「希望退職」と「リストラ(整理解雇)」は、いずれも企業が人員整理を行う手法ですが、従業員の同意の有無や法的リスク、従業員への影響には大きな違いがあります。本記事ではその違いを整理し、大企業と中小企業の実態の差を分析。特に中小企業にとって重要となる中高年人材の活用方法について、必要とされる背景から具体的施策まで分かりやすく解説します。
「希望退職」と「リストラ」の定義と違い
「希望退職」と「リストラ(整理解雇)」は、いずれも人員整理の際に用いられる手法ですが、性質や法的な扱いは大きく異なります。まずは、それぞれの定義と違いについて解説します。
※本記事では「リストラ」を「整理解雇」の意味で用います
「希望退職」とは
「希望退職」とは、企業が経営上の判断から一定の期間を設け、従業員に退職を募る制度です。対象年齢や部署を限定して実施する場合も多く、応募者には割増退職金や再就職支援などの優遇措置が提示されます。
形式上は従業員が自ら応募する「任意の退職」とされますが、企業の経営判断に基づいて実施されることから、事実上の「退職勧奨=企業が従業員に対して退職を促すこと」の性格を持つ制度です。
雇用保険上は「会社都合退職」として扱われ、従業員は自己都合退職よりも有利に失業給付を受給できます。企業にとっては、法的リスクを回避しつつ人員整理を進められる手段として活用され、従業員にとっても各種優遇措置や割増金があることで一定の納得感を得やすい制度となっています。
「リストラ(整理解雇)」とは
「リストラ(整理解雇)」とは、企業が業績悪化や事業再編などを理由に、従業員との雇用契約を一方的に終了させる措置を指します。
日本の労働契約法において整理解雇を行う場合には、以下に示す「解雇の4要件」を満たすことが求められます。
- 人員削減の必要性があること:単なる利益追求ではなく、経営が成り立たなくなるなど切迫した理由がある
- 解雇回避のための努力を尽くしたこと:希望退職募集や配置転換、一時帰休などさまざまな方策を講じている
- 対象者の選定が合理的であること:年齢や成績などで公平・客観的に判断し、特定個人への偏りを避けている
- 解雇手続きが妥当であること:労働組合との折衝など、十分な説明や協議を経て納得を得る努力をしている
これらの要件を欠いた解雇は無効と判断される可能性が高く、企業にとっては訴訟リスクや社会的批判が大きい制度です。雇用保険上は「会社都合退職」とされますが、強制的な解雇であるために従業員への心理的負担も大きく、経営判断の最終手段として位置づけられています。
参考:厚生労働省|労働契約の終了に関するルール
参考:e-Gov 法令検索|労働契約法|第16条
希望退職とリストラの違いを整理
| 項目 | 希望退職 | リストラ(整理解雇) |
|---|---|---|
| 主体 | 企業が一定期間募集 | 企業が一方的に解雇 |
| 実施時期 | 一時的(期間限定) | 必要に応じて随時 |
| 退職区分 | 会社都合退職 | 会社都合退職 |
| 主な目的 | 経営悪化や事業再編に伴う人員整理 | 経営悪化や事業再編に伴う強制解雇 |
希望退職は企業が条件を提示し、従業員が自ら応募して成立するのに対し、リストラは企業が一方的に解雇を行います。そのため、希望退職は円滑な人員整理を実現しやすく、企業にとっては法的リスクを抑えやすいのが特徴です。一方、リストラは厳格な4要件を満たす必要があり、訴訟に発展した場合は解雇無効や損害賠償のリスクが伴います。
いずれも雇用保険上は「会社都合退職」と扱われますが、従業員の心理的受け止め方には大きな差があります。希望退職は割増退職金や支援策によって一定の納得感を持たせられるのに対し、リストラは強制解雇として大きな不安や不信感を生みやすい点に注意が必要です。
リストラよりも希望退職が選ばれる理由
企業が人員整理を行う場合、法的要件が厳しいリストラよりも、希望退職を選択するケースが目立ちます。ここでは、希望退職が選ばれる背景を具体的に整理します。
訴訟リスクの回避
日本の労働法制において、解雇は極めて厳格に制限されています。整理解雇を行う際には「解雇の4要件」を満たす必要があり、これを欠く場合は裁判で無効とされかねません。
仮に敗訴した場合、従業員を職場に復帰させる必要が生じたり、多額の損害賠償を命じられるケースもあります。
こうしたリスクを回避するため、多くの企業は強制的なリストラではなく、応募制の希望退職を選びます。従業員自らの意思に基づく希望退職であれば、法的な争いに発展する可能性が低く、企業にとっては安全性が高い人員整理手段となるからです。
企業イメージ・従業員モラルへの影響
リストラは一方的な解雇であるため、社会的批判を受けやすく、企業のブランドイメージや採用力に深刻な悪影響を与えがちです。また、社内に残る従業員にとっても「いつ自分が対象になるか分からない」という不安が高まり、士気の低下や離職意欲の増大につながります。
一方、希望退職では割増退職金や再就職支援などが提示されることで、退職者に一定の納得感を持たせやすくなります。その結果、企業は社会的な批判を和らげつつ、人員削減を比較的穏やかに進めることが可能です。
このように、従業員のモラル維持や企業イメージの保全という観点からも、希望退職が優先される傾向にあります。
人員整理の円滑化
希望退職の大きなメリットは、退職条件を工夫することで従業員が応募しやすくなり、人員削減を円滑に進められる点にあります。
例えば、通常の退職金に加えて数年分の給与相当額を割増退職金として支給するケースや、転職エージェントとの提携による再就職支援が提供されるケースが一般的です。これにより、対象となる従業員は新しいキャリア形成に前向きになりやすく、企業側も必要な人員削減を短期間で達成できます。
希望退職はコストがかかる手法ですが、リストラに伴う長期的な訴訟リスクや風評被害を考慮すれば、結果的にコストパフォーマンスの良い施策といえるのです。
大企業と中小企業で異なる人員整理の実態
希望退職やリストラは、実施状況において大企業と中小企業で大きな違いがあります。ここでは、株式会社東京商工リサーチ(TSR)の調査をもとに、両者の実態を整理します。
参考:東京商工リサーチ|中小企業、中高年の活用に活路 「早期・希望退職」は大企業の2.8%が実施 ||TSRデータインサイト
実施率の差|大企業2.8% vs 中小企業0.7%

出典:東京商工リサーチ|中小企業、中高年の活用に活路 「早期・希望退職」は大企業の2.8%が実施 ||TSRデータインサイト
株式会社東京商工リサーチが行った「2025年『早期・希望退職』『役職定年』に関するアンケート調査」(2025年6月実施、有効回答6,483社)によると、直近3年以内に「早期・希望退職」を実施した企業は全体でわずか0.91%でした。
内訳を見ると、大企業では2.81%が実施したのに対し、中小企業では0.75%にとどまり、4倍近い差があることが分かります。
この背景には、大企業は人件費削減や事業構造転換のために退職制度を活用しやすい一方、中小企業は慢性的な人手不足に直面しており、退職を募る余裕がないという実態があります。こうした構造的な差が、制度の利用率に明確に表れているのです。
従業員年齢構成の違い

出典:東京商工リサーチ|中小企業、中高年の活用に活路 「早期・希望退職」は大企業の2.8%が実施 ||TSRデータインサイト
同調査では、45歳以上の正社員が占める割合についても企業規模による大きな差が示されました。
45歳以上は全正社員の何%を占めるかを尋ねたところ、大企業では57.0%だったのに対し、中小企業では64.6%と高く、7ポイント以上の開きがあります。
これは、中小企業は採用力の制約から大企業と比べて若手の確保が難しく、結果的に45歳以上の従業員が多数を占める「逆三角形型」の年齢構成になりやすいことを示唆するものです。
この結果から、中小企業が希望退職やリストラを進めにくい現状と、それによって中高年人材を生かす方向に舵を切らざるを得ない実態が明らかになりました。
役職定年制度の導入率の差

出典:東京商工リサーチ|中小企業、中高年の活用に活路 「早期・希望退職」は大企業の2.8%が実施 ||TSRデータインサイト
役職定年制度の導入率についても、大企業と中小企業の間には明確な差があります。
役職定年とは、一定の年齢に達した管理職を役職から外し、その後は一般職として勤務を続ける制度です。
同調査によると、大企業の41.04%が導入しているのに対し、中小企業は17.83%にとどまりました。大企業では役職定年を組織の新陳代謝や人件費コントロールの手段として活用している一方、中小企業は組織規模が小さいため、管理職の人材を外す余裕がなく導入が進みにくいのが現状です。
この差は「退職制度や役職定年を活用して人員整理を進める大企業」と「人材不足を背景に中高年を生かさざるを得ない中小企業」という対照的な構造を浮き彫りにしています。
中小企業にとって中高年人材の活用が重要な理由
中小企業では、中高年層の活用が経営の要となりがちです。ここでは、その主な理由について深掘りします。
人手不足と採用難
少子高齢化による人手不足は年々深刻化していますが、特に中小企業では、慢性的な人手不足が大きな経営課題となっています。
新卒採用をはじめとする若手採用は、大企業と比較して待遇面や知名度で不利になりやすいため、思うように確保できないケースが多いのが実情です。即戦力となる中途人材も同様で、採用の難しさは年々高まっています。
結果として、中小企業は既存の中高年人材を「現有戦力」として最大限に活用せざるを得ません。この層の定着と活躍推進が、中小企業の経営の安定に直結しているのです。
関連記事:人手不足の解消方法を事例でチェック。中小企業にもできる取り組みは?
経験とスキルの活用
中小企業の運営において、大きな役割を担っているのが、氷河期世代やバブル世代の持つ豊富な経験とスキルです。
厳しい就職環境を生き抜いた氷河期世代は、実務能力や自己研鑽に強みを持つ人材が多く、限られた環境でも成果を出す力を発揮してきました。一方、バブル世代は長年の顧客対応や専門分野で培った知識を生かし、企業の信頼性向上や後進の育成に寄与しています。
若手人材の確保が難しい中小企業にとって、これら中高年層は、単なる労働力以上に組織の安定と発展に欠かせない存在です。年齢に応じた柔軟な活用策を講じることで、企業競争力の源泉となる可能性を秘めています。
中小企業が進めるべき中高年人材支援策
中高年層を戦力として生かすには、中高年層のライフステージ特有の課題に対応できる環境整備が不可欠です。ここでは、中小企業が実際に取り組むべき具体的な支援策を整理し、持続的な人材活用につなげる方法を解説します。
介護離職・ビジネスケアラー対策

出典:厚生労働省|令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書 企業アンケート調査結果
経済産業省によれば、毎年約10万人が介護を理由に離職しており、2030年には家族介護者のうち約4割(約318万人)がビジネスケアラー※になると予想されています。
また、厚生労働省の調査によると、介護離職者の年齢層は男女ともに50〜59歳がもっとも多く、40〜49歳が続きます。
企業を支える中心でもある中高年世代が介護を理由に離職すれば、経営への打撃は深刻です。そのため、介護休業制度や短時間勤務、在宅勤務など柔軟な働き方を整えると同時に、外部サービスとの連携による介護支援の導入なども検討する必要があります。
こうした対策は従業員の離職防止につながるだけでなく、エンゲージメントの向上や企業の社会的評価の向上にも直結します。
※ビジネスケアラー:仕事をしながら家族の介護・看護をする人のこと
参考:経済産業省|経済産業省における介護分野の取組について
参考:厚生労働省|令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書 企業アンケート調査結果
関連記事:ビジネスケアラーとは?課題や企業が取り組むべき対策を解説
労働環境改善と心理的安全性の確保
中高年人材が長く働き続けるには、心身の負担を軽減する労働環境の整備が不可欠です。
例えば、長時間労働の是正や定時退社の徹底、柔軟な勤務制度の導入は、健康維持とワークライフバランスの両立に寄与します。また、心理的安全性の確保も重要です。職場で安心して発言・相談ができる環境があれば、従業員は新しい業務や役割にも前向きに挑戦できます。
特に中小企業は組織規模が小さいため、経営者や管理職の姿勢が従業員のモチベーションに直結しがちです。制度的な改善と併せて、職場風土づくりを進めることが、中高年人材の定着と生産性向上の両立につながります。
福利厚生の充実
生活に直結する福利厚生は、中高年人材の働きやすさと定着率を高める上で効果的です。
中でも日常生活を支える食事補助や家事代行サービスの利用補助等の福利厚生は、家庭での責任が重くなる40〜50代の従業員にとって大きな助けとなります。福利厚生としてのメリットを感じやすいため、従業員満足度やエンゲージメントの向上も期待できます。
なお、一定の基準を満たす福利厚生は所得税の非課税枠活用が可能です。給与として同額を支給するより従業員の実質的な手取りを増やせる上、企業の法人税の軽減にも役立ちます。
さらに、予算に合わせた施策を選択できるため、予算に制限がある中小企業が無理なく導入できる点も大きな魅力です。人材定着が経営課題となる今、福利厚生の充実はコスト以上のリターンを生む戦略的投資といえます。
関連記事:【税理士監修】食事補助は非課税?福利厚生の仕組みと注意点を解説!
25万店舗以上で使える食事補助の福利厚生「チケットレストラン」
エデンレッドジャパンが提供する「チケットレストラン」は、企業と従業員との折半により、全国25万店舗を超える加盟店での食事を実質半額で利用できる食事補助の福利厚生サービスです。
加盟店のジャンルは、コンビニ・ファミレス・三大牛丼チェーン店・カフェなど幅広く、利用する人の年代や嗜好を問いません。
内勤の従業員はもちろんのこと、出張中やリモートワークの従業員も平等に利用できる柔軟性が高く評価され、すでに3,000社を超える企業に導入されている人気のサービスとなっています。
「チケットレストラン」の詳細は「こちら」からお問い合わせください。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
希望退職とリストラの違いを踏まえ、未来へつながる人材活用を
希望退職とリストラは、いずれも人員整理を目的とする制度ですが、従業員の合意の有無という点で大きく異なる手法です。訴訟リスクなどの観点から、人員整理にはリストラよりも希望退職が選択されるのが一般的です。
大企業と比べ、人材不足が深刻になりがちな中小企業では、中高年世代を中心的に活用することが求められます。働きやすい職場環境の整備や「チケットレストラン」のような福利厚生の導入を通じ、経験豊富な中高年世代の能力を最大限に活用できる組織づくりを進めてみてはいかがでしょうか。
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