監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
2025年6月13日、年金制度改革関連法(通称:年金改革法案)が成立しました。社会保険の「106万円の壁」撤廃や在職老齢年金の見直しに加え、私的年金制度であるiDeCo・企業型DCにも大きな変更が加えられています。そこで本記事では、企業の人事総務担当者に向けて、今回の改正ポイントをわかりやすく解説します。法改正の背景や企業実務への影響まで詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
iDeCoの仕組みと現行制度の課題
2025年の改革法案では、iDeCoや企業型DCといった私的年金制度の拡充が柱のひとつとなりました。ここでは、制度の基本と課題を整理し、今回の見直しが必要とされた背景を解説します。
参考:iDeCo公式サイト|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
iDeCoとは?基本の仕組みと対象者
出典:iDeCoの特徴|iDeCoってなに?|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、加入者自身が掛金を拠出し、自ら運用商品を選び、将来年金として受け取る私的年金制度です。拠出された掛金は各人の専用口座で管理され、運用成果によって将来の受取額が変動する点が特徴です。
掛金は月額5,000円から1,000円単位で設定でき、上限は加入区分によって異なります(例:企業年金のない会社員は月額2万3,000円など)。
加入対象は、一部例外を除き、原則として国民年金に加入している20歳以上60歳未満のすべての人で、2017年以降は企業年金加入者や専業主婦(夫)も条件を満たせば加入可能となりました。
近年は加入者数が増加傾向にあり、2025年4月時点での総加入者数は364.7万人にのぼります。企業年金の有無や働き方を問わず、自助努力による老後資金形成の手段として定着しつつあります。
参考:統計情報等|お知らせ|イデコ公式サイト|老後のためにいまできること、iDeCo|国民年金基金連合会
iDeCoを活用するメリット
iDeCoを活用することで得られるメリットは、以下の3つです。
- 掛金が全額所得控除される
- 運用益は非課税で再投資できる
- 受取時も控除対象になる
毎月の掛金は全額が所得控除の対象となり、課税所得が減少するため、所得税・住民税の軽減につながります。たとえば年収500万円の会社員が年間27万6,000円(上限)の掛金を拠出した場合、税負担はおよそ5万〜8万円軽減される試算です。
次に、運用中に得られる利息や配当、売却益はすべて非課税で再投資され、複利効果を最大限に生かせます。通常の金融商品であれば20.315%の税率がかかる部分が無税となるため、長期運用による資産形成において有利です。
さらに、受取時にも控除の適用があり、一時金であれば退職所得控除、年金形式なら公的年金等控除を受けられます。このように、拠出・運用・受取の各段階で控除を受けられる制度設計が、老後資金形成において大きな後押しとなります。
関連記事:【社労士監修】2025年6月最新|年金改革をわかりやすく解説!
iDeCoを活用するデメリット
iDeCoには大きな税制上のメリットがある一方で、利用にあたって注意すべきデメリットもあります。主なポイントは以下の3点です。
- 原則60歳まで引き出せない
- 加入・運用・給付時に手数料がかかる
- 元本割れの可能性がある(投資リスク)
iDeCoは老後資金の形成を目的としており、原則として60歳まで資産を引き出すことができません。途中解約は原則不可であり、急な資金需要には対応できない点に留意が必要です。
また、iDeCoを利用する際は、加入時や毎月の口座管理、運用中には各種手数料がかかります。掛金が少ない場合、負担が相対的に重くなりがちです。
さらに、運用商品は自ら選択する必要があり、投資信託などのリスク資産では元本割れのリスクを伴います。資産配分やリスク許容度を踏まえた選定が求められるため、特に投資初心者にとっては、運用の難しさや選択肢の多さが心理的ハードルとなります。
参考:iDeCoの特徴|iDeCoってなに?|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
現行制度が抱える主な課題
iDeCoは私的年金制度としての意義が高まる一方で、制度設計上の課題も指摘されてきました。代表的なものが「加入年齢の制限」です。2022年の改正で65歳未満まで引き上げられたとはいえ、人生100年時代においてはさらなる対応が求められていました。
また、企業型DC(確定拠出年金)との併用においては、マッチング拠出※を利用している従業員がiDeCoを追加で活用できないなど、制度間の整合性が課題でした。この併用制限は、企業に制度が整っていても従業員個人の資産形成機会を阻害する要因となっていたのです。
さらに、中小企業にとっては制度導入のハードルが高いこともネックでした。iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)の認知不足や、手続きの煩雑さ、人事リソースの不足などが要因となり、企業単位での導入率は依然として限定的です。
こうした制度上の課題は、2025年の年金改革によりどのように改善されたのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
※マッチング拠出とは、企業型DCの掛金に対して、従業員が同額まで自己拠出できる仕組みです。
2025年改正でiDeCoはどう変わる?主な見直しポイント
2025年の年金制度改革では、iDeCo・企業型DCに関する見直しも行われました。これらの改正は、2025年6月13日に可決・成立した年金改革法案に基づき、公布から3年以内に政令で定める日から段階的に施行される予定です。以下、主な改正点とその内容を詳しく解説します。
加入年齢と掛金上限の引き上げによる制度の拡充
2025年の制度改正では、iDeCoの加入可能年齢が65歳未満から70歳未満に引き上げられ、就労を継続するシニア層も資産形成の選択肢としてiDeCoを活用できるようになりました。
さらに、掛金の上限額も引き上げられます。加入区分ごとに、以下のように拠出余地が拡大されました。
加入区分 | 上限額 (改正前) |
上限額 (改正後) |
第1号被保険者 (自営業者など) |
月額6.8万円 | 月額7.5万円 |
第2号被保険者 (企業年金なしの会社員) |
月額2.3万円 | 月額6.2万円 |
第2号被保険者 (企業年金ありの会社員) |
月額2.0万円 | 月額6.2万円 (iDeCo+企業年金合計) |
企業型DCとiDeCoの併用制度がさらに拡充
2022年10月の法改正により、企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCoの併用が条件付きで可能になりました。従来は企業の年金規約でiDeCoへの加入が認められている場合のみ併用できましたが、現在は一定の条件を満たせば原則として併用が可能です。
ただし、企業型DCでマッチング拠出(従業員の自己拠出)を行っている場合は、マッチング拠出かiDeCoのいずれかを選択する必要があり、両方の併用はできません。
2025年改正では、マッチング拠出における金額制限(従業員拠出額が企業拠出額を超えてはならないという制限)が撤廃される予定です。これにより、マッチング拠出を選択した場合により多くの掛金を拠出できるようになります。
関連記事:【iDeCo】2024年12月の制度改正で何が変わる?必要な手続きは?
中小企業への普及促進策も強化へ
2025年の年金改革では、導入が進まないiDeCo+(中小事業主掛金納付制度)への対応も重視されています。
具体的には、企業や従業員への情報提供体制の強化・手続きのデジタル化支援・制度内容の簡素化などです。これにより、導入にかかる事務負担や心理的ハードルを軽減し、中小企業においても老後資金形成支援の選択肢を拡大する狙いがあります。
制度自体の設計変更は限定的ながらも、企業向けの支援施策を通じた利用の促進が期待されています。
企業が押さえるべき実務対応と制度活用のポイント
今回の年金制度改革では、企業の設計・運用実務に関わる変更点も含まれているため、対応の遅れは従業員満足度や人材定着率に影響しかねません。ここでは、制度の周知体制や福利厚生としての位置づけ、既存制度との併用時の留意点について整理します。
社内周知と制度理解促進が急務に
制度変更に伴い、企業には従業員への丁寧な情報提供と周知対応が求められます。
iDeCoや企業型DCは、税制優遇のある資産形成制度ですが、仕組みが複雑なため、従業員が十分に理解しないまま制度を活用し損ねるケースも少なくありません。社内説明会やQ&A資料の整備、イントラネットでの情報発信など、理解促進に向けた取り組みが必要です。
また、相談窓口の設置やファイナンシャルプランナーの外部派遣を活用することで、個別相談に対応しやすくなります。
企業型DCと併用した退職金制度設計
企業型DCとiDeCoの制度拡充により、企業は従業員の老後資産形成支援をより柔軟に設計できる環境が整いました。これを機に、企業は退職金制度全体の見直しを検討する絶好の機会を迎えています。
特に、給与の一部を企業型DCの掛金として拠出する「選択制DC」や、給与額に応じた掛金設定など、企業の人件費コントロールを保ちつつ従業員の資産形成支援にもつながる魅力的な仕組みです。また、ライフプランに応じた柔軟な制度選択肢を提示することで、従業員の満足度や企業へのロイヤリティ向上にも寄与します。
人材の流動化が進む中、競合他社との差別化を図るには、年金制度を含めた報酬・福利厚生全体の見直しが急務です。より安全に運用するための対策として、専門家への相談や講師を招いての社内セミナー実施などを検討するのもおすすめです。
福利厚生制度との併用も
年金制度改革にあわせて、企業が見直すべきなのは退職後の資産形成支援だけではありません。従業員が日々の生活で恩恵を実感できる福利厚生施策とあわせて設計することで、総合的な制度価値が高まります。
たとえば、税制上の優遇がある福利厚生制度を適切に併用すれば、非課税枠の活用により従業員の生活支援と税負担軽減の両立が可能です。特に、食事補助や住宅補助のような日常で実感できる支援制度を提供することで「見える福利厚生」としての訴求力が増し、エンゲージメントや定着率の向上にも寄与します。
食の福利厚生「チケットレストラン」
「チケットレストラン」は、従業員のランチ代を企業が補助する食の福利厚生サービスです。導入企業の従業員は、全国25万店以上の加盟店での食事を実質半額で利用できます。
加盟店のジャンルは、ファミレス・コンビニ・カフェ・三大牛丼チェーンなど幅広く、利用者の年代や嗜好を問わないほか、勤務時間中にとる食事の購入であれば、利用時間や場所の制限もありません。
従業員の生活支援はもちろんのこと、従業員の満足度向上や採用力の強化など、多くのメリットをもたらす福利厚生として、すでに3,000社を超える企業に導入され、数々の有名メディアでも取り上げられているサービスです。
「チケットレストラン」の詳細は「こちら」からお問い合わせください。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
人事が備えるべき視点と対応体制とは
2025年の年金制度改革では、iDeCoや企業型DCの見直しを含む私的年金制度の拡充が大きな柱となりました。これにより、従業員のライフステージや就労年数に応じた多様な資産形成支援が可能になります。
企業は、制度改正のポイントを正確に把握し、社内制度との整合性を踏まえて戦略的に設計・導入を進めることが求められます。
「チケットレストラン」のような福利厚生制度との連携も検討し、従業員へ寄り添った制度設計を目指しましょう。
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