ベースアップの実施に迷う中小企業は少なくありません。物価上昇や人材流出を背景に「何らかの対応は必要」と感じつつも、自社の財務体力や人事制度を踏まえると、安易な実施にはリスクも伴います。そこで本記事では、制度上の基礎知識から判断の視点、実施困難時の代替策までを整理。「やる・やらない」ではなく「どう考えるか」の観点から、企業にとって最適な賃上げ戦略を導き出すヒントを提供します。
ベースアップの考え方とは?企業が押さえるべき基本視点
ベースアップとは、基本給の水準を恒常的に引き上げる施策であり、特に中小企業にとって実施の可否は重要な経営判断となります。まずは制度の定義や背景を確認し、自社にとっての適切な位置づけを見極めましょう。
ベースアップ・定期昇給・賃上げの違い
しばしば混同されやすい「ベースアップ」「定期昇給」「賃上げ」の違いについて、わかりやすく図と表にまとめました。
賃上げ | 従業員の給与を引き上げるためにおこなう施策の総称。 具体的には「ベースアップ」「定期昇給」「諸手当の改定」の3つ |
ベースアップ(ベア) | 企業がすべての従業員の基本給水準を一律に底上げする賃上げ手法。 個人の評価や勤続年数には関係なく、全従業員が同じように給与増額の対象となる |
定期昇給 (定昇) |
主に勤続年数や評価制度に基づき、個別に昇給をおこなう賃上げ手法 |
「ベースアップ」と「定期昇給」は「諸手当の改定」とともに「賃上げ」の一要素です。
ベースアップは、賞与や退職金、社会保険料などの算定基準に直接関わりますが、定期昇給は結果として反映されるに過ぎません。
人的コストの恒久的な増加を伴うベースアップは、企業にとって特に慎重な判断が求められる施策といえます。
関連記事:【2025年最新】賃上げ疲れとは?データで読み解く実態と対策
なぜ今「ベースアップ」が経営課題になるのか
近年の急激な物価上昇に加え、人手不足の深刻化が進む中、従業員からの賃上げへの期待は高まる一方です。
政府も「賃上げ促進税制」などを通じて企業の賃金引き上げを促進しており、企業が賃上げに無関心でいられる状況ではなくなりつつあります。
2025年春闘において、連合は「賃上げ分3%以上+定昇相当分2%程度=合計5%以上の賃上げ」を目標に掲げました。中小労組向け目安としては「格差是正分を加えた月額18,000円以上・6%以上」と、さらに高い数字を提示しています。
こうした社会的圧力の中、ベースアップの実施は、企業としての競争力維持や人材確保の観点からも避けて通れない課題となりつつあるのが実情です。
参考:中小企業庁:中小企業向け「賃上げ促進税制」
参考:連合|労働・賃金・雇用 春季生活闘争
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ベースアップを検討するうえでの5つの考え方
ベースアップは、単なる好景気時の賃上げではなく、経営戦略や人事制度との整合性が必要な重大な判断です。一度実施すれば、恒久的な「固定費増加」を伴うため、特に中小企業には慎重な判断が求められます。ここでは、導入の可否を見極めるために企業が押さえておきたい5つの視点を整理します。
1. 経営戦略との整合性を考える
ベースアップは一時的なコストではなく、人件費構造に恒常的な影響を及ぼします。そのため、導入にあたっては、目先の人材確保や世間的風潮に流されず、自社の中長期的な経営戦略と整合しているかを慎重に見極める必要があります。
たとえば、今後の事業展開で人件費の抑制が求められる局面が想定される場合、ベースアップの実施は深刻なリスクとなりかねません。経営資源の配分や、利益構造の持続可能性とのバランスを考えながら判断することが求められます。
2. 財務体力と持続可能性を検証する
ベースアップを一度実施すれば、翌年以降もその水準が維持され、賞与や退職金、社会保険料の支出にも影響を及ぼします。これを踏まえ、企業は単年度の収益だけでなく、中長期的な財務体力を確認する必要があります。
変動の大きい業種や景気に左右されやすい事業モデルの場合、一時的な黒字を根拠に恒久的な固定費増を決定するのは危険です。損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の両面から、ベースアップ後のキャッシュフローや利益率への影響を試算することが不可欠です。
3. 評価制度・昇給制度との連動性を確認する
適切な評価制度と昇給制度が整っていないままベースアップを実施すると、従業員間に不公平感が生まれ「頑張りが認められない」「どれだけ自社に寄与しても報酬は同じ」と、モチベーションの低下を招くおそれがあります。
こうした事態を防ぐには、ベースアップをおこなう前に、評価基準や昇給ルールが明文化され、従業員にとって納得性のある運用がなされているかを再確認することが重要です。制度との連動性が不十分な場合は、まず人事制度の見直しを優先すべきケースもあります。
4. 他社動向や相場感を把握する
労働市場における給与水準や、同業他社の賃上げ状況もベースアップ検討の参考となります。
採用市場において、賃金をはじめとする待遇は自社の魅力をアピールする強力な要素です。ベースアップは経営安定性の指標ともなることから、業界内でベースアップが多くおこなわれている場合、採用力の維持・向上のため前向きに検討することが求められます。
自社の給与水準が市場平均に比べてどの位置にあるのかを把握し、必要に応じてベースアップを含む競争力ある待遇設計を検討する必要があります。
5. 社内コミュニケーション設計を準備する
ベースアップを実施する場合も、見送る場合も、従業員への丁寧な説明は欠かせません。
給与に関する情報は従業員の関心が非常に高く、誤解や不満が蓄積すると組織全体のエンゲージメントに悪影響を及ぼします。そのため、実施の背景や考え方、一貫性をもって今後の方針を伝えることが大切です。
また、上司や人事担当者への質疑応答の場を設けることで、納得感を高める工夫も効果的です。金額の多寡だけでなく「どう伝えるか」も、企業の信頼性を左右する重要な要素となります。
中小企業にとっての現実的な選択肢とは?
ベースアップの必要性を感じながらも、財務的な理由から実施に踏み切れない中小企業は少なくありません。しかし対応を先送りすれば、人材流出や採用難といった経営リスクが高まる恐れもあります。ここでは、ベースアップの実施が難しい企業にとっての課題と、代替可能な現実的手段を紹介します。
ベースアップが難しい企業の共通課題
多くの中小企業では、ベースアップの実施に対し次のような課題が生じがちです。
- 継続的な財源が確保できない
- 既存の人事制度が整っていない
- 従業員構成が多様で画一的な施策が難しい
資金繰りが安定していない企業では、固定費の増加は経営の柔軟性を損なう大きなリスクとなります。さらに、評価制度が未整備のままベースアップを実施すると、不公平感や不満を招き、かえって従業員の士気を下げてしまう可能性も否定できません。
これらの課題は多くの企業に共通するものですが、対応を先送りすれば競争力の低下にもつながるため、代替施策を含めた柔軟な対応が求められます。
関連記事:賃上げ難倒産とは?広がる人手不足による倒産を避ける方法
代替策としての手当・インセンティブ活用
ベースアップの代替手段として注目されているのが、職務手当・地域手当・業績連動型インセンティブなどの柔軟な報酬設計です。
これらは固定給と異なり、経営状況に応じて調整が可能なため、企業にとって財務リスクを抑えやすいというメリットがあります。たとえば、成果に応じたインセンティブを導入すれば、従業員のモチベーション向上とコスト管理の両立が期待できます。また、職務内容や勤務場所に応じた手当制度を整備することで、個別対応の公平性を確保することも可能です。
ベースアップが難しい状況でも、こうした変動給の活用により、実質的な待遇改善は十分に図ることができます。
福利厚生の拡充による実質的な賃上げ
給与そのものを引き上げることが難しい場合、福利厚生を充実させることが代替策となる可能性があります。
一定の条件を満たした福利厚生は所得税が非課税扱いとなるため、同額のベースアップをおこなうよりも従業員の実質的な手取り額を増やすことが可能です。企業側にとっても、福利厚生費は経費として計上できるため、法人税の削減につながるなど財務上のメリットがあります。
また、充実した福利厚生は従業員へのアピール度が高く、エンゲージメントの向上をはじめ、採用市場での競争力強化にも効果的です。
コストを抑えながら、効率的に従業員の可処分所得を増やせる手段として、中小企業を中心に注目度を高めている施策です。
人気の食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」
福利厚生の中でも、特に広く支持されているサービスに、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」があります。
「チケットレストラン」は、従業員のランチ代を企業が補助する食の福利厚生サービスです。導入企業の従業員は、全国25万店以上の加盟店での食事を実質半額で利用できます。
加盟店のジャンルは幅広く、勤務時間中にとる食事の購入であれば、利用時間や場所の制限もありません。業種や勤務体系を問わず柔軟に利用できる福利厚生として、すでに3,000社を超える企業に導入され、メディアからの注目度も高いサービスです。
「チケットレストラン」の詳細は「こちら」からお問い合わせください。
関連記事:NHK「おはよう日本」で紹介!「チケットレストラン」はどんなサービス?SKソリューションの事例も紹介
ベースアップは「やる・やらない」ではなく「どう考えるか」
ベースアップを実施するかどうかは、単なる給与の話にとどまらず、企業の将来戦略や組織運営そのものに関わる重要な判断です。
特に、原資に制限がある中小企業の場合「他社がやっているから」や「従業員からの要望が強いから」といった理由だけで安易に実施すれば、将来的な財務圧迫につながりかねません。一方で、まったく対応しないままでは、人材の流出や採用難に直面し、競争力を失うおそれもあります。
重要なのは、やるか・やらないかという二元的な結論ではなく、「自社の経営戦略や財務状況、人事制度と照らし合わせてどう判断するか」という視点を持つことです。そして、実施が難しい場合でも「チケットレストラン」のような福利厚生をはじめとする代替策を活用することで、柔軟かつ現実的な対応が可能です。
自社にとっての「最適な賃上げ戦略」は何か。経営課題として正面から向き合い、丁寧に設計することが今、企業に求められています。
参考記事:「#第3の賃上げアクション2025」始動、ベアーズが新たに参画~中小企業にこそ“福利厚生”による賃上げを! “福利厚生”で、より働きやすく、暮らしやすい社会へ~
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