監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
パート・アルバイトは福利厚生なしとしている企業もありますが「パート・アルバイトの採用を促進したい」「定着率を高めたい」と考えているなら、福利厚生の充実度アップは有効な対策です。具体的にどのような福利厚生を導入するとよいのでしょうか?パート・アルバイトの福利厚生の現状とともに、おすすめの福利厚生を紹介します。
パート・アルバイトに福利厚生はあり?なし?
まずはパート・アルバイトの福利厚生の現状を「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」を参考に見ていきます。
同調査で40%以上の企業が導入している福利厚生について、非正規雇用へも適用している割合は以下の通りです。
福利厚生 |
非正規雇用への適用割合 |
人間ドック受診の補助 |
49.3% |
病気休暇制度 |
42.5% |
病気休暇制度(有給休暇以外) |
42.8% |
慶弔休暇制度 |
48.8% |
慶弔見舞金制度 |
53.9% |
永年勤続表彰 |
36.3% |
労災補償給付の付加給付 |
51.2% |
家賃補助や住宅手当の支給 |
21.1% |
社員旅行の実施・補助 |
55.3% |
企業全体として福利厚生を充実させている場合でも、アルバイトやパートなどの非正規雇用へは提供していないという企業が少なくないことが分かります。
参考:労働政策研究・研修機構|企業における福利厚生施策の実態に関する調査―企業/従業員アンケート調査結果―
パート・アルバイトの不合理な待遇差はNG
正社員と同じ業務を同じように行っているにもかかわらず、パートやアルバイトなど雇用形態を理由に待遇に差をつけることは、以下に引用する「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」第8条によって禁止されています。
<短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 第8条>
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
引用:e-Gov法令検索|短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
この条文にある「その他の待遇」には、服務規程・教育訓練・福利厚生なども含まれるため、福利厚生においても不合理な待遇差を設けるのは避けなければいけません。
待遇差には合理的な説明が必要
雇用形態がパートやアルバイトであっても、正社員と同じように無期契約で雇用しているときや、同じ職務を担っているときなどは、同様の福利厚生を提供しなければいけません。
一方、担う職務が異なる場合には、福利厚生に待遇差 があっても構いません。ただし従業員から待遇差の合理性について説明を求められたときには、待遇差の理由を明確に示す必要があります。
待遇差が不合理か見極める方法
福利厚生の待遇差がある場合、その待遇差が不合理なものであるか見極めるには、以下の4つのステップで検討していきます。
- 従業員の雇用形態の現状を把握する
- 個々の待遇の現状を把握する
- 均等待遇が求められるなら同じ福利厚生の提供を、均衡待遇が求められるなら手順に沿って合理性を確認する
- 必要に応じて待遇差を改善する
まず自社に在籍している従業員が、どのような雇用形態で勤務しているかを確認します。短時間労働や契約期間の定められている有期契約で働くパート・アルバイトは、不合理な待遇差を改善する対象です。
このとき待遇差が不合理か判断するために、期間の定めなくフルタイムで働く正社員を「通常の労働者」として比較対象とします。
「通常の労働者」と職務内容や、職務内容・配置の変更の範囲を比べた結果により、以下のように均等待遇の対象か、均衡待遇の対象かを判断可能です。
求められる内容 |
通常の労働者と比べた職務内容 |
業務の内容および責任の程度 |
均等待遇の対象 (差別的取り扱い禁止) |
同じ |
同じ |
均衡待遇の対象 (不合理な待遇差禁止) |
同じ |
異なる |
異なる |
同じ |
|
異なる |
異なる |
均等待遇の対象となるパート・アルバイトなどに対して「通常の労働者」と異なる待遇を行っている場合には、法律違反が疑われます。判明したらすぐに「通常の労働者」と同じ待遇になるよう制度の変更が必要です。
均衡待遇の対象となるパート・アルバイトがいる場合には、今の待遇が不合理な待遇差にあたるかどうか、以下の手順で検討しなければいけません。
- 「通常の労働者」と異なる待遇の理由や制度に期待している効果などから性質・目的を明確にする
- 明確にした性質・目的から、待遇が「職務内容」「職務内容・配置の変更の範囲」「その他の事情」の3つの要素のうちどれを踏まえて考慮されているか検討する
- 3つの要素のうち考慮している要素に生じている違いの理由を整理した上で、その違いが不合理か不合理でないかを確認する
検討した結果、待遇差が不合理であったときには、待遇の改善策を講じて制度を是正します。
参考:厚生労働省|不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル
パート・アルバイトに福利厚生を提供するメリット
パート・アルバイトと正社員の福利厚生は、職務内容や、職務内容・配置の変更の範囲に違いがあれば、合理的な待遇差が認められています。
実際に正社員には福利厚生を提供していても、パートやアルバイトなどの非正規雇用の従業員には提供していない企業は少なくありません。
ただしパートやアルバイトへの福利厚生にはメリットもあります。ここでは福利厚生によるメリットを見ていきましょう。
関連記事:福利厚生の拡充で得られるメリットは?導入しやすいサービスも紹介
スムーズな採用につながる
パートやアルバイトを募集しても、競合他社と比べて福利厚生の充実度が低ければ、募集が集まりにくいことが予想されます。パート・アルバイト向けの福利厚生を充実させると、よりよい条件で働きたいと希望する人材からの募集が集まりやすくなるでしょう。
求人への応募が増えれば、その分採用につながりやすくなることが期待できます。
人材定着につながる
競合他社と比べて福利厚生が充実していれば、今いる人材の定着にもつながりやすくなります。よりよい待遇の仕事を求めて、パートやアルバイトが次々に辞めてしまうといったことが起こりにくくなるためです。
福利厚生により働きやすさが改善された結果、採用したパートやアルバイトが長く働き続けやすくなることも、人材定着につながる理由といえます。
従業員満足度が高まる
福利厚生によって働く環境を整え、暮らしをサポートすることは、従業員満足度の向上につながります。従業員満足度の高い職場では、従業員のモチベーションが上がるため、顧客満足度が高まり売上や業績アップも期待できるでしょう。
加えて従業員同士の良好なコミュニケーションが生まれやすくなり、離職率が下がるのも、従業員満足度が高い職場の特徴です。
関連記事:【2024年】従業員満足度が高い企業ランキング6選!取り組み事例も紹介
福利厚生とは?2種類の福利厚生を確認
福利厚生とは給与や賞与の他に従業員へ支給する報酬の一種です。従業員やその家族の暮らしや健康をサポートする役割があります。
パートやアルバイトにおすすめの福利厚生を見ていくために、まずは「法定福利」「法定外福利」2種類の福利厚生について見ていきましょう。
関連記事:【社労士監修】 福利厚生とは何か?種類別に分かりやすく意味を解説
法定福利厚生は法律の条件を満たした従業員へ提供する
法定福利厚生とは法律で義務づけられている以下の福利厚生です。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 労災保険
- 介護保険
- 子ども・子育て拠出金
また年次有給休暇や生理休暇・産前産後休業などの法定休暇も、雇用形態による待遇差を設けることは認められていません。
これらの福利厚生は法律で定められているため、条件を満たし対象となる従業員であれば、パートやアルバイトなどの雇用形態にかかわらず提供しなければいけません。
例えば厚生労働省の資料によると、従業員数101人以上の企業(2024年10月からは従業員数51人以上)に、以下の条件を満たすパートやアルバイトが在籍しているなら、健康保険と厚生年金保険へ加入する必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8万8,000円以上
- 2カ月を超えて雇用する見込み
- 学生ではない
参考:厚生労働省|法律改正によりパート・アルバイトの社会保険の加入条件が変わります。
法定外福利厚生は企業が定めた条件を満たした従業員へ提供する
一方、企業が自由に定められるのが法定外福利厚生です。福利厚生の充実度を高めるという場合、法定外福利厚生の導入を検討することになります。
通勤手当や食事補助・社宅などであれば、要件を満たすことで従業員の税額に影響することなく支給可能です。
企業の特徴や従業員のニーズに合わせて、ユニークな福利厚生を導入している企業もあります。
例えば株式会社アプティの「100円ランチ」「残業食事無料」「おかし無料食べ放題」や、株式会社ゆめみの「野菜支給制度」、株式会社アカツキゲームスの「エンタメ利用補助」、株式会社グラニの「オシャレ手当」などです。
ユニークな福利厚生は企業のアピールにもつながります。求職者が興味を持ちやすく、従業員が求めている制度を導入するとよいでしょう。
関連記事:ユニークな福利厚生や制度のある企業を紹介!導入時のポイントも解説
パート・アルバイトにおすすめ!福利厚生の例
パート・アルバイトの福利厚生を充実させるには、どのような制度を導入するとよいのでしょうか?ここではおすすめの福利厚生の例を紹介します。
通勤手当
通勤手当とは、従業員が職場へ通勤するときにかかる交通費を企業が支給する福利厚生です。支給する条件や金額などは企業が自由に定められます。
「全額支給する」というケースもあれば、「月1万円を上限に支給する」というケースもありますし、「公共交通機関を利用した場合のみ支給する」といったケースもあります。職場の立地によっては、マイカー通勤による通勤手当についても検討が必要です。
また福利厚生は原則として給与として扱われ、従業員の税額に影響します。ただし要件を満たして支給した通勤手当であれば、給与として扱われません。従業員の税負担を増やさずに支給することも可能です。
関連記事:【税理士監修】通勤手当の課税・非課税はどう決まる?旅費交通費との違いもチェック
食事補助
企業が従業員の食事代をサポートするのが食事補助です。食費のサポートとしての側面はもちろん、従業員の健康に経営の側面から考え取り組む健康経営につながる福利厚生としても知られています。
要件を満たして支給すれば、給与として扱われないため、従業員の税負担を増やすことがないのもポイントです。この仕組みを利用して、実質的な手取り額アップにつなげる第3の賃上げにも注目が集まっています。
食事補助の福利厚生サービスを提供するなら、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」がおすすめです。食事補助が非課税となる要件を満たしつつ、少ない手間で導入できます。
利用率98%・継続率99%・従業員満足度93%となっており、導入した企業では多くの従業員が利用しており、満足度も高いサービスです。
関連記事:
食事補助とは?福利厚生に導入するメリットと支給の流れ
“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
特別休暇
リフレッシュ休暇・慶弔休暇・病気休暇・看護休暇など、法律で定められている年次有給休暇以外の休暇制度を導入するのもよいでしょう。
必要なタイミングで気兼ねなく休暇を取れる制度があれば、プライベートとの両立がしやすくなり、育児中や介護中のパートやアルバイトを含め、多くの従業員が働きやすくなるためです。
関連記事:【社労士監修】特別休暇とは?種類や給料の有無、法定有給休暇との違いを解説
保育費補助・託児所設置など
総務省統計局の「労働力調査」によると、2023年にパートやアルバイトを含む非正規雇用の従業員は2,124万人です。このうち男性が約32.1%の683万人、女性が約59.6%の1,441万人となっています。
保育費補助や託児所設置などを行えば、育児中の女性が働きやすくなるでしょう。子どもを預けるのが難しく、就業を諦めていた人材や、子育て中でもより働きやすい職場を探している人材に選ばれる可能性が高まります。
参考:総務省統計局|労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の概要
関連記事:女性が嬉しい福利厚生ランキングをチェック!福利厚生が重要な理由も
資格取得支援・研修制度など
業務に役立つ資格を取得するときに、参考書代や受験費用などをサポートする資格取得支援や、必要な知識・スキルを習得するための研修制度などを提供するのもよいでしょう。
資格取得や研修でパートやアルバイトのキャリア形成を支援できますし、企業にとっては優秀な人材の育成につながります。
社員割引制度
自社の商品やサービスを割安な価格で購入できる、社員割引制度を設けるのもおすすめです。パートやアルバイトがメリットを感じられるのはもちろん、取り扱う自社商品の理解度が高まり業務に活かすことにもつながります。
健康診断
従業員の健康は業務に影響を及ぼすことから、健康経営の考え方を取り入れる企業が増えています。パートやアルバイトが健康に支障をきたせば、新たな人材を採用しなければいけません。
全ての従業員が健康に長く働き続けられるよう、健康診断実施義務の基準に満たない従業員に対しても、健康診断を受ける機会を設けることも重要です。
関連記事:【健康経営を叶える福利厚生11選】福利厚生の種類や健康経営に役立つ福利厚生サービスとは?
パート・アルバイトの定着につながる福利厚生導入のポイント
福利厚生を充実させたからといって、必ずしもパート・アルバイトの定着につながるとは限りません。福利厚生をパートやアルバイトの定着につなげるためのポイントをチェックしましょう。
従業員のニーズに合わせた制度設計
パートやアルバイトの定着を目的として福利厚生を導入するなら、従業員が「利用したい」と考えている制度を取り入れる必要があります。ニーズに合わせた福利厚生を導入できるよう、アンケートを取ったり、ヒアリングしたりするとよいでしょう。
利用しやすい環境づくり
福利厚生の制度が整っていても、実際に利用できなければないのと変わりません。福利厚生を導入したら、従業員が利用しやすい環境づくりにも取り組みましょう。
パートやアルバイトでも特別休暇を取得しやすいよう、上司から休暇の取得について打診する、上司が率先して休暇を取る、といったことが考えられます。
また新たに導入した福利厚生の周知も必要です。どのようなときに利用できるのか、利用するときの手続きはどうすればよいのか、などを分かりやすく伝えることも、福利厚生を利用しやすい環境づくりにつながります。
パート・アルバイトの福利厚生を充実させよう
正社員向けの福利厚生が充実している企業でも、パート・アルバイトに福利厚生は提供していないというケースもあります。スムーズな採用や人材定着・従業員満足度の向上などにつなげるなら、パートやアルバイトへの福利厚生も検討しましょう。
このとき注意が必要なのは、正社員との待遇差です。職務内容や、職務内容・異動の範囲が正社員と同等であれば、パート・アルバイトでも同様の福利厚生を提供しなければいけません。
また職務内容やその範囲などに差がある場合であっても、合理的な待遇差となるよう調整が必要です。
パート・アルバイトへ福利厚生を提供しようと考えているけれど、どのような制度にすればよいか迷っているという場合には、食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」を検討してみてはいかがでしょうか。
従業員満足度93%の福利厚生を導入することで、パート・アルバイトの定着率アップも期待できます。