近年、物価上昇や人手不足の深刻化に伴い、企業の賃金戦略としての「ベースアップ」が注目されています。本記事では、ベースアップの基本的な考え方や定期昇給との違い・企業にとってのメリット・導入判断のポイント・さらには代替策まで、ベースアップについて知っておきたい情報を詳しく解説します。自社に最適な賃金施策を検討するヒントとしてぜひ参考にしてください。
ベースアップとは?基本的な考え方を整理しよう
賃上げの手法は「ベースアップ」だけではありません。まずは、ベースアップの定義や目的、混同されやすい「定期昇給」との違いなど、ベースアップの基本的な知識を整理していきましょう。
ベースアップの定義と目的
ベースアップ(ベア)とは、すべての従業員の基本給を一律に恒常的に引き上げる賃上げ手法で、企業の賃金水準そのものを底上げする施策です。定期昇給のような個人別の昇給とは異なり、すべての従業員に一律の改定が適用されるため、労働条件の明確な改善と位置づけられます。
ベースアップが導入される背景には、物価上昇による生活コストの増加や、採用市場の競争激化、離職率の上昇といった課題があり、企業はこれに対応する形で制度改定を進めるのが一般的です。
賃金水準の引き上げはエンゲージメント向上や企業イメージの向上にもつながるため、経営上の投資判断としておこなわれるケースも増えています。
なお、基本給をベースに計算される賞与や退職金、社会保険料についても、ベースアップによって影響を受けることになります。制度全体の見直しにつながる場合もあるため、導入にあたっては総合的な視点が必要です。
関連記事:ベースアップと賃上げの違いとは?人件費戦略の基本をわかりやすく解説
定期昇給との違いは?混同しがちな賃上げ制度を整理
ベースアップと混同されやすいのが、同じく賃上げの手法である「定期昇給(定昇)」です。
定期昇給は、従業員の勤続年数や人事評価に基づき、個別に基本給を引き上げる賃上げ手法です。個々人のモチベーション維持やキャリア形成を目的とし、年齢や等級・職能などに応じ、通常年に1度おこなわれます。ベースアップとは異なり、すべての従業員に一律でおこなわれるものではありません。
これらを踏まえ、定期昇給は「従業員個別の処遇改善」・ベースアップは「企業全体の給与水準の底上げ」と位置づけられています。
なお、定期昇給も基本給を引き上げるため、個人単位では賞与や退職金、社会保険料の算定基礎に反映されます。ただし、企業全体の制度改定を伴うベースアップと比べると、その影響は限定的です。
なぜ今、ベースアップが注目されているのか
近年、多くの企業が賃上げの一環としてベースアップに踏み切る動きを強めています。その背景には、経済情勢や労働環境の変化が密接に関係しています。ここでは、ベースアップが今まさに注目されている理由を見ていきましょう。
物価上昇と実質賃金の低下
現在の日本は、電気代や食品、日用品などの相次ぐ値上げにより、家計への圧迫が続いています。
こうした物価上昇に対し、賃金の増加が追いつかない状況が長期化すると、従業員の実質的な生活水準が低下し、モチベーションの低下や離職のリスクにつながりかねません。政府も企業に対し賃上げの実施を繰り返し要請しており、社会的にもベースアップの重要性が強調されています。
なお、2025年春闘において、連合は「賃上げ分3%以上+定昇相当分2%程度=合計5%以上の賃上げ」を目標に掲げました。中小労組向け目安としては「格差是正分を加えた月額18,000円以上・6%以上」と、さらに高い数字を提示しています。
こうした傾向を踏まえると、企業は現行の給与制度を見直し、従業員の生活を下支えする責任が問われているといえるでしょう。
人手不足・離職リスクの高まり
多くの業界で慢性的な人手不足が深刻化しています。特に、大企業と比較して待遇面で劣りがちな中小企業にとって、優秀な人材の確保・定着は喫緊の深刻な課題です。
人手不足の中で採用競争に勝つには、待遇面での魅力を打ち出すことが不可欠です。帝国データバンクの調査では、2024年時点で「正社員が不足している」と回答した企業は51.4%にのぼっており、前年よりも増加傾向にあります。
こうした状況下でベースアップは、従業員の定着率を高めるだけでなく、求職者から見た企業の魅力を高める施策としても有効です。給与水準が競合他社よりも見劣りすれば、それだけで人材が流出するリスクが高まるため、戦略的な賃金政策としての重要性が増しています。
参考:株式会社 帝国データバンク[TDB]|人手不足に対する企業の動向調査(2025年4月)|(2025年5月19日)
関連記事:人手不足倒産が急増!これまでの推移と改善へ向けた取り組みを解説
ベースアップのメリット|企業にとっての4つの効果
ベースアップは、単なる賃金引き上げではなく、企業経営にもさまざまな波及効果をもたらす施策です。ここでは、企業にとっての具体的なメリットを4つの視点から整理し、導入を検討する際の判断材料として紹介します。
従業員満足度の向上と定着率改善
ベースアップは、従業員の生活安定を支えるとともに「この会社は自分を大切にしてくれている」と感じさせる大きな要因のひとつです。
ベースアップによって給与水準が上がった従業員は、日々の生活に余裕が生まれ、職場への満足度が向上します。このような前向きな感情は、エンゲージメントや組織への帰属意識の強化につながり、結果として離職率の低下にも寄与します。
なお、パーソルキャリア株式会社が運営する転職サービス「doda」の調査によると、転職理由の第1位は「給与が低い・昇給が見込めない」でした。従業員の定着には、適切な賃金設計が不可欠であることがわかります。
参考:転職ならdoda(デューダ)|転職理由ランキング【最新版】 みんなの本音を調査!
採用力・競争力の強化
人材獲得競争が激化する中で、給与水準は企業の魅力を測る重要な指標のひとつです。
求職者は、複数の企業を比較検討する際、待遇の違いを非常にシビアに見ています。もし自社の初任給や平均給与が同業他社よりも明らかに低い場合、応募数が減ったり、内定辞退率が高まったりするリスクが否定できません。
ベースアップはこうした競争下での「見劣り」を防ぎ、採用活動を有利に進める武器となります。ベースアップによる待遇改善は、採用ブランディング戦略の一環としても有効です。
労使関係の安定化とモチベーション向上
ベースアップは、労使間の信頼関係を強化する手段としても効果的です。
従業員の間では、「このままここで働いていても給料は先が見えている」といった不満が蓄積されがちですが、ベースアップによる一律の昇給はそうした不満を緩和し、職場の心理的安全性を高めます。
また、労働組合との交渉の場面でも、ベースアップの実施は真摯な姿勢として評価されやすく、対立を未然に防ぐ効果があります。
こうした職場環境の安定は、従業員のモチベーション向上にもつながり、結果として生産性や業務品質の向上をもたらすものです。企業が自発的にベースアップを実施することは、経営の健全性と誠実性を示す重要なメッセージでもあります。
企業ブランディングの強化
給与改定の内容は、従業員だけでなく、求職者や取引先、投資家など外部のステークホルダーにも影響を与えます。
中でもベースアップは、「従業員を大切にする企業」というイメージを発信する手段として機能します。特に中小企業の場合、待遇面で大企業に劣ることも多いため、ベースアップを明確に打ち出すことでポジティブな差別化が可能です。
自社の方針として「従業員の生活を支える企業」を掲げ、外部にも発信することが、企業価値を高める一手となります。
ベースアップを判断するうえで押さえておきたい視点
ベースアップは、企業にとって将来的な人件費負担を伴う重大な意思決定です。導入の可否を判断する際には、以下の5つの観点から多角的に検討する必要があります。
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財務の持続性
黒字かどうかだけでなく、キャッシュフローの安定性や自己資本比率を見極める必要があります。人件費が継続的に増加しても耐えうるかを事前に試算しましょう。 -
業界水準との比較
自社の人件費比率や平均給与が、同業他社と比べて極端に高い・低い状態になっていないかを確認します。競争力や利益率への影響を見逃さないためです。 -
従業員構成の影響
若手従業員が多い企業では、昇給に伴う将来の人件費増が大きくなりがちです。年齢層や勤続年数に応じた昇給モデルの試算が必要です。 -
既存制度との整合性
評価制度や昇給ルールとベースアップが食い違うと、職場の納得感やモチベーションを損なう可能性があります。制度設計の再確認が必要です。
関連記事:【2025年最新】賃上げ疲れとは?データで読み解く実態と対策
ベースアップが難しい企業はどうする?代替策を活用しよう
景気変動の影響を受けやすい業種や、財務的な余裕のない中小企業にとって、ベースアップによる固定費増は容易に決断できるものではありません。とはいえ、以下のようなベースアップ以外の方法を通じ、待遇改善を図ることは十分に可能です。
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手当・インセンティブ
業績連動型の成果給や報奨金、資格手当などは、企業の状況に応じて支給タイミングや金額を調整できるため、固定費化を避けつつ従業員への還元ができます。 -
人的資本投資(研修・キャリア支援)
研修費の補助・セミナー参加支援・キャリア相談制度などは、給与以外の報酬として機能します。従業員のスキル向上は企業にとっても生産性向上や定着率改善につながる中長期的な投資となります。 -
福利厚生
一定の条件を満たした福利厚生は、所得税の非課税枠を活用できるため、同額を賃金で支給するよりも従業員の実質的な手取り額を増やすことができます。企業側の法人税も削減できるため、コストを抑えながらの待遇改善がかないます。
食事補助サービス「チケットレストラン」
福利厚生の中でも、近年特に注目を集めているサービスに、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」があります。
「チケットレストラン」は、従業員のランチ代を企業が補助する食の福利厚生サービスです。導入企業の従業員は、全国25万店以上の加盟店での食事を実質半額で利用できます。
加盟店のジャンルは、ファミレス・コンビニ・三大牛丼チェーンなど幅広く、勤務時間中にとる食事の購入であれば、利用時間や場所の制限もありません。業種や勤務体系を問わず柔軟に利用できる福利厚生として、すでに3,000社を超える企業に導入され、数々の有名メディアでも取り上げられているサービスです。
「チケットレストラン」の詳細は「こちら」からお問い合わせください。
関連記事:NHK「おはよう日本」で紹介!「チケットレストラン」はどんなサービス?SKソリューションの事例も紹介
自社にとって最適な賃上げのあり方を考える
ベースアップは、従業員の生活支援や企業の持続的成長を実現する手段のひとつです。しかし、すべての企業にとって一律に正解とは限らず、財務状況や人事制度との整合性を見極めたうえで慎重に判断する必要があります。
恒久的な固定費増が難しい場合でも、手当や人的資本への投資・「チケットレストラン」のような福利厚生など、柔軟な代替策で実質的な還元を図ることは可能です。自社の現状に即した最適な選択をおこない、従業員と企業双方にとって持続可能な賃金戦略を推進しましょう。
参考記事:「#第3の賃上げアクション2025」始動、ベアーズが新たに参画~中小企業にこそ“福利厚生”による賃上げを! “福利厚生”で、より働きやすく、暮らしやすい社会へ~
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