2024年度の診療報酬改定でベースアップ評価料が創設され、医療従事者の賃上げが目指されました。ところが2025年、医療機関の平均賃上げ率は2.5%程度。一般企業の5%超と比べて大きな開きがあります。本記事では、医療従事者の賃上げの現状と課題、そして賃上げが難しい場合の待遇改善策について見ていきます。
2024年度診療報酬改定による医療従事者の賃上げ
2024年度の診療報酬改定では、医療従事者の処遇改善が主要なテーマの一つとなりました。物価高騰が続く中、医療現場でも賃上げの必要性が高まっており、国は診療報酬を通じた賃上げ支援の仕組みを創設しました。
賃上げの目標と仕組み
2024年度の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げを目的としたベースアップ評価料が創設されました。厚生労働省は、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップを実現する方針です。診療報酬の上乗せに加え、医療機関の過去の収益や賃上げ促進税制の活用を組み合わせて達成を目指します。
診療報酬の引き上げ内容
財源確保のため、診療報酬改定は2段階で実施されました。
0.61%の改定(看護職員・薬剤師など)
看護職員や病院薬剤師などを対象に0.61%の改定が行われ、「外来・在宅ベースアップ評価料」と「入院ベースアップ評価料」が新設されました。
対象職種:合計34職種
薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、看護補助者、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士、歯科業務補助者、診療放射線技師、診療エックス線技師、臨床検査技師、衛生検査技師、臨床工学技士、管理栄養士、栄養士、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、保育士、救急救命士、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゆう師、柔道整復師、公認心理師、診療情報管理士、医師事務作業補助者、その他医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く)
0.28%の改定(勤務医・事務職員など)
初診料や入院基本料などの引き上げにより0.28%の改定が実施されました。40歳未満の勤務医、勤務歯科医師、薬局勤務の薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者などが対象です。
賃上げ実施時期
ベースアップ評価料の算定は2024年6月から開始されました。医療機関によって実施時期は異なりますが、一部は2024年4月から賃上げを行っています。
出典:厚生労働省|令和6年度診療報酬改定と賃上げについて ~今考えていただきたいこと (病院・医科診療所の場合)〜
2025年の賃上げ実態:医療従事者と他産業の格差
診療報酬改定により医療従事者の賃上げが目指されましたが、2025年の実態はどうだったのでしょうか。医療機関の調査データと他産業の賃上げ状況を比較しながら見ていきます。
医療機関の賃上げ率は2.51%
四病院団体協議会が2025年6月に発表した調査によると、2025年度における189病院の平均賃上げ率(定期昇給とベースアップを含む)は2.51%でした。
賃上げの実施状況は以下の通りです。
- 賃上げを実施(予定含む):55%
- 定期昇給のみを実施:41%
- ベースアップのみ実施:3%
- 賃上げを実施しない:1%
開設主体別では、国立病院機構が2.50%、自治体病院が2.20%、医療法人が2.54%となっており、施設形態によって賃上げ率に差が見られます。
また、賞与支給率については、上がったのが18%、不変が67%、下がったのが15%でした。賞与が下がった医療機関の多くは医療法人でした。
出典:四病院団体協議会|2025年度医療機関における賃⾦引き上げの状況に関する緊急調査
一般企業の賃上げ率は5.25%
一方、2025年の春闘における一般企業の平均賃上げ率は5.25%と高水準で、医療機関の2.51%と比較すると約半分に抑えられています。四病院団体協議会は「早急に病院現場で働く医療従事者に十分な処遇改善を行える環境を整備する必要がある」と訴えています。
出典:四病院団体協議会|2025年度医療機関における賃⾦引き上げの状況に関する緊急調査
医療従事者の賃上げが進まない理由
なぜ医療従事者は他の産業と同じペースで賃上げが進まないのでしょうか。
医療機関のビジネスモデル
保険診療では、医療行為ごとの報酬額が法律で定められているため、医療機関が売上を大幅に伸ばすのは困難です。そもそも保険診療を主体とする病院やクリニックは、構造的に利益を出しにくいビジネスモデルだと言えます。
さらに、医療の高度化に伴い、高性能な医療機器や高価な薬剤の導入が必要となり、コスト負担は増加しています。一方で、これらの費用を削減することはできません。
多くの病院やクリニックが、人件費の抑制によって経営を維持せざるを得ないのが現状です。
医療機関の経営悪化
厚生労働省の医療経済実態調査(2024年度)によると、一般病院の約6割が赤字に陥り、利益率はマイナス7.3%となりました。特に公立病院の利益率はマイナス18.5%と深刻です。医療法人の診療所は4.8%の黒字を維持していますが、黒字幅は前年度から3.5ポイント低下しました。
赤字の背景には、物価高や人件費の伸びが医療機関のコストを押し上げている一方で、診療報酬の増加がコスト増に追いついていない現状があります。2024年度改定では本体部分(医師や看護師などの人件費にあたる)が0.88%のプラス改定となりましたが、多くの医療機関は赤字経営を強いられています。経営難にある中で、医療従事者への十分な賃上げの財源確保が難しい状況です。
出典:厚生労働省|医療経済実態調査(医療機関等調査)
出典:時事ドットコムニュース|物価高・賃上げへの対応焦点 診療報酬改定の議論本格化
医療機関の倒産
帝国データバンクの調査によると、2025年上半期の医療機関の倒産は35件と、過去最多だった2024年通年(64件)を上回るペースで推移しています。倒産の背景には、医療機器の価格、人件費、給食費、光熱費などの高騰がある一方で、診療報酬はこれらの上昇分をまかなうレベルに達していない現状があります。
また、診療所や歯科医院では経営者の高齢化、病院では建物の老朽化による建て替え資金難も深刻です。このペースで推移すると、2025年の倒産件数は初めて70件に達する可能性があり、賃上げの財源確保が困難な状況となっています。
出典:帝国データバンク|医療機関の倒産動向調査(2025年上半期)
賃上げ促進税制の利用不十分
賃上げ促進税制は、事業者が一定率以上の賃上げをした場合に、賃上げ額の一部を法人税等から税額控除できる制度です。この制度は、ベースアップ評価料による賃上げも税額控除の対象となります。
しかし、四病協の調査によると、賃上げ促進税制を利用している医療機関は約19.0%(36/189病院)にとどまります。利用施設の内訳は、自治体病院1病院、医療法人32病院、その他私的3病院でした。
残りの81.0%の病院は「そもそも対象外(利用できない病院形態である、赤字であるなど)であり活用できない」状態にあります。多くの医療機関が賃上げ促進税制の恩恵を受けられない状況です。
出典:四病院団体協議会|2025年度医療機関における賃⾦引き上げの状況に関する緊急調査
制度の継続性への不安
ベースアップ評価料は特例的な対応とされており、制度が継続されるか分からない状況です。このため、賃上げに踏み切れない医療機関も存在したと考えられます。
診療報酬改定による利用者負担増
診療報酬改定による賃上げには、構造的な課題があります。医療費全体のうち、国の負担は約25%にとどまり、残りは患者の窓口負担、保険料、地方自治体の負担でまかなわれています。
つまり、診療報酬を引き上げて医療従事者の賃上げを行うと、その分が患者の窓口負担増や保険料アップにつながる仕組みです。日本医療労働連合会は「24年診療報酬・介護報酬改定に対する中執見解」で、この点を課題として指摘しています。
医療機関の賃上げ率が一般企業の半分程度にとどまっている現状を踏まえると、医療従事者の待遇改善と患者負担のバランスをどう取るかが、今後の重要な論点となるでしょう。
出典:日本医労連中央執行委員会|地域医療・介護を支えてきた現場の要望からかけ離れた 診療報酬・介護報酬改定に強く抗議する
2026年度診療報酬改定に向けた動きは?
政府は2025年11月、2026年度診療報酬改定に向けた「基本方針」の骨子案を提示しました。この中で、医療従事者の賃上げを「急務」と位置づけています。
骨子案では「物価高騰による事業収益の悪化を背景に、全産業の賃上げ水準から乖離し、人材確保も難しい」と指摘し、AIや情報通信技術(ICT)で業務を効率化する必要性も強調しました。 2026年度の改定がどの程度の引き上げになるかが、医療従事者の処遇改善の鍵となります。
出典:読売新聞|医療従事者の賃上げは急務…診療報酬改定の「基本方針」骨子案、AI活用による業務効率化も課題
医療従事者に対して賃上げしないリスク
賃上げが進まない状況が続くと、医療機関は深刻なリスクに直面します。
人材流出と採用難
少子高齢化の進展により、労働人口が減少する一方で医療ニーズは増え続けています。この結果、医療提供体制を支える人材の確保は年々難しくなり、元々人手不足が深刻な医療業界において、この傾向はさらに顕著になっています。
他産業で賃金水準が上昇する中、医療従事者が「賃金の低さ」を理由に離職や他業種への転職を選択することを防ぐためにも、賃上げは重要な経営課題の一つです。適切な水準での賃上げを実現することで、必要な医療サービスを安定的に提供するための人材確保に結びつきます。
医療サービスの質低下
賃上げが難しい状況が続くと、医療従事者のモチベーション低下を招き、医療サービスの質に影響が及ぶ恐れがあります。慢性的な人手不足や過重労働の中で働く医療従事者は、患者のケアに十分な時間や注意を払えなくなるためです。
他産業と比較して低い水準の給与が続くと、医療従事者の仕事への意欲が低下し、患者への十分な対応が難しくなる可能性もあります。その結果、医療ミス発生のリスクを高め、患者の健康や安全を脅かすことになります。
現場から上がる切実な声をクローズアップ
2025年春闘では、医療・介護従事者の労働組合が賃上げや労働環境の改善を求め、全国各地でストライキや街頭活動を行いました。
長野県では8つの労働組合が、岡山県では11の病院や福祉施設で約200人が参加しました。東京都では全国120支部で短時間ストが実施され、徳島県、福岡県、宮崎県でも医療従事者がストライキを決行しています。
現場からは次のような切実な声が上がっています。
「賃金を上げてもらわないと、奨学金の返済だけでなく生活するのも困難」
「低賃金と過酷な労働環境では人が辞めてしまい、地域医療が守れない」
「このままでは離職が増え、地域医療が崩壊する」
日本医療労働組合連合会など3団体は2025年4月9日、内閣総理大臣、財務大臣、厚生労働大臣宛てに「すべてのケア労働者の持続的な賃上げや人員配置増を求める要請書」を提出しました。
「全産業的には25春闘において6%前後の賃上げ回答が示される中、ケア労働者は2%にもならない定期昇給のみで、気力もやりがいも無くし、医療・介護現場を離れていく労働者も増えている」と指摘しています。
出典:POST|2025年春闘:医療・介護従事者が全国でストライキを決行ーー賃上げ求める声が各地で高まる
出典:日経メディカル|医労連など3団体、医療・介護のケア労働者の賃上げと人員増を求め要請書提出
賃上げにプラスして福利厚生も検討を
福利厚生は賃上げと同等の効果を発揮します。
例えば食事補助に関する福利厚生サービスの一つに、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」があります。「ランチ代が実質半額になる」という分かりやすいメリットがあるのが特長です。使い方はシンプルで、全国約25万店舗以上の加盟店で専用のICカードによるタッチ決済をします。大手コンビニや全国展開するチェーン店などに対応しています。
院内外にあるコンビニで食事を購入している職員が多い医療機関では、既存の購買行動を変えずに食事補助を始められ、「使ってもらえる」(利用率98%)のが魅力です。加えて、食事補助の非課税枠活用により企業が半額を負担するため、従業員はランチ、休憩時の軽食、残業時の食事などを毎日少しではありますがお得に食べられます。
職員の食事を金銭面・健康面でサポートした医療法人浜田戸部整形外科の事例はこちら。
医療従事者への賃上げに福利厚生を活用
医療従事者の2025年の賃上げ率は平均で約2.51%と、一般企業に比べて低い水準にとどまりました。背景には、診療報酬の改定だけでは十分な賃上げが難しいという構造的な問題があります。
こうした状況を解決するための現実的な選択肢として、給与アップと福利厚生を組み合わせた待遇改善がおすすめです。特に「食事補助」は、2025年12月現在、非課税枠は引き上げの方向で検討されており、実質的な手取りアップに貢献度が高い制度です。
「チケットレストラン」は、病院に食堂がないクリニックや訪問看護などでも導入しやすく、扶養控除内で働くパート・アルバイト従業員も所得税を気にせずに恩恵を受けられる公平性も備えます。
勤務時間内に食べるもの(食事・飲み物・お菓子等)であればいつでも購入でき、医療従事者が使いやすい「チケットレストラン」を試してみませんか。
当サイトにおけるニュース、データ及びその他の情報などのコンテンツは一般的な情報提供を目的にしており、特定のお客様のニーズへの対応もしくは特定のサービスの優遇的な措置を保証するものではありません。当コンテンツは信頼できると思われる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性、適時性、適切性または完全性を表明または保証するものではなく、お客様による当サイトのコンテンツの利用等に関して生じうるいかなる損害についても責任を負いません。
エデンレッドジャパンブログ編集部
福利厚生に関する情報を日々、ウォッチしながらお役に立ちそうなトピックで記事を制作しています。各メンバーの持ち寄ったトピックに対する思い入れが強く、編集会議が紛糾することも・・・今日も明日も書き続けます!
