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【社労士監修】130万の壁はなくなる?いつから?2025年制度変更の要点

【社労士監修】130万の壁はなくなる?いつから?2025年制度変更の要点

2025.10.22

監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)

「130万円の壁がなくなる」という情報を見聞きして、いつから変更されるのか気になっている人事・労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
結論として、130万円の壁は現時点でなくなる予定はありません。混同されているのは「106万円の壁」です。本記事では、この誤解されがちな制度の違いを整理し、企業が押さえるべき対応のポイントを説明します。

130万円の壁とは

「130万円の壁」とは、年収が130万円を超えると社会保険の扶養から外れるボーダーラインです。年収130万円を超えた場合、配偶者や親の社会保険の被扶養者から外れ、自分で社会保険料を負担する必要があります。

勤務先で社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入できない場合は、国民健康保険と国民年金に加入することになります。

原則:106万円の壁撤廃後も130万円の壁は「なくならない」

2025年時点で130万円の壁が廃止される予定はありません。重要なのは、106万円の壁(月収要件)が廃止されても、130万円の壁は残ることです。

「130万円の壁がなくなる」という情報が広がる背景には、「106万円の壁」との混同があります。この2つの壁は、どちらも社会保険に関係しますが、まったく異なる制度です。

特例:被扶養者認定における収入要件緩和(19歳~22歳の学生において)

2025年10月1日以降に被扶養者認定を受ける19歳以上23歳未満の方については、社会保険の扶養認定における年収基準が130万円から150万円に引き上げられました。150万円以上で親などの社会保険の適用から外れます。

対象となる学生:

  • 19歳以上23歳未満(アルバイトの大学生など)
  • 親の社会保険の被扶養者
  • 2025年10月1日以降に扶養認定を受ける方(9月30日までに扶養認定を受けた場合も含む)

この措置は、大学生のアルバイト収入が増加している実態を踏まえたものです。学業と両立しながら働く学生が、「年収130万円」を意識して働き控えをする必要がなくなります。学業とアルバイトを両立する大学生に限っては、社会保険の扶養基準が150万円に引き上げられたことになります。

出典:日本年金機構|19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります

「106万円の壁」と「130万円の壁」との違い

現在の2つの壁について、違いを下表に整理します。

項目 106万円の壁 130万円の壁
対象 一定要件を満たす短時間労働者 すべての被扶養者
企業規模要件 従業員51人以上の企業等 就業要件なし
労働時間要件 週20時間以上 就業要件なし
収入要件 月額8.8万円以上 年収130万円以上(※)
今後の予定 月収要件は撤廃予定、企業規模要件については段階的に縮小・撤廃 変更予定なし

※60歳以上または障害者については180万円未満  19歳〜22歳の学生については、2025年10月以降150万円が基準となります。

106万円の壁130万円の壁と混同に注意

2025年の年金制度改正前における106万円の壁は、以下のすべての要件を満たす場合に社会保険への加入義務が発生する制度です。

  • 企業規模:従業員数51人以上(2024年10月から)
  • 労働時間:週の所定労働時間20時間以上
  • 月収:月額8.8万円以上(年収換算で約106万円)
  • 雇用期間:2か月超の見込み
  • 学生:原則学生は対象外

制度改正により、106万円の壁における「月収8.8万円以上」という要件が廃止されることが決まり、年収106万円の壁がなくなることに決定しました。

106万円の壁がなくなることが伝えられる中で、130万円の壁と混同されてしまうケースがあるようです。

106万円の壁の廃止はいつから?

では、社会保険の加入ラインとなる「106万円の壁」がいつからなくなるのでしょうか。

106万円の廃止のスケジュール

2025年6月に成立した年金制度改正法により、以下のスケジュールで変更が行われます。

月収要件(8.8万円以上)の廃止

厚生労働省によると、撤廃の時期は法律の公布日(2025年6月20日)から3年以内とされています。具体的には、地域別最低賃金の最低額が全国で1,016円以上となった時点で廃止されます。最低賃金が1,016円になると、週20時間以上の労働で月収8.8万円を上回るため、月収要件の意味がなくなるためです。

例年、地域別最低賃金は例年10月頃に改定されます。2025年の最低賃金の地域別最低額は1,023円でした。今後、具体的な廃止時期が議論され、決定される見込みです。

※注意

賃金の要件廃止前であっても、従業員数51人以上の企業等で、週20時間以上、時給1,016円を上回って働いている場合、賃金の要件を満たし、社会保険に加入することになります。

出典:厚生労働省|年金制度改正法が成立しました|厚生労働省
出典:厚生労働省|全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました
出典:首相官邸|「年収の壁」対策

企業規模要件(51人以上)の撤廃

企業規模要件については、2027年10月以降に対象が段階的に拡大し、2035年10月に完全撤廃されます。

時期 対象となる企業の従業員数
〜2027年9月まで 51人以上
2027年10月 36人以上
2029年10月 21人以上
2032年10月 11人以上
2035年10月 10人以下の企業

出典:厚生労働省|年金制度改正法が成立しました|厚生労働省

「106万円の壁」廃止後はどうなる?

月収要件が廃止されると、従業員51人以上の企業で週20時間以上働く場合、賃金額にかかわらず社会保険に加入することになります。これまで「月収8.8万円未満だから社会保険に入らなくてよい」としていた短時間労働者も、加入対象です。

一方、従業員50人以下の企業で働く場合は、企業規模の要件が適用され、2035年までの間は段階的に106万円の壁の適用対象外です。この場合、従来通り年収130万円が社会保険の扶養から外れる基準となります。

130万円の壁・106万円の壁を超える従業員への支援策

政府は、年収の壁を超えても手取り収入を減らさないための取り組みを実施する企業に対して、助成金を支給しています。

130万円の壁への対応

キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)

政府は、令和7年7月より、年収130万円程度のパート・アルバイトの方が社会保険に加入する際、手取り収入が減らないための取り組みを実施する企業へ新しい支援を行っています。キャリアアップ助成金の「短時間労働者労働時間延長支援コース」が該当し、労働者一人あたり最大75万円の助成を受けられます。

手取り収入維持のための取り組み例:

  • 賃上げによる基本給の増額
  • 所定労働時間の延長

出典:厚生労働省|年収の壁対策 労働者1人につき最大75万円助成します!

事業主の証明による被扶養者認定継続(原則連続する2年間まで)

また、パート・アルバイト従業員が繁忙期の就労で一時的に収入が上がった場合、事業者の証明があれば引き続き扶養認定される制度も引き続き活用できます。ただし、原則連続する2年間まで適用できます。

出典:首相官邸|「年収の壁」対策|首相官邸
出典:厚生労働省|パート・アルバイトで働く「130万円の壁」でお困りの皆さまへ
出典:協会けんぽ|事業主の証明による被扶養者認定Q&A

106万円の壁への対応

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)

新たに社会保険適用となる労働者がいる企業が手取り増加となる取り組みを実施した場合、労働者一人あたり最大50万円を助成します。

対象となる取り組み:

  • 社会保険適用促進手当の支給(社会保険料の算定対象外)
  • 賃上げによる基本給の増額
  • 所定労働時間の延長

これらの助成金を活用することで、従業員が壁を意識せず働ける環境を整備できます。

出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)

社会保険上の年収の壁で企業が今気を付けること

企業が意識したい社会保険上の壁対策のポイントを整理します。

1. 従業員へ正確な情報を提供

「130万円の壁がなくなる」という誤った情報を聞いて不安な従業員もいるでしょう。企業として、正確な情報の説明が重要です。

  • 原則として、130万円の壁は現時点でなくならない
  • 106万円の壁(月収要件)が廃止される予定
  • 労働時間(週20時間以上)の条件は維持
  • 19歳~22歳の学生は150万円、60歳以上または障害者は180万円が基準
  • 一時的な収入増への対応措置がある

上記のポイントを押さえ、正しい情報を整理して伝えましょう。

2. 106万円の壁廃止に向けた準備

従業員51人以上の企業等では、月収要件が今後段階的に廃止される予定です。廃止後は週20時間以上働く従業員が社会保険の加入対象となるため、現時点で月収8.8万円未満のため社会保険未加入となっている従業員をリストアップしておきましょう。

対象従業員数を把握したら、企業負担分の社会保険料がどれくらい増加するかを試算します。人数によっては大きな負担増となるため、予算への反映も必要です。新規採用やシフト変更により、今後対象者が増える可能性も考慮しておきます。

3. 一時的な収入増の証明書発行に対応

繁忙期などで従業員の収入が一時的に130万円を超える場合、事業主が「一時的な収入増である」ことを証明する書類を発行が必要となるケースがあります。

この証明書は、従業員がその家族が加入している健康保険組合に提出するものです。依頼があった際は円滑に対応できるように準備をしておきましょう。

4.従業員へのメリットを丁寧に説明

社会保険に加入すると、保険料負担が発生しますが、長いスパンでは次のメリットがあります。従業員が制度を前向きに受け止められるよう、制度内容を丁寧に説明することが大切です。

年金におけるメリット

社会保険加入により、以下のような手厚い保障が受けられます。

  • 国民年金のみより「国民年金+厚生年金の方」が受給額が多くなる
  • 老後の生活保障が手厚くなる
  • 障害への備えができる
  • 亡くなった場合、家族が遺族年金を受け取れる

医療保険におけるメリット

医療保険へ加入するメリットは、病気やけが、出産において手当が支給されることです。

  • 傷病手当金が受けられる
  • 出産手当金が受けられる

年収の壁に関してよくある質問

社会保険に関係する年収の壁について、よくある質問をまとめます。

Q1:130万円の壁は本当になくなるのですか?

A:いいえ、130万円の壁は現時点でなくなる予定はありません。混同されているのは106万円の壁(月収要件の廃止)です。

Q2:106万円の壁はいつ廃止されますか?

A:月収要件は2025年6月20日から3年以内に廃止予定です。2025年の最低賃金がすでに条件を満たしているため、今後具体的な時期が決定されます。

Q3: 学生の場合、130万円の壁はどうなりますか?

A:19歳〜22歳の学生については、2025年10月1日以降は150万円が基準となります。

関連記事:【税理士監修】150万円の壁とは?なくなる壁はどれでいつから?2025年改正を解説

Q4:ダブルワークの収入はどう計算しますか?

A:すべての勤務先の収入を合算します。

Q5:一時的に130万円を超えた場合はどうなりますか?

A:人手不足による労働時間延長に伴う一時的なものである場合、事業主の証明があれば、連続する2年間まで扶養を継続できます。

正しい理解で従業員の不安を解消

「XXX万円の壁がなくなる」といった情報は、従業員の不安を高める可能性があります。企業は正確な情報を提供し、従業員が安心して働ける環境を整えることが重要です。

130万円の壁については、パート・アルバイト従業員にとって、現時点でなくなることはありません。ただし19歳〜22歳の学生は2025年10月以降、150万円までが新たな壁の基準となります。

制度が複雑化する中、従業員が安心して働ける環境づくりの一環として、福利厚生の充実も有効です。

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社会保険労務士 吉川明日香

社労士と民間企業の人事部で働くハイブリッド型社労士。労働者、経営者、人事担当者それぞれの視点から、バランスのとれたサポートを心がけています。子育て世代の生活環境や就業環境の課題を探るために保育士の資格を取得し、特定の専門分野を作らず、給与計算、手続き業務、労務相談、助成金等、幅広く実践的なアドバイスを行っています。
吉川社会保険労務士事務所
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