転職を希望する人の中には、実際に転職に踏み切る人と、踏み切らない人とがいます。その違いがいったいどこにあるのかは、人手不足を課題とする企業にとって重要なテーマです。本記事では、「転職を考えたものの転職しない理由」に焦点を当て、転職を防ぐために企業が取るべき施策を解説します。従業員の離職を防ぎ、定着率を高めるためのヒントを探っていきましょう。
従業員が転職したいのに転職しない理由
リクルートワークス研究所がおこなった調査から、転職希望者の約87%は、1年以内に転職していないことが明らかになりました。では、「転職希望を持ちながら転職活動をしていない理由」とはどのようなものなのでしょうか。同調査で上位になったのは以下のような理由でした。
▼転職したいのに転職しない理由(上位5位)
| 順位 | 理由 |
|---|---|
| 1位 | 今のところ、転職をしなくても問題がない |
| 2位 | 仕事の探し方がわからない |
| 3位 | 自分に合った仕事がわからない |
| 4位 | 手間がかかる |
| 5位 | 転職しても希望条件が満たされそうにない |
同調査でもっとも多く挙げられたのは「今のところ、転職をしなくても問題がない」という回答です。この回答からは、現状に満足はしていないものの、生活や環境の変化を避けたい現状維持の心理が働いていることがうかがえます。
2位と3位の「仕事の探し方がわからない」「自分に合った仕事がわからない」は、情報不足や自己分析の難しさが転職行動のハードルになっていることを示しています。
4位の「手間がかかる」は、応募書類作成や面接準備など行動コストの大きさを反映したものです。5位の「希望条件が満たされそうにない」は、転職市場への不信感や条件の妥協を避けたい意識の表れと考えられます。
これらの結果からわかるのは、従業員の転職希望は「その大半がはじめに希望した時点では深刻な状態ではない」という事実です。だからこそ、企業はこの段階で適切な働きかけをおこなう必要があります。
人手不足を課題とする企業に求められるのは、この層の従業員に「振り返ってみると、やはり自社が一番だ」と感じさせる環境の整備や施策なのです。
参考:リクルートワークス研究所|なぜ転職したいのに転職しないのか ―転職の“都市伝説”を検証する―|報告書
従業員が離職・転職する主な理由とは?
従業員の離職・転職を防ぐためには、従業員の転職したい理由を理解し、企業側の努力で改善できる点を適切に改善していくことが大切です。
では、実際に従業員が離職をする理由とはどのようなものなのでしょうか。厚生労働省の「令和5年雇用動向調査結果の概況」から、「転職入職者が前職を辞めた理由」のうち上位3つを男女別にまとめました。
▼男女別・離職理由(上位3位)
| 順位 | 男性の離職理由(%) | 女性の離職理由(%) |
|---|---|---|
| 1位 | 定年・契約期間の満了(16.9%) | 職場の人間関係が好ましくなかった(13.0%) |
| 2位 | 職場の人間関係が好ましくなかった(9.1%) | 労働条件が悪かった(労働時間・休日等)(11.1%) |
| 3位 | 給与等収入が少なかった(8.2%) | 定年・契約期間の満了(9.8%) |
※「その他の個人的理由」や「その他の理由(出向等を含む)」を除く
男女でやや傾向の違いが見られるものの、個人的な事情として上位に挙がっているのは「人間関係」「待遇(労働時間や給与)」です。
これらの課題に企業として積極的に向き合うことができれば、離職を防ぎ、従業員の定着率を高めることも不可能ではありません。
一方で、従業員の不満を見過ごしてしまった場合、小さな不満が蓄積され、転職という結果を招く可能性が高まります。では、従業員が転職をした場合、企業に生じるリスクとはどのようなものなのでしょうか。
参考:厚生労働省|雇用動向調査
従業員が転職するとどうなる?企業のリスク
従業員の転職は、企業にさまざまなリスクをもたらします。ここでは、転職によって企業が被る主な4つのリスクについて整理します。
採用・教育コストの増加
1人の離職によって発生する採用コストは、金額・時間・人材の3つの観点で企業に重くのしかかります。
例えば、求人広告費や紹介会社への報酬・面接や選考にかかる人件費・社内リソースの確保など、目に見えるコストだけでも相当な金額です。さらに、新しい従業員が業務に慣れるまでの教育期間中は、周囲のサポートも必要となり、生産性が下がる要因となります。
「株式会社リクルート 就職みらい研究所」の「就職白書2020」によると、2019年度の新卒採用コストは一人あたり平均93.6万円、中途採用では103.3万円でした。
特に、企業体力に制約がある中小企業にとって、このコストがもたらすリスクは深刻です。
既存従業員の負担の増加
離職者の業務は、すぐに補充できるわけではありません。空席の分をカバーするのは、当然ながら残された従業員です。
急激に業務量が増えれば、業務ミスや納期遅れといったパフォーマンス低下を引き起こします。さらに、精神的・肉体的負荷も増し、次なる離職者を生み出す原因にもなります。
中小企業や少人数チームでは、1人欠けるだけで業務が回らなくなる事態も珍しくありません。従業員にとって「誰かが辞めたら自分が大変になる」という意識が広がれば、職場に対する信頼感が損なわれ、エンゲージメントの低下を招く可能性もあります。
関連記事:従業員エンゲージメントとは?向上に役立つ施策や取り組むメリット
ノウハウ・人脈・情報の流出
離職によって失われるのは、単なる「人手」ではなく、その人が蓄積してきたスキルや社内外のつながりです。
属人的に形成された業務ノウハウがマニュアル化されていないまま失われたり、得意先との信頼関係がゼロから再構築されたりすることになれば、事業に与える影響は計りしれません。
また、離職者が競合企業へ転職した場合、暗黙知や営業戦略、顧客情報などが流出するリスクも否定できません。特に、営業職・開発職・管理職など、業務の要ともなる人材の離職は、企業の競争優位性そのものに打撃を与える結果にもなり得ます。
企業イメージ・採用ブランドの低下
離職率が高い企業は、求職者や世間から「働きにくい職場」として認識されやすくなります。実際、多くの転職者が口コミサイトやSNSで企業情報を確認しており、過去の離職者によるネガティブな声も考慮しつつ転職先を選んでいます。
人材の定着にまつわる課題は企業イメージに直結しやすいことから、採用ブランドの低下を招き、さらなる人材不足を招く悪循環に陥る可能性も否定できません。
企業が優秀な人材を引きつけ、定着させるためには、職場環境や制度の整備だけでなく、外部への見られ方にも気を配ることが大切です。
転職を考えている従業員が見せるサインとは?
従業員が転職を考えている場合、行動に起こす前にさまざまなサインが現れるのが一般的です。そうした兆候に早期に気づくことができれば、声かけやフォローによって転職を未然に防げる可能性も高まります。ここでは、特に注意したい代表的な変化を紹介します。
ネガティブな発言が増える
転職をする従業員は、行動を起こす前の段階でネガティブな発言が増える傾向にあります。
具体的には「このままでいいのかな」と自身の将来への不安を口にするようになったり、「ウチの会社ってさ……」など、自社に対する不満が漏れたりといった変化が見られがちです。
特に、その従業員がそれまで前向きに仕事に取り組んでいた場合、本人の中で大きな変化があったのは明白です。事態を深刻なものととらえ、面談を設けるなど、速やかに対応することが求められます。
勤務態度や業務の質が悪くなる
転職を意識する従業員は、業務遂行の面でも変化が現れがちです。周囲から見て、特別な理由がないにもかかわらず、以前は見られなかった業務ミスが増えたり、業務の質が落ちたりする場合は注意が必要です。
こうしたケースでは、転職を現実的に考え始めたことにより、現職への思い入れが薄れ、モチベーションの低下が起きている可能性があります。
モチベーションの低下は周囲の従業員への波及も大きなリスクとなるため、早期の声かけや状況の把握が必要です。
職場の人間関係を避けるようになる
これまで同僚と活発にコミュニケーションを取っていた人が、急に孤立するようになった場合、職場に対する心理的距離の現れである可能性について考える必要があります。
具体的な変化としては、雑談やランチへの参加を避けるようになる・Slackやチャットでの反応が減る・離席が増える、などが挙げられます。
こうした変化の背景にあるのは、多くの場合、職場に対する違和感やストレスです。そのまま離職へつながる可能性が高いため、早期の対応が求められます。
欠勤・遅刻・早退が増える
転職をする従業員が見せるサインとして、特に多く見られるのが、勤怠の変化です。
これまで目立った勤怠問題のなかった従業員に、欠勤・遅刻・早退が明らかに増えた場合、企業そのものへの拒否反応の現れである可能性があります。精神面での不調が、実際の体調に影響を及ぼすというのは珍しい話ではありません。
場合によっては、企業説明会や面接への参加など、すでに転職活動を始めているために、勤怠へ影響が出ている可能性も考えられます。
この段階では、転職の意思が固まっていることが多いため、翻意は難しいかもしれません。しかし、自社の課題をクリアにするためのヒントとして、可能な範囲で詳細を知るよう努める必要があるでしょう。
従業員が「転職したくない」職場をつくる4つの方法
転職防止のために企業ができる施策とはどのようなものなのでしょうか。ここでは、従業員が「転職したくない」と感じる職場をつくるために意識したい4つのポイントを解説します。
キャリアの展望を持てる評価・昇進制度を整備する
離職理由として「評価への不満」や「将来が見えない不安」を挙げる人は少なくありません。
特に、長期的なキャリア設計に取り組む若手従業員にとって、正当な評価が得られなかったり、組織に将来性が感じられなかったりといった環境は耐えがたいものです。「このままではまずい」と早期に見切りをつけ、転職を決断するでしょう。
こうした事態を防ぐには、自社で努力が正当に認められ、昇進・昇給につながる仕組みが重要です。役割や期待値、評価基準を明示し、定期的にフィードバックをおこなうことで、従業員は自らの成長と将来性を感じることができ、「ここで働き続けたい」と思えるようになります。
心理的安全性のある組織文化をつくる
「安心して発言できる」「1人がミスしてもフォローできる体制がある」そんな心理的安全性がある職場は、従業員の定着率が高い傾向にあります。
企業風土によっては、上司の叱責が人格否定にまで至るケースがいまだ散見されます。しかし、特にZ世代のような若い世代にとって、この慣習はなじみません。「人権意識が低い企業」「古い体質の企業」として受け取られるのが一般的です。
その点、心理的安全性がある組織では、世代を問わず活発な意見が交わされるほか、イノベーションも起きやすい土壌があります。誰にとっても働きやすいのはもちろんのこと、生産性も高まります。
関連記事:【社労士監修】離職防止につながるコミュニケーションのコツと心理的安全性
コミュニケーションの質と量を見直す
どれほど待遇や制度が整っていても、職場で孤立していれば従業員の満足度は低下します。
コロナ禍を経てリモートワークが浸透した今、雑談や偶発的な会話の機会が減少し、職場内の人間関係は希薄になりがちです。「誰ともつながっていない」「困っても相談できない」と感じる従業員は、そうでない従業員に比べて離職リスクが高まります。特に若い世代では、組織内で十分に居場所を確立できない状態が続くため、影響は特に深刻です。
これを防ぐには、定期的な1on1ミーティングや社内チャットでの交流促進、雑談タイムの導入など、コミュニケーションの場を意識的につくることが大切です。人と人とのつながりを意識することで、従業員の安心感やエンゲージメントを高められます。
待遇を改善する
「令和5年雇用動向調査結果の概況」からも明らかなように、賃金をはじめとする待遇の良し悪しは、従業員が転職を検討する大きなきっかけとなります。
自社の待遇の水準が、同業他社と比較して低い水準にあった場合、「他社へ移ろう」と考える従業員が出るのも無理はありません。「この仕事に見合った報酬が得られていない」と感じた場合も同様です。
とはいえ、物価高が進行し、経営上のコストも増加している今、大幅な賃上げは現実的ではありません。
代替案として、食事補助や住宅補助・家事代行サービスの利用補助のような、少額から導入できる福利厚生を通じた支援をおこない、実質的な待遇改善を図るのも選択肢のひとつです。
待遇改善策として注目される「チケットレストラン」
従業員の実質的な待遇改善策として魅力的な福利厚生ですが、中でも近年、特に注目を集めているサービスに、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」があります。
「チケットレストラン」は、企業と従業員との折半により、全国25万店舗を超える加盟店での食事を実質半額で利用できる食事補助の福利厚生サービスです。
加盟店のジャンルは、コンビニ・ファミレス・三大牛丼チェーン店・カフェなど幅広く、利用する人の年代や嗜好を問いません。また、勤務時間中にとる食事の購入であれば、利用する場所や時間に制限がないのも大きな魅力です。
なお、福利厚生は、一定の条件を満たすことによって所得税の非課税枠の活用が可能なため、従業員の実質的な手取りアップにも貢献するほか、企業側の法人税の削減にも寄与します。
このような多彩な魅力が評価され、すでに3,000社を超える企業に導入されるサービスとなっています。
▼不動産流通事業や注文住宅事業等を手掛ける「株式会社sumarch」では、「チケットレストラン」をはじめとする福利厚生の拡充や、労働環境の改善など様々な取り組みの結果、「自社より好待遇の企業がなかった」と転職を考え直した従業員もいるそうです。
株式会社sumarchの詳細な導入事例は「こちら」
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
「転職しない理由」を知ることは離職防止の第一歩
従業員が「転職しない理由」と「転職する理由」とは表裏一体です。両面を知り、自社の現状を踏まえて改善点を検討することは、誰もが働きやすく「転職したくない」組織づくりの第一歩となります。
人手不足が深刻化する今、従業員の転職予防は、企業の長期的な成長を考える上で不可欠な施策といっても大げさではありません。転職によるリスクを最小限に抑えるためにも、評価制度の整備・心理的安全性の確保・コミュニケーションの活性化・「チケットレストラン」をはじめとする福利厚生の導入など、従業員が「この会社で働き続けたい」と感じる組織づくりを進めてはいかがでしょうか。
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