「第三の報酬」が注目を集めています。物価上昇や人材不足が深刻化する中、給与や賞与といった金銭的な報酬だけで、従業員のモチベーションや定着を維持することは困難です。そこで認知度を高めているのが「第三の報酬」。感謝や承認といった内面的な満足や、福利厚生による生活支援など、給与以外での価値提供が従業員エンゲージメントを高める鍵となっています。本記事では、定義と制度例・導入メリット・設計のポイントなど「第三の報酬」にまつわる気になる情報をわかりやすく解説します。
「第三の報酬」とは?その定義と代表的な取り組み
「第三の報酬」とは、給与や賞与とは異なる形で従業員に価値を還元する、新しい報酬の概念です。まずは、第三の報酬とは何か、その基本的な定義と代表的な取り組みについて解説します。
金銭的報酬では満たしきれない価値を補う
かつて従業員のモチベーション維持には「どれだけ給与を上げるか」が大きな要素でした。しかし近年では、Z世代を中心に「成長実感」「感謝されること」「チームに貢献している感覚」といった内的動機づけが重視される傾向にあります。
金銭的報酬の限界が指摘される中、第三の報酬は「働きがい」や「つながり」といった感情的な価値、あるいは生活支援を通じた実質的手取りの増加など、従来の報酬体系では捉えきれない領域にアプローチする仕組みとして注目されているのです。
第三の報酬に含まれる代表的な取り組み
第三の報酬に該当する取り組みは多岐にわたりますが、大きく「心理的報酬」と「生活支援型報酬」の2つに分類されます。
前者に該当するのが「ピアボーナス」や「サンクスカード」など、ありがとうの気持ちを制度として可視化し、職場内で承認が循環する仕組みです。
また、後者には、非課税枠を活用した「食事補助」や「社宅制度」「家事代行支援」など、実質的な手取りの増加を目的とした福利厚生等が該当します。
これらの制度に共通するのが、従業員の心理的な充足感を高めるだけでなく、「感謝されるから動く」「支援があるから頑張れる」といった行動そのものを変える効果も持っていることです。
仕事に対する内的動機づけの重要性が高まる中、第三の報酬の重要性も増しています。
「心」と「暮らし」に効く第三の報酬とは?2つのアプローチを解説
第三の報酬に該当する「心理的満足」と「生活支援」とは、具体的にどのような取り組みなのでしょうか。ここでは、それぞれの特徴と企業にもたらす効果を解説します。
心理的報酬|感謝・承認を通じて働きがいを高める
心理的報酬は「承認されている」「感謝されている」といった心理的な充足を通じ、従業員のモチベーションや働きがいを高めるアプローチです。給与のように数値で測れる報酬とは異なり、職場内の関係性や企業文化づくりに寄与します。
また、組織への帰属意識やモチベーションにも影響を与えるため、従業員の定着やエンゲージメントの向上といった効果も期待できます。
金銭的報酬が届かない領域にアプローチできる点で、企業にとって重要な戦略のひとつです。
生活支援型報酬|実質手取りを高める福利厚生制度
生活支援型報酬は、給与額そのものを増やさずに、実質的な手取りや生活の安定を支援するアプローチです。
食費・住居費・家事支援などのコスト削減をサポートすることで、従業員の経済的負担を減らし、結果として可処分所得を高めることができます。
中でも、一定の条件を満たせば所得税が非課税扱いとなる福利厚生制度は、税務上、企業側のコスト最適化にもつながるため注目されています。継続的な賃上げが難しい企業にとっても、有効な選択肢となり得る報酬設計です。
「心理的報酬」の具体的な取り組み
給与や賞与といった金銭報酬では満たしきれない「働きがい」や「承認欲求」。こうした内面的なニーズに応えるのが「心理的報酬」です。ここでは、企業で導入が進む代表的な心理的報酬の取り組みを紹介します。
【ピアボーナス】仲間同士の称賛が動機づけになる仕組み
従来の人事評価では見落とされがちだった、日々の貢献やチーム内での支援に光を当てる仕組みとして、「ピアボーナス」が注目を集めています。上司からの一方通行ではない、仲間同士の相互承認が生む効果と運用の工夫について詳しく見ていきましょう。
ピアボーナスの仕組みと特徴
ピアボーナスは、従業員同士が「感謝」や「称賛」の気持ちを、メッセージとともにポイントなどの報酬として贈り合う制度です。特徴的なのは、評価の主体が管理職ではなく「同僚」や「チームメンバー」であることで、日々の何気ない貢献や支援行動が即座に可視化される点が強みです。
たとえば、資料作成を手伝ったり、新人のフォローをしたりといった行動に対して、その場で感謝と報酬がセットで贈られることにより、承認の循環が生まれやすくなります。こうした日常的な承認は、従業員の自律的な行動を促し、結果として組織全体のエンゲージメント向上につながります。
また、制度を通じて企業理念やバリューに沿った行動を称賛する仕組みにすれば、企業文化の定着にも有効です。
定着のカギは「透明性」と「文化の浸透」
ピアボーナスを制度として長期的に根づかせるには、運用の透明性と組織文化への自然な浸透が不可欠です。
たとえば、誰に何ポイント贈ったかが社内で共有されるような仕組みがあれば、公平性と納得感を高めることができます。また、評価の偏りや、いわゆる「仲良しグループ」による乱用を避けるために、月間上限の設定やフィードバック文の質の確認なども重要です。
さらに、マネジメント層が率先して制度を活用し、称賛の言葉を日常的に発信することで、制度を遠慮せず使える土壌が社内に育っていきます。
制度を形だけの仕組みにとどめず、感謝が自然と循環する空気をどう醸成するかが、定着と成功の鍵となります。
関連記事:第3の給与・賃上げ|福利厚生やピアボーナスで手取りが増える仕組みを解説
【感情報酬・サンクスカード】言葉の報酬のインパクト
金銭やポイントではなく「ありがとう」「助かりました」といった言葉や態度によって従業員を承認する仕組みが「感情報酬」です。感情に訴えるこうした報酬は、経済的な価値を超えて従業員の心に届き、働きがいに直結します。導入のハードルが低いこともあり、多くの企業で定着が進んでいます。
感情報酬とは?心理的満足を支える仕組み
感情報酬とは、従業員の行動や姿勢に対して「言葉」や「態度」「感情」をもって報いる非金銭的な報酬です。
具体例としては、上司からの感謝のコメントや、同僚からの労いの一言、目を見てうなずくといった仕草も含まれます。これらは、従業員の承認欲求や自己肯定感を満たし、働きがいを高める原動力となります。
感情報酬の大きな特長は、即時性と低コストです。評価面談のようなタイムラグを必要とせず、日常の中で気づいた瞬間にフィードバックをおこなえるため、効果が高く、継続しやすいメリットがあります。こうした小さな承認の積み重ねが、職場全体の心理的安全性やエンゲージメントの底上げにつながります。
サンクスカード制度の効果
感情報酬を制度化したものが「サンクスカード制度」です。従業員同士が「ありがとう」の気持ちをカードやデジタルメッセージで伝え合うこの制度は、企業規模を問わず導入しやすく、運用の柔軟性も高いことから注目されています。
たとえば、手書きのカードを指定の場所に掲示する企業もあれば、デジタルツールを使って即時に送付・蓄積できる仕組みを導入している企業もあります。送付枚数に上限を設けたり、特に印象深いカードを表彰したりするなど、企業風土に応じたカスタマイズも可能です。
この制度の最大の効果は「感謝の文化」を日常に根づかせることです。言葉にすることで感情が明確になり、相互理解や信頼が深まり、チーム内の連携もスムーズになります。
特に、手書きカードの場合は、受け取った側の記憶に残りやすく、よりポジティブで大きな心理的効果が期待できます。
【エンゲージメントストック】中長期の貢献を報酬として可視化する仕組み
エンゲージメントストックは、企業の業績や中長期的な目標に貢献した従業員に対して、仮想株式を付与し、のちに現金で還元する報酬制度です。短期的な成果に偏らず、持続的な努力や理念に沿った行動を評価できるのが特徴で、心理的報酬と金銭報酬の中間的な制度として、人的資本経営の観点からも注目されています。
仕組みと活用法|仮想株式が生む成果連動型報酬
エンゲージメントストックでは、企業が定めた期間や条件に応じ、従業員に「仮想株式(ファントムストック)」を付与します。この仮想株には市場価値はなく、実際の株主権も伴いませんが、企業の業績や成長指標に応じて株価が評価され、一定期間後に現金として支給される仕組みです。
この制度は、特にスタートアップや成長企業で導入が進んでおり、ストックオプションに代わる柔軟な報酬手段として注目されています。従業員にとっては「自分の行動が企業の成果に結びついている」実感が得られ、エンゲージメント向上に直結します。
また、報酬の支給と課税のタイミングが一致するため、「現金をもらう前に課税される」といった負担がなく、従業員の資金繰りに配慮された制度です。
人的資本経営と制度の親和性|評価の可視化と外部開示への応用
エンゲージメントストックは、人的資本経営やESG開示の観点も注目される制度です。企業にとって人的資本は単なるコストではなく、投資対象であり価値創出の源泉と捉える時代において、従業員の貢献を「報酬」という形で定量的に可視化できる同制度は、非常に相性が良いといえます。
また、仮想株の付与状況や報酬実績はデータとして蓄積できるため、HRテックとの連携によってリアルタイムな管理や分析も可能です。これにより、従業員一人ひとりの中長期的な貢献や行動履歴を可視化し、人事評価や社外への非財務情報開示に活用することができます。
「成果主義」と「理念共有」のバランスを取りながら、評価と報酬を戦略的に運用したい企業にとって、エンゲージメントストックは有効な選択肢となるでしょう。
関連記事:ファントムストックとは?従業員持株制度との違いやメリット・デメリット
「生活支援型報酬」の具体的な取り組み
給与として支給される金額を増やすのではなく、生活費の一部を企業が支援することで、従業員の「実質的な手取り」を増やすのが生活支援型報酬です。中でも、福利厚生制度を活用した施策は、コスト効率にも優れた第三の報酬として注目されています。
【福利厚生の活用】実質的な手取り額の増加
物価高や人件費の高騰が続く中、継続的な昇給が難しい企業でも実質的な支援が可能になる「福利厚生の活用」が広がっています。給与として支給せず、福利厚生として提供することで、従業員の手取り増と企業のコスト最適化を両立することができます。
福利厚生を通じた「第3の賃上げ」で従業員満足度の向上を
一定の条件を満たす福利厚生は、所得税の非課税枠が活用できるため、同額を給与で支給するよりも従業員の実質的な手取り額を増やせます。
この仕組みを活用した実質的な賃上げの代替手法として、近年注目度を高めているのが、エデンレッドジャパンが提唱する「第3の賃上げ」です。
「第3の賃上げ」は、定期昇給を「第1の賃上げ」、ベースアップを「第2の賃上げ」とした場合に、実質的な手取りアップや家計負担の軽減につながる福利厚生を活用した賃上げの手法です。
福利厚生は、福利厚生費として経費計上できるため、企業の法人税の削減にも寄与します。従業員・企業双方にとってメリットが大きい施策となっています。
関連記事:「第3の賃上げ2025」とは?福利厚生で実現する新時代の賃上げ戦略
企業・報道も注目「チケットレストラン」
「第3の賃上げ」の代表例として挙げられるのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」は、従業員のランチ代を企業が補助する食の福利厚生サービスで、導入企業の従業員は、全国25万店以上の加盟店での食事を実質半額で利用できます。
加盟店のジャンルは、ファミレス・コンビニ・三大牛丼チェーンなど幅広く、勤務時間中にとる食事の購入であれば、利用時間や場所の制限もありません。業種や勤務体系を問わず柔軟に利用できる福利厚生として、すでに3,000社を超える企業に導入され、数々の有名メディアでも取り上げられています。
「チケットレストラン」の詳細は「こちら」からお問い合わせください。
関連記事:チケットレストランにデメリットはある?導入前の不安を徹底解消
【第三の報酬】制度設計・運用で押さえるべきポイント
第三の報酬は、単に制度を導入すれば機能するものではありません。職場の文化として定着させてこそ、本来の価値を発揮するものです。ここでは、制度を形骸化せず、成功に導くための設計・運用の基本を押さえます。
制度が形骸化する原因と回避策
制度の形骸化は、設計や運用の甘さによって起こります。ピアボーナスが身内だけの評価に留まったり、サンクスカードがノルマ化したりすると、本来の意義は失われてしまいます。
こうした事態を回避するには、導入の目的や価値を明文化し、従業員に丁寧に伝えることが大切です。あわせて、初期段階からルールやガイドラインを明示し、利用状況の定期レビューをおこなう体制を整えることで、軌道修正が容易になります。
人事制度や評価との接続で効果を最大化
第三の報酬は、単独ではなく人事制度や評価制度とゆるやかに連動させることで効果を発揮するものです。たとえば、社内ポイント制度を評価や表彰に一部反映すれば、従業員の行動が企業理念と結びつきやすくなります。
ただし、連動が強すぎると制度が競争的になり、承認文化が損なわれるリスクもあります。「日常的な称賛を可視化する文化づくり」の一環として、適度な距離感で制度を接続することが重要です。
スモールスタート→社内展開で「育てる」視点を
制度の導入はゴールではなくスタートです。初期は全社展開よりも、特定部署などでのスモールスタートが有効です。小規模な導入で成功体験を積み、改善を加えながら段階的に広げていくことで、制度が自然と社内文化に根づいていきます。
また、導入後も利用者の声を拾い、柔軟に調整することは、制度のさらなる定着と活用に有効です。「制度を押しつける」ではなく「一緒につくる」という視点が、長く機能する報酬制度につながります。
「第三の報酬」は、これからの企業成長を支える「新しい報酬のかたち」
給与や賞与だけでは従業員の満足や定着を維持しにくい時代において、注目を集めているのが、心理的充足や生活支援にフォーカスした「第三の報酬」です。
感謝や承認を可視化する「心理的報酬」は、働きがいやエンゲージメントの向上につながります。また「チケットレストラン」をはじめとする福利厚生制度は「生活支援型報酬」として経済的メリットを提供します。
このような従業員の「心」と「暮らし」に寄り添う報酬設計は、今後の人材確保・定着の要になるものです。従業員満足度の高い施策で優秀な人材の確保や定着を実現し、これからの時代をけん引する魅力的な企業を目指しましょう。
参考記事:「#第3の賃上げアクション2025」始動、ベアーズが新たに参画~中小企業にこそ“福利厚生”による賃上げを! “福利厚生”で、より働きやすく、暮らしやすい社会へ~
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