監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
年収の壁が今後どうなるのかは未定です。ただし、高市政権で2025年内の見直しと制度設計の取りまとめを明言していることから、スピード感のある変化が予想されます。ここではまず、Q&A方式で今後の年収の壁に関する質問をチェックしましょう。その上で、2025年の年末調整に関わる年収の壁を解説します。
今後の年収の壁についてよくある質問
年収の壁とは、住民税・所得税・社会保険料などの負担がかかり始めることで、給与が増えているにもかかわらず手取り額が減る可能性のある年収のことです。手取り額を減らさないために、就業調整を行うパートやアルバイトは少なくありません。
年収の壁は、106万円・110万円・130万円など複数あることも押さえておく必要があります。ここでは今後の年収の壁について、よくある質問をチェックしましょう。
年収の壁変更・撤廃はいつから?
2025年から変更されるのは、所得税が課税され始める103万円の壁です。2025年度の税制改正により、給与所得控除と基礎控除が引き上げられたことで、所得税がかかり始める年収は160万円となりました。
また従業員51人以上の企業で勤務するパートやアルバイトが一定の要件を満たすと、勤務先で社会保険に加入し始める106万円の壁は、2026年10月から撤廃される予定です。
関連記事:【税理士監修】103万円の壁は廃止?いつから変わる?最大160万円への引き上げを解説
2025年の年収の壁はいくら?
2025年の税制改正によって、年収の壁は以下のようになりました。
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年収の壁 |
発生する負担 |
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106万円の壁 |
社会保険への加入 ※勤務先が従業員51人以上など条件を満たすとき |
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110万円の壁 |
住民税の課税 |
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130万円の壁 |
国民健康保険・国民年金保険への加入 ※勤務先が従業員50人以下のとき |
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160万円の壁 |
所得税の課税・配偶者特別控除額が減り始める |
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201万円の壁 |
配偶者特別控除がなくなる |
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150万円の壁 |
新設された特定親族特別控除の控除額が減り始める |
関連記事:【税理士監修】【最新】扶養控除はどう変わる?令和7年度税制改正での変更点をチェック
年収の壁は今後も変わる?
2025年10月に成立した高市政権では、2025年内に所得税の基礎控除をインフレの進行具合に応じて見直し、制度設計を取りまとめることを明言しました。この見直しによって年収の壁は、今後より素早く変わっていく可能性があります。
撤廃や変更があった年収の壁を解説
まずは2025年度の税制改正で、廃止や変更となった年収の壁を見ていきましょう。
所得税が課される年収は103万円から160万円に
所得税が課され始めるのは、もともと103万円を超えてからでした。所得を計算するときに差し引かれる給与所得控除の最低金額が55万円、総所得額から差し引ける基礎控除が48万円で、この合計額103万円までは所得が0円となり課税されないためです。
この103万円の壁は、2025年度の税制改正で変更されました。新たに、給与所得控除の最低金額は65万円に、基礎控除は総所得金額132万円以下であれば95万円に引き上げられています。この合計額である160万円が、所得控除がかかり始める新たな年収の壁です。
関連記事:【税理士監修】103万円の壁は廃止?いつから変わる?最大160万円への引き上げを解説
参考
:国税庁|No.1410 給与所得控除
:国税庁|No.1199 基礎控除
勤務先で社会保険に加入する106万円の壁は撤廃予定
年収が106万円を超えると、パートやアルバイトで働く従業員は、配偶者や親の扶養を抜けて自身の勤務先で社会保険へ加入する必要があります。
社会保険料の負担が増えて、手取り額が下がるのを避けるために、就業調整を行う人が増える年収の壁です。
2025年10月時点では、以下の条件を満たしていると、年収106万円を超えたときに勤務先で社会保険に加入しなければいけません。
- 従業員51人以上の企業に勤務している
- 年収106万円(月8万8,000円)を超えている
- 週20時間以上勤務している
- 2カ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
ただし2026年10月には、この要件のうち「年収106万円(月8万8,000円)を超えている」が撤廃される予定となっています。最低賃金の大幅な引き上げが続く中、週20時間働くと、給与が月8万8,000円を超える地域が増えているためです。
加えて企業規模要件「従業員51人以上の企業に勤務している」も段階的な廃止が予定されています。
このような取り組みにより、社会保険に関する年収の壁はなくなっていく見込みです。
関連記事:【税理士監修】106万円の壁撤廃はいつから?撤廃でどうなるか影響を解説
参考
:厚生労働省|社会保険適用拡大特設サイト|事業主のみなさま
:厚生労働省|社会保険の加入対象の拡大について
配偶者特別控除に関係する年収の壁は条件を引き上げ160万円の壁・201万円の壁に
2025年度の税制改正によって基礎控除額が変わり、同一生計配偶者の定義が変わったことで、所得税制の扶養基準が103万円から123万円になりました。これに伴い、配偶者控除の適用要件が年収123万円以下になっています。
またこの影響から、配偶者特別控除を満額受け取れる年収の条件も150万円から160万円に引き上げられました。新たな税制では年収160万円を超えると配偶者特別控除が減り始めます。
また201万円の壁は、これを超えると配偶者特別控除が0円になる年収の壁です。年収160万円を超えてから段階的に減ってきた配偶者特別控除が、年収201万円を超えるとなくなります。
関連記事:【税理士監修】配偶者控除は共働き正社員も受けられる!家計を守る制度活用法
学生アルバイトの扶養者が対象の特定親族特別控除新設により生まれた150万円の壁
特定親族特別控除の新設によって、学生アルバイト(19歳以上23歳未満)が年収150万円まで働いても、学生を扶養している親が受けられる控除額が減らず、世帯の手取り年収に影響を及ぼさないこととなりました。
ただし学生アルバイトの年収が150万円を超えると、段階的に控除額が減っていきます。
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特定親族の収入金額 |
特定親族特別控除額 |
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123万円超150万円以下 |
63万円 |
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150万円超155万円以下 |
61万円 |
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155万円超160万円以下 |
51万円 |
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160万円超165万円以下 |
41万円 |
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165万円超170万円以下 |
31万円 |
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170万円超175万円以下 |
21万円 |
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175万円超180万円以下 |
11万円 |
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180万円超185万円以下 |
6万円 |
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185万円超188万円以下 |
3万円 |
関連記事:【税理士監修】150万円の壁|学生アルバイトは扶養のまま収入増!残課題も
参考:国税庁|令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A
年収の壁対策として企業ができること
パートやアルバイトが年収の壁を意識せずに、自分の希望に合わせた働き方ができるようになるには、企業による対策も必要です。
企業にできる「年収の壁」対策には「年収の壁・支援強化パッケージ」の活用があります。キャリアアップ助成金を利用して、新たに社会保険へ加入することとなった従業員の手取り額が減らないようにしたり、事業者の証明による被扶養者認定を行ったり、自社の配偶者手当を見直したりするとよいでしょう。
ここでは「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」の制度内容を紹介します。
関連記事:【税理士監修】年収の壁・支援強化パッケージとは?政府の狙いや条件を解説
「キャリアアップ助成金」社会保険料の負担をサポート
自社のパートやアルバイトが社会保険へ加入するときに、必要な条件を満たしていると利用できるのが「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」です。
106万円の壁を意識して働いているパートは、年収106万円を超えたときに手取り額が減少することを気にしているケースが多いでしょう。そこで年収106万円を超えてもすぐには手取り額が減らないようにするために設けられた助成金です。
社会保険料相当額を上限に、企業が社会保険適用促進手当を支給すると、従業員1人につき最大50万円の支援を受けられます。また労働時間の延長によって社会保険を適用させる場合には、従業員1人につき最大30万円の助成額です。
社会保険適用促進手当の支給と労働時間の延長を組み合わせる併用メニューもあります。この場合には従業員1人につき最大50万円を受け取れる仕組みです。
加えて助成金を受け取るには、取り組みを開始する前日までに、管轄の労働局へキャリアアップ計画書を提出しておかなければいけません。
関連記事:【社労士監修】年収の壁対策はキャリアアップ助成金を活用!待遇改善に役立つ福利厚生も
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)
今後も変化が見込まれる年収の壁に注目!
高市政権では、年収の壁について2025年内の見直しと制度設計の取りまとめを明言しています。さらに日本維新の会と国民民主党は、年収の壁引き上げに向けて協力していくことで一致しました。
このような状況から、年収の壁に関係する制度は、今後ますます変わっていくことが予想されます。自社のパートやアルバイトの働き方や、必要な手続きの変化なども考えられるため、今後の動きに注目しておくとよいでしょう。
また年収の壁にとらわれることなく、希望するペースで働ける環境を整えるには、キャリアアップ助成金の活用が有効です。
また一定の条件下で導入すると、所得税の非課税枠を活用できる福利厚生を導入すれば、年収の壁に影響することなく待遇改善に取り組めます。例えばエデンレッドジャパンの提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」がおすすめです。実質的な手取りアップにつながる福利厚生の活用も検討してみませんか。
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エデンレッドジャパンブログ編集部
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