春闘とは正式には「春季生活闘争」のことを指し、毎年春ごろに労働組合と経営側が賃上げなどの労働条件の改善を目的とした交渉を行います。春闘の内容を確認することで、日本の賃上げの現状を知ることが可能です。
2023年の春闘では、賃上げ要求について「+5%程度」を掲げました。結果として、賃上げ率3.6%となり、1993年以来の高い伸び率となったのが特徴です。2024年の春闘での賃上げ要求内容は「+5%以上」と前年度よりも語気を強めた形での方針となっています。なぜなら、物価上昇をふまえて2023年をさらに上回る賃上げを実現すべきと捉えられているためです。
2024春闘賃上げ結果はいつわかるのか
春闘による賃上げの結果は、厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」を参照するのがよいでしょう。しかし、厚生労働省が公表する結果は、例年8月の上旬に公表されます。2023年では8月4日に公表されました。
連合(日本労働組合総連合)による集計値の公表は、例年3月中旬ごろです。厚生労働省の集計値よりも早く確認できるため、春闘による賃上げの結果は、連合による集計値が用いられることが多いです。
賃上げに関するアンケート結果
2024年4月からの賃上げについて、企業がどのような姿勢を示しているかわかるアンケート調査も2024年の賃上げ状況を把握するための助けになります。ここからは、東京商工リサーチが2024年2月にインターネットで実施した2024年度「賃上げに関するアンケート」調査の結果もとに、2024年の賃上げの動向を見ていきましょう。
賃上げ予定率は過去最高の数値85.6%をマーク
アンケート調査結果における2024年4月の賃上げ予定率は、以下のようになりました。
- 2024年の賃上げ予定企業:85.6%
- 大企業:93.1%
- 中小企業:84.9%
賃上げに前向きな企業は多く、賃上げに取り組む企業はアンケートに答えた企業の85.6%と多いことがわかります。大企業では、93.1%、中小企業では84.9%といずれも高い値となりました。
5%以上の賃上げは賃上げ実施企業のうち25.9%
出典:東京商工リサーチ「~2024年度『賃上げに関するアンケート』調査~」
賃上げする意志を表明している企業は多いものの、賃上げ率については厳しい結果となりました。アンケート結果では、2024春闘の方針である「5%以上の賃上げ」は、賃上げ実施企業のうちの25.9%にとどまる見込みです。賃上げの中央値は3%で、連合の目標を達成できていない企業が多いことが予測されます。
なお、2023年度の調査結果と比較すると、賃上げ率の中央値は0.5ポイント低くなり、物価上昇が継続する一方で、その対応としての要求を満たす賃上げ率を実現できる企業は多くないことがわかります。
出典:東京商工リサーチ「~2024年度『賃上げに関するアンケート』調査~」
産業別の賃上げ率は二極化傾向
出典:東京商工リサーチ「~2024年度『賃上げに関するアンケート』調査~」
産業別「5%以上の賃上げ」についてのアンケート結果も紹介します。賃上げ率の上位は以下のようになりました。
- 卸売業:33.57%
- サービス業:33.2%
- 不動産業:31.5%
賃上げ率の割合が低い産業は、以下のとおりです。
- 製造業:17.4%
- 小売業:20.63%
- 運輸業:21.05%
ポイント差が最大16.1となるなど、賃上げ実現において産業ごとの二極化が浮き彫りになりました。アフターコロナによる業績回復や人手不足といった要素が絡んで差がついたと考えられます。
出典・参照:東京商工リサーチ「~2024年度『賃上げに関するアンケート』調査~」
2024年4月に「賃上げ5%以上」を表明した企業一覧
2024年4月、2024春闘の方針である「賃上げ5%以上」を実現すると表明しているのはどのような企業でしょうか。詳しく見ていきましょう。
関連記事:2024年の賃上げを表明した企業一覧。第3の賃上げについても解説
サントリーホールディングス|約7%
- ベースアップ:1万3,000円
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:約7%
第1回目の交渉で合意しており、5%を上回る7%の賃上げを表明しました。今春入社予定の新入社員の初任給も賃上げの対象で、大卒は3万6,000円増の27万8,000円です。2年連続のベア、賃上げ額は過去20年で最高となりました。
出典:讀賣新聞オンライン「サントリーHD、ベア1万3000円で妥結…賃上げ額は過去20年で最高」(2024年2月28日公開)
キリンホールディングス|約6%
- ベースアップ:1万円程度
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:約6%
2023年とほぼ同程度の賃上げを実施し、賃上げ率は約6%を表明しました。昨年に続き2年連続の賃上げ表明は、貯蓄が少ない若手の厚遇を意識したものです。
出典:産経ニュース「キリンHD6%賃上げ方針 ベアは1万円程度で検討」(2024年1月11日公開)
アサヒビール|約6%
- ベースアップ:3%程度
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:約6%
2023年の5%程度の賃上げをうわ回る賃上げ率6%を表明しています。
出典:産経ニュース「アサヒビール6%賃上げ 24年春、前年上回る」(2023年12月28日公開)
サッポロボール|平均約6.4%
- ベースアップ:月額1万2,000円
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:平均約6.4%
対象となる2,300人の組合員平均で約6.4%の賃上げを表明しています。ベアは23年度も月額9,000円で実施しており、2年連続です。社長自ら、持続的な企業の成長のために人材への投資を進めているとコメントし、賃上げを推進しています。
出典:日本経済新聞「サッポロビール、賃上げ6.4%の満額妥結 2年連続ベア」(2024年2月29日公開)
ヤマハ発動機|初任給対象に9.7%
- 賃上げ率:9.7%
2024年度入社の初任給の引き上げを決定しました。前年度の大学初任給の引き上げは4.1%であり、前年に引き続き優秀な人材確保のため新入社員の待遇を改善しています。
出典:日本経済新聞「ヤマハ発動機、初任給9.7%引き上げ 24年度大卒」(2024年3月1日公開)
ジンズホールディングス|最大13.9%
- ベースアップ:1万5,000円程度
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:約6%
ジンズ勤務の正社員の月額基本給を4月より1万5,000円ベースアップすることを発表しています。対象は1,700人です。2023年9月に引き続きベースアップを実現し、2023年8月と比べて最大13.9%の賃上げとなります。
出典:日本経済新聞「眼鏡のジンズ、店舗正社員の月額基本給1.5万円増」(2024年2月28日公開)
モスフードサービス|8%
- ベースアップ:1万円引き上げに加えて等級ごとに平均約3%
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:8%
外食産業の労働組合の24年春季労使交渉目標の「6%」を上回る賃上げ水準を表明しています。対象となるのは、嘱託を含む全従業員650人です。ベースアップは記録が残る限り今回が初めてで、時代を反映した取り組みで従業員の定着率向上を目指します。
出典:日本経済新聞「モスフードサービス、初のベア実施 定昇含め8%賃上げ」(2024年2月27日公開)
すかいらーくHD|6.2%
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:6.2%
ガストやバーミヤンの運営する子会社のすかいらーくレストランツ正社員の4,200人を対象として、4月より平均6.2%の賃上げを発表しました。過去最高水準の賃上げで、企業は満額回答という結果です。なお、初任給の引き上げについても1万7,400円増やした24万5,800円としています。今後の出店拡大を視野に、人材確保に前向きです。
出典:毎日新聞「すかいらーくHD、賃上げ6.2%で合意 過去最高水準で満額回答」(2024年2月26日公開)
松屋フーズホールディングス|10.9%
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:10.9%
2024年4月より正社員約1,835名のベースアップと初任給の引き上げを実施します。物価上昇分を大きく上回る10.9%の賃上げは、過去最高水準です。さらに、優秀な人材確保のため大学初任給も23万円から25万円に引き上げられました。
出典:松屋フーズ「正社員給与ベースアップ及び新卒初任給引き上げについて」
イオン|パート従業員の時給平均7%
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:平均7%
傘下の総合スーパー・ドラッグストアなどのパート従業員約40万人の時給を平均7%引き上げる方針を発表しています。23年度でも同水準の引き上げを実施しており、非正規雇用の従業員の処遇改善の取り組みで注目されています。現在の平均時給である1,070円から75円程度の引き上げです。正社員については、23年度ベアを含めて4.85%の賃上げを実施しましたが、24年度についても23年度を上回る水準にするとの方針であり、小売業界の賃上げを牽引します。
出典:讀賣新聞オンライン「イオン、パート40万人の時給7%引き上げへ…正社員の賃上げも検討」(2023年12月31日公開)
第一生命ホールディングス|平均7%
- ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率:平均7%
国内5万人の従業員に対して、平均7%の賃上げに踏み切る方針を固めています。同グループは、23年度は平均5%の賃上げを実施しました。賃上げに向けて給与制度の見直し・株式報酬制度の導入も実施するなど前向きな動きが注目されています。
賃上げが難しい企業が喜ぶ「第3の賃上げ」
ここまでで紹介した企業の賃上げ表明を見て、自社において最善を尽くす方法を探している企業の人事担当者に提唱したいのが「第3の賃上げ」です。ここからは第3の賃上げについて解説します。
第3の賃上げとは?
食事補助サービスを提供するエデンレッドジャパンが、福利厚生を活用した新しい賃上げを「第3の賃上げ」として定義しました。福利厚生を上手に取り入れることで、実質手取りを増やせるのが第3の賃上げの特徴であり、メリットです。
手取りがアップ!第3の賃上げの仕組み
給与アップによる「賃上げ」では、増えた給与に対して所得税などの負担が増えます。しかし、福利厚生で従業員に支給した費用は、非課税となります。そのため、実質手取りがアップするのです。仮に賃上げ額と福利厚生費が同額の場合、従業員が受け取る金額が福利厚生費の方が税負担分多くなるため、従業員に喜ばれます。
関連記事:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
チケットレストランの魅力
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、全国25万店舗以上が社員食堂になる食の福利厚生サービスです。従業員のランチ代を企業が半額負担し、食事を補助します。
第3の賃上げで解説したとおり、実質手取りアップを実現するサービスです。ランチ代を気にしている従業員には充実したランチを提供でき、勤務時間や社員食堂がないなど勤務環境が原因で食事補助ができなかった従業員には社員食堂を提供することが可能となります。iDが搭載されたICカードで支払うだけでよく、アプリで残高管理も簡単であるため、使い方が容易というのも魅力でしょう。企業の人事・総務担当者は、初期導入のあとは月に1回のチャージをするのみなど、運用の手間もかかりません。
- 企業の契約継続率:99%
- 導入後の従業員利用率:98%
- 従業員満足度:93%
上記の数字「従業員満足度93%」が示すのは、導入した企業の従業員が「チケットレストラン」で充実したランチを楽しめることです。さらに企業が嬉しいことに、食事補助が自社に対するエンゲージメントを高め、定着率を上げるといったメリットも得られるでしょう。魅力的な福利厚生があるという採用面でのアピールポイントにもご活用いただけます。
新しい選択肢で賃上げに取り組もう
第3の賃上げは、賃上げ5%以上を表明した企業にとっても、5%には届かなかった企業にとっても有益な選択肢となります。実質手取りがアップする食の福利厚生「チケットレストラン」は、勤務環境を問わず全従業員に提供できる画期的なサービスです。システム使用料が6か月無料という賃上げ応援キャンペーン実施中というこの機会に「チケットレストラン」の導入を検討してみませんか。