「非課税といわれる手当なのに、社会保険料の計算には含まれるのか?」人事・総務の現場では、税金と社会保険の線引きに関する疑問が絶えません。本記事では、税金の「非課税」と社会保険との関係を整理しつつ、非課税となる所得の類型をまとめました。さらに、人手不足解消の一手として注目を集める"非課税制度を活用した従業員支援施策"についても分かりやすく解説します。
【結論】「非課税」でも社会保険料の対象になることがある
税制と社会保険では、手当を「算定対象に含めるかどうか」の判断基準が異なります。
税制では「課税所得に含めるか」、社会保険では「報酬(労働の対価)に含めるか」をそれぞれ判断するため、同じ手当でも扱いが分かれるケースが生じるためです。
たとえば通勤手当は、一定額まで所得税・住民税が非課税ですが、社会保険では報酬として標準報酬月額の算定に含まれます。一方、出張手当(日当)や見舞金のように、税制上も社会保険上も対象外となる給付もあります。
参考:国税庁|No.2011 課税される所得と非課税所得
参考:全国健康保険協会|標準報酬月額・標準賞与額とは?|こんな時に健保
「非課税なのに社会保険には含まれる」のはなぜ?
税金と社会保険の考え方の違いを押さえることで、「非課税なのに社会保険に含まれる」理由が整理できます。ここでは、税金における「非課税」の決まり方と、社会保険における「報酬」の考え方を確認した上で、典型例である通勤手当を取り上げます。
税金の“非課税”は「課税所得に入れるかどうか」で決まるから
税金の文脈で「非課税」といった場合、それは「課税所得に含めない」と法律で定められた所得を指します。
所得税法第9条では、通勤手当の一部や旅費、一定の給付金など、課税対象から外すべきものが非課税所得として列挙されています。
課税対象かどうかの判断軸は、あくまで「所得税や住民税を計算する際に、合計所得金額に含めるかどうか」です。そのため、同じ手当であっても、要件を満たす範囲は非課税、超える部分は課税といった線引きが行われます。
まずは、「非課税=税金の計算に載せない」という整理が重要なポイントになります。
関連記事:【税理士監修】所得税が非課税になる手当を一覧で確認!非課税となる要件も解説
社会保険は「報酬」を基準に計算されるから
健康保険や厚生年金などの社会保険は、「報酬」を基準に保険料や給付額を計算します。
健康保険法・厚生年金保険法では、報酬を「労務の対償として受けるすべてのもの」と広く定義しており、現金だけでなく、一定の現物給与も含めて標準報酬月額を決めます。
ここでの判断軸は、税制のように"課税所得に含めるか"ではなく、"労働の対価として支払われたものか"です。そのため、税法上は非課税とされる手当であっても、労務対価性があれば報酬になり、社会保険料の算定に含まれます。
この基準の違いこそが、「税金では非課税なのに、社会保険には含まれる」という現象を生んでいます。
参考:全国健康保険協会|標準報酬月額・標準賞与額とは?|こんな時に健保
【通勤手当】“税では非課税”でも“社会保険では報酬”になる典型例
通勤手当は、「税では非課税だが社会保険では報酬」というズレを理解するうえで代表的な例です。
所得税法上、一定の限度額までの通勤手当は「実費弁償的な性質」として非課税とされています。一方、健康保険・厚生年金では、通勤手当も含めた総支給額をもとに標準報酬月額が決まります。
つまり、通勤手当には所得税や住民税がかからない範囲がある一方で、社会保険料の算定では給与本体と同じく報酬として扱われるということです。
企業側は、「税制上の非課税=社会保険の対象外」ではないことを、通勤手当の取り扱いを例に具体的に押さえておく必要があります。
所得税上で“非課税”となるのはどんなケース?
所得税について考えるとき、"非課税"となるのは具体的にどのようなケースなのでしょうか。4つの視点から解説します。
実費を補填するだけの給付
業務や通勤に伴い発生する費用について、会社が実費相当額を補填するような給付は、原則として非課税と扱われます。
典型例が旅費・交通費で、出張に要した運賃や宿泊費など、業務遂行上通常必要な金額の範囲内で支給されるものは、所得税法第9条第1項第4号に基づき非課税所得とされています。また、通勤定期代のように、実際の通勤経路に対応した合理的な額で支給される交通費も、一定の範囲内で非課税となります。
ただし、実費を大きく上回る支給や、業務と無関係な支出の補填は課税対象となるため、旅費規程や通勤手当の支給基準を明文化しておくことが大切です。
社会通念上相当とされる金品
従業員やその家族の慶弔・災害に際して支給する弔慰金や見舞金などは、「社会通念上相当と認められる範囲」であれば非課税所得として取り扱われます。
所得税基本通達9−23では、弔慰金が"社会通念上相当な範囲であれば非課税"であることが示されています。また、死亡退職金や弔慰金の非課税範囲についても同様です。
制度としての福利厚生というよりも、「社会儀礼としての金品」という性格が強い給付については、税務上もその性格を踏まえた非課税扱いが認められていると理解すると整理しやすいでしょう。
参考:国税庁|通達目次/所得税基本通達
参考:国税庁|No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
経済的損失を補う給付
災害や事故、傷病などにより従業員が被った経済的損失を埋め合わせるための給付も、その実態が損失補填にとどまる限り、非課税所得として扱われる場合があります。
具体例としては、地震や水害により自宅や家財に損害を受けた従業員に対する災害見舞金や、会社規程に基づき支給する一定の補助などが該当します。
ここでのポイントは、給付が「損失の補填」にとどまっているかどうかです。損害の実態を大きく上回る支給や、対象者の範囲が恣意的な給付は、課税対象と判断されるリスクがあるため、支給基準を明文化し、客観的な妥当性を確保しておくことが求められます。
法律で非課税と定められた給付
通勤手当のように、法律や政令で具体的な非課税枠が明示されている給付もあります。
例えば、公共交通機関による通勤手当は、一定額まで所得税・住民税が非課税です。その上限額や適用条件は、所得税法第9条第1項第5号および同施行令で規定されています。
また、一定の教育費給付や子育てに関する給付金など、個別の政策目的に基づいて非課税とされている所得も多数存在します。企業としては、こうした「法令列挙の非課税枠」が存在する手当について、要件と上限額を正確に把握し、自社の制度設計に反映させることが重要です。
非課税制度を活用して従業員の“手取りを増やす”方法とは?
非課税制度は、じょうずに活用することで従業員の実質手取りの増加に寄与します。実質手取りの増加は、企業の採用市場における競争力強化やブランディングなどの観点からも見逃せません。ここでは、その具体的な方法について解説します。
福利厚生の「非課税枠」を活用する
物価高や社会保険料率の上昇が続くなか、ベースアップだけで従業員の可処分所得を十分に守るのは難しくなっています。そこで有効なアプローチのひとつが、税制上の非課税枠を活用した福利厚生の導入・見直しです。
例えば、一定の要件を満たした食事補助や社宅・住宅手当の一部、育児・介護に関する費用補助、資格取得や自己啓発に対する支援などの福利厚生は、非課税枠を活用できるため、給与として支給した場合に比べて実質的な手取りを増やすことが可能です。同時に、損金算入によって企業側の法人税も削減できます。
つまり、福利厚生の活用は、企業の総コストを抑えつつ、従業員の実質的な手取りや満足度を高められる魅力的な施策なのです。
3,000社以上に選ばれている食の福利厚生「チケットレストラン」
エデンレッドジャパンが提供する「チケットレストラン」は、企業と従業員との折半により、全国25万店舗を超える加盟店での食事を実質半額で利用できる、食事補助の福利厚生サービスです。
加盟店のジャンルは、コンビニ・ファミレス・三大牛丼チェーン店・カフェなど幅広く、利用する人の年代や嗜好を問いません。 Uber Eats を通じ、モスバーガーやスターバックスなどの人気ファストフードも利用可能です。
内勤の従業員はもちろんのこと、出張中やリモートワークの従業員も平等に利用できる柔軟性や、コスパの良さが高く評価され、すでに3,000社を超える企業に導入されている人気サービスです。
「社会保険 × 非課税」にまつわるよくある質問
ここでは、社会保険と非課税について、多く寄せられる質問をQ&A形式で紹介しています。
Q. 非課税の手当でも社会保険の対象になることはありますか?
A. 税法上の非課税手当でも、社会保険では報酬として扱われる場合があります。
所得税法上は一定の通勤手当などが非課税所得とされますが、健康保険や厚生年金では「労務の対価として受けるすべてのもの」が原則として報酬に含まれます。税と社会保険は別のルールで動いているため、「非課税=社会保険の対象外」とは限りません。
Q. 交通費はなぜ「非課税なのに社会保険に含まれる」ことがあるのですか?
A. 交通費は税法上は「実費の補填」として非課税、社保上は「労働の対価」として報酬に含めるからです。
通勤手当は、所得税法上は一定額まで非課税所得ですが、社会保険では通勤手当も含めた総支給額を基に標準報酬月額を決定します。この基準の違いにより、「税金はかからないが、社会保険料の計算には含まれる」という扱いになります。
Q. 出張手当はどこまで非課税になりますか?
A. 業務に通常必要な範囲の旅費・宿泊費・日当であれば、原則として非課税です。
所得税法第9条第1項第4号および所得税基本通達9−3で、「社会通念上相当」と認められる旅費等は非課税とされています。ただし具体的な上限額はなく、目的や期間、役職、同業他社との比較などを踏まえた妥当な水準であることが前提になります。旅費規程を整備し、金額と支給条件を明文化しておくことが重要です。
参考:e-Gov 法令検索|所得税法|第9条
参考:国税庁|通達目次/所得税基本通達
Q. 食事補助は本当に非課税で受け取れますか?
A. 要件を満たせば、会社負担分の一定額まで食事補助は非課税にできます。
会社が従業員に食事を提供し、その価額の半分以上を従業員が負担している場合で、かつ、会社負担額が従業員1人あたり月3,500円以下である場合は、給与として課税しない取扱いが示されています。一方、食費相当額を現金で支給すると原則課税となるため、現物支給型で設計することがポイントです。
関連記事:「食事補助」非課税上限の引き上げに向け、 政府へ要望書を提出
非課税制度を理解し、従業員支援の幅を広げよう
税制と社会保険では、同じ手当でも「算定対象に含めるかどうか」の判断基準が大きく異なります。その違いを理解することで、「非課税なのに社会保険には含まれる」という疑問が解消されると同時に、通勤手当や出張手当といった実務上の論点も整理しやすくなります。
また、非課税枠を活用した福利厚生施策は、賃上げだけに頼らず従業員の手取り感や満足度を高める有効な選択肢です。「チケットレストラン」のように、多様な働き方に対応しつつ非課税要件を満たせるサービスを活用することで、企業のコストを抑えながら従業員支援を強化できます。
最新の税制・社会保険制度の動向を注視しつつ、自社の人事戦略と従業員ニーズに合った制度設計を進めましょう。
当サイトにおけるニュース、データ及びその他の情報などのコンテンツは一般的な情報提供を目的にしており、特定のお客様のニーズへの対応もしくは特定のサービスの優遇的な措置を保証するものではありません。当コンテンツは信頼できると思われる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性、適時性、適切性または完全性を表明または保証するものではなく、お客様による当サイトのコンテンツの利用等に関して生じうるいかなる損害についても責任を負いません。
税理士 / 1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和
宅配便配送員、自販機ベンディング作業、駅構内配送など)、コンサルティング会社・通販会社にて勤務を経て、税理士を目指し、今に至る。
1級FP や日商簿記1級、宅建資格も持ち、幅広い視野と知見でサポートしています。
