監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
年収の壁はいつから改正されるのでしょうか?現時点で分かっている、103万円の壁・106万円の壁改正に関する情報を解説します。まずは年収の壁の改正についての概要をQ&A形式で確認しましょう。その上で、年収の壁改正の詳細と、企業ができる年収の壁対策を紹介します。
年収の壁改正についてよくある質問
「年収の壁」とは、その年収を超えると、住民税の課税・所得税の課税・社会保険への加入・配偶者特別控除額の減少などにより、手取り額が減り始める年収のことです。超えると手取り額が減る年収の壁は、以下の通り複数あります。
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年収の壁 |
発生する負担 |
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103万円の壁 |
所得税の課税 |
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106万円の壁 |
社会保険への加入 ※勤務先が従業員51人以上など条件を満たすとき |
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110万円の壁 |
住民税の課税 |
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130万円の壁 |
国民健康保険・国民年金保険への加入 ※勤務先が従業員50人以下のとき |
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160万円の壁 |
所得税の課税(2025年12月~)・配偶者特別控除が減り始める |
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201万円の壁 |
配偶者特別控除がなくなる |
このうち改正されるのが、103万円の壁と106万円の壁です。ここでは年収の壁改正について、よくある質問に回答していきます。
関連記事:【税理士監修】年収の壁とは?2025年の最新動向と106万・160万の壁などをチェック
103万円の壁が改正されるのはいつ?
103万円の壁は2025年12月から改正されます。
給与所得控除と基礎控除の引き上げにより、所得税が課税され始める年収103万円から160万円になるためです。
関連記事:【税理士監修】103万円の壁は廃止?いつから変わる?最大160万円への引き上げを解説
106万円の壁が改正されるのはいつ?
106万円の壁が改正されるのは2026年10月頃からです。
106万円の壁は、要件を満たしていると勤務先で社会保険に加入する年収の壁で、要件の1つに「年収106万円(月8万8,000円)を超えている」があります。この要件が2026年10月に改正されるため、106万円の壁はなくなります。
関連記事:【社労士監修】106万円の壁はどうなった?法改正で撤廃決定、施行はいつ?【2025年10月最新】
2026年のパートの年収の壁はいくら?
2026年のパートの年収の壁は、住民税がかかり始める「110万円の壁」、所得税がかかり始める「160万円の壁」、配偶者特別控除がなくなる「201万円の壁」です。
勤務先で社会保険に加入し始める「106万円の壁」は2026年10月からの改正が予定されています。また勤務先の従業員数が50人以下であれば、国民健康保険や国民年金に加入し始める「130万円の壁」も関係します。
関連記事:【2025年10月最新】新しい年収の壁はいつから適用?今後の動向も解説
パートやアルバイトが年収の壁を意識せずに働けるようにするには?
パートやアルバイトが年収の壁に左右されず、希望に合わせて働けるようにするには、企業の対策も重要です。
年収の壁を超えたときに減る手取り額を手当として支給すれば、手取り減少を意識せずに働きやすいでしょう。「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」を活用すれば、従業員をサポートしやすくなります。
関連記事:【社労士監修】年収の壁対策はキャリアアップ助成金を活用!待遇改善に役立つ福利厚生も
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)
103万円の壁は2025年12月から変わる
従来の制度では、所得が給与所得のみの場合、所得税がかかり始めるのは年収103万円を超えてからでした。
所得を計算するときに差し引かれる給与所得控除の最低金額が55万円、総所得額から差し引ける基礎控除が48万円で、この合計額103万円までは給与所得控除と基礎控除を差し引いて所得が0円となり所得税が課税されないためです。この結果103万円の壁とよばれるようになりました。
この制度が2025年12月から変わります。新たな給与所得控除と基礎控除は、2025年分の給与から対象です。
関連記事:【税理士監修】103万円の壁撤廃はいつから?メリット・デメリットも解説
103万円の壁が160万円の壁になる理由
2025年度の税制改正により、2025年分の給与所得控除の最低金額は65万円に、基礎控除は総所得金額132万円以下であれば95万円に引き上げられることとなりました。
この2つを合計すると160万円のため、所得税がかかり始めるのは年収160万円を超えてからとなり、160万円の壁となります。
参考
:国税庁|No.1410 給与所得控除
:国税庁|No.1199 基礎控除
160万円の壁は所得132万円以下の場合
103万円の壁が改正され、新たにできる160万円の壁は、合計所得金額が132万円以下の場合に対象となります。
基礎控除は以下のように合計所得金額が高くなるほど低くなる仕組みです。全ての給与所得者が、給与所得控除65万円と合わせて160万円の控除を受けられるわけではない、という点に注意しましょう。
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納税者本人の合計所得金額 |
控除額 |
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2025・2026年分 |
2027年分 |
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132万円以下 |
95万円 |
95万円 |
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132万円超336万円以下 |
88万円 |
58万円 |
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336万円超489万円以下 |
68万円 |
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489万円超655万円以下 |
63万円 |
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655万円超2,350万円以下 |
58万円 |
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2,350万円超2,400万円以下 |
48万円 |
48万円 |
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2,400万円超2,450万円以下 |
32万円 |
32万円 |
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2,450万円超2,500万円以下 |
16万円 |
16万円 |
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2,500万円超 |
0円 |
0円 |
参考
:国税庁|No.1410 給与所得控除
:国税庁|No.1199 基礎控除
所得税が課税され始める年収は今後の制度変更にも注目
2025年10月に成立した高市政権では、2025年内に所得税の基礎控除をインフレの進行具合に応じて見直し、制度設計を取りまとめることを明言しました。
さらに日本維新の会と国民民主党は、年収の壁引き上げに向けて協力していくことで一致しています。
このような動きにより、所得税が課税され始める年収の壁は、今後も変わっていく見込みです。
106万円の壁は2026年10月に改正
106万円の壁は、以下の要件を満たしていると、勤務先で社会保険に加入しなければならず、手取り額が減り始める年収の壁です。
- 従業員51人以上の企業に勤務している
- 年収106万円(月8万8,000円)を超えている
- 週20時間以上勤務している
- 2カ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
2026年10月から、この加入要件の1つである賃金要件「年収106万円(月8万8,000円)を超えている」が改正されるため、106万円の壁はなくなります。
関連記事:【税理士監修】106万円の壁撤廃はいつから?撤廃でどうなるか影響を解説
参考:厚生労働省|社会保険適用拡大特設サイト|事業主のみなさま
賃金要件が撤廃される理由
社会保険加入に必要な賃金要件が改正されるのは、最低賃金の上昇と関係しています。毎年10月に行われている最低賃金の改定において、2023~2025年は連続で最低賃金の全国加重平均が大幅に上がりました。2025年の最低賃金の全国加重平均は1,121円です。
最低賃金の上昇により、週20時間働くと賃金が月額8万8,000円を超える地域が増えました。
今はまだ週20時間働いても月額8万8,000円に届かない地域もあります。ただし同様のペースで最低賃金が上がり続ければ、週20時間働けば月額8万8,000円に届く地域は増えていくでしょう。
「週の所定労働時間が20時間以上」という労働時間の要件を満たせば、賃金要件も自動的に満たす地域が増えていることから、106万円の壁は改正されることとなっています。
関連記事:【2025年度】最低賃金の全国加重平均は1,121円に。引き上げはいつから?
企業規模要件も段階的に廃止の方向性
「従業員51人以上の企業に勤務している」という企業規模要件も、以下のように段階的な廃止の方向性で進んでいます。
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企業規模要件の変更タイミング |
変更後の企業規模要件 |
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2025年10月 |
従業員51人以上 |
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2027年10月 |
従業員36人以上 |
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2029年10月 |
従業員21人以上 |
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2032年10月 |
従業員11人以上 |
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2035年10月 |
従業員10人以下 |
加えて個人事業所も、常時5人以上を使用している場合には、2029年10月から全業種で社会保険に必ず加入することと定められました。
将来的には、週20時間以上勤務しており、2カ月を超える雇用の見込みがあって、学生ではないパートやアルバイトであれば、勤務先で社会保険へ加入することとなるでしょう。
週20時間が新たな壁になる可能性
106万円の壁という年収の壁は改正されますが、2026年10月以降も「週20時間以上勤務している」という労働時間の要件は変わらない見込みです。年収の壁が改正されても、労働時間の要件が新たな「壁」となるかもしれません。
企業ができる年収の壁対策
106万円の壁の改正により、社会保険に加入するパートやアルバイトが増える企業も出てきます。従業員が年収の壁に左右されることなく、希望に合わせて働きやすい体制を作るには「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」の活用が有効です。
新たに社会保険に加入するパートやアルバイトがいる場合、社会保険料相当額を上限に、企業が社会保険適用促進手当を支給すると、従業員1人につき最大50万円の支援を受けられます。
また労働時間の延長によって社会保険を適用させる場合には、従業員1人につき最大30万円の助成額です。社会保険適用促進手当の支給と労働時間の延長を組み合わせる併用メニューもあります。この場合には従業員1人につき最大50万円を受け取れる仕組みです。
制度を活用する場合には、取り組みを開始する前日までに、管轄の労働局へキャリアアップ計画書を提出しましょう。
関連記事:【税理士監修】扶養から外れる年収の壁をわかりやすく解説。期間限定の措置も確認
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)
※助成金支給対象に該当するか否かのご相談については事業所がある自治体窓口までお問い合わせください。
自社の配偶者手当も見直しを
配偶者のいる従業員に手当を支給している場合には、配偶者手当の支給要件も見直しましょう。
国の制度として年収103万円の壁が160万円の壁になったとしても、勤務先から支給される配偶者手当の支給要件が「年収103万円までの配偶者」であれば、世帯全体の収入を考慮して、従業員の配偶者は年収103万円を超えないよう就業調整するかもしれません。
このような事態を避けるため、配偶者手当ではなく基本給の引き上げや子ども手当の支給などで調整するとよいでしょう。
配偶者控除に代わる待遇を検討するときには、その他の福利厚生もあわせて見直してみてはいかがでしょうか。
例えばエデンレッドジャパンの提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」を、一定の条件を満たして導入すれば、所得税の非課税枠が活用できるため実質的な手取り額アップにもつながります。実際に賃上げの一環として導入している企業も複数あるサービスです。
実質的な手取りアップやサービスの詳しい内容については、こちらの「資料請求」からお問い合わせください。
年収の壁改正の時期や今後の情報をチェックしよう
年収の壁は複数あります。そのうち、所得税が課税され始める103万円の壁は、2025年12月から160万円の壁に引き上げられる予定です。
また要件を満たすと勤務先で社会保険へ加入しなければいけない106万円の壁は、2026年10月に賃金要件が改正されるためなくなります。年収の壁については、今後も変更が見込まれるため最新情報をチェックしましょう。
また企業ができる年収の壁対策への取り組みも検討するとよいでしょう。キャリアアップ助成金の活用や、自社の配偶者手当の見直しが有効です。
あわせてその他の福利厚生の充実度アップも検討してみませんか。従業員満足度の高い福利厚生サービスである、エデンレッドジャパンの提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」がおすすめです。
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