大企業との知名度差や限られた採用予算という制約がある中で、中小企業ではどのように求める人材を確保すればよいのでしょうか。
一方で、独自の戦略で採用成功を収めている中小企業も存在しています。職業訓練校の併設、徹底した従業員交流、戦略的な福利厚生拡充など、創意工夫により「求人には困らない」企業へと変貌を遂げられる可能性があるのです。本記事では、実際の成功事例から学ぶ、限られた予算で効果を上げる採用戦略を紹介します。
中小企業の採用難は深刻化:求人倍率8.98倍
中小企業における優秀な人材の獲得は、厳しい状況です。リクルートワークス研究所の「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」によると、従業員300人未満の企業の大卒求人倍率は8.98倍となっています。これは、2026年3月卒業予定の大卒求人倍率全体の1.66倍という数値と比べると、厳しい現実が示されています。
企業規模別大卒求人倍率(2026年3月卒対象):
| 企業規模 | 求人倍率 |
| 5,000人以上 | 0.34倍 |
| 1,000〜4999人 | 1.05倍 |
| 300〜999人 | 1.43倍 |
| 300人未満 | 8.98倍 |
従業員数300人以下の中小企業では、学生1人に対して約9社が競合している激戦状況です。
さらに深刻なのは、この倍率が前年の6.50倍から2.48ポイントも上昇している点にあります。中小企業の求人倍率は以下のように推移しており、ここ数年の人手不足は明白です。
300人未満企業規模の大卒求人倍率推移:
| 年度 | 求人倍率 |
| 2026年3月卒 | 8.98 |
| 2025年3月卒 | 6.50 |
| 2024年3月卒 | 6.19 |
| 2023年3月卒 | 5.31 |
| 2022年3月卒 | 5.28 |
| 2021年3月卒 | 3.40 |
| 2020年3月卒 | 8.62 |
出典:リクルートワークス研究所|第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)
採用難を受けた賃上げ競争:初任給を引き上げ約9割
人手不足を補うため、初任給を引き上げる企業が続いています。マイナビ キャリアリサーチLabの「2026年卒企業新卒採用活動調査」によると、2026年卒の新卒採用では、全体で88.8%の企業が初任給を引き上げています。中小企業が主に属する非上場企業でも、88.3%が初任給引き上げを実施していました。
| 区分 | 初任給を引き上げた割合 |
| 全体 | 88.8% |
| 上場 | 85.4% |
| 非上場 | 88.3% |
初任給引き上げ状況についてさらに「今年初めて」「2年連続」「3年以上連続」「直近数年間で断続的に」と詳しく聞くと、非上場企業でも「3年連続」と回答している企業の割合が最多で、全体的に継続的な賃上げ傾向が見られます。
同様の傾向は厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」でも明らかです。新規学卒者の平均賃金は2023年から大きく上がり始めており、賃上げ継続の傾向が見られます。なお、2025年は大卒初任給は24万8,300 円で前年比4.6%の上昇となりました。
出典:マイナビ キャリアリサーチLab|2026年卒企業新卒採用活動調査
出典:厚生労働省|賃金構造基本統計調査
関連記事:【社労士監修】初任給引き上げの理由は?既存社員との逆転減少による影響を解説
中小企業が直面する5つの採用課題
成功企業の事例を見る前に、まず中小企業が新卒採用で直面している課題を整理しましょう。これらの課題を理解することで、効果的な対策を立てられます。
課題1:採用コストの制約
新卒採用には多額のコスト(お金・時間・人員)がかかります。採用担当者が複数の業務を兼務している中小企業では、採用コストや採用にかける時間を抑えつつ、質の高い応募者を確保する効率的な採用活動が求められます。
課題2:応募者数の不足
大企業ほどの知名度がない中小企業は、そもそもの応募者数が限られてしまいます。自社が求める人材を採用するには一定の母集団が必要ですが、少ない応募者の中から選ばざるを得ない状況があります。
課題3:知名度不足による認知の壁
中小企業の多くは大企業ほど知名度が高くありません。採用活動では、まず企業の存在を「知ってもらう」ところからスタートする必要があります。
課題4:採用ノウハウの不足
効果的な採用活動を行うにはノウハウが必要ですが、多くの中小企業では「毎年同じ募集方法で変化に追いつけていない」という悩みを抱えています。具体的には以下のようなスキルが不足しがちです。
- 戦略的な採用計画の立案
- 求める人材像の明確な設定
- 今の学生に響くアピール手法
- 適性を見極める面接スキル
- 大企業の採用スケジュールを踏まえたタイミング調整
課題5:内定辞退・早期離職のリスク
せっかく採用となっても、内定辞退や入社後すぐの早期離職が発生するリスクがあります。早期離職の主な原因としては「事前に聞いていた条件と実態の違い」「労働環境に関する情報の不一致」などが多い傾向です。内定者を自社につなぎとめ、実態を理解した上で入社してもらう工夫が必要です。
求められる中小企業の取り組みは?
現在、学生優位の売り手市場が続いています。特に従業員数300人未満の企業では求人倍率が9割近くに達し、中小企業の新卒採用は厳しい状況です。
一方で、最近の学生はコロナ禍による社会の混乱を経験した世代という特徴があり、就職先選びにおいて「自分の理想とする将来に近づける環境」や、「ストレスを感じにくい人間関係」をより重視する傾向が強まっていると指摘されています。
このような環境下で、中小企業が新卒採用を成功させるには、自社の特徴や魅力に対する効果的なアプローチが必要です。ここからは、実際に採用成功を収めている中小企業の具体的な取り組みを紹介します。
中小企業の採用 4つの成功事例
大企業との競争で劣勢に思える中小企業ですが、独自の戦略により採用競争で勝つ企業も現れています。働きやすさを重視する若手の価値観と合致するこれらの取り組みは、採用力の向上に有効です。
成功事例1.株式会社イワサキ:職業訓練校併設
熟練職人の高齢化と若手の不足に加え、そもそも習得に時間がかかるという特性を持つのが縫製業界です。即戦力となる人材の確保が難しく、深刻な人手不足が慢性化しています。
アパレルメーカーから婦人服の縫製を請け負う株式会社イワサキ(大阪府東大阪市)は、企業内に大阪府知事認定の職業訓練校を併設するという独自性の高い取り組みで採用成功を収めた事例です。
同社では、入社後から1年間、仕事をしながら職業訓練校で学習します。受講時間はすべて勤務時間にカウントされ、月2万円の学費は入社後4年経過時点で全額返還される仕組みです。
未経験から縫製に関する基礎を身につけられ、学費も一定期間就労すれば支払いを免除されるなどのサポートにより、採用枠以上の応募へと結びつきました。 2025年春の新卒採用では、採用数7人のところ20人以上が新卒採用試験を受ける状況です。
全員が2年目に「2級洋裁技能士(既製服)」を受験し、いずれは縫製会社なら雇いたい技能とされる「1級洋裁技能士」を目指すこともできます。国家資格取得を前面に打ち出す取り組みは功を奏し、口コミによる入社希望者の開拓にも成功しています。
出典:株式会社イワサキ|高級婦人服 縫製 特殊ミシン加工
出典:日本経済新聞|〈小さくても勝てる〉採用難なんの 倍率15倍も 職業訓練校併設や余暇に賞金
成功事例2.株式会社ダイレクト:企業による行事多数
地方では人材確保が困難で若手の定着率が低い、という業界課題の解消に成功したのが、ゴルフ場運営支援のダイレクト(兵庫県西脇市)です。取り組んだのは、従業員交流を徹底的に推進する独自の施策でした。
同社の社長は「いざという時の相談相手になるためには、お互いを知っておくことが不可欠」との考えから、2024年度は大小さまざまで年間110回の社内行事を実施しました。バーベキューや社員旅行、上司との一対一会食など多様な企画を企業が費用の一部を負担し開催しています。
さらに、従業員同士の私的な交流にも別途賞金を支給する制度を導入。1年間で100個スタンプを集めると5万円のお祝い金が支給され、年間最多交流者にはスーツ仕立券を贈呈します。徹底した社員交流により強固な人間関係を構築することで、2025年春の新卒採用では採用数3人のところ46人が受験する状況となりました。就職情報サイトのエントリー者も500人を超えています。
徹底した交流制度は口コミで広がり、2013年の新卒採用開始以来、入社4年目以内の離職者ゼロを実現しています。
出典:株式会社ダイレクト採用サイト|福利厚生・制度
出典:日本経済新聞|〈小さくても勝てる〉採用難なんの 倍率15倍も 職業訓練校併設や余暇に賞金
成功事例3.株式会社ほねごり:働きやすさを高める工夫
鍼灸接骨院・整体院を営むほねごりは、2014年創設で従業員数680名(2025年4月時点)の企業です。体調を整えたいお客様に質の高いサービスを提供するという業界特性から、まず従業員自身が健康で生き生きと働いていることが重要となります。人材投資は顧客満足度向上、ひいては顧客確保に直結し、「働いてみたい」と従業員が思える好待遇な給与や福利厚生の充実、働きやすい職場環境を整えるという独自の人事施策に取り組んでいます。
その取り組みの一つが「チケットレストラン」という食事補助の福利厚生サービスです。月額3,500円(税別)の食事補助(従業員は同額を負担)により、健康的な食事の提供機会の創出と従業員の実質的な手取りアップを実現しています。「チケットレストラン」は食事補助の非課税枠の活用により、企業負担を抑制しながら取り入れることができる制度です。
健康に関するサービスを提供している同社では、従業員の健康維持は業界全体の課題と認識していました。福利厚生の充実や同社ならではの人事施策は嬉しい効果につながり、2025年の新卒採用者数が前年比2倍を達成しています。
数値では見えにくい効果もありました。物価高により外食を控える従業員が増える中、「チケットレストラン」導入により従業員同士で外食に行こうという雰囲気が生まれたためです。食事を介したちょっとしたコミュニケーションは、職場のよい雰囲気作りに貢献しています。
導入事例:株式会社ほねごり
成功事例4.アサヤ:専任担当者の配置と対外発信強化
採用活動や入社後のケアを徹底することで採用後の定着に大きな違いが出てきます。宮城県で漁具や選具などの卸小売を展開するアサヤ株式会社(従業員数83名)では、多くの中小企業が直面する「社長や役員が他の業務と兼任で採用を担当している」という状況を見直し、専任の担当者を配置しました。採用業務に時間をかけられる体制を整えることで、質の高い採用活動が可能になったのです。
人材に関するコンテンツ拡充や、SNS等で業務の内容や従業員の紹介記事を連載するなど、今すぐ始められる新しい手法を積極的に取り入れました。「アサヤ人的資本経営宣言」を対外に発信し、入社後に求められる姿勢を明確化するなどがその一例です。
成果は、1年間で12名の採用成功という形で実を結びました。組織体制の見直しと情報発信の工夫という、比較的取り入れやすい工夫でも効果が期待できることがわかる好事例です。同社では、人手不足は地域全体の課題であると強く認識しており、採用や人材育成について地域内企業と連携して活動し、今後の地域経済発展への貢献を目指しています。
出典:厚生労働省|地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集
中小企業向け採用戦略7つのポイント
成功事例も参考に、中小企業の採用戦略をポイントで説明します。
1.独自の魅力を発掘
大企業との知名度差を埋めるには、自社ならではの強みを明確化することが重要です。多くの中小企業は「技術力」「専門性」「理念」「従業員スキル」など独自の強みを持っています。これらを見つけ出し、学生にわかりやすく伝えることが成功に結びつきます。
2. 成長環境の提供
資格取得支援や技術習得の機会を提供することで「成長できる環境」をアピールできます。資格取得の受験料負担や外部研修への参加支援など、企業規模に応じた成長支援は取り入れやすく、費用が明確で取り組みやすいのが魅力です。若手が重視する「自己成長」のニーズに応えることで、他社との差別化を図れます。
3. 従業員交流の活性化
従業員同士が理解し合える環境を積極的に構築することで、働きやすさをアピールできます。人数が少ない職場であれば、社員旅行や懇親会、定期的な食事会など、規模に応じた交流施策により親睦を深められます。人数が少なければ名前をすぐに覚えてもらえ、社会人としてのコミュニケーションの取り方を先輩から学ぶことも可能です。人間関係の良さは中小企業ならではの強みとして訴求できます。
4. SNSを含めた情報発信の強化
SNSでの情報発信は、昨今重要度が増している施策です。現在の採用ターゲットとなる学生はデジタルネイティブ世代であり、直接の会話はもちろんですが、インターネット上の情報を積極的に活用することを得意としています。
日常の業務風景や従業員の声、福利厚生の実際の様子をSNSで発信することで、学生が「働くイメージ」を具体的に描けるようになります。
5. 専任採用担当を設置
一人ひとりが複数の業務を担う中小企業では、採用を兼任していることも少なくありません。しかし、兼任体制では体系的な採用戦略の実行は難しいものがあります。専任の採用担当者を配置することで継続的な情報発信や明確な企業メッセージの構築を実現することが可能です。
6. 福利厚生の戦略的拡充
福利厚生は働きやすさや満足度を高め、従業員に実際的なメリットをもたらします。住宅補助や休暇制度など、自社の従業員の働き方に寄り添う制度を導入することで、長く働き続けたい職場を実現可能です。
また、食事補助制度は従業員のニーズが高く、福利厚生による他社との差別化施策に有効です。たとえば、食事補助の非課税枠を活用した福利厚生サービス「チケットレストラン」は、企業負担を抑えながら従業員の実質手取りを増やすことができます。
「チケットレストラン」の詳細は「こちら」からお問い合わせください。
7. 継続的なフォロー体制
内定辞退・早期離職を防ぐ一貫したサポート体制が重要です。成功事例の株式会社ダイレクトのように、離職者が少ない企業では、入社前から入社後の定着までを継続的にフォローする姿勢が見られます。
採用段階では自社の実態を正直に伝える透明性の高い親身なアプローチを取り、入社後は丁寧なサポート体制(メンター制度や1on1ミーティング)でミスマッチや不安の蓄積を防ぐことが大切です。早期離職が続くと現場従業員のモチベーションが低下してしまうため、離職率を課題とする場合は早急な解決に取り組みましょう。
中小企業向け助成金・補助金の活用
中小企業の採用活動では、限られた予算内で効果的な人材確保を実現しなければなりません。この課題を解決するため、国や自治体が提供する各種採用支援制度を積極的に活用しましょう。
助成金や支援制度を活用することで、中小企業でもコスト負担を抑え、採用力や人材確保率を高めることができます。利用したい助成金や補助金を探す際は、以下のサイトを参考にしてください。
| サイト | |
| 助成金 | 厚生労働省ホームページ|雇用関係助成金一覧 |
| 補助金 | 経済産業省 中小企業庁|ミラサポPlus |
※補助金は制度ごとに事業者・事務局など運営主体が異なります。必ず公式サイトで公開されている内容・申請要件等を確認してください。
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中小企業は限られた予算で勝てる採用戦略を設計
中小企業の採用難は数値を見ると厳しいと感じるかもしれません。しかし、今回紹介した4つの事例が示すように、大企業とは異なるアプローチで「採用で求人が集まる」企業を目指すことができます。
職業訓練校併設のような独創的な施策、専任担当者配置のような組織改善、そして食事補助の福利厚生制度のような既存サービスの活用まで、自社の状況に応じた戦略を選択することです。
特に「チケットレストラン」のような食事補助の福利厚生サービスは、特別な設備投資なしで導入でき、非課税枠活用により企業負担を抑えながら従業員の実質手取りアップを実現できます。働きやすさ向上と賃上げ効果を同時に実現する、効果的な採用戦略として検討してみてはいかがでしょうか。
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エデンレッドジャパンブログ編集部
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