近年、「静かな退職」が広く話題になっています。以前は積極的に業務に取り組んでいた従業員が、最近やる気がないように感じる。それは「静かな退職」のサインかもしれません。本記事では、国内の調査データをもとに「静かな退職」の実態と原因を整理し、従業員のやる気を取り戻す5つのヒントを紹介します。
結論|「静かな退職」とは「心の離職」。企業に求められるのは関係性の再設計
静かな退職は、従業員の怠慢ではありません。職場における関係性の断絶、評価制度への不信、心理的安全性の欠如によって引き起こされる「心の離職」状態です。
株式会社スコラ・コンサルトの調査では、日本企業の16.3%の従業員が静かな退職状態にあります。彼らは実際に退職するわけではなく、組織に留まりながら最低限の業務だけをこなし続けるのです。
企業がこの問題に対処するには、マネジメントの質向上と職場環境改善という両輪でのアプローチが不可欠です。給与の引き上げだけでは一時的な効果しか得られません。本質的な解決には、上司と部下の信頼関係の構築や透明性のある評価制度・成長機会の提供、そして何よりも「日常のつながり」を育む組織文化が求められます。
参考:全国の一般社員・管理職2,106名へのアンケート調査 「静かな退職者」は全体の16.3%、性別・年代問わず均等に存在 | 株式会社スコラ・コンサルトのプレスリリース
「静かな退職」とは?「やる気がない」とはどう違う?
「静かな退職」とは、具体的にどのような状態を指す言葉なのでしょうか?まずは「静かな退職」の概要と、「やる気がない」状態との違いから解説します。
米国発「静かな退職」の定義と背景
「静かな退職(Quiet Quitting)」という概念は、2022年にSNSをきっかけに広まった働き方の潮流で、アメリカのキャリアコーチ、ブライアン・クリーリー氏が紹介したことで注目を集めました。具体的には、従来の熱心な勤務姿勢を捨て、自分の職務に対して最低限の責任だけを果たすという働き方を指します。
この現象が若い労働者たちに支持された背景には、「静かな退職」が過度なストレスや燃え尽き症候群を避けるための自己防衛手段という側面があります。つまり、職場環境や企業文化への不満が高まる中で、自身の健康や私生活を守るためのバランスを取る方法として選ばれているのです。
このような働き方を選ぶ人々は、熱意を完全に失ったわけではありません。持続可能な職業生活を望み、過剰な負担から自己を守りつつ仕事を続けようとしています。
「やる気がない」とは何が違う?
静かな退職と単なる「やる気がない」との決定的な違いは、その行動の性質にあります。
やる気のない従業員が、職務を放棄したり適当にこなしたりするのに対し、静かな退職状態の従業員は、与えられた業務は確実に遂行します。
重要なのは、静かな退職が「職務放棄」ではなく「境界線の引き直し」である点です。彼らは遅刻もせず、業務上の責任も果たしますが、それ以上の自発的な貢献を意図的に控えます。新しいプロジェクトへの立候補・業務改善の提案・残業の受け入れなど、組織の成長に寄与する「プラスアルファ」の行動を避けるのです。
この状態は「心の離職」と呼べるものであり、外見上は問題社員に見えないため周囲が気づきにくいという特徴があります。
関連記事:【2025年最新】離職対策の正解は?従業員の本音から見る「本当に求められる施策」
日本企業でも拡大|静かな退職の現状
静かな退職は、日本企業においても確実に広がりを見せています。ここでは、国内における静かな退職の実態をデータとともに解説します。
16.3%の社員が「静かな退職」状態
前述のとおり、スコラ・コンサルトが2025年8月に発表したアンケート調査※から、16.3%の従業員が静かな退職状態にあることが明らかになりました。
この調査では、「割り当てられた業務以上のことはなるべくやらないようにしている」と回答した社員が全体の40.8%に上り、そのうち転職意向のない層は40.0%でした(転職意向がある層は、自社に見切りをつけたためにやる気を見せないケースと考えられるため除外)。


出典:全国の一般社員・管理職2,106名へのアンケート調査 「静かな退職者」は全体の16.3%、性別・年代問わず均等に存在 | 株式会社スコラ・コンサルトのプレスリリース
このことから、「40.8%×40.0%」、つまり全体の16.3%が静かな退職者として分類されています。
約6人に1人が心理的に組織から距離を置いているという事実は、企業にとって見過ごせない深刻な状況です。
この数値は、静かな退職が特定の業種や企業規模に限定された問題ではなく、日本の労働市場全体に広がっている構造的な課題であることを示しています。
※全国の社員100名以上の企業に勤める一般社員・管理職2,106名が対象
若手だけでなく40代・50代にも広がる

出典:全国の一般社員・管理職2,106名へのアンケート調査 「静かな退職者」は全体の16.3%、性別・年代問わず均等に存在 | 株式会社スコラ・コンサルトのプレスリリース
静かな退職は「若者の問題」と捉えられがちですが、実態は異なります。
同じくスコラ・コンサルトの調査から、静かな退職状態にある16.3%の社員は、性別や年代に関わらず均等に分布していることが判明しました。
30〜50代の中堅・ベテラン層の静かな退職の背景にあるのが、成長機会の停滞・昇進の頭打ち・評価への不満などです。
長年勤めてきた企業で「これ以上先が見えない」と感じた時、彼らは積極的な貢献を控えるようになります。全世代に広がるこの現象は、全従業員を対象とした包括的なアプローチの必要性を示しています。
「静かな退職」につながる5つの要因
従業員が静かな退職状態に陥る背景には、複数の要因が複雑に関係しています。この問題は、個人の問題として片付けるのではなく、組織側の構造的な課題として捉えなければなりません。ここでは、スコラ・コンサルトの調査をもとに、従業員のやる気低下を招く主な5つの要因について解説します。
参考:全国の一般社員・管理職2,106名へのアンケート調査 「静かな退職者」は全体の16.3%、性別・年代問わず均等に存在 | 株式会社スコラ・コンサルトのプレスリリース
報われない評価
「静かな退職」の要因として、まず挙げられるのが、報われない評価です。
スコラ・コンサルトの調査(複数回答可)では、やる気が下がった原因として「頑張ったことに対する評価や報酬が見合わない」が41.1%で最多となりました。
成果を上げても正当に評価されない、昇給幅が小さい、評価基準が不透明で納得感がないといった状況が続くと、従業員は「頑張っても無駄だ」という無力感を抱きます。
特に問題なのは、評価プロセスが不透明で、なぜその評価になったのか説明がない場合です。努力や成果が組織に認められないと感じた時、従業員は自発的な貢献をやめ、最低限の業務だけをこなす防衛的な姿勢に転じます。
上司との信頼関係の欠如
上司との信頼関係の欠如は、静かな退職を引き起こす大きな要因です。同調査では、31.2%がやる気が下がった原因として「上司に不満がある」を挙げました。
「自分の仕事を見てくれていない」「相談しても真剣に聞いてもらえない」「フィードバックがない」といった環境にある従業員は、周囲に気づかれないまま孤立感を深めます。1on1ミーティングのような制度が整備されていない職場では、特にこの傾向が顕著です。
上司が部下の成長や悩みに関心を示さない、成果を認めない、コミュニケーションを避けるといった態度は、従業員のエンゲージメントを着実に低下させます。
成長機会の不足とキャリアの停滞
やる気が下がった原因として「昇給・昇進が期待できない」と回答した従業員は38.7%でした。
これは、キャリアの停滞が静かな退職の重要な要因となっていることを意味します。中でも、キャリアの終わりが視野に入ってきた中堅層にとって、「これ以上先が見えない」という閉塞感は深刻です。
新しいスキルを学ぶ機会がない、チャレンジングな業務を任されない、同じ仕事の繰り返しで成長実感がないといった状況は、仕事へのモチベーション低下を引き起こします。
仮に企業が研修制度やリスキリング支援を整備していたとしても、実際に利用できる雰囲気がなかったり、キャリアパスが不透明だったりすれば、従業員は将来に希望を持てません。
成長の機会を感じられない職場では、従業員は自己防衛的に最低限の業務に専念するようになります。
ワークライフバランスの崩壊
やる気が下がった原因には、「業務量が多すぎた・ノルマやプレッシャーに疲れた」も32.0%と、多く挙げられました。
長時間労働が常態化し、プライベートの時間が確保できない状況では、従業員は自己防衛のために働き方を制限します。
働き方改革が進む近年は、ワークライフバランスを重視する傾向が高まっています。プライベートの時間を十分に確保できない場合、過労から身を守るために、あえて業務を最低限に抑える選択をするケースが少なくありません。
企業側が過度な業務負荷を課し続ける限り、この傾向は加速するものと予想されます。
心理的安全性の欠如
「会社の体質や企業風土に不満がある」も、40%と高い数値を示しました。この数字からは、職場の心理的安全性※の欠如が深刻な問題となっていることが分かります。
心理的安全性が欠如している具体例としては、意見を言っても聞いてもらえない、失敗を過度に責められる、提案しても却下される、などが挙げられます。
こういった環境下にある人は、「ここには居場所がない」と感じがちです。この心理は、「ミーティングやチームの討議で意見を述べない」「同僚との対話を避ける」といった行動として表れます。
結果として、最低限のコミュニケーションしか取らなくなり、組織に対する信頼が失われ、最終的に静かな退職へ至るのです。
※心理的安全性:職場で「自分の意見を言っても責められない」「失敗しても受け止めてもらえる」と感じられる安心感のこと
関連記事:心理的安全性とは何かをわかりやすく解説!メリットや高める方法も
静かな退職のサイン|従業員の行動変化に気づくには
静かな退職は、ある日突然始まるわけではありません。従業員の行動や態度には、通常、段階的な変化が現れるため、サインに早期に気づくことができれば深刻化する前に対処が可能です。以下、注意が必要なサインを紹介します。
- 発言や提案が減る・反応が遅くなる|会議で沈黙するようになる、チャットツールやメールでの反応が遅い、業務改善の提案をしなくなる、質問への回答が最低限で事務的になる
- コミュニケーション・雑談が減る|休憩時間に一人で過ごす、ランチに誘っても断る、雑談に参加しない、リモートワークでカメラをオフにする頻度が増える
- 学習意欲・挑戦意識が失われる|社内研修への参加を避ける、リスキリング制度を利用しない、新しいプロジェクトへの立候補をしない、難易度の高い業務を断る、安全な業務だけを選ぶようになる
これらの行動変化は、従業員が組織への貢献意欲を失い、心理的に距離を置き始めていることを示す重要なサインです。
「静かな退職」を防ぐために|企業が取るべき5つの対策
静かな退職を防ぐには、制度の整備だけでは不十分です。従業員の心理的な距離を埋め、再び組織へのエンゲージメントを高める「再エンゲージメント」の視点が重要です。ここでは、実効性のある5つの対策を具体的に解説します。
1on1で「静かな本音」を拾う
形式的な1on1ミーティングは、かえって従業員の不信感を強める可能性があります。
重要なのは、質の高い対話です。上司が一方的に話すのではなく、傾聴に徹する姿勢が求められます。「最近、仕事で一番やりがいを感じたのは何ですか」「今の業務量は適切ですか」「キャリアについて不安はありますか」といった具体的な質問を通じて、従業員の本音を引き出しましょう。
聞いた内容に対し、具体的なアクションを取ることも欠かせません。話を聞くだけで何も変わらなければ、従業員の失望はさらに深まります。
評価制度の透明化と納得感の醸成
評価への不満は静かな退職の最大要因であることを踏まえ、評価制度の見直しも検討しましょう。
具体的には、期初に目標を明確に共有し、評価項目と配点を可視化します。多面評価の導入により、上司だけでなく同僚や部下からのフィードバックも反映させることで、公平性が高まります。
評価結果を伝える際は、なぜその評価になったのか具体的な根拠を示し、次にどう改善すれば良いかを明示しましょう。若手従業員の意見を積極的に取り入れることも効果的です。
キャリア支援・リスキリングの整備
成長機会の不足はキャリアの停滞を招き、静かな退職につながります。
これを改善するためには、社内公募制度の整備、ジョブローテーションの実施、リスキリング支援制度の充実が効果的です。
重要なのは、制度を作るだけでなく、実際に利用しやすい環境を整えることです。「研修を受けたいが業務が忙しくて無理」という状況では意味がありません。
研修参加を業務時間内に認めるなど、組織全体で学習文化を醸成する必要があります。キャリアパスを明示し、「この会社で成長できる」という実感を持たせることも重要です。
心理的安全性を育む企業文化づくり
心理的安全性の欠如は、従業員を沈黙させ、静かな退職を招く大きな原因のひとつです。
具体的な対策として、第一に挙げられるのが、失敗を共有する企業文化づくりです。失敗事例を学びの機会として共有し、挑戦を称賛する風土を作ることにより、従業員は安心して意見を述べられるようになります。
また、小さな成果でも認め、感謝を伝える習慣をつけることで、従業員のモチベーションは大きく向上します。さらに、雑談や非公式なコミュニケーションを促進する制度も重要です。
オンライン雑談タイムの設定、部署を超えた交流イベントの開催などを通じ、従業員同士のつながりを強化しましょう。
福利厚生による「日常の満足度」向上
給与だけでは解決できない静かな退職の問題に対し、日常的な満足度を高める福利厚生が注目されています。
特に、食事補助を代表する日常で活用できる福利厚生は、従業員に「会社は自分を大切にしている」という実感を与えます。
静かな退職の予防はもちろんのこと、エンゲージメントやモチベーション、自社への帰属意識の向上に効果的です。
全国25万店舗以上で使える食の福利厚生「チケットレストラン」
食事補助は、従業員の生活を直接サポートできるためアピール度が高く、費用対効果の高い福利厚生です。一定の条件を満たすことで所得税の非課税枠が活用でき、給与で同額を支給するよりも従業員の実質的な手取りを増やすことができる点も大きなメリットです。
例えばエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、全国25万店舗以上の加盟店を社員食堂のように利用できるサービスとして人気が高く、すでに3,000社を超える企業に導入されています。
「静かな退職」にまつわる4つの疑問
ここでは、静かな退職に対する企業の対応について、よくある疑問にお答えします。
「静かな退職」状態の社員を懲戒できる?
A.結論から言えば、静かな退職状態の社員を懲戒処分にすることは法的に困難です。
静かな退職の従業員は、与えられた業務は確実に遂行しており、遅刻や欠勤もなく、職務上の責任を果たしています。労働契約法第16条では、懲戒処分は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要と定められており、最低限の業務を遂行している以上、業務命令違反には該当しません。対処すべきは従業員の行動ではなく、そうした状態を生んだ組織の構造です。
静かな退職を放置するとどうなる?
A.静かな退職を放置すれば、組織全体に深刻な影響が広がります。
最低限の仕事しかしない従業員が増えると、他のメンバーがその分を補う必要があり、不公平感と疲労感が広がります。さらに深刻なのは、静かな退職の「伝染」です。一部の従業員が最低限の業務しかしないのを見て、他の従業員も同じ行動を取るようになるリスクがあります。特に、若手や優秀な人材は成長機会を求めて退職する可能性が高まり、組織の長期的な競争力が失われます。
給与の引き上げで解決できる?
A.給与の引き上げは一時的な効果しかもたらしません。
給与を上げても、上司との信頼関係が改善されるわけではなく、心理的安全性が確保されるわけでもありません。本質的な解決には、承認と感謝の文化、透明性のある評価、成長機会の提供といった総合的なアプローチが必要です。
中小企業でも実施できる対策はある?
A.中小企業でも低コストで実施できる効果的な対策は多数あります。
まず用意したいのが、1on1ミーティングをはじめとするコミュニケーションの機会です。また、称賛文化の導入にコストはかかりません。ピアボーナス※のような制度を整え、小さな成果を認め、感謝を言葉で伝える習慣をつけるだけでも、従業員のモチベーションは向上します。
※ピアボーナス:従業員同士が互いに感謝や報酬を送り合う制度
関連記事:ピアボーナスとは?「感謝の見える化」でエンゲージメントの向上を実現
「静かな退職」を防ぐ鍵は「日常のつながり」
「静かな退職」は、従業員の怠慢ではなく、組織との関係性が断絶した「心の離職」です。
静かな退職を防ぐには、制度よりも関係性、給与よりも対話が重要です。自社の上司と部下の信頼関係、透明性のある評価、成長機会の提供、心理的安全性の確保を一から見直しましょう。
「チケットレストラン」のような食の福利厚生の導入も、エンゲージメントやモチベーションの向上に寄与します。従業員一人ひとりを大切にし、日常のつながりを育むことにより、これからの時代に大きく発展する企業としての基盤づくりを進めてはいかがでしょうか。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
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