2025年4月・10月に段階施行された改正育児・介護休業法。しかし、一般財団法人 労務行政研究所の最新調査によると、改正対応を完了していない企業は約4割に達し、特に製造業では未対応率が40.4%に上ることが明らかになりました。本記事では、最新の実態調査データをもとに、育児・介護休業法について企業が直面する課題と、実効性ある対応策について解説します。
「育児・介護休業法」とは何か|目的・制度の概要・企業の基本義務を整理
育児・介護休業法は、育児や介護を理由とする離職を防ぎ、労働者が職業生活と家庭生活を両立できるよう支援する法律です。ここでは制度の全体像と、企業が押さえるべき基本ルールを整理します。
「育児・介護休業法」の概要|育児・介護を理由とする離職を防ぐための法律
育児・介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は、育児休業・介護休業・短時間勤務・所定外労働の制限・不利益取扱いの禁止などを規定する法律です。
同法は、育児・介護と仕事とを両立し、育児・介護を理由とするキャリアの断絶を防ぐ目的で整備されました。対象は正規雇用の従業員だけでなく、契約社員やパート労働者を含むすべての労働者です。
企業は法に基づいた制度整備と適切な運用が実現できるよう、ただ制度を整えるだけでなく、実際に使われやすい環境をつくることが求められています。
法の改正の流れと2025年改正の位置づけ
育児休業法は1992年に施行され、その後1995年に介護休業制度が加わり、法律名称が「育児・介護休業法」に改められました。以降、2009年のパート労働者対象拡大、2022年の産後パパ育休創設など、段階的に改正されています。
2025年改正では、制度はあるものの使われにくい現状を改善すべく、柔軟勤務の選択肢拡大と介護支援の強化が図られました。改正の方向性は「制度の整備」から「実効性の向上」へとシフトしています。
企業の基本義務|周知・環境整備・不利益取扱いの禁止
育児・介護休業法において、企業が果たすべき基本義務は大きく以下の3つです。
- 育児・介護休業制度の周知義務:従業員への適切な情報提供と個別の周知・意向確認を行う
- 相談窓口の設置など雇用環境の整備:従業員が制度を利用しやすい体制を構築する
- 不利益取扱いの禁止:育児・介護休業の取得や制度利用を理由とした降格・解雇、人事評価での不当な扱いも禁止する
ハラスメント防止措置も義務づけられており、これらを怠ると労働局からの指導や企業名公表のリスクがあります。
関連記事:【社労士監修】育児介護休業法が改正。2025年4月から施行される制度を確認
2025年改正のポイントと施行スケジュール
2025年の改正育児・介護休業法は4月と10月の段階施行です。育児期の柔軟な働き方を実現するための措置拡充と、介護離職防止のための雇用環境整備が主な柱となります。以下、改正項目を施行日ごとにまとめます。
2025年4月施行|両立支援拡充と介護環境整備の義務化
2025年4月施行の改正では、育児と介護の両面で支援が強化されています。育児面では子の看護等休暇の対象が小学校3年生まで拡大し、所定外労働の制限対象も小学校就学前まで広がりました。介護面では、40歳到達時の情報提供や雇用環境整備が義務化され、介護離職防止に向けた取り組みが本格化しています。
| 改正項目 | 施行前 | 施行後 |
|---|---|---|
| 子の看護等休暇の見直し | ・対象:小学校就学前まで ・取得事由:病気・けが、予防接種・健康診断 ・労使協定による除外:週2日以下、継続雇用6か月未満 |
・対象:小学校3年生修了まで ・取得事由:病気・けが、予防接種・健康診断、感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式・卒園式 ・労使協定による除外:週2日以下のみ(継続雇用6カ月未満の除外廃止) |
| 所定外労働の制限(残業免除)対象拡大 | 3歳未満の子を養育する労働者 | 小学校就学前の子を養育する労働者 |
| 短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置追加 | ・育児休業に準ずる措置 ・始業時刻の変更等 |
・育児休業に準ずる措置 ・始業時刻の変更等 ・テレワーク |
| 育児のためのテレワーク導入 | (新設) | 3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるよう措置を講ずることが努力義務化 |
| 育児休業取得状況の公表義務適用拡大 | 従業員数1,000人超の企業 | 従業員数300人超の企業 |
| 介護休暇取得要件の緩和 | 労使協定による除外:週2日以下、継続雇用6か月未満 | 労使協定による除外:週2日以下のみ(継続雇用6か月未満の除外廃止) |
| 介護離職防止のための雇用環境整備 | (新設) | 以下のいずれかを義務化: ①研修の実施 ②相談体制の整備 ③事例の収集・提供 ④利用促進方針の周知 |
| 介護に関する個別周知・意向確認 | (新設) | ・介護に直面した申出時:制度の個別周知・意向確認を義務化 ・40歳到達時:介護制度に関する情報提供を義務化 |
| 介護のためのテレワーク導入 | (新設) | 要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう措置を講ずることが努力義務化 |
2025年10月施行|柔軟勤務義務化と個別意向聴取の義務
2025年10月施行の改正では、3歳から小学校就学前の子を持つ労働者への支援が大幅に拡充されました。企業は5つの措置から2つ以上を選択して提供する義務を負い、労働者は自身のニーズに合わせて制度を選べるようになっています。また、妊娠・出産時や子が3歳になる前の意向聴取も義務化され、個別対応が求められています。
| 改正項目 | 施行前 | 施行後 |
|---|---|---|
| 柔軟な働き方を実現するための措置(3歳~小学校就学前) | (新設) | 3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、以下5つの措置から2つ以上を選択して実施することが義務化: ①始業時刻等の変更(フレックスタイム制、時差出勤) ②テレワーク等(月10日以上) ③保育施設の設置運営等 ④養育両立支援休暇の付与(年10日以上) ⑤短時間勤務制度 ※労働者は企業が選択した措置の中から1つを選んで利用可能 ※措置選択時は過半数組合等から意見聴取が必要 |
| 柔軟な働き方の個別周知・意向確認 | (新設) | 3歳未満の子を養育する労働者に対し、子が1歳11か月に達する日の翌々日~2歳11か月に達する日の翌日までの間に以下を個別に周知・意向確認することが義務化: ①事業主が選択した対象措置(2つ以上)の内容 ②対象措置の申出先 ③所定外労働・時間外労働・深夜業の制限に関する制度 ※面談、書面交付、FAX、電子メール等のいずれかで実施 |
| 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮 | (新設) | 以下のタイミングで労働者の意向を個別に聴取し、配慮することが義務化: ①労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき ②労働者の子が1歳11か月に達する日の翌々日~2歳11か月に達する日の翌日までの間 聴取内容: ・勤務時間帯(始業・終業時刻) ・勤務地(就業の場所) ・両立支援制度等の利用期間 ・仕事と育児の両立に資する就業条件(業務量、労働条件の見直し等) 配慮の例: ・勤務時間帯、勤務地にかかる配置 ・両立支援制度等の利用期間等の見直し ・業務量の調整、労働条件の見直し 等 |
最新実態調査が示す「対応の遅れ」|約4割の企業が未整備
改正育児・介護休業法の企業の対応状況には大きなばらつきがあります。業種や規模による温度差も顕著です。ここでは最新の実態調査データから、企業対応の現状を詳しく見ていきます。
企業対応の現状|「未対応・未定」34%、製造業は4割未対応
2025年4月以降、企業には、3歳未満の子を養育する従業員がテレワークを選択できるように措置を講ずることが努力義務として課されています。
しかし、一般財団法人 労務行政研究所が2025年4月に実施した調査(344社対象)によると、3歳未満の子を養育する従業員のテレワーク対応について、「既存のテレワーク制度で対応」が57.3%と半数を超えた一方、「対応する予定はない」が34%に上りました。
特に、製造業では未対応率が40.4%に達し、非製造業の29.3%を大きく上回っています。
この背景には、製造現場でのテレワーク導入の困難さや、代替人員の確保難といった構造的な課題があります。業種による対応格差が拡大する中、企業には自社の業務特性に応じた実効性ある両立支援策の検討が求められているのが現状です。
参考:人事のプロを支援するHRプロ|2025年改正「育児・介護休業法」に4割の企業が未対応。テレワークや柔軟勤務…現場の格差と課題とは
育児休業の実態|男性取得率40.5%まで上昇も課題残る
厚生労働省が2025年7月30日に公表した「令和6年度 雇用均等基本調査」によると、2022年10月から2023年9月の1年間に配偶者が出産した男性のうち、2024年10月1日までに育児休業を開始した人の割合は40.5%でした。前年度の30.1%から10.4ポイント上昇し過去最高を記録しています。
一方、女性の取得率は86.6%でした。こちらも前年度の84.1%から上昇していますが、男女で2倍以上の開きがある現状に変わりはありません。
政府は2025年までに男性育休取得率50%の目標を掲げており、目標達成が視野に入ってきました。しかし「昇進への影響」を懸念する声も多く、心理的ハードルの解消が課題です。
介護支援の実態|雇用環境整備「未実施36.9%」、「予定なし56.1%」
マイナビが2025年6月に実施した「マイナビ 企業におけるビジネスケアラー支援 実態調査」では、2025年4月に義務化された介護離職防止のための雇用環境整備について、36.9%の企業が「現在実施していない」と回答しました。
さらに深刻なのは、未実施企業のうち56.1%が「今後も実施予定がない」としている点です。法令遵守の観点からも問題があり、企業の対応の遅れが浮き彫りになっています。
介護支援が育児支援に比べて遅れている背景には、介護を行う従業員の実態把握の難しさや、介護問題への理解不足があります。約2割の企業がビジネスケアラーの人数を「把握していない」と回答しており、まずは実態把握から始めることが大切です。
参考:「マイナビ 企業におけるビジネスケアラー支援 実態調査」を発表 &-株式会社マイナビ
企業がとるべき改正対応のステップ
改正育児・介護休業法への対応は、従業員の定着と企業競争力の観点からも重要です。ここでは、改正へ対応するにあたっての実践的なステップを解説します。
① 実態把握と課題の洗い出し
改正対応の第一歩は自社の現状を正確に把握することです。
まずは、現在の育児休業・介護休業の取得率、相談件数、育児・介護を理由とした離職者数、該当する従業員数などを可視化しましょう。特に2025年4月・10月施行の改正項目について、自社の制度や運用にどのようなギャップがあるかを確認する必要があります。
具体的には、テレワーク制度の有無、介護離職防止のための雇用環境整備状況、40歳従業員への情報提供体制、3歳から就学前の子を持つ従業員への柔軟な働き方の提供状況などをチェックリスト化して点検します。
現場の管理職や従業員へのヒアリングも有効で、制度はあるが使いにくい理由や、実際に必要とされている支援を把握しましょう。
関連記事:【社労士監修】リモートワークにおすすめの福利厚生|働き方に合わせた制度の整備を
② 規程・労使協定の改定
実態把握で明らかになったギャップを埋めるため、就業規則や育児・介護休業規程、労使協定の改定を行います。
2025年改正では、子の看護等休暇の対象拡大(小学校3年生修了まで)、所定外労働の制限対象拡大(小学校就学前まで)、短時間勤務の代替措置へのテレワーク追加など複数の改正項目があります。厚生労働省が公開している規程例を参考に、自社の実情に合わせた規程整備を進めましょう。
特に労使協定については、短時間勤務の適用除外や代替措置、介護休暇の対象範囲など改正に伴う見直しが必要です。
なお、規程改定後は所轄の労働基準監督署への届出を忘れずに行いましょう。また社内イントラネットへの掲載や従業員への資料配布など、周知方法も合わせて検討することが大切です。
③ 教育・周知と相談体制の整備
どんなに制度を整えても、従業員や管理職がその内容を理解していなければ活用されません。
周知の手段として、まず管理職向けに研修を実施します。具体的な項目としては、育児・介護と仕事の両立支援の重要性、制度内容、部下からの申出があった際の対応方法、不利益取扱いやハラスメントの禁止などが挙げられます。
従業員向けには、社内FAQ、制度利用の手引き、相談窓口の案内などをわかりやすく整備し、定期的に情報発信しましょう。中でも40歳到達時の介護に関する情報提供や、妊娠・出産の申出時の個別周知・意向確認は義務化されているため、漏れなく実施できる体制を構築しなければなりません。
相談窓口については、人事部門だけでなく、オンライン相談や外部の専門家との連携も検討すると良いでしょう。
「育児・介護休業法」にまつわるよくある質問
改正育児・介護休業法への対応において、代表的な疑問を回答とともに紹介します。
Q1. 短時間勤務が難しい職種は代替措置だけで足りる?
A. 業務の性質上または実施体制上、短時間勤務が困難な業務については、労使協定により適用除外とした上で代替措置(育児休業に準ずる措置、始業時刻の変更等、テレワーク)を講じることが認められています。
ただし単なる人員不足や管理の煩雑さは除外理由として認められません。労使協定には除外対象業務を具体的に記載し、代替措置の内容を従業員に周知した上で、記録を適切に保管することが必要です。
Q2. テレワーク導入は努力義務。導入しないと違反?
A. テレワーク導入は努力義務であり、導入しないことが直ちに違法とはなりません。しかし、企業には合理的な検討を行った旨の説明が求められます。
業務特性上困難な場合はその理由を記録するとともに、代替となる柔軟な働き方(時差出勤、フレックスタイム制など)を検討・提示することが望ましいとされています。労働局の指導対象となる可能性もあるため、検討過程を記録しておくと安心です。
Q3. 介護環境整備の第一歩は?
A. 介護離職防止のための雇用環境整備として、もっとも取り組みやすいのは相談体制の整備です。労務行政研究所の調査でも89.1%の企業が相談窓口設置に取り組んでいます。
まずは人事部門に相談窓口を設置し、介護休業制度について相談できることを周知しましょう。次のステップとして40歳到達者への情報提供を計画的に実施し、その後、時短勤務やテレワークなど具体的な勤務制度の整備へと段階的に進めることが現実的です。
参考:人事のプロを支援するHRプロ|2025年改正「育児・介護休業法」に4割の企業が未対応。テレワークや柔軟勤務…現場の格差と課題とは
法改正を「働きがい改革」の起点に
改正育児・介護休業法への対応は、法令遵守という義務を超えて企業の競争力を高める機会です。従業員にとって働きやすい環境を整備し、これからの時代に選ばれる企業を目指しましょう。
なお、従業員のエンゲージメントを高める手段としては、働きやすさへの対応に加え、充実した福利厚生の提供が有効です。
例えばエデンレッドジャパンが提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」の場合、全国25万店舗以上の加盟店舗での食事が実質半額になり、従業員の生活を直接サポートできます。
法改正をきっかけに、働きやすさを再設計し、より魅力ある企業への一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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