2024年の春闘では、大手企業の高水準の賃上げ回答と並び、非正規雇用の賃上げを目指す「非正規春闘」が大きな注目を集めています。非正規春闘の動きについて知ることは、この時代に企業が求められていることや、具体的な対策を考える大きな助けになるでしょう。
本記事では、非正規春闘の動向を追いながら、非正規労働者の処遇改善に向けた課題と展望を探っています。非正規の賃上げが進みにくい理由や、個人加盟ユニオンの役割など、多角的な視点から非正規春闘について考察しているので、ぜひ参考にしてください。
非正規雇用の賃上げが注目される2024年春闘
2024年の春闘では、大手企業による高水準の賃上げ回答と共に、非正規雇用の賃上げが大きな話題となっています。まずは、非正規雇用にまつわる2024年春闘のおおまかな動きから解説します。
大手企業の非正規組合員の賃上げ交渉が活発化
大企業の労働組合の中には、非正規社員も組合員として取り込み、正社員と一体的に賃上げ交渉を行うところが増えています。
例えば、組合員の約7割をパートやアルバイトの非正規社員が占めるウエルシア薬局では、88円の時給アップを実現しました。スーパーマーケットのライフでは時給76円アップ、家具販売のニトリでは時給67円アップと、非正規の賃上げが相次いでいます。
非正規の賃上げに踏み切った大企業の事例が、同業他社に対する一種のベンチマークとなり、業界全体の非正規処遇の改善へとつながることが期待されています。
参考:春闘 大企業中心に高水準の賃上げ妥結相次ぐ 中小企業や非正規で働く人への波及が焦点に | NHK | 春闘
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個人加盟の労組が主導する「非正規春闘」の動き
近年、企業内労働組合がない非正規労働者が、個人加盟のユニオンを通じて賃上げを求める「非正規春闘」の動きが注目されています。
2024年の非正規春闘では、個人加入の労働組合20団体に所属する約3万人が参加し、勤務先約120社に対して一律10%以上(内訳:インフレ分4~5%・改善分5%以上)の賃上げを要求しました。併せて、街宣活動やストライキも計画・実行されています。
こうした事実を見ると、個人の交渉力では実現が難しい賃上げの実現に向けて、非正規春闘が重要な役割を果たしていることが分かります。2024年春闘における非正規春闘の動向は、非正規労働者の処遇改善の行方を占う上で注目すべきポイントといえそうです。
「正規社員」と「非正規社員」の賃金格差の現状
厚生労働省が公表している「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況(雇用形態別)」を見ると「正社員・正職員」の月額平均給与は32万8,000円でした。一方、「正社員・正職員以外」の月給は22万1,300円で「正社員・正職員」の月給の7割程度です。
なお、賃金格差は、労働形態だけでなく企業規模によっても生じます。大企業に比べて賃金が低くなりがちな中小企業で、非正規社員として勤務する労働者の賃上げは、社会全体で向き合うべき喫緊の課題です。
なぜ非正規の賃上げは進みにくいのか
非正規雇用の賃上げが進みにくい背景には、低い組合組織率や、正社員中心の組合活動などの課題があります。詳しく見ていきましょう。
パートタイム労働者の組合組織率は1割以下
厚生労働省が2023年12月20日に公開した「令和5年労働組合基礎調査の概況」によると、労働組合に加入しているパートタイム労働者は約141万人で、全労働組合員数に占める割合は14.3%に過ぎません。推定組織率もわずか8.4%と、1割以下に留まっています。
組合がない職場では、パートタイムをはじめとする非正規労働者は賃上げ交渉の正式な窓口を持てません。個人で交渉に臨んでも、経営側との力関係で不利な立場に置かれがちです。こうした状況に鑑みるに、組合に入っていない非正規労働者にとって、個人での賃上げ交渉はハードルが高いのが現状です。
組合に加入しても活動への参加は限定的
2023年3月に連合総研が公開した「非正規で雇用される労働者の働き方・意識に関するアンケート調査」によると、民間企業に非正規で雇用され、労働組合に所属している500人のうち、62.4%が組合活動に「まったく参加しない」と回答しています。
また、同調査では、組合員500人・非組合員2,000人に対し、労働組合に対するイメージについても質問しています。この結果、「どんな活動をしているか分かりづらい」「身近に感じられない」といった項目で、非組合員が組合員に大差をつけての高ポイントとなりました。
出典:連合総研:―「非正規で雇用される労働者の働き方・意識に関するアンケート調査」結果―
ただし、組合に所属している非正規労働者が、組合活動に積極的かというと、必ずしもそうとはいえません。その背景には、非正規労働者特有の事情があります。
例えば、シフトが不規則で組合活動に参加しづらい・短時間勤務で組合との接点が持ちにくい、といった物理的な制約があります。また、正社員中心の組合運営では、非正規の声が反映されにくいと感じる人も少なくありません。
組合に加入しているだけでは、非正規労働者の処遇改善には直結しないのが実情です。組合活動への参加を促し、非正規の視点を運営に取り入れる工夫が求められます。
非正規の賃上げに「福利厚生」の選択肢も
非正規春闘が活発化する一方、企業体力に余裕が持てず、賃上げに二の足を踏んでいる企業も少なくありません。そのような企業の中で、近年注目度を高めているのが、福利厚生を利用した実質的な賃上げです。詳しく見ていきましょう。
なぜ非正規の賃上げに「福利厚生」なのか?
通常、企業が賃上げを行ったり、特定のサービスを従業員へ提供したりした場合、企業側の法人税と共に、従業員側の所得税や住民税の負担が増えます。しかし、福利厚生として提供する場合、必要なコストは経費として計上できるため、企業の課税所得金額が減少し、法人税の負担は軽減されます。従業員側の所得税や住民税の負担も増えないため、実質的な手取り収入を効果的に増やすことが可能です。
つまり、福利厚生を活用することで、企業は最大の障壁だったコストを最小限に抑えつつ、非正規を含む従業員の賃上げを実現できるのです。
福利厚生で実質手取りアップを目指す「第3の賃上げ」が話題
住宅手当や食事補助を従業員へ福利厚生として提供した場合、一定の要件を満たすことにより非課税で処理できます。本来、税金や社会保険として徴収されていたお金を手元に残せることから、従業員の実質手取りがアップします。
出典:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
福利厚生は、正規社員・非正規社員を問わず利用でき、かつ給与には含まれないため、扶養内で働きたい非正規社員にも安心です。
この仕組みを利用し、2024年2月に発足したのが「♯第3の賃上げアクション」プロジェクトです。このプロジェクトでは「福利厚生を利用し、実質手取りを増やすことができる賃上げ」を、「定期昇給」「ベースアップ」に並ぶ「第3の賃上げ」と位置づけ、普及を推進しています。
昨今の賃上げ機運を受け、多くの有名メディアに取り上げられるなど、大きな話題となっているプロジェクトです。
参考:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
関連記事:“福利厚生”で手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「 #第3の賃上げアクション 」プロジェクトの発足
関連記事:WBSも注目する「♯第3の賃上げアクション」プロジェクト|エデンレッドジャパン 天野社長のインタビューをご紹介
選ばれている「食」の福利厚生「チケットレストラン」
エデンレッドジャパンが2023年5月に行った調査によると、同年6月の一斉値上げを前に、節約を意識している人の割合は全体の9割に達しました。さらに、具体的な節約項目としてもっとも多かったのが「食費」でした。
出典:エデンレッドジャパン|6月の値上げで9割が節約を意識 「ビジネスパーソンのランチ実態調査2023」
これは、非正規を中心とした低賃金の従業員を支える方法として、食費を直接的にサポートできる「食事補助」の福利厚生が有効であることを意味します。
例えば、食事補助の福利厚生として、日本一の実績を持つエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を利用すると、専用のICカードを通じて従業員の食事代を半額補助できます。
「チケットレストラン」の加盟店舗は全国に25万店舗以上で、そのジャンルはさまざまです。勤務時間内であればいつでも利用できる上、場所の制約もないため、雇用形態や職種による不平等感もありません。
導入企業での利用率98%・継続率99%・従業員満足度93%という高評価からも、利便性の高さがうかがえるサービスです。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
【非正規春闘2024】新たな潮流と今後の展望
2024年春闘で注目を集めた「非正規春闘」は、個人加盟ユニオンを通じた非正規労働者の賃上げ要求により、新たな潮流を生み出しました。しかし、パートタイム労働者の低い組合組織率や、組合活動への参加の限定性など、克服すべき課題も浮き彫りになりました。
非正規春闘の取り組みを発展させるには、個人加盟ユニオンの認知度向上と、非正規労働者のニーズに寄り添った活動が不可欠です。同時に、企業側にも非正規労働者の処遇改善への積極的な姿勢が求められます。
そのためには、賃上げと福利厚生の拡充など、多角的なアプローチで非正規労働者の公正な処遇の実現を目指すことが重要です。2024年非正規春闘の経験を生かし、労使の建設的な対話を通じて、更なる前進が期待されます。