監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
年収が103万円を超えると、所得税や住民税が増え、配偶者控除や扶養控除の適用もなくなるなど、非正規雇用者が直面する「年収の壁」の問題に直面します。社会保険適用拡大の影響を受け、壁を超えてこれまで以上に労働時間を増やすケースも増えているようです。この記事では、103万の壁と、壁を超えるとどうなるのか、政府の支援策などを詳しく解説します。
「103万の壁」とは何か
「103万円の壁」とは、年収が103万円を超えると所得税が課税されるようになることに由来する、非正規雇用の労働者(アルバイト、パートタイム労働者などの短時間労働者)が直面する年収の壁のことです。年収103万円を超えると、収入に対して税の影響が出てくるため、働き方に注意が必要になります。
「103万の壁」を超えると起きること
103万の壁を超えた場合、具体的にどのようなことが起きるのでしょうか。3つの項目に分けて解説します。
1. 所得税が課税される
年収103万円以下であれば所得税は非課税ですが、103万円を超えた分については所得税の対象となります。給与所得控除55万円と基礎控除48万円を合わせた金額が103万円です。年収から103万円を引いた金額に対して、所得税が課されます。
たとえば、年収が120万円のケースでは、103万円を超えた17万円分が所得税の課税対象です。17万円に税率5%を乗じた8,500円分が税額となり、手取り額が減少します。ただし、令和19年までは、復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1パーセント)を併せて申告・納付します。
出典:国税庁|No.2260 所得税の税率
参考:国税庁|No.1199 基礎控除
参考:国税庁|No.1410 給与所得控除
参考:国税庁|No.2260 所得税の税率
2. 扶養から外れる
103万円を超えると、親や配偶者の扶養から外れます。ここでいう扶養とは、税制上の扶養のことです。親が受けていた扶養控除の適用がなくなることで、親の税負担が増加します。配偶者の扶養に入っていた場合は、配偶者控除や配偶者特別控除がなくなるため、配偶者の税負担が増え、家計としての総収入が減ります。
参考:国税庁|No.1180 扶養控除
参考:国税庁|No.1191 配偶者控除
参考:国税庁|No.1195 配偶者特別控除
3. 住民税の所得割が課される
年収が100万円前後を超えると、住民税の所得割(一般的な住民税の金額)が課税されます。住民税は、前年の所得額に応じて課される所得割と、所得とは無関係に課される均等割の2種類です。住民税の所得割がいくらから課税されるかは、自治体によって基準が若干異なるため、詳しくは各自治体のホームページを参照してください。
東京23区では、給与収入のみの場合で、年収100万円(給与所得控除55万円を差し引くと45万円)を超えると住民税が課税されます。
参考:東京都主税局|個人住民税
年収「103万」の計算方法
年収103万円の計算方法についても、認識を確認しましょう。ポイントは以下のとおりです。
- 該当する年の1月から12月までの総収入額の合計
- 交通費などの経費は除外
- 成果報酬の場合、年間の報酬から経費を差し引いた金額
該当する年の総収入額は、手取り額ではありません。税額や社会保険料が引かれる前の総収入が103万円以下かどうかが判断の基準です。複数の勤務先でアルバイト、パートをして収入を得ている場合、すべて合算して103万円以下か確認する必要があります。
公共交通機関を使って通勤する場合、通勤手当が支給されますが、交通費は総収入に合算しません。ただし、公共交通機関の交通費について、月15万円の非課税限度額を超えた分の交通費については、総収入に含めます。車や自転車通勤の場合も、定められた金額を超えた手当は総収入に合算します。
フリーランスで成果報酬型の収入を得ている場合については、給与所得ではなく事業所得になるため、経費の計算が必要です。該当する年の報酬額の合算から経費を差し引いた金額で計算します。
103万円を超える従業員のメリット・デメリット
103万円を超えると課税対象になりますが、一方で収入を増やせるメリットもあります。それぞれ解説します。
従業員のメリット
何より、収入額が増えることが大きなメリットです。103万円を超えて働くことで、これまで以上に業務の幅を広げ、スキルを磨く機会も増えます。積み上げた経験は、将来的なキャリアアップにも役立つでしょう。優秀な実績を残せば、昇給・昇格の道もつき、さらなる収入増が見込めます。
従業員のデメリット
103万円を超えると、所得税を負担しなければなりません。給与所得控除の上限を超えると、徐々に課税対象額が増えます。親や配偶者の扶養から外れ、扶養控除や配偶者控除の適用が受けられなくなり、家計としての税負担額が増加するのもデメリットです。住民税についても、収入に応じて本人の負担が増えます。
さらに、勤務先の企業によっては、年収が一定額を超えると社会保険への加入が義務付けられています。社会保険料の負担が増える場合もあるでしょう。
なお、2024年10月から、従業員数が51人以上の企業で「週の所定労働時間が20時間以上」「2か月を超える雇用の見込みがある」「所定内賃金が月額8.8万円以上」「学生ではない」を満たす従業員は社会保険加入が義務化されます。
参考:厚生労働省|社会保険適用ガイドブック
103万を超える働き方を応援する企業のメリット・デメリット
企業にとって、103万を超える働き方を受け入れることには、どのようなメリット・デメリットがあるかも解説しましょう。
企業のメリット
人材確保と定着面での効果が期待できます。さまざまな壁がありますが、最も低いボーダーライン「103万の壁」を超えるには大きな決心が必要です。ライフステージなど従業員の多様な働き方を容認できるため、人材確保や人材定着が促せます。
生産性面でのメリットも見逃せません。「より多く働きたい」など、モチベーションが高い人材が確保できることで、生産性の向上が期待できます。ダイバーシティ経営(※)の観点においても、企業の社会的価値を高められるでしょう。
※「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」のこと。(経済産業省ホームページより引用)
企業のデメリット
103万円の壁を超え、最終的に収入が106万円を超えた従業員に対しては、企業規模にもよりますが、企業側で社会保険料を負担する必要があるため、コスト負担が増えます。103万円を超える、超えないにより、従業員間の賃金などの格差が生じれば不満が高まるリスクもあります。政府が推進する社会保険適用拡大パッケージの利用で社会保険に加入する場合はとくに、従業員間の処遇の取り扱いに注意が必要です。また、企業全体の人件費負担が重くなる可能性もあります。
他にも気をつけたい4つの「年収の壁」
103万円以外にも働き方や家計に影響する年収の壁があり、それぞれ注意が必要です。主なものを紹介します。
106万円の壁
週20時間以上、月額8.8万円以上などの要件を満たす学生以外の短時間労働者で、年収106万円を超えると、社会保険への加入が義務付けられます。加入は拒否できないため、社会保険料を負担しなければなりません。繰り返しになりますが、2024年10月からは従業員51人以上の規模の企業が対象となります。
参考:厚生労働省|社会保険適応拡大特設サイト
130万円の壁
年収130万円を超えると、通常は配偶者などの扶養から外れて、国民年金と国民健康保険に自身で加入し保険料を払います。130万円未満であれば、配偶者の社会保険上の扶養に入れる場合が多いです。
150万円の壁
配偶者の年収が150万円を超えると、納税者本人が受ける配偶者特別控除の金額が減額されます。150万円以下については、配偶者の合計所得額が900万円以下(給与収入のみの場合は年収1,095万円以下)の場合、最大の38万円控除が受けられます。
参考:国税庁|No.1195 配偶者特別控除
201万円の壁
201万円の壁を超えると、配偶者特別控除の適用が完全になくなるため、納税者本人の税負担が大きく増えます。厳密には、201万円ではなく、201.6万円です。
参考:国税庁|No.1195 配偶者特別控除
年収の壁を意識している短時間労働者の割合
さまざまな年収の壁がありますが、実際に短時間労働者はどの程度意識しているのでしょうか。令和3年のパートタイム・有期雇用労働者実態調査によると、配偶者がいる女性パートタイム労働者のうち、21.8%が就業調整をしています。
就業調整をしているパートタイム労働者のうち、103万の壁を意識していると回答(複数回答)した割合は、全体で46.1%、配偶者がいる女性では49.6%と高い値となりました。また、一定額を超えると社会保険に加入しなければならないことを意識して就業調整をしている女性が57.3%いることもわかっています。
出典:令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の概況 2 現在の就業形態を選んだ理由及び就業調整
政府の「年収の壁」対策
「年収の壁」は税制や社会保険制度に起因する問題であり、就業調整を助長することから、政府も対策に乗り出しています。具体的には、2023年10月「年収の壁・支援強化パッケージ」を策定しました。その主な施策内容は以下のとおりです。
- 「106万円の壁」への対応
- 「130万円の壁」への対応
- 配偶者手当の見直し
ただし、所得税の103万円の壁については、このパッケージ内に直接的な対策は含まれていません。扶養控除や配偶者控除の制度見直しなどが、今後の課題となる可能性があります。
「106万円の壁」への政府の対応
キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されました。短時間労働者が社会保険に加入しても収入が減少しないよう、事業主に対して助成金を支給します。「手当等支給メニュー」と「労働時間延長メニュー」があり、最大で従業員1人当たり50万円の助成です。
もう一つの対策は、短時間労働者が社会保険に加入した際の手取り減少を補てんするための「社会保険適用促進手当」です。手当の金額は、本人負担分の社会保険料相当額を上限とし、社会保険の標準報酬月額の算定から最大2年間除外されます。ただし、標準報酬月額が10万4,000円以下の労働者が対象という条件付きです。
「130万円の壁」への政府の対応
「130万円の壁」対策として、一時的な収入増加の場合でも被扶養者資格を維持できるよう、事業主が労働時間の一時延長を証明することで、迅速な被扶養者認定が可能になりました。なお、同一労働者については2回までとする制限が設けられています。
配偶者手当の見直し
一部の企業が支給する配偶者手当には、「配偶者の年収が一定額未満」などの条件が付されているケースがあります。この条件が、短時間労働者が就業調整する理由の一つです。そこで政府は、配偶者手当の支給条件が就業調整の原因となっている企業に対し、手当の支給条件の見直しを促す施策を打ち出しました。具体的には、配偶者手当の見直し手順を示したフローチャートなどの資料を作成し、該当企業に提示することで、手当の適正化を図るものです。
参考:厚生労働省|配偶者手当見直し検討のフローチャート
所得税に算入されない形で従業員に還元する福利厚生に注目
「103万の壁」を超えるかどうかは、従業員次第です。2022度、従業員規模が101人以上の企業に社会保険の適用拡大がされた際に、加入しなかった理由についての調査結果を見てみましょう。
- 手取り収入が減少する(56.1%)
- 配偶者控除をうけられなくなる(43.9%)
- 健康保険の扶養から外れる(37.4%)
- 加入するメリットがわからない(22.3%)
手取りが減る、配偶者控除の対象外となるなど、加入によるマイナス面を強く意識して加入しなかったことがわかります。
このような従業員にも、提供できる福利厚生サービスが注目されています。福利厚生には扶養手当など、所得税が課税されるものもありますが、要件を満たした食事補助の手当ならば、所得税の課税対象外として支給することが可能です。配偶者控除を受けられなくなったり、健康保険上の扶養から外れてしまったりすることがなく、どのような働き方の従業員にも公平にサービスを提供できます。
出典:労働政策研究・研修機構|社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査
チケットレストランの概要
食事補助の福利厚生サービスとして注目を集めているのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。「チケットレストラン」は、専用のICカードを使い、全国約25万店舗以上の加盟店で従業員の食事代の半額を補助するユニークなサービスです。利用時間や場所に制限がなく、出張中やリモートワークでも問題なく活用できます。
加盟店の業態も多岐にわたり、カフェからファストフード、コンビニまで幅広いのも魅力です。年齢や嗜好に関わらず、その日食べたいと思ったものを近くの店舗に行き食べられます。 Uber Eats との連携もあるため、雨の日や外出ができないほど忙しい日に利用することも可能です。
既に2,000社以上の企業で導入され、利用率98%、継続率99%、満足度93%と高い支持を獲得しています。年収の壁で就業調整するパートタイム労働者などにもサービスを公平に提供できる福利厚生であり、103万の壁のようにボーダーラインを分けることはありません。
多様な働き方を受け入れることが大切
「103万の壁」は、所得税がかかる収入になるかどうかのボーダーラインです。超えることで収入が増えたり、業務経験やスキルが増えるメリットがありますが、税金の負担は避けられません。企業は103万の壁などの年収の壁問題を通じて、従業員の自由な働き方を応援していく必要があるでしょう。年収の壁によらず、全従業員に提供できるボーダーレスなエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を活用して、多様な従業員の働き方を支えませんか。