2026年度診療報酬改定に向けて、看護師など医療従事者の賃上げが重点課題として議論されています。中央社会保険医療協議会での議論状況を踏まえ、診療報酬改定で看護師の給与は本当に上がるのか、賃上げが難しい医療機関が今できる対策を解説します。
医療現場で看護師が離職!背景にある賃金事情
2024年12月、東京都内の医療機関で働くケア労働者約9,000人で組織する東京医労連が会見を開き、看護師の厳しい賃金事情を訴えました。
年末一時金の平均額は54万6,229円(1.742か月)で、昨年比マイナス7,262円。35歳の看護師をモデルにした賃金比較では、2019年と比べて2024年は年収でマイナス22万3,127円となっています。
会見に出席した看護師は次のように語りました。
「去年1年間だけで58人が退職している。ある病棟では、定員18人のところを12人で対応している」
「一人の看護師が20人近くの患者さんを診ている。人手不足で患者さんの思いをじっくり聞くことなどまったくできない」
このような負の連鎖が今、日本の医療現場で起きています。
出典:弁護士JPニュース|「1年間に看護師58人退職」の病院も…“負担増・ボーナス減”止まらない負の連鎖 東京医労連が処遇改善訴え会見
看護師の賃上げ推移
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から、2019年以降における看護師の賃金推移を確認してみましょう。
| 年度 | 所定内給与額 |
きまって支給する現金給与額 |
年間賞与・その他特別給与額 | 年間給与計 |
| 2019年 (R元) |
302,400円 | 334,400円 | 816,300円 | 4,829,100円 |
| 2020年(R2) | 309,100円 | 338,400円 | 857,500円 | 4,918,300円 |
| 2021年(R3) | 312,600円 | 344,300円 | 854,600円 | 4,986,200円 |
| 2022年(R4) | 318,000円 | 351,600円 | 862,100円 | 5,081,300円 |
| 2023年(R5) | 319,300円 | 352,100円 | 856,500円 | 5,081,700円 |
| 2024年(R6年) | 329.600円 | 363.500円 | 835.000円 | 5,197,000円 |
2024年度は前年度比で所定内給与額(超過勤務手当、通勤手当などを含まない)が10,300円増加し、2019年比では27,200円の上昇となりました。2023年までの5年間で17,000円程度の増加だったことを考えると、2024年は大きく改善しています。
これは2024年度診療報酬改定によるベースアップ評価料の効果と考えられます。一方で、年間賞与は2023年比で21,500円のマイナスです。基本給は上がったものの、ボーナスが減少する傾向が見られます。
出典:政府統計の総合窓口|賃金構造基本統計調査 | ファイル | 統計データを探す
一般労働者と比較した看護師の賃金水準
看護師の賃金はどのような水準で推移しているのでしょうか。令和5年度と令和6年度の一般労働者の平均所定内給与額と比較してみます。
令和5年度(2023年)
- 男性:350,900円
- 女性:262,600円
- 男女計:318,300円
- 看護師:319,300円(再掲)
令和6年度(2024年)
- 男性:363,100円
- 女性:275,300円
- 男女計:330,400円
- 看護師:329,600円(再掲)
基本給の伸びが一般企業に追いついていない
令和6年度、看護師の所定内給与額(基本給)は全労働者平均を800円下回りました。前年度は1,000円上回っていたため、基本給ベースでの相対的な地位が低下しています。
賃上げ率も見てみましょう。
- 一般労働者(男女計):約+3.80%
- 看護師:+3.23%
2024年は「歴史的な賃上げの年」(民間主要企業の賃上げ率が5.33%)でしたが、看護師の基本給の伸びは一般企業に及びませんでした。
ただし、所定内給与額には夜勤手当や時間外手当は含まれていません。「きまって支給する現金給与額」で見ると、看護師363,500円 > 全労働者平均330,400円となり、看護師の方が高くなります。
一方、昇給や退職金の算定基礎となる重要な指標である基本給の伸びが鈍いことは、長期的なキャリアにおいて看護師が不利になる可能性を示しています。
出典:厚生労働省|令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況
出典:厚生労働省|令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況
医療機関等向け国の賃上げ施策を確認
国は医療機関の賃上げを支援する施策を実施してきました。ここでは、令和3年度以降の医療機関における国の賃上げの施策をまとめます。
| 年度 | 施策 | 内容 |
| 令和3年度(2021年) | 看護職員等処遇改善事業補助金 | 新型コロナウイルス感染症への対応等、最前線において働く看護職員の収入を引き上げ |
| 令和4年度(2022年) | <2022診療報酬改定>で看護職員処遇改善評価料を新設 | 地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に処遇改善の仕組みを新設 |
| 令和6年度(2024年) | <2024診療報酬改定>ベースアップ評価料の新設、初再診料・入院基本料等の引き上げ | 看護職員、薬剤師その他の医療関係職種の賃金の改善を実施していくための評価を新設 |
令和3年度から医療機関の賃上げは、新型コロナウイルス感染症対応の一時的な「補助金」から「診療報酬評価料」の新設へ移行し、令和6年度には看護職員を超えた多方面への恒常的なベースアップを実現する制度化で進んでいます。
出典:厚生労働省|(令和7年度第9回) 入院・外来医療等の調査・評価分科会
関連記事:看護師の賃上げ完全ガイド|診療報酬改定の影響と賃上げしないリスクを解説
2024年度導入ベースアップ評価料の成果と課題
直近となる2024年診療報酬改定で導入された「ベースアップ評価料」は、医療機関が賃金を引き上げた場合に診療報酬に加算される仕組みです。政府は、ベースアップ評価料などを通じて、医療従事者のベースアップを2024年度に2.5%、2025年度に2.0%達成することを目指しています。
具体的な加算率:
- 看護師などの医療従事者:改定率 +0.61%
- 40歳未満の若手医師や事務職員:改定率 +0.28%
出典:令和6年度診療報酬改定と賃上げについて ~今考えていただきたいこと (病院・医科診療所の場合)
小規模医療機関で取得が進まない実態
しかし、小規模医療機関では加算の取得が進んでいません。ベースとなる「外来・在宅ベースアップ評価料(I)」は、病院では約9割が取得しているのに対し、クリニックでは約4割、訪問看護ステーションでは約43%にとどまっています。

出典:厚生労働省|令和7年度第9回入院・外来医療等の調査・評価分科会 議事次第
ベースアップ評価料を届け出ても上がりにくい賃上げ率
「ベースアップ評価料」を申請した医療機関でも、対象職員の賃上げ率は2年間(2024年度と2025年度)で平均3.40%にとどまりました。
これは、厚生労働省が目指していた医療従事者の賃上げ目標である4.5%を下回る結果です。
出典:厚生労働省|令和7年度第9回入院・外来医療等の調査・評価分科会 議事次第
事務負担が届け出の障壁
医療従事者の賃上げ原資となるベースアップ評価料の届け出が進まない理由の一つに、事務負担の大きさが挙げられます。現在のベースアップ評価料は、給与総額や賃金改善総額の算出などが必要です。「精緻な対応を可能にする」優れた仕組みですが、その分、医療機関の事務負担が大きくなってしまうのが課題とされています。
民間企業がベースアップ評価料の利用状況をクリニックに質問したところ、2024年度に算定したのは49%、そのうち57%が院長先生が書類の作成を行ったことがわかりました。事務員が行ったとしても、業務に加えて事務負担が増えることには変わりません。
出典:本郷メディカルソリューションズ|ベースアップ評価料の利用実態と留意点
出典:GemMed|医療従事者の処遇改善、「ベースアップ評価料等の充実」等で対応すべきか、「基本診療料の引き上げ」等で対応すべきか―中医協総会(1)
2026年度診療報酬改定の基本方針
2026年度診療報酬改定に向けて、厚生労働省は基本認識として「物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応」を重点課題として掲げました。
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定の基本方針の概要(案)
2026年度診療報酬改定における賃上げ論点
2026年度診療報酬改定に向けた中医協の議論では、次のような課題が指摘されています。
- 看護職員処遇改善評価料、ベースアップ評価料の双方について、書類の作成が煩雑。両者を統合する検討の余地がある
- 小規模医療機関では事務職員が不足しており、届出書類の作成負担が大きい。このためベースアップ評価料の届出が進んでいない
- ベースアップ評価料を入院基本料等に統合すべき。難しければ、届出書類の簡素化や対象職種の見直しを講じるべき
- 外来・在宅ベースアップ評価料についても簡素化を図るべき
- 看護職員の夜勤手当は2010年代以降ほとんど増加しておらず、引き上げが必要
2026年度診療報酬改定では、看護師を含む医療従事者の賃上げについて、制度の簡素化や統合といった仕組みの見直しが議論されています。
出典:厚生労働省|中央社会保険医療協議会 総会(第633回)議事次第 賃上げについて(その1)
医療機関が直面する待遇改善の難しさ
診療報酬改定による賃上げが議論される一方で、医療機関は独自の賃上げが難しい状況に置かれています。
診療報酬制度による収入の制約
医療機関の主な収入源は診療報酬です。民間企業のように商品価格を自由に設定したり、サービス単価を引き上げたりすることはできません。診療報酬は国が定めるため、医療機関が自主的に収入を増やす手段は限られています。
医療費抑制の影響
少子高齢化で医療費が増えている現状から、政府は医療費削減を目指し、診療報酬の引き下げや効率的な医療提供を求める立場にあります。このため、診療報酬は増加しにくい構造にあり、医療機関が賃上げ原資を確保することは容易ではありません。
【実践】賃上げが難しい場合の対策「福利厚生の活用」
診療報酬に依存しない方法で、従業員の実質的な手取りを増やす施策があります。それが、福利厚生の充実です。
食の福利厚生サービスを提供するエデンレッドジャパンは、実質的な手取りアップや暮らしの負担を軽減するような福利厚生(食事補助等)を活用した賃上げを「第3の賃上げ」と定義しました。
食事補助の非課税枠を利用した新しい賃上げの形で、従業員の実質手取りを増やしながら、企業の税負担も抑えることができます。同じ金額を給与として提供するより、福利厚生として提供した方が従業員の実質的な手取り額は多くなります。
出典:エデンレッドジャパン|“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
医療機関におすすめ:食の福利厚生「チケットレストラン」
エデンレッドジャパンが提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」は、全国25万店舗以上の加盟店での食事が実質半額になるサービスです。
コンビニやファミレス・カフェなど身近な選択肢で、勤務時間内であれば利用する時間や場所の制限もありません。勤務時間が不規則になりがちな看護師が、利用しやすい自由度の高さが魅力です。
賃上げを実現する非課税枠を活用した仕組み
「チケットレストラン」は条件を満たせば福利厚生費として扱えます。従業員1人に対して毎月3,500円(税別)が上限で、企業支給額に対して従業員は同等以上の負担が必要です。
この条件を満たすことで、企業は福利厚生費として経費計上でき、従業員は所得税の課税対象外にできます。
出典:エデンレッドジャパン|食の福利厚生「チケットレストラン」を健育会グループへ提供開始
導入事例:医療従事者の採用強化として
東日本を中心に数十の医療施設(病院・クリニック・介護施設・介護事業所)を有する医療法人社団健育会グループでは、2025年10月1日より「チケットレストラン」を導入しました。
健育会グループ代表の竹川氏は次のようにコメントしています。
「昨今の止まらない急激な物価上昇に日々の生活が脅かされないよう、可能な限り職員の可処分所得を上げる策を検討していた際に、チケットレストランを知り導入することを決めました」
医療業界では環境改善や賃上げの難しさがあるからこそ、福利厚生が従業員エンゲージメント向上や採用力強化に貢献します。
出典:エデンレッドジャパン|食の福利厚生「チケットレストラン」を健育会グループへ提供開始
導入事例:薬剤師の定着を目指して
調剤薬局を運営するM’sファーマ株式会社の場合は、「チケットレストラン」導入など、従業員満足度を上げるための複数の施策に並行して取り組み、薬剤師の大幅な離職率の引き下げ・定着率アップに成功しています。(2019年度は約50%、導入後の2021年度は約10%)
食事補助を非課税で行えることも魅力で、企業・従業員ともに費用面のメリットを受けられます。
導入事例:M's ファーマ株式会社
看護師の処遇改善は待ったなしの課題
看護師の賃上げは、医療制度を維持するために喫緊の課題です。現在の医療従事者は診療報酬から収入を得る仕組みとなり、構造上医療機関ごとの柔軟な賃上げが難しい側面があります。賃上げを重点課題とした2026年診療報酬改定を待つことも大切ですが、同時に、医療機関が今できる対策を実施することも求められています。
医療の質を維持するためには、看護師の働き方に即した柔軟な福利厚生の導入や、実質的な手取り収入(可処分所得)を増やすための工夫など、看護師を支援する具体的な施策の検討が重要です。
「チケットレストラン」による手取りアップにトライしてみてはいかがでしょうか。
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エデンレッドジャパンブログ編集部
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