監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
2025年6月1日、労働安全衛生規則の改正により、熱中症対策が事業者の義務となりました。これにより、WBGTや気温の条件に該当する作業では、体制整備や対応手順の策定、関係者への周知が求められます。本記事では、制度の詳細や背景・対象条件・実務上のポイントなど、熱中症対策の義務化について企業が知っておきたい情報を分かりやすく解説。対応のヒントとなる福利厚生の導入事例も紹介しています。
「熱中症対策の義務化」とは
2025年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行されました。これは、企業(事業者)に対し、一定の条件下での作業について、熱中症対策の実施を義務付けるものです。以下、改正労働安全衛生規則の詳細をまとめました。
参考:厚生労働省|労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について
参考:厚生労働省|職場における熱中症対策の強化について
参考:e-Gov 法令検索|労働安全衛生規則|第612条の2
対象となる作業の条件
熱中症対策が義務となる作業の条件は、以下のとおりです。
| 「WBGT※28度以上」または「気温31度以上」の環境下において、「連続1時間以上」または「1日4時間を超えて実施が見込まれる」作業 |
※WBGT(湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature):「湿度」「日射・輻射(ふくしゃ)」「気温」を加味した熱中症のリスク指標。いわゆる「暑さ指数」
事業者に義務付けられる3つの対応
熱中症対策の義務化では、次の3つの措置が事業者に求められます。
| ①早期発見のための体制整備 ②重篤化防止のための手順作成 ③上記①②について関係作業者への周知 |
これにより、現場での迅速な異常検知と適切な初期対応が可能になります。厚労省は「見つける・判断する・対処する」を基本姿勢としており、作業者の健康を守る仕組みが企業に求められるようになりました。
義務違反に対する罰則とは
今回の義務化は単なる努力義務ではありません。違反した場合には、以下の罰則が課される可能性があります。
| 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(労働安全衛生法第119条) |
罰則の対象になったことにより、企業の安全衛生管理体制における重要性がさらに高まりました。
熱中症対策が義務化されたのはなぜ?
熱中症対策の義務化の背景には、近年の職場における熱中症を原因とした死亡災害の多発があります。
職場における熱中症の致死率は高く、死亡に至る割合が他の要因の実に5〜6倍です。
2020年(令和2年)〜2023年(令和5年)にかけて、職場における熱中症を原因とした死亡災害は103件発生しました。このうち大半となる100件において、初期症状の放置や対応の遅れがあったことが分かっています。
実際に、2022年(令和4年)・2023年(令和5年)の2年間、それぞれ30件規模で職場における熱中症を原因とした死亡災害が発生しました。
さらに詳しく見てみると、この100件のうち「発見の遅れ(重篤化した状態で発見)」は78件・「異常時の対応の不備(医療機関に搬送しない等)」は41件でした(一部重複あり)。
こうした実態が明らかになるとともに、熱中症への事前の備えと初期対応体制の整備の重要性が広く認知され、具体的な対策として今回の義務化へと至ったのです。
企業に求められる熱中症対策
法改正により、各事業者は熱中症に対する明確な義務を負うことになりました。基本方針は「見つける→判断する→対処する」のステップで、具体的な義務として「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」の3点が定められています。ここでは、各項目の詳細を分かりやすく解説します。
参考:厚生労働省|職場における熱中症対策の強化について
参考:厚生労働省|労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について
体制整備
早期発見に向けた「体制整備」は、異常の見逃しを防ぐ仕組みづくりです。具体的には、WBGT値の定期測定や健康観察のルール化、体調チェックの記録様式の整備が該当します。
加えて、従業員が異常を訴えやすい職場の雰囲気づくりも欠かせません。また、責任者・衛生管理者が現場の状況を把握する仕組みや、異常を見つけた際の通報ルート(インカムやグループチャットなど)の構築も重要です。
これらを整備することによって、「深刻な事態に陥る前に見つける」ことが可能な現場の基盤が整います。
手順作成
「判断・対処」に関わる手順作成では、熱中症の疑いがある場合に、誰が、どの段階で、どのように対応すべきかを具体的に定めます。連絡の流れや医療機関への搬送基準などを明文化し、関係者が即座に対応できるようにすることが大切です。
そのためには、手順を分かりやすく掲示したり、持ち運べる形式で配布したりする工夫も重要です。さらに、実際の現場で迷わず行動できるよう、定期的な訓練や事例に基づいた共有を行うことで、対応力の定着を図ります。
関係者への周知
整備した体制や手順は、現場で働くすべての人(正規雇用の従業員・アルバイト・派遣・請負等)に正しく伝わっていなければ意味がありません。そのためには、作業前ミーティングや朝礼での口頭共有・作業現場への掲示・持ち帰り可能な資料の配布など、多面的な周知方法が必要です。
また、熱中症対策に不慣れな新しい従業員や外国人労働者にも伝わるよう、多言語対応や図解入りの資料を用意することも推奨されます。
さらに、定期的な安全教育の場で、対策の理解度を確認する研修や小テストを実施することで、実際に行動に移せる知識として定着させることが重要です。
「伝えた」で終わらせず「本当に伝わっているか」の検証まで含めた対応が求められます。
熱中症対策|対象となる業種には何がある?
熱中症対策の義務化の対象となるのは、屋外作業だけではありません。「気温31度以上またはWBGT28以上の環境下で、1時間以上または1日4時間を超えて行われる作業」に該当すれば、空調のない屋内作業等も対象です。
以下、あくまでも参考ですが、該当する可能性が高い職種をまとめました。
| 建設業・製造業・運送業・農林水産業・警備業・清掃業・設備保守業など |
なお、小規模事業所や個人事業主も対象になるため、業種・事業規模にかかわらず対応が必要です。
職場の熱中症を防ぐには?
熱中症による死亡災害を防ぐには、制度的な義務対応に加え、日々の現場での実践的な対策が欠かせません。特に重要なのは「熱中症のサインの周知」と「適切な対策の実施」です。詳しく見ていきましょう。
熱中症のサインを周知する
厚労省は「いつもと違うと思ったら熱中症を疑え」という指針を掲げています。これは、熱中症が突然重篤化する可能性があるため、軽い異変にもすぐに対応する必要があるという意味です。
| 自覚症状 | めまい・立ちくらみ・筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り)・手足がつる・頭痛・不快感・吐き気・倦怠感・高体温・汗が止まらない・汗が出ない |
| 他覚症状 | ふらつき・生あくび・失神・大量の発汗・痙攣・イライラしている・呼びかけに反応しない・ボーッとしている |
熱中症の初期症状には、「何となく体調が悪い」「すぐに疲れる」といった、つい見過ごしてしまうような軽微なものも含まれます。
重篤化を未然に防ぐために必須の知識として、各従業員へ丁寧に周知することが大切です。
適切な熱中症対策をおこなう
厚生労働省は、職場における熱中症予防の取り組みとして「WBGT値の活用」と「熱中症予防対策」の2つを掲げています。
WBGT値(暑さ指数)の活用
WBGT値(暑さ指数)の活用は、上記の表に基づき、「身体作業強度」と「WBGT基準値」とを比較して行います。
基準値を超える場合には、以下の対策を講じます。
・冷房等の使用によりWBGT基準値の低減を図る
・身体作業強度(代謝レベル)の低い作業へ変更する
・WBGT基準値より低いWBGT値である作業場所での作業へ変更する
熱中症予防対策
WBGT値(暑さ指数)の活用に準じた対策を講じ、それでも基準値を超える場合には、以下に挙げる「熱中症予防対策」を行います。
| 熱中症対策の主な項目 | 詳細 |
| 作業環境管理 | 1.WBGT値の低減等 2.休憩場所の整備等 |
| 作業管理 | 1.作業時間の短縮等 2.暑熱順化 3.水分及び塩分の摂取 4.服装等 5.作業中の巡視 |
| 健康管理 | 1.健康診断結果に基づく対応等 2.日常の健康管理等 3.労働者の健康状態の確認 4.身体の状況の確認 |
| 労働衛生教育 | 1.熱中症の症状 2.熱中症の予防方法 3.緊急時の救急処置 4.熱中症の事例 |
特に、熱中症リスクがある現場において、水分及び塩分の補給は欠かせません。
雇用者は、こまめな休憩時間の確保や、食事補助等を通じた経済的なサポートを通じ、従業員一人ひとりが無理なく水分・塩分の補給ができる環境を整備する必要があります。
食事補助を通じて熱中症予防を実践している事例
熱中症リスクの高い業務を行う企業の中には、福利厚生として食事補助を導入し、水分や塩分の補給をサポートしているケースが少なくありません。ここでは、食事補助の福利厚生として日本一の実績を持つ「チケットレストラン」を活用し、熱中症予防に生かしている事例を紹介します。
【建設業】ジビル調査設計株式会社
福井県内の道路・橋梁などの社会インフラの整備・保全に関わる設計および点検業務を手掛ける「ジビル調査設計株式会社」では、現場作業員にのみ夏場の熱中症対策としてドリンクが支給される不公平感を解消し、全従業員が平等に利用できる福利厚生として「チケットレストラン」を導入しました。
導入後、「チケットレストラン」ともともと導入していた夏場のドリンク支給との相乗効果により、労働環境の改善を実感されているそうです。さらに、職場内でのランチコミュニケーションも増え、従業員同士の交流の活性化にも寄与しているとのことでした。
▼「ジビル調査設計株式会社」の詳細な導入事例はこちら
【サービス業】功和警備保障株式会社
京王線沿線を中心に、建設現場や道路工事などの交通誘導警備を担う「功和警備保障株式会社」では、従来「警備する現場での就労が多いため、置き型の社食サービスや宅配弁当では全従業員がカバーできない」との課題がありました。
その点、全国25万店舗以上の加盟店が利用できる「チケットレストラン」であれば、現場の近くのコンビニや対応機種の自動販売機で飲料を購入できます。
導入後は、対応する自動販売機を利用したり、コンビニのアイスを購入したりと、熱中症対策としても活用されているそうです。
▼「功和警備保障株式会社」の詳細な導入事例はこちら
「チケットレストラン」とは|3,000社以上が導入する食事補助の福利厚生
エデンレッドジャパンが運営する「チケットレストラン」は、従業員のランチ代を補助する食事補助の福利厚生サービスです。導入した企業の従業員は、全国25万店舗を超える加盟店での食事を実質半額で利用できます。
加盟店のジャンルは、コンビニ・ファミレス・三大牛丼チェーン店・カフェなど幅広く、利用する人の年代や嗜好を問いません。また、勤務時間中にとる食事の購入であれば、利用する場所や時間に制限がないのも大きな魅力です。
さらに、一定の条件を満たすことによって所得税の非課税枠を活用できるため、同額を給与として支給するよりも従業員の実質的な手取りが増えるほか、企業側の法人税の削減にも効果的です。
こうした数々の魅力が高く評価され、すでに3,000社を超える企業に選ばれています。
「チケットレストラン」の詳細は「こちら」からお問い合わせください。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
「熱中症対策の義務化」にまつわるよくある質問
熱中症対策の義務化について、知っているようで実はよく分かっていないという企業は少なくありません。ここでは、そんな熱中症対策の義務化にまつわるよくある質問とその回答をまとめました。
Q.熱中症対策義務化の対象となる従業員の範囲を教えてください
A. 熱中症対策の義務化の対象となるのは、正社員だけではありません。アルバイトや派遣社員・請負作業員など、現場で作業に従事するすべての関係者が対象です。
Q.「努力義務」と「義務」の違いは何ですか?
A. 努力義務はあくまでも推奨に留まりますが、義務化には違反時に罰則があります。「熱中症対策の義務化」は義務のため、違反した場合には罰則が適用される可能性があります。
Q. 小規模事業所や個人事業主も熱中症対策の義務がありますか?
A. はい。事業規模や業種にかかわらず、該当する条件下で作業を行う場合は、すべての事業者に熱中症対策の義務があります。
熱中症対策の義務化まとめ
2025年6月の法改正により、一定の環境下で作業を行う企業には、熱中症対策が法的に義務付けられました。これにより、早期発見の体制整備や手順作成、関係者への周知が必須となり、違反時には罰則が適用される可能性もあります。
現場での災害を防ぐには、制度上の対応だけでなく、初期サインの見逃し防止や水分・塩分補給といった日常的な対策も不可欠です。「チケットレストラン」のような福利厚生も活用しつつ、法令遵守の実践と従業員の健康と安全を守る企業づくりを目指しましょう。
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エデンレッドジャパンブログ編集部
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