監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
建設業では、平成25年から法定福利費の見積書への明示が推進されています。これについて「何%が適正なのか」「どうやって計算すればいいのか」と悩む担当者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、2025年度の最新保険料率に基づき、法定福利費の正確な計算方法から見積書の書き方、元請・下請それぞれの責任、一人親方の扱い、消費税の取扱いまで、明日からすぐに使える実践的な情報をお届けします。
結論|建設業の法定福利費は労務費の約15〜17%が目安。平成25年から見積書への明示が求められています
建設業では、平成25年より、見積書への法定福利費の記載が求められています。
法定福利費とは、健康保険や厚生年金など、企業が負担する主に社会保険料のことです。2025年時点では、労務費の約15〜17%が一般的な目安とされていますが、この割合は保険料率や従業員の年齢構成、都道府県、事業の種類によって変動します。
これは深刻化する社会保険未加入問題を受けての措置で、元請・下請間で法定福利費を適正に配分することを目的としています。
法定福利費の適正な確保は、建設業の健全な競争環境と人材確保の基盤となる重要な取り組みです。
建設業の法定福利費にまつわるよくある質問
建設業の法定福利費について、多く寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q. 建設業の法定福利費は「何%」ですか?
A. 約15〜17%が目安ですが、一律の%ではありません。
法定福利費は、健康保険や厚生年金など、各保険の事業主負担分を合算して計算します。都道府県(健康保険料率の差)、従業員の年齢構成(介護保険対象者の割合)、事業の種類(労災保険料率)によって変動するため、一律の%で表すことはできません。
実務では、計算の簡便性から約15〜17%の範囲で見積もる傾向にありますが、正確には各保険料率を個別に計算する必要があります。
Q. 見積書に記載する義務はありますか?
A. 法律上の直接的な義務はありませんが、国土交通省が明示を強く推進しています。
法定福利費の内訳明示を直接義務付けた法律はありませんが、下請の見積書に法定福利費が明示されているにもかかわらず元請が一方的に削減したり、カットした金額で請負契約を締結する行為は、建設業法第19条の3「不当に低い請負代金の禁止」に違反する恐れがあります。
社会保険加入の徹底と適正な取引推進のため、国土交通省は「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」で法定福利費の内訳明示を推進しています。
Q. 法定福利費の計算式は?
A. 労務費 × 法定福利費率(各保険の事業主負担分を合算したもの)です。

基本的な計算式は「法定福利費 = 労務費 × 法定福利費率」です。法定福利費率は、健康保険、厚生年金、雇用保険、介護保険、子ども・子育て拠出金の事業主負担分を合算した割合になります。詳しい計算方法は、後述の「法定福利費の計算方法」で解説します。
Q. 法定福利費を工事費に含めてもよいですか?
A. 含めて問題ありません。建設業では業界慣行として明示が強く推奨されています。
法定福利費は、工事の請負代金に適正に含めることが可能です。ただし、建設業では社会保険未加入対策として、工事費の総額だけでなく法定福利費を内訳として明示することが推進されています。
見積書では「労務費」と「法定福利費」を別項目で記載し、透明性を確保することが求められます。
Q. 建設業以外では法定福利費の明示は不要?
A. 法定福利費自体は全業種で発生しますが、見積書への明示推進は建設業特有です。
法定福利費(社会保険料の事業主負担)は建設業に限らず、従業員を雇用するすべての業種で発生します。
ただし、見積書への内訳明示が強く推進されているのは建設業のみです。これは、建設業で社会保険未加入問題が特に深刻だったことによるものです。
法定福利費とは?法定外福利費との違いをチェック
建設業特有の法定福利費にまつわるルールを理解するためには、前提として法定福利費について知っておく必要があります。ここでは、法定福利費の詳細について、法定外福利費との違いとともに解説します。
「法定福利費」の定義|法律で企業に負担が義務付けられた福利厚生費
「法定福利費」とは、法律により企業が義務付けられた、各種保険料や拠出金の企業負担分を指します。対象となるのは、以下に示す社会保険料および子ども・子育て拠出金の企業負担分です。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 労災保険
- 子ども・子育て拠出金
健康保険・厚生年金は従業員と企業が折半、雇用保険は労働者より事業主の負担割合が大きく設定されています。また、労災保険と子ども・子育て拠出金は事業主のみが負担します。
建設業の見積書で内訳明示が求められる法定福利費は、このうち現場労働者(技能労働者)にかかる事業主負担分を指します。
「法定外福利費」の定義|企業が任意で負担する福利厚生費
「法定外福利費」は、企業が任意で導入する法定外福利厚生制度にかかる費用です。具体的には、以下のような制度が挙げられます。
- 住宅手当
- 食事補助
- 慶弔見舞金
- 社員旅行
- 健康診断の拡充
- 資格取得支援
- レクリエーション費用
法定福利費が法律で義務付けられた「コスト」であるのに対し、法定外福利費は企業が戦略的に提供する「投資」という違いがあります。建設業では人手不足が常態化しているため、採用力強化の目的で法定外福利厚生の充実を検討する企業も少なくありません。
建設業で「法定福利費の明示」が求められる理由
建設業では、平成25年(2013年)から見積書への法定福利費の内訳明示が推進されています。なぜ建設業に限って明示が強く求められるのでしょうか。ここでは、その理由を深掘りします。
背景|元請と下請でトラブルが多発
建設業は、元請 → 下請 → 孫請…と、工事を複数企業で分担する重層下請構造が一般的です。その結果、元請・下請間でトラブルが多発してきました。
典型的なトラブルは、下請が法定福利費を明示した見積書を提出したにもかかわらず、元請が「総額で判断する」として法定福利費を値引き要求するケースです。また、法定福利費の負担配分が不透明なまま契約が進み、下請が社会保険料を負担できなくなるケースも少なくありませんでした。
【元請業者の責任】
元請業者は、下請業者から提出される見積書に法定福利費が適切に明示されているか確認する責任があります。法定福利費が明示された見積書を受け取った場合、その金額を尊重し、一方的な値引き要求や他の費用項目(材料費、労務費など)で減額調整を行ってはなりません。
また、下請業者の社会保険加入状況を確認し、未加入の場合は加入を指導する必要があります。不当に低い請負代金での契約は建設業法第19条の3に違反する恐れがあります。
【下請業者の責任】
下請業者は、自社が負担すべき法定福利費を適正に計算し、標準見積書の活用などにより法定福利費を内訳明示した見積書を元請に提出する必要があります。元請との協議がスムーズに行うためにも、算出根拠(保険料率、対象人数、賃金額)を明確にすることが大切です。
また、不当な値引き要求に対しては、法定福利費の必要性を説明し、毅然とした対応が求められます。従業員の社会保険加入を維持するためには、適正な法定福利費の確保が欠かせません。
法定福利費の計算方法
法定福利費を求めるにあたっては、複数の方法があります。ここでは、基本的な計算式から実務で使いやすい計算式、国土交通省ガイドラインで認められているその他の算出方法まで順に解説します。
基本の計算式|労務費 × 法定福利費率
法定福利費の基本計算式は、
| 法定福利費 = 労務費 × 法定福利費率 |
です。
法定福利費率とは、各保険の事業主負担分を合算したもので、各保険を個別に計算する場合、以下のように算出します。
【計算例:労務費100万円、東京都の協会けんぽ加入企業の標準的なケース(2025年度)】
- 健康保険料 = 100万円 × 4.955% = 4.955万円
- 厚生年金保険料 = 100万円 × 9.15% = 9.15万円
- 雇用保険料(建設の事業) = 100万円 × 1.1% = 1.1万円
- 介護保険料 = 100万円 × 0.42% = 0.42万円
- 子ども・子育て拠出金 = 100万円 × 0.36% = 0.36万円
- 労災保険料(建築事業) = 100万円 × 0.95% = 0.95万円
- 合計:約16.9万円
※介護保険料は「介護保険料率1.59%(事業主負担0.795%)× 40~64歳の加入率」で算出した目安です。従業員構成により実際の負担率は約0.2~0.8%程度の範囲で変動します。
【重要】この計算例はあくまで東京都の協会けんぽに加入し、標準的な従業員構成の企業の一例です。実際には以下の要因で大きく変動します。
参考: 協会けんぽ|全国健康保険協会|令和7年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます
参考:日本年金機構|厚生年金保険料額表
参考:厚生労働省|雇用保険料率について
参考:厚生労働省|令和7年度の労災保険率について(令和6年度から変更ありません)
実務で使える計算方法|法定福利費率=各料率を合算した約15〜17%程度(2025年時点)
毎回、各保険を個別に計算するのは手間がかかるため、実務では各保険料率を事前に合算した「法定福利費率」を使って一括計算する方法が一般的です。2025年度の標準的なケースでは、以下のような料率になります。
【2025年度の標準的な保険料率(事業主負担分)の例】 ※東京都の協会けんぽ加入企業、建築事業の場合
| 項目 | 事業主負担率 |
|---|---|
| 健康保険料(東京都) | 4.955% |
| 厚生年金保険料 | 9.15% |
| 雇用保険料(建設の事業) | 1.1% |
| 介護保険料(標準) | 約0.42% |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% |
| 合計 | 約16.0% |
つまり、東京都の標準的なケースでは、次のように約16%を法定福利費率として使えば一度に計算することが可能です。
| 法定福利費 = 労務費 × 16.0% 例:労務費100万円の場合 → 100万円 × 16.0% = 16万円 |
ただし、この割合はあくまで東京都・協会けんぽ・建築事業という標準的なケースの目安です。実際には以下の要因で変動します。
- 都道府県:健康保険料率は都道府県により異なります
- 従業員の年齢構成:介護保険は40歳以上65歳未満のみが対象のため、対象者の割合により0.2%~0.8%程度の幅があります※
- 事業の種類:建設業の労災保険料率は建築事業0.95%、舗装工事業0.9%、道路新設事業1.1%など業種により異なります
- 保険料率の改定:健康保険料率や雇用保険料率は毎年度見直されます
※介護保険料は「介護保険料率1.59%(事業主負担0.795%)× 40~64歳の加入率」で算出した目安です。従業員構成により実際の負担率は約0.2~0.8%程度の範囲で変動します。
正確な法定福利費を算出する際は、自社の都道府県、加入している保険、従業員構成、事業の種類を確認した上で、最新の保険料率を適用することが重要です。
その他の算出方法|工事費から平均割合を算出(国交省ガイドライン準拠)
国土交通省ガイドラインでは、自社の施工実績データをもとにした次のような計算方法も認めています。
| 法定福利費=工事費 × 工事費あたりの平均的な法定福利費の割合 |
この方法は、ある程度パターン化した工事で、工事費の増減が労務費と比例している場合に適用できます。
簡単に計算ができる点が大きなメリットですが、一方で、あくまでも簡易的な方法であるため、各社が自社実績に基づいて設定する必要があります。
工事の性質や労務費の割合が大きく変動する案件では、この方法は不向きです。
見積書に法定福利費を明示する方法
見積書では、法定福利費を「労務費」と分けて独立した項目として明示する必要があります。国土交通省のガイドラインでは、材料費・労務費・経費(法定福利費を除く)の小計を示した上で、法定福利費を別項目として記載する形式が推奨されています。
法定福利費は、対象となる労務費に、各保険料率(健康保険・厚生年金・雇用保険・介護保険・子ども・子育て拠出金・労災保険)を乗じたものです。例えば、労務費100万円、健康保険料率5%の場合には「100万円 × 5% = 5万円」と明記します。
さらに、内訳欄に「対象金額(労務費)」「適用する料率」「算出された金額」を記載すると、法定福利費の根拠が明確になり、元請との協議や値引き要求への説明がスムーズです。
契約書・請求書で法定福利費を扱う際のルール
見積書で法定福利費を明示したあと、契約書や請求書ではどのように扱うべきなのでしょうか。実務上の注意点を解説します。
一人親方が関わる場合の取扱い
一人親方は原則として法定福利費の対象外であり、「法定福利費を計上する必要があるかどうか」は、雇用関係の有無で判断されます。
一人親方や、常時使用する労働者が5人未満の個人事業所は、健康保険・厚生年金保険の適用除外となるため、法定福利費について事業主負担が発生しません。そのため、適用除外となる作業員分については、見積書などの内訳で明示する法定福利費から除外する必要があります。
とはいえ、見積の段階で適用除外者を把握することは実務上困難です。そこで、国土交通省ガイドラインでは「すべての現場作業員の加入を前提として法定福利費を計上し、その後、元請と協議して最終金額を決定する」方法を推奨しています。契約時には、一人親方と雇用契約労働者を明確に区別することが大切です。
消費税の扱い|法定福利費も課税対象
法定福利費は消費税の課税取引です。そのため、見積総額の計算基礎に含めます。
「法定福利費は社会保険料だから非課税」と誤解されることがありますが、建設工事における法定福利費は請負代金の一部として課税対象です。
計算式は「(材料費 + 労務費 + 法定福利費 + 経費)× 消費税率」となり、法定福利費を含めた工事費総額に消費税を乗じます。
見積書・請求書の作成時には、法定福利費を含む小計を明示した上で消費税を計算し、最終的な請求金額を算出する必要があります。
法定福利費の請求と変更時のルール
法定福利費だけを追加請求する場合は、契約の変更が必要です。
当初の見積書・契約書に法定福利費を含めていなかった場合、あとから法定福利費のみを追加請求することはできません。法定福利費を追加する際は、契約内容の変更手続きを行い、元請・下請双方の合意のもとで変更契約書を締結する必要があります。
また、工事の途中で保険料率が改定された場合や、労務費が大幅に変動した場合も、契約変更の対象となります。
請求書と契約書の整合性を保つことは、適正な取引を証明する重要な要素です。見積・契約・請求の各段階で法定福利費を一貫して明示・管理することが求められます。
建設業の人手不足対策に|法定外福利厚生の充実
法定福利厚生は企業の義務的なコストですが、従業員の採用や定着を強化するには法定外福利厚生の充実が鍵となります。ここでは、建設業に携わる事業主が法定福利厚生を充実させることで得られるメリットや、導入しやすいおすすめの福利厚生サービスを紹介します。
建設業が法定外福利厚生を充実させるメリット
法定福利費は義務として負担するコストですが、法定外福利費は人材確保の「差別化投資」です。
建設業界では若手入職者の減少と高齢化が進み、優秀な人材を確保・定着させるには給与以外の魅力が不可欠になっています。その点、法定外福利厚生の充実は、求職者はもちろんのこと既存従業員へのアピール度も高く、採用力の強化や定着率向上に有効な施策です。
ただし、建設業特有の課題として、現場作業員と事務所勤務者、出張の多い従業員など、勤務形態が多様であるため、全従業員が公平に利用できる福利厚生を選ぶことが重要です。特定の従業員だけが恩恵を受ける制度では、かえって不公平感を生み、モチベーション低下につながる恐れがあります。
3,000社以上が導入する食の福利厚生「チケットレストラン」
建設業で効果的な法定外福利厚生のひとつが「食事補助」です。日々の生活をサポートする食事補助は、従業員がメリットを享受しやすく、企業への愛着や帰属意識の醸成に寄与します。
そんな食事補助の法定外福利厚生の中で、日本一の実績を持つサービスがエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」は、企業と従業員との折半により、全国25万店舗を超える加盟店での食事を実質半額で利用できる食事補助の福利厚生サービスです。
加盟店のジャンルは、コンビニ・ファミレス・三大牛丼チェーン店・カフェなど幅広く、利用する人の年代や嗜好を問いません。
内勤の従業員はもちろんのこと、外勤、出張中やリモートワークの従業員も平等に利用できる柔軟性や、コスパの良さが高く評価され、すでに3,000社を超える企業に導入されている人気サービスです。
「チケットレストラン」で生産性向上と高い定着率を実現した事例
安全に道路を使うために必要な工事を担う「道路サービス株式会社」は、物価高に対する従業員へのフォローや、いろいろな場所で使える食事補助を検討する中で「チケットレストラン」を導入しました。
導入後は、現場入りが早く朝食をとれていなかった従業員がコンビニで朝食を購入できるように。しっかり食べてから仕事に取り組めるようになったことにより、生産性向上につながっているそうです。
「チケットレストラン」を含め、従業員が健康に働きやすい環境づくりに取り組んできた結果、他社との差別化や高い人材定着率を実現されているそうです。
→「道路サービス株式会社」の詳細な導入事例は「こちら」
透明性の高い法定福利費は、適正な取引と信頼の鍵
建設業における法定福利費の明示は、業界全体の健全な発展を支える重要な取り組みです。
2025年度の最新保険料率に基づいた正確な計算や、国土交通省ガイドラインに準拠した見積書の作成により、元請・下請間の信頼関係が構築され、社会保険の適正な加入が促進されます。
法定福利費という義務的なコストを適正に確保することは、建設業で働く人々の生活を守る基盤です。さらに、「チケットレストラン」をはじめ、法定外福利厚生を活用した戦略的な投資を通じ、人材確保と企業の競争力強化が実現します。
法定と法定外、両面からの取り組みを推進し、多くの優秀な人材から選ばれ、発展する企業づくりを進めてはいかがでしょうか。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
参考:国土交通省|法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順
参考:国土交通省|社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン 参考:社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン
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社会保険労務士 吉川明日香
