中小企業の経営者や人事担当者にとって、悩ましいのが「離職」です。規模が小さい企業ほど離職率が高いというデータがあります。一方、福利厚生を活用すれば、予算が限られていても離職率改善のアプローチが可能です。
本記事では、中小企業の離職要因を探り、コストを抑えながら効果を出せる福利厚生施策を紹介します。
中小企業の離職率
まずは中小企業の離職率を見ていきましょう。
企業規模が小さいほど離職率が高い傾向
厚生労働省の雇用動向調査データ(令和6年)を見ると、企業規模が小さくなるほど離職率が高くなる傾向があります。
雇用動向調査(令和6年)
| 従業員の数 | 離職率 |
| 1,000人以上 | 13.2% |
| 300〜999人 | 14.7% |
| 100〜299人 | 16.6% |
| 30〜99人 | 13.6% |
| 5〜29人 | 16.0% |
| 参考:全体平均 | 14.2% |
全体平均は14.2%であり、300人未満の中小企業では平均を上回る傾向が見られます。16%前後ということは、約6人に1人は1年間で離職している計算です。
出典:e-Stat政府統計の総合窓口|雇用動向調査 年次別推移
新卒採用での離職率はより明らか
入社3年以内の離職率で見ると、特に小規模企業における定着の難しさが浮き彫りになります。
| 従業員の数 | 離職率 |
| 1,000人以上 | 28.2% |
| 500〜999人 | 32.9% |
| 100〜499人 | 35.2% |
| 30〜99人 | 42.4% |
| 5〜29人 | 59.1% |
30人以下の企業では、新卒の半数以上が3年で離職しています。せっかく採用・育成してもすぐに辞めてしまうのでは、採用への投資が回収できません。
出典: 厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況(令和年3月卒業者)を公表します
関連記事:若手社員の離職率は約3割。離職理由から見る離職防止策を解説
中小企業で人が辞めやすい5つの理由
大企業と比べると、中小企業特有の「辞めやすい構造」があると考えられます。
理由1.人間関係の密度が高い
少人数の組織では、一度人間関係がこじれると逃げ場がありません。大企業のような部署異動や配置転換が難しく、上司や同僚との関係悪化が退職に直結しやすい環境です。
実際、エン・ジャパンによる「本当の退職理由」調査(2024)では、企業に伝えなかった本当の退職理由の第1位は「人間関係が悪い」でした。
関連記事:「本当の退職理由」調査2024:退職理由アンケートから見える企業の課題
理由2.キャリアの選択肢が見えにくい
「3年後、5年後の自分がイメージできない」ことも中小企業でよく聞く退職理由です。事業の幅が限られているため、職種転換やキャリアチェンジの機会が少なく、特に若手は「成長するには転職しかない」という考えに至ることがあるでしょう。キャリアの多様性を求める人材は、外に目を向けざるを得ません。
理由3.経営不安を感じる
資金的な余力が少ない中小企業では、景気の影響をダイレクトに受けます。東京商工リサーチの調査では、コロナ禍で売上が前年比で半減した企業の割合として、大企業14.2%に対し、中小企業は20.3%でした。こうした不安定さを目の当たりにすると、「より安定した企業に」と考える従業員が出てくる可能性があります。
出典:東京商工リサーチ|第5回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査
理由4. 担当業務の幅が広い
中小企業では兼務が一般的です。多様な能力が培われる一方、人が辞めるとその業務が残った人に上乗せされ、疲弊による次の退職を招くリスクがあります。
理由5. 福利厚生が充実していない
就職・転職の際、求職者は福利厚生を必ずチェックします。「福利厚生がない」というのは、それだけで「従業員を大切にしていない企業」という印象を与えてしまいます。給与で勝負しようにも、中小企業では大企業並みの水準を出すのは難しいのが一般的です。だからこそ、福利厚生で差別化する必要があります。
離職率が高い3つのリスク
「人が辞めるのはある程度仕方ない」と離職を捉えてしまうと、次第に経営上の影響が出てしまいます。
リスク1.採用費・教育費が経営を圧迫する
一人を採用するコストは、新卒で約57万円、中途で約31万円です(マイナビ調査より)。求人サイト、面接対応、入社後研修を繰り返すと、資本力が限られる中小企業にとって大きな負担となります。
出典:マイナビ|マイナビ 2024年卒 企業新卒内定状況調査
出典:マイナビキャリアリサーチLab|中途採用状況調査2025年版(2024年実績)
リスク2.離職により倒産する
一人辞めると、その業務を残った人材が担うことになります。負担が増えたことでその従業員が辞め、また業務が増えた結果、別の誰かが辞めるといったスパイラルに入ることにもなるでしょう。持ち直すためには、相応の企業体力が必要です。人手不足で業務が回らなくなり、倒産に至ってしまうかもしれません。
実際、帝国データバンクの調査では、2025年度4〜9月の人手不足倒産件数は214件で上半期では過去最多を記録しました。
出典:帝国データバンク|人手不足倒産の動向調査(2025年度上半期)
リスク3.企業に対するイメージが悪化する
離職率の高さは、SNSや口コミサイトで簡単に共有される時代です。ネガティブな評判は採用活動だけでなく、取引先や顧客からの信頼にも影響します。
福利厚生が離職防止の切り札に!3つの理由
予算が限られる中小企業こそ、福利厚生に重きを置く価値があります。
理由1.「従業員を大切にする」姿勢を形にできる
福利厚生は「企業が自分たちのことを大切に考えている」という姿勢を具体的に伝える手段です。求人票や面接、企業HPで「従業員想いの企業」であるアピールができます。特に、食事補助や住宅補助など生活に密着した福利厚生は、日々の暮らしの中で企業のサポートを実感しやすく、「大切にされている」という感覚を持ちやすくなるでしょう。
さらに、一定の条件を満たせば非課税枠を活用でき、従業員・企業双方の負担を抑えながら実質的な手取り増加と同等の効果を生み出せます。
理由2.生活の質向上が定着率を高める
福利厚生による生活の質向上は、従業員が転職を考える理由を減らします。食事補助や健康支援で経済的・身体的負担が軽減され、柔軟な働き方でワークライフバランスが実現すると「働き続けたい」という気持ちが自然と強まり、定着率向上に貢献します。
関連記事:エンゲージメントと離職率の相関関係は?早期離職の回避に向けた施策も
理由3.公平感を高められる
雇用形態や勤務場所を問わず利用できる福利厚生を整えることで、組織全体の公平感を高められます。例えば、健康管理アプリやチケット・ICカード型の福利厚生なら、フルタイム・パートタイム・リモートワーカーなど、誰もが広く恩恵を受けられます。
予算が少なくてもできる!中小企業向け福利厚生
「予算がない」「人手が足りない」と福利厚生を諦める必要はありません。中小企業でも工夫次第で、従業員満足度を高める福利厚生が実現できます。ここでは、コストを抑えながら効果的な5つの施策を紹介します。
1.食事補助
「あってよかった福利厚生」や「人気の福利厚生」の調査で常に上位にランクインするのが食事補助です。
中小企業でも導入しやすいのが、IC型カードタイプの福利厚生サービスです。例えば「チケットレストラン」なら、全国25万店以上のコンビニや飲食店を社員食堂の代わりに使えるようになります。自社で食堂を設置・運営するコストは不要で、一定の利用条件を満たすと食事補助の非課税枠も利用可能です。運用は月1回のチャージのみで、担当者の負担もほとんどかかりません。
出社前後、在宅勤務中、出張先など、好きな場所とタイミングで使える公平性も魅力です。毎日の食事だからこそ、「企業に支えられている」という実感が得られます。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
2.健康支援
法定の健康診断に加えて、従業員の健康をサポートする取り組みも効果的です。全従業員が利用できる健康管理アプリや、業務上必要な予防接種の補助など、1人あたり数千円程度から始められるものがあります。
関連記事:【社労士監修】健康診断を福利厚生費として計上するには?条件と実務ポイントを解説
3.働き方の柔軟性
在宅勤務、フレックスタイム、時短勤務など、働き方の柔軟性を高める制度は、予算を抑えて導入できる福利厚生です。育児や介護との両立がしやすくなり、ライフステージの変化があっても「働き続けられる」環境をつくれます。長く働ける職場であることは、採用でのアピールポイントにもなります。
4.特別休暇の拡充
誕生日休暇、記念日休暇、リフレッシュ休暇、ボランティア休暇といった特別休暇は、制度設計のみで導入でき、金銭的コストがほとんどかかりません。
有給とは別枠で設定することで、有給を使い切ってしまう不安がなくなり、休暇を取りやすい雰囲気が生まれます。こうした制度が浸透し、ワークライフバランスを重視する企業文化が定着すれば、離職理由の一つとなる「休めない」が解消されるでしょう。
5.副業の許可・支援
副業を禁止せず、一定のルール下で認める制度は、コストをかけずに導入できる先進的な福利厚生です。副業を通じて新しいスキルや人脈を得ることは、本業にも好影響をもたらします。
「企業が自分のキャリアを応援してくれる」という信頼感は、エンゲージメント向上につながります。副業による収入で経済的余裕も生まれ、生活の安定にも貢献するでしょう。ただし、オーバーワークを防ぐための明確なルール設定は欠かせません。
福利厚生で離職率改善に努める中小企業の実例
実際に離職率改善について、成果を出している企業の事例を見てみましょう。
事例1.本社も常駐先も公平に恩恵を受けられる
ドリームビジョン株式会社には、数多くのITエンジニアが在籍しています。同社では「日本一従業員の幸福を追求する企業」をビジョンに掲げており、本社勤務と常駐エンジニアの両者が平等に利用できる福利厚生を探していました。
そこで導入したのが、場所を選ばず使える食の福利厚生サービス「チケットレストラン」です。常駐先でもコンビニで食事補助が受けられるため、働く場所による不公平感が解消され、従業員エンゲージメントの向上につながりました。
同社では他にも、書籍購入補助制度、アニバーサリー手当、ウェルカム休暇など、従業員が利用しやすい福利厚生を複数導入しています。その結果、中規模企業ながら「ハタラクエール2022」において優良福利厚生法人に認定され、採用にも好影響が出ています。
導入事例はこちら
出典:ハタラクエール福利厚生表彰・認定制度|働くエール受賞法人福利厚生の充実・活用に力を入れる企業を表彰
事例2.薬剤師の流出を止めた調剤薬局
大阪府で調剤薬局「くれよん薬局」を展開するM'sファーマ株式会社では、薬剤師の離職率が約50%という状況に悩んでいました。店舗が交通機関の整っていない地域に多く、採用・定着の両面で苦戦していたのです。
そこで同社が取り組んだのが、全国で使える食の福利厚生サービス「チケットレストラン」の導入です。勤務地による福利厚生の不公平感を解消したことと、その他の施策により、薬剤師の離職率は約10%(業界平均は 20%程度)へと大幅に低下しました。
なお、同社では、誕生日休暇、リゾートホテル利用権など、日常から長期就業まで幅広くサポートする制度も整えています。中小企業でも、工夫次第で成果を出せる好例です。
導入事例はこちら
失敗しない福利厚生の選び方
福利厚生導入で重要なのが、利用率です。使われるかどうかに焦点を当てて福利厚生を選びましょう。
ポイント1:全員が使える
一部の人しか使えない福利厚生は、不公平感を生みます。雇用形態、勤務地、勤務時間に関わらず、すべての従業員が恩恵を受けられる制度を選びましょう。
全員利用に適した福利厚生:
- 食事補助(IC型カードなど)
- オンライン相談(メンタルヘルス、キャリア相談など)
- 健康管理アプリ
- 予防接種補助(全従業員対象の場合)
- 書籍購入補助(業務関連)
ポイント2:現場の声を聞く
経営者や人事が「良い」と思っても、従業員が「良い」かどうかは、聞いてみなければわかりません。アンケートやヒアリングで、本当に必要とされている福利厚生、使いたくなる福利厚生を見極めましょう。従業員の年齢や性別、家族構成によってもニーズは変わるため、多様な声を拾うことが大切です。
ポイント3:シンプルで使いやすいもの
管理がシンプルであれば、担当者の負担を抑えて福利厚生を充実できます。また、使い方が複雑だと、従業員も次第に利用しなくなります。導入も運用もシンプルで、誰でも直感的に使える制度を選びましょう。特に中小企業では、福利厚生の担当者が他の業務と兼務しているケースも多いため、手間の少なさは重要です。
関連記事:【福利厚生の選び方】企業が福利厚生を導入時に考える5つのポイント
よくある質問
福利厚生を離職率改善で導入するにあたって、よくある疑問を確認します。
Q1:中小企業の離職率はどうやって調べられますか?
自社の離職率を調べる計算式は以下の通りです。
離職率 = 離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100
出典:厚生労働省|雇用動向調査 調査の結果 用語の解説
例えば、1月1日時点で従業員が50人、その年に10人が離職した場合です。
「10人÷50人×100 = 20%」となります。
Q2:離職率が高いとは、何%が目安ですか?
厚生労働省の雇用動向調査(2024年)では、全体平均が14.2%、1,000人未満の場合16.6%が最大値です。約17%を超えると高め、20%を超えると改善が必要と考えてよいでしょう。
ただし、業種によって平均値が異なります。業種別の雇用動向調査(2024年)では、宿泊・飲食サービス業は25.1%、建設業10.0%、製造業9.6%と業種差があり、同業他社と比較することも大切です。
出典:e-Stat政府統計の総合窓口|雇用動向調査 年次別推移
Q3:ホワイト企業の離職率の目安はどのくらいですか?
ホワイト企業の明確な定義はありませんが、労働環境・待遇が整っている職場として考えられるのが一般的です。厚生労働省が公表している「新規学卒就職者の離職状況」によると、大卒者の3年以内の離職率は約3割とされています。これを大幅に下回る企業は、定着率の高さという点で優れていると考えられます。
ただし、離職率だけでホワイト企業かどうかは判断できません。有給取得率、平均残業時間、福利厚生の充実度など、働きやすさを総合的に評価することが重要です。また、業界や職種によって平均離職率は異なるため、同業他社との比較も参考にしましょう。
中小企業の離職率改善の一手に福利厚生を拡充
中小企業でも、自社に合った福利厚生を活用すれば、予算が限られていても離職率改善や定着率向上が可能です。日常で使える食事補助は、毎日の食事を企業が支えてくれることで、大切にされている実感が得られるため、離職防止に効果的です。
辞めたくなる理由を減らし、働き続けたい思いを高めるために、まずはできることから始めてみませんか。
食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」は、全国25万店以上のコンビニや飲食店を社員食堂として利用できます。企業サイズを問わず導入でき、どのような働き方でも使う機会に困りません。離職率改善の第一歩として、ぜひご検討ください。
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エデンレッドジャパンブログ編集部
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