監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
業績連動型賞与とは支給額が業績に応じて変動する賞与のことです。「基本給の3カ月分」といった賞与とは、どのような違いがあるのでしょうか?メリット・デメリットを解説します。加えて新たに導入する際の設計方法についても見ていきましょう。業績連動型賞与の導入を検討している企業に役立つ内容です。
業績連動型賞与とは何か
業績連動型賞与は企業・部門の業績や、従業員個人の評価によって支給額が決まる賞与制度です。企業の状況によって、賞与の支給額が大きく変動することもあります。
業績連動型賞与の導入企業の割合
日本経済団体連合会の2021年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」によると、業績連動型賞与を導入している企業は、328社中181社で55.2%です。導入企業は2016年から連続で50%を超えています。
加えて規模別では、従業員500人以上の企業は53.6%、従業員500人未満の企業は59.1%が、業績連動型賞与を導入しているそうです。規模によらず半数以上の企業が、業績連動型賞与を取り入れていると分かります。
参考:日本経済団体連合会|2021年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」の概要
業績連動型賞与とその他の賞与との違い
業績連動型賞与は他の賞与とどのように違うのでしょうか?基本給連動型賞与・決算賞与の特徴と、業績連動型報酬との違いを確認します。
基本給与連動型賞与
基本給与連動型賞与とは基本給の金額を基準として、支給額が決まる賞与のことです。「基本給の3カ月分」というように提示されます。支給額が変動するのは、基本給が変わった場合です。
例えば基本給の3カ月が夏と冬の賞与として支給されるとき、基本給が月20万円なら60万円ずつ支給されます。毎年4月に1万円の定期昇給を行っているなら、翌年4月以降の賞与支給額は63万円、翌々年4月以降の賞与支給額は66万円です。
基本給は原則として労働者の同意がなければ下げられないため、基本給連動型賞与は支給額が安定しています。企業にとっては業績が良くても悪くても同程度の金額の現金を用意する必要があり、業績が低下しているタイミングには資金繰りに苦慮することもあるでしょう。
従業員にとっては、支給額が安定しており収入の見通しが立てやすい点がメリットに感じられる反面、頑張りが反映されにくくモチベーション低下につながる恐れもあります。
決算賞与
決算賞与は「特別賞与」「年度末手当」などとよばれることもあります。決算の結果が良好なときに、従業員へ利益を分配する目的で支給される賞与です。
夏や冬に支給される賞与とは異なり、企業の会計年度が終わったあとに支給されます。決算の結果によっては支給されないこともある賞与です。
業績によって支給される金額が変わる点は業績連動型賞与と同じですが、支給する時期や支給額を決める指標が異なります。
決算賞与は要件を満たして支給すると損金として扱えます。法人税の税額を計算するときには課税所得を算出しなければいけません。このときの計算式は「益金-損金」です。損金が多いほど課税所得は少なくなり、法人税の税額も下がります。
従業員にとっては、日々の努力が業績に現れ、その結果として賞与につながるため「頑張りが報われた」と感じられるでしょう。モチベーション向上にもつながる賞与です。
業績連動型賞与の設計方法
業績連動型賞与を設計するときには「導入する目的を明確にする」「業績連動型賞与の指標を決める」「賞与原資の計算方法を決める」「従業員に十分な情報を共有する」という方法で実施します。
それぞれの段階で具体的に何を行うのかを見ていきましょう。
導入する目的を明確にする
まず行うのは、業績連動型賞与を導入する目的の明確化です。現時点でどのような課題があるのか?その課題を解決するために業績連動型賞与が適切な選択なのか?という点を検討します。
「従業員のモチベーション向上につなげたい」と考えているなら、支給額を決めるときには、企業の業績よりも個人の評価を重視する仕組みにした方がよいかもしれません。
また業界が縮小傾向にあるときには、各従業員がこれまでと同じ方向性で頑張っても、業績につながりにくいこともあるでしょう。このような場合には、業績連動型賞与では頑張りが反映されず、従業員のモチベーションを下げる可能性もあります。
自社の状況を客観的に把握し、業績連動型賞与が課題の解決に役立つものなのか、精査した上で導入しましょう。
業績連動型賞与の指標を決める
業績連動型賞与は業績が上がれば支給額が増え、業績が下がれば支給額が減る仕組みです。業績をはかる指標は複数あるため、支給額を決めるためには、まず用いる指標を決めなければいけません。
日本経済団体連合会の2021年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」によると、業績連動型賞与を導入している企業のうち60.2%は営業利益を指標として採用しています。なおその他に含まれる指標としては、株主価値やキャッシュフローなどが挙げられます。
賞与の金額の算出指標 |
割合 |
営業利益 |
60.2% |
経常利益 |
34.3% |
生産高・売上高 |
24.9% |
付加価値 |
5.0% |
その他 |
21.0% |
指標を決めるときには、業績連動型賞与を導入する目的に合致しているかを意識しましょう。例えば売上から仕入れや人件費などの費用を差し引くことで算出できる営業利益を指標にすると、従業員が指標を理解しやすく、モチベーションの向上につながりやすくなることが期待できます。
参考:日本経済団体連合会|2021年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」の概要
賞与原資の算定方法を決める
指標が決まったら、そのうちどのくらいを賞与の支給に充てる賞与原資にするか決めましょう。
1つ目は、経営計画に対し計画通りの業績・計画を上回る業績・計画を下回る業績をシミュレーションし、そこから原資を算定する方法です。
2つ目の方法では、選んだ指標の過去の数値と賞与支給額の実績から、賞与原資を算定します。
従業員に十分な情報を共有する
「基本給の3カ月分」というように、毎回一定以上の賞与を安定して受け取っていた従業員に、業績連動型賞与を導入することを伝えると、最初は反発や混乱を招くこともあるでしょう。
頑張りが業績につながれば今より多くの賞与を受け取れる可能性がある反面、業績次第では今より賞与が減る可能性があるためです。
従業員の反発や混乱を防ぐには、あらかじめ何を指標に賞与の支給額が決まるか、分かりやすく解説しましょう。賞与の支給額の根拠として、指標とした数値が載っている財務諸表を公開するのも有効です。
賞与を100%業績連動型賞与にするのではなく、基本給連動型賞与と組み合わせてもよいでしょう。例えば基本給1カ月分の賞与と業績連動型賞与を組み合わせることで、賞与の支給額の下限が明確になり、従業員の安心につながると期待できます。
業績連動型賞与のメリット
業績連動型賞与には以下の3つのメリットがあります。
- 賞与の過払い回避
- 明確な根拠のある支給が可能
- 従業員のモチベーション向上
詳しく見ていきましょう。
賞与の過払い回避
基本給連動型賞与は常に賞与の支給額が安定しています。業績が悪化し赤字でも、従業員に賞与を支給しなければいけません。保有している現金で賞与の支給額を賄えない場合には、借り入れや資産の売却など、現金を確保するための対策が必要です。
一方、業績連動型賞与は、業績が悪ければその分賞与の支給額も下がります。企業のそのときの経営状況に応じて支給額が変わるため、賞与の過払いにより保有している現金が減ることや、資金繰りのために借り入れを行う必要がありません。
明確な根拠のある支給が可能
業績連動型賞与を導入すると、賞与の支給額の根拠が明確になります。従業員へ支給額を算定するための根拠についても伝えておけば、支給額に対する納得感を得られやすいでしょう。
基本給が実力や仕事量に見合っていないと感じている従業員が多い場合や、人事評価がブラックボックス化している企業では、支給額の透明性を高めることで、公平公正な制度作りに役立ちます。
従業員のモチベーション向上
日頃の頑張りが業績の向上につながったとき、業績連動型賞与を導入している企業では、賞与の支給額が上がります。従業員の頑張りが、賞与という形で認められる仕組みです。
頑張っただけ評価につながり、賞与の支給額が増える環境では、従業員は仕事に積極的に取り組むようになるでしょう。これまでのやり方を続けるのみならず、さらに業績アップを目指せるよう、工夫をし始めることも期待できます。
仕事へのモチベーションが高い従業員が増えることで、さらなる業績アップを目指しやすくなるでしょう。
業績連動型賞与のデメリット
企業の資金繰りや公平公正な制度作りに役立ち、従業員のモチベーション向上にも役立つ業績連動型賞与には、デメリットもあります。3つのデメリットをチェックしましょう。
現預金が不足するリスク
企業によっては業績が大きく変動するタイミングもあるでしょう。このとき業績連動型賞与を導入していると、賞与を支給するための現預金が不足する可能性があります。
例えば、業績が振るわなかった翌期に大口案件を受注した場合です。大きな売上が立ち、業績アップにつながったとしても、すぐに売掛金を回収できるわけではありません。大口案件の入金までに賞与の支給日が到来した場合、保有している現預金のみでは賞与の支給額が不足する恐れがあります。
足りない現金は借り入れや資産売却などで工面しなければいけません。タイミングや不足する金額によっては、経営状況が一気に悪化するリスクもあるでしょう。資金繰りに注意が必要です。
従業員の不満が募る可能性
業績の良し悪しを賞与の支給額に反映する業績連動型賞与は、従業員の不満につながる可能性があります。支給額が不安定になり、ときにはなくなることも起こり得るためです。
また携わっている業務によっては、頑張りが業績に反映されにくいケースもあるでしょう。個々の従業員や部署は頑張っていても、全体で業績が悪化しているため賞与の支給額が下がるというのでは、不満に感じる従業員が出てきてしまいます。
例えば経理や庶務などバックオフィスの業務に携わっている従業員の仕事は、業績アップにつながりません。このような場合には、部署ごとの指標を設けるとよいでしょう。庶務であれば全体の業績に加え、庶務で管理する消耗品にかかる費用の削減割合を考慮して賞与の支給額を決めるという具合です。
情報漏えいが起こる可能性
業績連動型賞与を導入すると、指標の説明や賞与の支給額の根拠を提示するために、財務諸表をはじめとする企業の資料を従業員へ公表する必要があります。
中小企業の中には、これまで自社の情報を公開していないケースもあるでしょう。公表する情報が従業員から外部へ漏れると、企業にダメージを与えるかもしれません。
公表すべき情報とそうでない情報を精査し、情報漏えいのリスクを回避する視点が必要です。
業績連動型賞与の注意点
業績連動型賞与を導入したからといって、必ずしも従業員のモチベーション向上につながるとは限りません。業績連動型賞与だからこそ必要な注意点も出てくるでしょう。
従業員のモチベーションを損なわない工夫を行う
頑張りが賞与として形になる業績連動型賞与は、従業員のモチベーション向上に役立つ制度です。ただし特定の従業員の成果が上がっていても、企業全体の業績が悪化しているときには、頑張りを賞与の支給額に反映できない可能性があります。
このとき個人の業績が前期よりも上がった従業員は「頑張ったのに賞与が前より少ない」と感じるかもしれません。このような状態が続けば、仕事へのモチベーションが下がる恐れがあります。
モチベーションの低下を避けるには、全体の業績だけでなく、個人の業績も賞与へ反映する仕組みを作るとよいでしょう。
賞与引当金は最新の予算数値で見積もる
賞与の支給額は大きな金額のため、賞与引当金を設定し前期のうちに用意します。この賞与引当金と実際に翌期に支給した賞与額に大きな差があると、会計監査のときに処理誤りを指摘される可能性があります。
業績連動型賞与では、支給額が大きく変動することも考えられるため、特に注意が必要です。このような事態の発生を避けるには、最新の予算数値で賞与の支給額の見積金額を出しましょう。
従業員のモチベーション向上には福利厚生も有効
従業員のモチベーション向上には、福利厚生の充実度アップも役立ちます。福利厚生によって働きやすさが高まりますし、企業が従業員の待遇改善に務めている姿勢も示せます。
こちらで紹介するのはエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。食事補助を提供できる福利厚生サービスの詳細を解説します。
食事補助で利益を還元できる
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を導入すると、従業員へ食事補助を提供可能です。毎日のランチにかかる費用を企業がサポートすることで、従業員が自由に使えるお金を増やせます。
給与や賞与以外で利益を従業員に還元できる方法です。
全従業員が公平に使える
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を使うと、全国にある25万店舗の加盟店で食事を購入できます。
全国展開している大手コンビニやファミレスでも利用できるため、全国どこでも使う場所を問いません。オフィスに出社していても、自宅でリモートワーク中でも、出張先で打合せの合間にも、同じように使えます。
企業にもメリットがある
従業員の使いやすさはもちろん、企業にもメリットが大きいのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」の魅力です。
契約から導入までは1カ月ほどで、契約後に届くICカードを従業員に配れば導入時の作業が完了します。その後必要な作業は、月に1回のチャージのみです。
またかかった費用を福利厚生費として計上できるため、法人税の計算時には損金にできます。その分課税所得が下がるため、法人税額が少なくなります。
業績連動型賞与を従業員のモチベーション向上につなげよう
業績連動型賞与は従業員の頑張りを賞与の支給額に反映できる制度です。設定した指標について、従業員に丁寧に説明することで、透明性の高い制度を設計できます。
日々の頑張りが賞与の支給額につながるため、仕事に対するモチベーション向上を期待できる点や、賞与の過払いを回避できる点がメリットです。
従業員のモチベーション向上が業績連動型賞与の導入目的なら、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」の導入も検討してみませんか。食事補助サービスの提供により、従業員への利益還元や、可処分所得の増加などにつなげられます。
導入や運用の手間がかからず、費用を損金算入できるため、企業にもメリットのあるサービスです。