働き方の多様化が進む中、組織における「ビロンギング(Belonging)」すなわち「所属する安心感」の重要性が高まっています。本記事では、このビロンギングについて本質的な捉え方や組織での実践方法を解説します。
ビロンギングとは?英語の意味や概念を確認
ビロンギング(Belonging)とは、英語の「belong(所属する)」から派生した言葉で、組織における帰属意識や一体感を表す概念です。従業員一人ひとりが「自分の居場所がここにある」と実感できている状態を指します。
ビロンギングの定義
ハーバード大学の人事部門によるDIV用語集(ダイバーシティ、インクルージョン、ビロンギングについての用語集)の定義では、「誰もがコミュニティの一員として扱われ、その一員として成長できると感じられる状態」と述べられています。
Belonging means that everyone is treated and feels like a full member of the larger community, and can thrive.
直訳:帰属意識とは、すべての人がより大きなコミュニティの一員として扱われ、成長できることを意味する。そして成長することができる。
引用元:https://edib.harvard.edu/files/dib/files/dib_glossary.pdf
ビロンギングはいわゆる日本的な「忠誠心」とは相違
ビロンギングは、単なる組織への所属を超えた、深い心理的なつながりを表す概念です。ただし、ビロンギングにおける「所属する安心感」について、従来の日本の働き方における「企業への忠誠心」とは本質的に異なることを押さえましょう。個人の多様性を認めながら、組織との強いつながりを感じられる状態が、ビロンギングの考え方です。
ビロンギングとエンゲージメントの違い
ビロンギングと近しい概念にエンゲージメントがありますが、似て非なる概念です。エンゲージメントは約束・契約の意味を持つ言葉であり、企業と従業員の間の「信頼関係」や「契約関係」を表します。ビロンギングはより個人的な感情や感覚に焦点を当てています。自分の居場所はここにあると感じられることを示す概念です。
ビロンギング
ビロンギングの概念を言葉で表すと、以下のとおりです。
- 個人が感じる心理的な安全性
- 組織での居場所感
- 自分らしさを保てる実感
エンゲージメント
エンゲージメントの概念を言葉で表すと、以下のとおりです。
- 組織と個人の関係性の質
- 企業への貢献意欲
- 相互の約束事
ビロンギングの重要性を高めた背景|D&I〜DEI〜DEIBの流れを紹介
企業のダイバーシティへの取り組みは、D&IからDEI、そしてビロンギングへと深化を続けています。従来のアプローチだけでは解決できない課題の存在を確認していきましょう。
D&I:ダイバーシティ(Diversity)とインクルージョン(Inclusion)
当初、企業は多様な人材が存在する「状態」としてのダイバーシティ(Diversity)と、その多様性を活かすインクルージョン(Inclusion)に注力しました。具体的には、女性・外国人・障害者・シニア層など多様な人材を受け入れ、活かすことです。しかし、真の多様性の実現には公平性(Equality)が必要という概念が普及するようになります。
DEI:エクイティ(Equity)という新たな視点
ダイバーシティ(Diversity)とインクルージョン(Inclusion)だけでは解消できない課題があります。たとえば、性別による賃金格差などの不公平な環境です。
そこで、すべての従業員に公平な機会を提供するエクイティ(Equity)、公平性という考え方が加わりました。個々の状況に応じた適切なサポートを提供する「公平性」を重視する概念です。D&IにE(Equity)が加わることで、より包括的な取り組みへと発展しました。
DEIB:ビロンギングという所属意識の重要性
多様性を認め(Diversity)、個性を活かし(Inclusion)、公平な機会を提供する(Equity)という取り組みを進めても、なお組織の一員としての実感が持てない従業員が存在することが徐々に明らかになります。ここで重要となるのが「ビロンギング(Belonging)」、つまり自分が組織に受け入れられているという考え方です。
DEIBという概念が示すように、多様性・包摂性・公平性という土台があってこそ、従業員は「ここは自分の居場所だ」という安心感を得られます。安心感は、従業員の潜在能力を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンス向上につながる重要な要素となるのです。
関連記事:【社労士監修】DEIB推進が企業価値向上に果たす役割とは|新しい時代の戦略
ビロンギングが注目されている理由
なぜ今、ビロンギングが注目されているのでしょうか。ここでは、時代の流れで新たなビロンギングという概念が注目された理由を解説します。
働き方の多様化
リモートワークの普及により、物理的な距離を超えた帰属意識の醸成が必要となっています。
総務省による令和5年版「通信利用動向調査の結果」によると、テレワークの導入状況は新型コロナウイルス感染症流行を受けた2019年(20.2%)から2020年(47.5%)にかけて2倍以上普及しました。その後、2021年(51.9%)、2022年(51.7%)、2023年(49.9%)となるなど、高い導入率が続いています。
自律的に働きながらも、組織におけるビロンギングを感じられることが、リモートワークの普及に伴い重要になっています。
出典:総務省|令和5年通信利用動向調査の結果
政府によるD&Iの推進
経済産業省による「ダイバーシティ経営企業100選」や、厚生労働省による「えるぼし認定」「くるみん認定」など、政府は積極的にD&Iを推進しています。さらに、2022年の障害者雇用促進法改正、2023年の性的マイノリティ理解増進についての法施行など、法制度の整備も着実に進行中です。政府の後押しもあり、企業は多様性への配慮を超えて、一人ひとりが真に居場所を感じられる組織づくり、すなわちビロンギングの醸成へと、D&I推進から少しずつ取り組みを深化させています。
参考:経済産業省|新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライム
参考:厚生労働省|女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)
参考:厚生労働省|令和4年障害者雇用促進法の改正等について
参考:厚生労働書|性的マイノリティに関する理解増進に向けて~厚生労働省の取組~
関連記事:えるぼしとくるみんの違いを徹底解説!認定基準やメリットを比較
ビロンギングが企業にもたらす効果
ビロンギングが企業にもたらす具体的な効果を、2つの調査結果を元に紹介します。
ハーバード・ビジネス・レビュー|企業の業績向上など
ハーバード・ビジネス・レビューの調査を見てみましょう。さまざまな業種の米国のフルタイム従業員1,789人を対象に実施した調査で、高いビロンギングを持つ従業員はビジネスに役立つと述べられており、以下のような具体的な効果をもたらしました。
- 生産性向上:仕事のパフォーマンスが56%向上
- 離職リスクの低下:離職リスクが50%低下
- 健康増進:病欠日数が75%減少
- 処遇改善:昇給が2倍多い
- キャリアアップ:昇進は18倍多い
- 企業価値の向上:自社を他人に推奨する意欲が167%以上増加
従業員の高いビロンギングは、従業員満足度を高め、顧客サービスの質の向上を促し、結果として企業の業績向上につながります。さらに、上記の数値が示すように、生産性向上から離職率低下まで、組織全体に好ましい影響をもたらします。離職率低下にも有効です。
出典:Harvard Business Review|The Value of Belonging at Work
MicrosoftのViva Glintによる調査|エンゲージメント向上
MicrosoftのViva Glintによる調査でも、ビロンギングの重要性を数値が示しています。同調査によれば、高いビロンギング意識を持つ従業員は、そうでない従業員と比較して6倍以上のエンゲージメントを示すことが判明しました。
出典:Microsoft|Diversity and Inclusion survey program in Viva Glint
ビロンギングを高める施策・取り組み
従業員が職場でビロンギング、つまり「所属する安心感」を高めるために、企業ができる施策や取り組みを説明します。
DEIBについての継続的な研修
ダイバーシティの概念は進化し、今やDEIBという言葉を見かけるシーンが増えています。多くの企業がダイバーシティ&インクルージョンの研修を実施していますが、ビロンギングを組織に根付かせるためには、形式的な研修や一時的な教育だけでは不十分です。「所属する安心感」を醸成するためには、DEIの理念を深く理解し、継続的な取り組みとして企業文化の中に組み込んでいく必要があります。
コミュニケーションにおける質の向上
1on1ミーティングやタウンホール(経営陣と従業員との対話の場)など、対話の機会を意図的に設けることが重要です。その際、一人ひとりが「ここで声を上げても大丈夫」と感じられる心理的安全性の確保が鍵となります。心理的安全性とは、組織の中で自分の考え方や気持ちを安心して発言できる状態のことです。
エン・ジャパンが2021年に実施した職場でのコミュニケーションに関する調査では、職場でのコミュニケーションが取れていると回答した割合が64%であり、そのうち「心理的安全性がある」と回答した割合は74%でした。心理的安全性の具体例としては、他愛のない雑談ができる(75%)、出社してリアルで会う機会がある(34%)、心身の状態を配慮し合える(28%)となっています。リアルなコミュニケーションを通じた心理的安全性の確保が、ビロンギングを高めるのに有効であることが示されています。
出典:エン・ジャパン|8,900人が回答!「職場でのコミュニケーション」調査ー『エン転職』ユーザーアンケートー
福利厚生を通じた帰属意識の醸成
食事補助や健康管理支援など、日常的な福利厚生も適切にビロンギングを高める重要な要素となります。帰属意識を改めて確認すると、「組織や集団の中の一員という意識のこと」です。日常的な福利厚生によるメリットの享受を通じて、企業の一員であるこという帰属意識を強く実感できます。結果として、ビロンギングを高めることにもなるでしょう。
なお、福利厚生の導入では、従業員が企業から大事にされているとより実感しやすいように、画一的な制度ではなく、個々の状況や必要に応じた柔軟なサポートを行うことに配慮します。
食事補助の福利厚生導入で帰属意識を向上した好事例
食の福利厚生による帰属意識向上の好事例として、半導体製造装置を取り扱う株式会社ノアの取り組みを紹介します。同社は2023年11月より、企業が従業員のランチ代を一定の利用条件下で半額補助する「チケットレストラン」を導入しました。全国25万店舗以上の加盟店で使える専用ICカードで、従業員は時間や場所を気にせず食事ができます。
導入の背景には、物価高による従業員の昼食控えや、社員食堂がある拠点とない拠点での不公平感の解消がありました。導入後、利用率84%・継続率100%という高い数値を記録。さらに、従業員同士で利用可能な飲食店情報を日常的に共有し合うなど、社内の気軽なコミュニケーションが活性化しています。
求人活動では「チケットレストラン」の存在に魅力を感じて応募するケースがあったそうです。従業員からは「物価高の中で食事補助はありがたい」「気軽に使える」といった声が上がっており、企業への信頼感や帰属意識の向上につながっています。
全従業員に対して同じサービスで、しかも日々実感できる形で健康と満足度の向上をサポートすることが、高い所属意識の醸成につながるでしょう。
企業ホームページ:http://www.fenoax.com/
導入事例:株式会社ノア様
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
ビロンギング「企業に所属する安心感」を醸成
「組織に所属する安心感」としての新しい概念であるビロンギングは、これからの組織づくりに必要不可欠です。ビロンギングは、一時的なトレンドではありません。多様な個性が活きる組織を実現するための本質的な要素です。
一人ひとりが自分らしさを保ちながら、組織との強いつながりを感じられる組織づくりに向けて、ビロンギングの考え方を活かした施策の展開が求められています。
好事例として紹介した食事補助の福利厚生「チケットレストラン」は、従業員一人ひとりの生活スタイルに馴染みやすく、帰属意識向上にも寄与するサービスです。物価高の今、従業員の日々の食事代を「チケットレストラン」でサポートし、ビロンギング醸成を促しませんか。