中小企業が賃上げできないのは、原材料や輸送費が上昇しているにもかかわらず、価格転嫁が進んでおらず、賃上げの原資を確保できていないためといわれています。このような状況下で賃上げを進めるには、どのような方法があるのでしょうか?現状を確認した上で、ここからできることを見ていきましょう。
中小企業が賃上げできない現状
中小企業の賃上げは大企業と比べて進んでいないのが現状です。春闘の賃上げ率を企業規模別に見ると、明確に差があることが分かります。
年 |
平均賃上げ率 |
従業員数1,000人以上の平均賃上げ率 |
従業員数300~999人の平均賃上げ率 |
従業員数100~299人の平均賃上げ率 |
従業員数~99人の平均賃上げ率 |
2022年 |
2.07% |
2.12% |
2.00% |
1.98% |
1.96% |
2023年 |
3.58% |
3.69% |
3.44% |
3.32% |
2.94% |
2024年 |
5.10% |
5.24% |
4.98% |
4.62% |
3.98% |
賃上げ率の全体平均を超えているのは従業員数が1,000人以上の大企業のみで、それより規模の小さな企業は全体平均以下の賃上げ率です。
5.10%と歴史的な賃上げとなった2024年の春闘でも、従業員数99人以下の企業の賃上げ率は4%を下回っていました。
物価が上昇している中、これでは賃上げを行っていても、実質賃金はマイナスになっているケースも多いでしょう。
なぜ中小企業は必要な賃上げができないのでしょうか?中小企業が賃上げできない現状につながっている、原材料費の上昇・輸送費の上昇・進まない価格転嫁について解説します。
参考
日本労働組合総連合会|多くの組合が賃金改善分獲得、なかでも中小組合が健闘~2022 春季生活闘争 第 7 回(最終)回答集計結果について~
日本労働組合総連合会|「未来につながる転換点」となり得る高水準の回答
~2023 春季生活闘争 第 7 回(最終)回答集計結果について~
日本労働組合総連合会|33 年ぶりの 5%超え!~2024 春季生活闘争 第 7 回(最終)回答集計結果について~
関連記事:【2024春闘】賃上げ率5.10%を達成!持続可能な賃上げ戦略とは
原材料費の上昇
中小企業が賃上げできない理由として、原材料費の上昇があげられます。売り上げが好調に推移している場合でも、その分原材料費が高くなっていれば、利益は以前より減っているケースもあるでしょう。
原材料費の上昇は、円安や異常気象・国際情勢などの影響を受けて発生しています。今後もさらに上昇していく可能性があるため、中小企業では原材料費の上昇への備えも必要です。
事業の継続に影響しかねない原材料の調達を確実に行うため、賃上げができずにいる中小企業もあります。
輸送費の上昇
輸送費の上昇も、中小企業が賃上げできない現状につながっています。コロナ禍をきっかけに高まった物流業界の需要や、燃料価格の高騰などによる上昇です。輸送費の上昇によりコストが膨らんだことで、賃上げに使う資金を確保するのが難しい中小企業もあるでしょう。
関連記事:【物流の2030年問題】概要と業界の未来予想をわかりやすく解説!
進まない価格転嫁
原材料費や輸送費の上昇でコストアップした分は、商品やサービスへの価格転嫁が必要です。ただし全ての中小企業が適切に価格転嫁できているわけではありません。
中小企業庁の「価格交渉促進⽉間(2024年3⽉)フォローアップ調査結果」によると、調査対象となった中小企業のうち59.4%が価格交渉を行っている半面、10.3%は希望しているにもかかわらず交渉ができていません。
またコスト上昇分のうち価格転嫁できた割合は以下のとおりです。
コスト上昇分のうち価格転嫁できた割合 |
回答の割合 |
100% |
19.6% |
70・80・90% |
15.3% |
40・50・60% |
8.9% |
10・20・30% |
23.4% |
コストが上昇せず価格転嫁扶養 |
12.9% |
0% |
18.7% |
マイナス |
1.2% |
一部であっても価格転嫁できている企業は67.2%と半数を超えています。その一方で、価格転嫁の必要があってもできていない企業は19.8%です。価格転嫁が進んでいる企業と、そうでない企業の間で、2極化の兆しが出てきているとも考えられます。
コストアップしているにもかかわらず価格転嫁が十分に進んでいなければ、賃上げの実施は難しいでしょう。
参考:中小企業庁|価格交渉促進⽉間(2024年3⽉)フォローアップ調査結果
関連記事:中小企業の賃上げができない原因と解決策|助成金と福利厚生をチェック
2025年の中小企業の賃上げはどうなる?
賃上げしたくてもできない状況がある中、中小企業の賃上げは今後どのような動向となるのでしょうか?「2025春季生活闘争 闘争方針」を元に、2025年の中小企業の賃上げ動向を見ていきましょう。
関連記事:【賃上げ中小企業2025】春闘6%以上の賃上げ要求、実現に向けどうすべき?
2025年春闘の賃上げ動向
歴史的な賃上げが行われた2024年に続き、連合は2025年も同水準の賃上げを求める意向です。
長らく続いた経済の停滞から抜け出すために、「物価も賃金も上がらないもの」という考え方から「物価は上がるがそれに伴い賃金も上がる」という考え方への転換に向けて、賃上げの定着を目指していく意向を示しています。
2025年春闘の課題は格差是正
企業規模・雇用形態・性別などにより、賃金には格差があります。連合は「2025春季生活闘争 闘争方針」で、格差是正に取り組むことも示しました。
2024年には歴史的な賃上げが行われましたが、賃上げ率が全体平均を超えたのは大企業の平均のみで、中小企業の賃上げ率は全体平均の賃上げ率に届いていません。
中小企業で働く人の人数は、企業で働く人全体の約70%です。中小企業の賃上げが進んでいないということは、雇用されて働いている人の約70%は賃上げが不十分な状態であることを示します。
格差是正に向けて、連合は大企業に5%以上、中小企業に6%以上の賃上げ率を求める考えです。
さらに年齢ごとに到達すべき賃金の最低到達目標水準も、以下の通り定めています。
中位数 |
第1四分位 |
|
35歳 |
30万3,000円 |
27万9,000円 |
30歳 |
25万2,000円 |
23万8,000円 |
加えて非正規雇用で働く従業員の賃金引き上げにより、雇用形態による格差是正も目指す計画です。具体的な数値目標として、経験年数5年以上で時給1,400円以上を目指します。
賃金の底支えを目的として、全ての従業員に対して時給1,250円以上での締結を目指す方針も打ち出しました。
賃金相場を上げると同時に、格差是正や下支えに取り組むことで、全ての労働者が所定内賃金で生活できる水準の確保と、働きの価値に見合った水準への引き上げを目指しています。
賃上げできないとどうなる?
賃上げができない場合、中小企業はどうなっていくのでしょうか?賃上げが進まないままだと起こり得ることを見ていきましょう。
人材採用が思うようにできなくなる
賃上げができないと、同業他社と比べて給与が低くなる可能性があります。仕事内容が同じであれば、求職者はより高待遇の企業へ応募しようと考えるでしょう。求人を出しても思うように募集が集まらなくなり、人材採用がスムーズに進みにくくなるかもしれません。
関連記事:人材採用で中小企業が抱える課題とは?採用課題の解決法も紹介
人材定着率が下がる
物価高が続く中、賃上げが進まなければ、従業員の実質賃金は下がっていきます。生活に余裕がなくなれば、より待遇の良い企業への転職を検討し始める従業員が出てくるかもしれません。
新たな人材を採用できても、経済状況に合わせて賃上げが進まないことが分かると、離職につながる可能性もあります。賃上げができず人材定着率の低下につながることもあるでしょう。
関連記事:【社労士監修】人材定着率とは何か?計算方法や人材定着率を上げる施策を解説
人手不足倒産につながる
賃上げができないままでは、採用が進みにくくなりますし、今いる従業員の離職も考えられます。人材が少なくなるため、人手不足倒産の恐れも出てくるでしょう。人手不足倒産は、業種を問わず中小企業や小規模企業を中心に増加しています。
帝国データバンクの実施した「人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)」によると、2024年度上半期に人手不足倒産した163件のうち、従業員数10人未満の企業は134件と全体の82.2%でした。残り29件も従業員数10~49人の企業です。
また東京商工リサーチの「2024年度上半期「人手不足」関連倒産」に関する調査では、人手不足関連倒産した企業148件のうち、資本金1,000万円未満の企業は90件と約60%でした。
中小企業の人手不足倒産が増えている半面「労働力調査(基本集計)2024年(令和6年)10月分結果」によると、就業者数は6,813万人と27カ月連続で増加しています。
働く人が増えているにもかかわらず、2024年度上半期の人手不足倒産が過去最多となったのは、加速する労働市場の流動化によるものといえるでしょう。
「労働力調査(詳細集計)2023 年(令和5年)平均結果の要約」を見ると、2023年の転職希望者数は1,007万人となっており、右肩上がりに増えているのが分かります。
中小企業や小規模企業は、従業員の離職による影響が大企業より大きく表れるのが特徴です。今いる従業員が1人でも離職すると、事業を維持するのが難しいケースもあるでしょう。
また労働市場は求職者の売り手市場のため、中小企業や小規模企業が人材を採用するには、より良い待遇を用意する必要があります。
参考:
帝国データバンク|人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)
東京商工リサーチ|2024年度上半期「人手不足」関連倒産 148件 上半期で初の100件超、収益改善が早急な課題に
総務省統計局|労働力調査(基本集計)2024年(令和6年)10月分結果
総務省統計局|労働力調査(詳細集計)2023 年(令和5年)平均結果の要約
関連記事:人手不足倒産が急増⁉業種ごとの傾向や中小企業の割合をチェック
中小企業が賃上げのために使える制度
給与は1度上げると下げるのが難しいため、なかなか賃上げできないという企業もあるでしょう。ここでは賃上げが難しい状況に置かれている中小企業が賃上げを実施するときに、助けとなる制度を紹介します。
業務改善助成金
業務改善助成金とは、生産性向上のための機械設備導入や人材育成などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げたときに、設備投資にかかった費用の一部を受け取れる助成金のことです。
賃上げの実施により対象となる業務改善助成金の助成率は、事業場内最低賃金の金額によって、以下のように定められています。
事業場内最低賃金 |
助成率 |
900円未満 |
9/10 |
900円以上950円未満 |
4/5(生産性要件を満たすと9/10) |
950円以上 |
3/4(生産性要件を満たすと4/5) |
※生産性要件とは生産性要件算定シートで計算した生産性の伸び率が一定以上であること。
ただし助成額には上限が決まっているため、無制限に受け取れるわけではありません。上限額は最低賃金の引き上げ額と、最低賃金を引き上げる従業員数で定められています。
関連記事:【社労士監修】賃上げで最大600万円の業務改善助成金とは?その他の支援制度も解説
キャリアアップ助成金
従業員のスキルアップにより、意欲向上や生産性向上につなげていく目的で支給されるのはキャリアアップ助成金です。複数のコースのうち「賃金規定等改定コース」は、賃上げを行ったときに利用できます。
就業規則や労働協約で定めている賃金を引き上げると、その引き上げ率に応じて、従業員1人あたりに以下の助成金が支給されます。支給申請できる人数は100人までです。
企業規模 |
3%以上5%未満の引き上げ |
5%以上の引き上げ |
中小企業 |
5万円 |
6万5,000円 |
大企業 |
3万3,000円 |
4万3,000円 |
また職務の大きさを相対的に比較して、その職務を行う従業員の待遇が適切な状態になっているかを把握する職務評価の手法で、賃金規定の増額改定を行うと、中小企業20万円・大企業15万円の加算の対象となります。
例えば中小企業が賃金規定を5%以上引き上げたとき、対象となる従業員が20人なら、130万円の助成金を受け取れます。
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)
関連記事:
【社労士監修】キャリアアップ助成金正社員化コースが拡充!改正ポイントと注意点
【社労士監修】年収の壁対策はキャリアアップ助成金を活用!待遇改善に役立つ福利厚生も
賃上げ促進税制
賃上げ促進税制には、大企業向け・中堅企業向け・中小企業向けの制度があります。一定以上の賃上げを実施した中小企業が、法人税の控除を受けられる制度です。
より多くの企業で賃上げを実施しやすくなることを目指し、令和6年度税制改正で制度が強化されました。加算要件に女性活躍子育て支援が加わったことで、最大控除額が大きくなっています。
また赤字の企業が賃上げに取り組みやすいよう、5年間の繰越控除措置が設けられました。本年は赤字で控除を受けられない場合でも、向こう5年間の税額から控除できるため、税額控除額を無駄なく使い切りやすくなっています。
参考:経済産業省|中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック
関連記事:【税理士監修】くるみん認定・えるぼし認定で税制優遇!賃上げ促進税制の上乗せ要件とは
中小企業が賃上げできないときは第3の賃上げも検討を
中小企業が賃上げできないときには、エデンレッドジャパンが提案している「第3の賃上げ」の活用を検討するとよいでしょう。エデンレッドジャパンでは、定期昇給を「第1の賃上げ」、ベースアップを「第2の賃上げ」、福利厚生を活用した賃上げを「第3の賃上げ」と定義しました。
現金で支給する給与を上げると、従業員の税負担が増えて手取りに影響しますが、福利厚生は税負担を増やすことなく支給できます。従業員の実質的な手取り額アップを実現できる取り組みです。
エデンレッドジャパンの提供している食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」をはじめ、福利厚生サービスを活用すれば、コストや手間を抑えつつ、従業員の満足度アップにつながる制度の導入も実現できます。
関連記事:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
賃上げできない中小企業は支援制度や第3の賃上げ活用がおすすめ
原材料費や運送費の上昇に加え、価格転嫁が難しいことから、中小企業の賃上げは大企業ほど進んでいないのが現状です。賃上げができないままでは、スムーズな採用が難しくなりますし、今いる従業員の離職も進む可能性があります。
賃上げ原資の確保が難しい場合には、業務改善助成金・キャリアアップ助成金・賃上げ促進税制といった支援制度を活用するとよいでしょう。
併せて福利厚生を支給し、エデンレッドジャパンの提案する「第3の賃上げ」による待遇改善も検討すると、コストと手間を抑えつつ従業員満足度を高められます。「第3の賃上げ」には、食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」がおすすめです。
対象となる従業員に公平に支給できる食事補助の導入を検討してみませんか。
参考記事:「#第3の賃上げアクション2025」始動、ベアーズが新たに参画~中小企業にこそ“福利厚生”による賃上げを! “福利厚生”で、より働きやすく、暮らしやすい社会へ~
「賃上げ実態調査2025」を公開~歴史的賃上げだった2024年も“家計負担が軽減していない”は7割以上!
新キャンペーンのお知らせ:従業員の生活支援に!「第3の賃上げ」導入応援キャンペーン開始 ~食事補助サービス「チケットレストラン」で“手取りアップ”を実現~
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