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【税理士監修】パート収入150万円問題!年収の壁で就業調整に企業ができること

【税理士監修】パート収入150万円問題!年収の壁で就業調整に企業ができること

2025.01.24

監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)

パート、アルバイト、学生は、就業調整や働き控えと呼ばれる年収の壁を意識した働き方が一般的と言える状況です。しかし今、深刻な労働力不足を解消するために、就業可能な人材を積極的に活かそうという風潮が生まれています。
そこで本記事では、パート収入を150万円などに抑えてしまう要因である年収の壁の基礎知識と、世の中の動き、そして収入の壁に対する企業ができる取り組みを考察します。

年収150万円の壁とは

パート従業員の収入には、税金や社会保険の仕組みによって重要な節目(壁)があります。その中の一つが「150万円の壁」です。この金額を超えると配偶者特別控除が減額され始め、扶養者の税負担が増えます。

ただし、これは数ある「壁」の一つに過ぎません。実際の収入を考える際は、他の重要な節目も把握しておく必要があります。

関連記事:【税理士監修】年収の壁がもたらす問題と対策をわかりやすく解説!

パート従業員に関する年収の壁

年収150万円を筆頭に、パート従業員の就業時間に関わってくる年収の壁は複数あります。

パート従業員が向き合う年収の壁の一覧

年収の壁を一覧にまとめると、以下のとおりです。壁は大きく分けると、基準となる年収により「本人(妻)の負担が増えるもの」と、「配偶者(夫)の控除が利用できなくなるもの」とがあります。また、税に関する壁と社会保険に関する壁がある点もポイントです。

  パート本人への負担増 配偶者の税負担軽減

年収
(以上)

住民税 所得税 社会保険料 配偶者

控除

配偶者

特別控除

100万円以下

かからない 対象
100万円 かかる かからない
103万円 かかる かからない 対象
106万円 かかる場合あり
130万円 かかる
150万円 対象(段階的に減少)
201万円 対象外

税金に関する年収の壁

基準となる年収を越えると税金が増える壁は4種類です。

100万円の壁

住民税がかかる目安となる収入の壁です。住民税は住んでいる自治体によって異なります。

103万円の壁

年収103万円を越えると、超えた分に対して所得税(及び復興特別所得税)がかかります。

具体的には、パートでの年収から給与所得控除(55万円)と基礎控除(48万円)を引いた金額に税率が適用されます。103万円以下の場合、これらの控除によって課税所得が0円となるため、パート本人の所得税は発生しません。

税制面でもう一つ重要なポイントとなるのが、配偶者特別控除です。パート本人の年収が103万円を越えると、配偶者控除から配偶者特別控除の対象に切り替わります。パート年収が103万円から150万円の範囲内であれば、配偶者特別控除の対象となり、配偶者の税負担は増えません。

出典:国税庁|No.2260 所得税の税率No.1191 配偶者控除

150万円の壁

年収が150万円を超えると、配偶者特別控除が段階的に減少します。控除額は配偶者の所得に応じて、最大38万円から1万円の幅があります。

出典:国税庁|No.1195 配偶者特別控除

201万円の壁

年収201万円は、配偶者特別控除の対象外となるラインです。配偶者の所得税や住民税の控除がなくなるため、配偶者の手取り額が大きく変わります。

201万円という金額の根拠は、「配偶者特別控除が適用できる配偶者の所得上限額133万円」+「給与所得控除額68万3,000円(給与収入201万円時点の給与所得控除額)」です。給与所得控除額は、201万円×30%+8万円で計算されます。

出典:国税庁|No.1410 給与所得控除

社会保険の壁

社会保険の壁は2種類あり、その壁を超えた場合は社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)をパート従業員が支払います。

106万円の壁

学生以外の社会人が勤務先で社会保険の加入対象となる目安の年収が106万円です。パート先の規模によりますが、従業員51人以上で年収106万円以上が見込まれ、週の所定労働時間が20時間を越える場合、勤務先の社会保険に加入しなければなりません。

社会保険の壁は税金の壁と異なり、越えると支払う金額が急激に上がります。東京都の場合、年収106万円で年間15万円程度です。つまり、106万円を超えると手取りが急激に減少し、収入が増えるのに手取りが減る「働き損」という状況になります。

出典:全国健康保険協会|令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額面(東京都)

130万円の壁

年収130万円を超えると、勤務先の規模に関わらず、配偶者の社会保険上の扶養から外れます。

パート就業者の労働時間は減少傾向

ここからは、解説した年収の壁と、労働時間の関係を紐解きます。パート従業員の多くは年収の壁があることで「働き控え」、いわゆる就業調整をしているのが現実です。しかも、この動きは近年強まっているようです。

パーソル総合研究所によると、厚生労働省「毎月勤労統計調査」の推移において、2000年には月間98.3時間就労していたものが、2010年には91.4時間、2020年には79.4時間、2023年には79.3時間となり、就労時間が減少しています。この減少傾向が続いた場合、2035年には月間労働時間が57.7時間にまで短くなると予測されました。

出典:パーソル研究所|年収の壁によるパートタイムの就業調整に企業はどう向き合うか

就業調整が労働時間減少の要因

労働時間減少の理由を説明するのがNRIによる2024年8月実施の「有配偶者パート女性の就労実態に関するアンケート調査」です。全国のパート・アルバイト20歳〜69歳女性への調査の結果、就業調整をしているかどうかの質問で61.5%が「調整している」と回答しています。

また、就業調整をしていて、時給が昨年より上がった割合は60.6%、それに対して「さらなる就業調整した(51.3%)、またはする予定(23.3%)」と回答した割合は合計74.6%となりました。

2024年度は最低賃金の引き上げにより、非正規雇用者も含めて賃上げ気運が高まっているものの、年収の壁を意識した就業調整の状況は依然として続いています。

出典:NRI|「年収の壁」を意識して年収を一定額に抑える有配偶パート女性の割合は約6割で、2年前と変わらず

パート就業者が労働力不足の救世主

年収の壁を緩和し、パートタイム就業者の働き方が変化することで、日本の労働力不足を大きく解消できる可能性があります。パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2035」では、年収の壁が緩和された場合の2つのシナリオを示しています。

一つ目は現状維持のケースです。2023年のパート労働者の月間労働時間である79.3時間が、年収の壁の緩和により減少傾向を食い止め、そのまま維持されると仮定した場合、1日あたり357万時間の労働力が新たに生まれます。これは2035年に予測される労働力不足(1日1775万時間)の5分の1を解消できる計算です。

二つ目は成長のケースです。パート就業者の月間労働時間が89.1時間まで増加すると想定した場合、1日あたり518万時間の労働力が追加で確保でき、予測される労働力不足の30%を解消できる見込みです。

出典:パーソル総合研究所|労働市場の未来推計2035

働き控えを見直す政府や世の中の動き

パート従業員の働き控えに関して、政府を中心に複数の動きが見られています。

2025年度の税制改革

2025年の税制改革では、年収の壁による働き控えを焦点に、壁となる年収が見直されます。基礎控除と最低限の給与所得控除が各10万円引き上げられ、103万円の壁は123万円の壁となります。配偶者特別控除も150万円から160万円へと段階的に控除額が減少される最低基準額が引き上げられます。

さらに大きなインパクトは、学生アルバイトの就労時間を抑制していた103万円の壁が150万円へと引き上げられることです。社会保険加入の130万円の壁が残るという課題はありますが、労働力不足解消への効果が期待されています。

出典:財務省|令和7年度税制改正の大綱

106万円の壁は撤廃される方針

政府は106万円の壁について撤廃する方向性で調整しています。123万円の引き上げに伴い、実質形骸化している「企業規模(従業員51人以上)」と「賃金(年収106万円以上、月額8万8,000円以上)」に関する要件が撤廃される方針です。週20時間以上就労するパート従業員に対して、厚生年金へ加入が義務づけられます。

出典:NHK首都圏ナビ|年収の壁 106万円 撤廃でどうなる 社会保険料負担の要件 いつから変わる?(2024/12/12)
参考:厚生労働省|被用者保険の適用拡大及び第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる「年収の壁」への対応について② 第23回社会保障審議会年金部会2024年12月10日資料1

連合による3号廃止の正式提起

2024年10月18日、労働組合の中央組織である連合は、「第3号被保険者制度(3号)」の廃止を提起する方針を固めています。いわゆる3号制度は、専業主婦が年金の受給権を働かなくても獲得できることから「年収の壁」の温床になっていると指摘する声がありました。

出典:毎日新聞|連合、年金の3号廃止を正式提起 「年収の壁」で働き控え招くと批判

収入の壁を超える働き方をサポートする企業の取り組み

企業には、パート従業員の収入制限による就業調整を解消し、より柔軟な働き方を支援するための選択肢があります。以下、具体的な取り組みを紹介します。

従業員の希望に沿った賃上げ

まず重要なのは、従業員の希望に応じた段階的な賃上げの実施です。ただし、収入が増えることで住民税、所得税、社会保険料負担も発生するため、手取り収入の変化について丁寧な説明を行い、従業員の理解を得るようにします。

正社員転換制度の効果的な導入

より安定した働き方を望む従業員には、正社員への転換機会を設けます。必要な研修やスキルアップの支援により、スムーズな移行が可能になるでしょう。

企業の負担を軽減する助成金を活用

企業の経済的負担を軽減するため、政府の支援制度を活用できます。厚生労働省が提供する「年収の壁・支援強化パッケージ」では、就業調整の解消に向けた施策が用意されています。また、キャリアアップ助成金を利用することで、正社員転換や処遇改善にかかるコストの一部を補助してもらうことが可能です。

参考:厚生労働省|年収の壁・支援強化パッケージキャリアアップ助成金

年収の壁に寄り添う企業の取り組み

一方、年収の壁を意識する従業員一人ひとりの働き方に寄り添う必要性もあります。ここでは、2つの取り組みを紹介します。

収入管理をデジタル化

すかいらーくホールディングスは、就業調整を効率化するため、パート従業員のこれまでの収入と103万円までの残りの額が可視化できるシステムを導入し、大きな成果を上げています。店長と従業員間の個別面談を通じて、意識する収入の壁に最適なシフトの調整が可能になりました。導入から1か月で1,015人、1万2,000時間の労働時間が増加するなど、具体的な効果が表れています。企業が従業員の就業調整に寄り添った好例です。

出典:NHK NEWS WEB|「103万円の壁」学生の“働き控え”に外食チェーンが対応策

第3の賃上げの活用による手取り収入アップの選択肢

エデンレッドジャパンが提案する「第3の賃上げ」という新しい発想もあります。福利厚生を活用して実質的な手取り収入を増やす方法で、定期昇給やベースアップとは異なるアプローチで賃上げを実現できます。

ポイントは企業側と従業員側双方にメリットがある点です。企業側は福利厚生として経費計上でき節税効果があり、従業員側も非課税枠の運用ができるため手取り収入を効果的に増やすことができます。

エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、第3の賃上げの代表的な食の福利厚生サービスです。年収の壁を意識するパート従業員の賃上げのために導入する企業も増えています。パート従業員の満足度向上や、求人での差別化にも効果的です。

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