運送業で賃上げが急務になっている背景
なぜ運送業で賃上げが必要なのでしょうか。
2026年賃上げ予定は運送業がトップだが、理由は「離職防止」
東京商工リサーチの調査(2026年2月)によると、2026年度に賃上げを予定している運輸業の企業は93.4%で、全産業中トップです。
その理由のうち、構成比が8割で最大となったのが「従業員の離職防止」でした。業績が好調だから還元するのではなく、人が抜けていくことへの危機感が数字を押し上げています。攻めの賃上げではなく、守りの賃上げが実態です。
出典:東京商工リサーチ|~2026年2月「賃上げ」に関するアンケート調査~
物流・運送業界では人手不足が深刻
2024年4月、トラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用されました。長時間残業を前提とした収入モデルが、制度上成立しなくなったのです。
荷待ち・荷役の時間削減は思うように進まず、規制を守るために運送を断らざるを得ない事業者も出ています。国土交通省「物流の2024年問題について」には、このまま対策を講じなければ、2030年には輸送力が約34%不足するという試算が述べられています。
運輸労連は、2026年の春季交渉で月17,300円の賃上げを要求する方針を決めました。「今が運輸業界を新たなステージへ引き上げていく絶好チャンス。物流の効率化と、賃金水準アップを含め労働環境改善をセットに実現していくことが不可欠」と述べています。
出典
:国土交通省|物流の2024年問題について
:トラックニュース|運輸労連/26春闘、賃上げ「1万7300円」を要求
トラックドライバーの賃金実態
令和6年と令和7年の賃金を比較すると、トラックドライバーの年収自体は上がっています。ただし「長く働いているのに収入が平均以下」という構図は依然として続いています。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和7年)」によると、大型トラック運転者の年収は509万円、中小型は451万円です。前年(令和6年)と比べると、大型で17万円、中小型で14万円増えており、賃上げの動きが見られます。
ただし、全産業平均の546万円にはまだ届きません。さらに見落とせないのが労働時間です。大型ドライバーの年間労働時間は2,508時間となっており、全産業平均の2,076時間より432時間長くなっています。長く働いてはいるものの、収入は全産業平均を下回っているのです。
| |
年収 (令和6年) |
年収 (令和7年) |
年間労働時間 (令和7年) |
| 大型トラック |
約492万円 |
約509万円 |
2,508時間 |
| 中小型トラック |
約437万円 |
約451万円 |
2,400時間 |
| 全産業平均 |
約527万円 |
約546万円 |
2,076時間 |
出典:厚生労働省|賃金構造基本統計調査(令和6年・令和7年)
運送業で賃上げがしにくい理由
賃上げしたいのにできないのは、業界特有の構造的な問題が3つ重なっているためです。
多重下請け構造で、末端ほど運賃が減る
物流・運送業界では、荷主から委託を受けた運送企業がさらに別の企業へ再委託するという多重下請け構造が長年横行してきました。委託が重なるたびに中間マージンが差し引かれ、末端のドライバーに届く運賃はどんどん少なくなります。
運賃が上がっても、賃金に届かない
物価上昇も賃上げが難しい理由の一つです。
ドライバーの賃金を全産業平均並みに引き上げるには、トラック運賃を2割以上値上げする必要があるという試算があります(SOMPOインスティチュート・プラス、2025年4月)。しかし実際の運賃は全産業の物価上昇と並行して動いているだけで、その水準にはまだ届いていません。
国土交通省の調査でも、トラック運送事業者の運送収入は元年度から5年度にかけて約7,500億円増加した一方、人件費への反映は約500億円の増加にとどまっています。収入は増えているのに、ドライバーの手元には届いていない状況なのです。
出典:
SOMPOインスティチュート・プラス|物流の2024年問題でトラック運転手の働き方改革は進んだか
国土交通省|建設業、物流業における賃上げに向けた 価格転嫁促進策について
中小事業者ほど、価格転嫁が進まない
燃料費や人件費が上がっても、荷主への価格転嫁が進まない事業者が多いのが現状です。東京商工リサーチの調査では、中小企業の約45%がコスト高騰と価格転嫁の難しさを賃上げ「実施しない理由」に挙げています。賃上げしたくても原資が確保できない状況が続いています。
出典:東京商工リサーチ|2026年度の「賃上げ」 実施予定は83.6% 賃上げ率「5%以上」は35.5%と前年度から低下
賃上げは事業継続の問題
2026年3月公表の東京商工リサーチ調査によれば、道路貨物運送事業者の倒産件数は、2025年度(4〜2月累計)で308件となり、3年連続で300件を超えました。人手不足関連の倒産は2月単月で前年比倍増、燃料費高騰による物価高倒産も高止まりが続いています。
一方で前向きな兆しもあります。東京商工リサーチが「賃上げを念頭にした価格協議が進んだか」を尋ねたアンケートでは、道路貨物運送業で「転嫁できた」と答えた割合は85.8%となり、業種別で2位でした。制度の変化を追い風に、価格転嫁は少しずつ前進しています。
ただし東京商工リサーチでは「コスト高騰で収益が圧迫された企業を中心に倒産の高止まりが続く可能性がある」とも指摘しています。
出典:
トラックニュース|トラック倒産、3年連続300件超え(2026.03.16)
東京商工リサーチ|2025年度に「価格転嫁」できた中小企業は57.1% 取適法をきっかけに価格交渉に臨む企業は3割未満
物流・運送業界の賃上げをとりまく制度の変化
ドライバーの賃上げを実現するには、運賃が適正に収受されることが前提です。いくら賃上げしたくても、運賃が低いままでは原資が生まれません。この構造を変えるために、制度が大きく動いています。
運賃規制:「お願い」から「禁止」へ
国は2024年3月に標準的な運賃を約8%引き上げましたが、参考指標に過ぎず強制力はありませんでした。そこで2025年6月に公布された「トラック適正化二法」では、国が定める「適正原価」を下回る運賃を禁止する規定が盛り込まれました。2028年6月までの施行に向けて、参考指標から法的規制へと制度の性格が変わります。なお、標準的な運賃はトラック新法の施行をもって廃止される予定です。
出典
:厚生労働省|自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト(物流情報局)物流情報局(荷主の皆さまへ)
:厚生労働省|トラック運送事業者の皆様 荷主の皆様
多重下請け構造の是正:委託は二次下請けまでに制限へ
同じく「トラック適正化二法」により、委託回数を原則「二次下請け」までにとどめる努力義務が課されました。2026年4月1日より施行されます。多重構造による運賃の圧縮を法的に是正する動きが始まっています。
出典
:厚生労働省|自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト(物流情報局)物流情報局(荷主の皆さまへ)
:国土交通省|違法な「白トラ」への規制が令和8年4月1日から強化されます
荷主への義務化:待ち時間の削減が賃上げにつながる
運賃が上がっても、荷待ち・荷役の時間が長いままでは、ドライバーの労働環境は変わりません。2025年4月には改正物流二法が一部施行され、荷待ち・荷役時間とその対価を書面で明示することが義務化されました。2026年4月からは年間9万トン以上の大口荷主が「特定荷主」に指定され、削減への取り組みの定期報告が義務になります。
運送側が待つしかない構造から、荷主側の責任が明確に問われる構造に変化しつつあるのです。待ち時間が減れば、結果として時給換算での賃上げが実現します。
出典:厚生労働省|自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト(物流情報局)物流情報局(荷主の皆さまへ)
関連記事:【社労士監修】改正物流法はいつから?施行スケジュールと目的をチェック
運送会社が取り組める処遇改善
ここからは、企業が取り組める処遇改善の手段を紹介します。
給与体系を見直す
残業上限が設けられた今、残業代で収入を補う構造は長く続きません。基本給を底上げし、無事故手当・深夜手当・長距離手当を整備して、働いた内容が給与に反映される体系への移行が採用と定着の両方に効きます。
運輸業でベースアップを実施している企業はすでに6割を超えています(東京商工リサーチ)。競合との差がつく前に、取り組む必要があるでしょう。
資格取得支援で定着率を上げる
大型免許・けん引免許など、取得費用のかかる資格を企業が支援することで、定着につながります。「資格を取れる環境かどうか」は求人段階での判断材料にもなるため、採用の訴求力アップにも有効です。
福利厚生を整える
給与の引き上げは運賃交渉など外部要因に左右されますが、福利厚生の整備は自社単独で動ける処遇改善です。
「チケットレストラン」は全国25万店舗以上のコンビニ・飲食チェーンで利用できる食事補助の福利厚生サービスです。内勤・外勤・夜勤を問わず、全国の従業員に公平に届けられる点が運送業に向いています。24時間好きなタイミングでサービスを利用でき、食事補助の非課税枠を活用する制度設計で、給与を上げずに手取りを増やせます。
2026年4月から非課税枠が引き上げられる予定のため、導入の好機を迎えています。月1回のチャージ予約のみで運用できるため、担当者の負担もかかりません。
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関連記事:【税理士監修】食事補助の非課税上限が7500円へ!給与にしないための非課税の条件を解説
▼物流・運輸業の導入事例はこちら
賃上げは「給与」以外の選択肢も検討を
運送業の賃上げは、運賃の適正化や荷主の協力など、一社だけでは解決できないことが少なくありません。それでも、給与体系の見直しや資格取得支援、福利厚生の拡充など、自社の判断で動ける対策は存在します。
制度の追い風を活かしながら、できるところから手を打つ積み重ねが、採用と定着の両方に効いてきます。従業員利用率98%、継続率99%の食の福利厚生サービス「チケットレストラン」も、選択肢の一つとして検討してみてください。
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