監修者:吉川明日香(社会保険労務士・吉川社会保険労務士事務所)
2025年の年金制度改革により、在職老齢年金の見直しが決定されました。一方、同制度は頻繁に改正が行われているため、現状や改正内容について把握しきれていない企業も少なくありません。そこで本記事では、在職老齢年金制度について、2025年6月時点での現状から2025年の年金改革による変更点までわかりやすく解説します。企業が抑えておきたいポイントも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
「在職老齢年金制度」とは?
2025年6月13日に成立した年金制度改革関連法では、在職老齢年金制度の大幅な見直しが盛り込まれました。まずは、在職老齢年金制度の概要から解説します。
「在職老齢年金制度」の仕組みと背景
「在職老齢年金」とは、働きながら(厚生年金に加入したまま)老齢厚生年金を受給している労働者の収入月額が一定の基準(支給停止調整額)を上回ったとき、その度合いに応じて老齢厚生年金の受給額が減額される制度をいいます。
この制度は、高齢者の就労促進や現役世代との給付バランスの維持を目的として創設されました。近年では、人手不足対策としても重要な役割を担っています
在職老齢年金の対象となるのは、次の条件を満たす労働者です。
- 60歳以上
- 厚生年金に加入している
- 老齢厚生年金を受給している
※個人事業主やフリーランスは対象外
収入によってはいわゆる「働き損」となるため、働き控えの原因になるとの指摘もある制度です。
支給停止調整額の計算方法と注意点
在職老齢年金制度では「基本月額」と「総報酬月額相当額」の合計が支給停止調整額(2025年6月時点は51万円)を超えた場合に、支給される厚生年金の一部もしくは全額が支給停止されます。
支給停止調整額の計算方法は、以下の通りです。
支給停止額 = (《老齢厚生年金の基本月額 + 総報酬月額相当額》 − 支給停止調整額) ÷ 2 |
「基本月額」と「総報酬月額相当額」について、日本年金機構は次のように定義しています。
基本月額
加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額総報酬月額相当額
(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12※上記の「標準報酬月額」、「標準賞与額」は、70歳以上の方の場合には、それぞれ「標準報酬月額に相当する額」、「標準賞与額に相当する額」となります。
たとえば、月給36万円で年2回各50万円のボーナスがある場合、総報酬月額相当額は43.3万円となります(36万円 + {50万円 × 2 ÷ 12})。
*この数式はあくまでも原則の考え方なので、実際に受給できる年金額が異なる場合があります。
支給停止額の具体例
実際の計算方法を例を使って確認してみましょう。
たとえば、老齢厚生年金の基本月額が13万円、総報酬月額相当額が38万円の場合、2025年現在(支給停止調整額=51万円)の支給停止額は以下の通りです。
支給停止額=(13万円+38万円−51万円)÷2=0円 |
つまり、厚生年金の減額は発生せず、老齢厚生年金は全額受け取ることができます。
一方、合計が54万円(基本月額16万円+総報酬月額相当額38万円)の場合は次のようになります。
支給停止額=(16万円+38万円−51万円)÷2=1.5万円 |
このケースでは、毎月1万5,000円が老齢厚生年金から差し引かれることになります。
関連記事:【2025最新】在職老齢年金とは?シニア雇用と制度をわかりやすく解説
2026年施行の制度改正ポイント
年金制度改正により、2026年4月以降、在職老齢年金に適用される支給停止調整額が現行の51万円から62万円に引き上げられます。
これにより、老齢厚生年金を減額されることなく働ける収入範囲が大きく広がることになりました。
かつて、60〜64歳には「28万円」の基準が存在していましたが、これはすでに撤廃され、現在は60歳以上で一本化されています。
今回の制度改正により、新たに20万人が老齢厚生年金を満額受給できると試算されています。シニア人材の就労継続を後押しするだけでなく、人手不足対策としても期待されており、企業側も再雇用や処遇見直しを進める好機となりそうです。
在職老齢年金の制度改正|企業が求められる実務対応とは
在職老齢年金の制度改正は、単なる年金制度の変更にとどまらず、企業の人事制度や高齢者雇用のあり方に直結する重要なテーマです。再雇用制度や処遇設計の見直し、従業員への情報提供など、各社に求められる実務対応を具体的に整理します。
再雇用・定年延長制度の見直し
支給停止調整額の引き上げにより、高齢者の働き方の自由度が高まる中、企業にとって大きな課題となっているのが「再雇用制度」や「定年延長制度」といった制度の整備です。
これまでの再雇用制度では、支給停止調整額との兼ね合いを考慮し「短時間・低報酬」の勤務形態が主流でした。しかし、支給停止がなくなることで、その前提自体が崩れつつあります。
これからの企業には、フルタイム就業や週3日勤務といった柔軟な働き方の選択肢を用意し、希望に応じて利用できるよう制度を整えることが求められます。
柔軟な制度設計は、シニア材の意欲と能力の発揮を促すため、ベテラン労働力としての戦力化が可能です。定年延長を視野に入れた等級制度や昇給ルールの整備も含め、労使間の対話を通じた納得性のある制度づくりが求められます。
関連記事:【社労士監修】在職老齢年金の見直し|シニア採用のメリットと2026年改正最新情報
報酬制度と処遇設計の再構築
今回の制度見直しによる支給停止調整額の引き上げは、企業にとって報酬制度と処遇設計を再構築する絶好の機会です。
それというのも、シニア人材のいわゆる「働き控え」が減少することで、従業員一人ひとりの能力や職務、貢献度に応じた報酬設計がしやすくなるからです。
適正な報酬・処遇は、モチベーションの向上やエンゲージメントの強化、離職防止にもつながるため、将来的な人材定着に対しても大きな効果が期待されます。
従業員への情報提供と社内周知
年金制度の改正は、制度を直接利用する従業員にとって非常にわかりにくく、誤った理解が広まりやすいというリスクがあります。
特に、在職老齢年金は仕組み自体が複雑なため「働くと年金がもらえなくなる」といった誤解が根深く残っています。こうした誤解は就労意欲の低下や制度離れを引き起こしかねないため、企業側による丁寧な説明と正確な情報提供が不可欠です。
具体的には、社内説明会の開催やFAQの配布、イントラネットや掲示物を活用した周知活動、また就業規則や雇用契約書への明記など、法的な整備も含めた社内対応が必要です。
「第3の賃上げ」でさらなるシニア人材の生活支援も
在職老齢年金の見直しによって働くシニア人材が増えることを踏まえ、優秀なシニア人材の獲得競争の激化が予想されています。他社との差別化が求められる中、注目を集めているのが福利厚生を活用した「第3の賃上げ」です。詳しく見ていきましょう。
「第3の賃上げ」とは?福利厚生による実質的な賃上げ
出典:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
一定の条件を満たす福利厚生は、所得税の非課税枠を活用できるため、同額を給与として支給するよりも従業員の実質的な手取り額を増やせます。また、福利厚生は福利厚生費として経費計上できることから、企業側は法人税の削減が可能です。
このような、実質的な手取りアップや家計負担の軽減につながる福利厚生を活用した賃上げの手法について、食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」を運営するエデンレッドジャパンは、定期昇給とベースアップに次ぐ「第3の賃上げ」と提唱しました。
企業側のコストを抑えながら、効果的な待遇の改善が実現できる施策として、広く注目を集めています。
関連記事:「第3の賃上げ2025」とは?福利厚生で実現する新時代の賃上げ戦略
「チケットレストラン」の導入メリット
「第3の賃上げ」の代表例として、近年ますます知名度を高めているのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」は、従業員のランチ代を企業が補助する食の福利厚生サービスです。導入企業の従業員は、全国25万店以上の加盟店での食事を実質半額で利用できます。
加盟店のジャンルは、ファミレス・コンビニ・カフェ・三大牛丼チェーンなど幅広く、利用者の年代や嗜好を問わないほか、勤務時間中にとる食事の購入であれば、利用時間や場所の制限もありません。
このように「チケットレストラン」は、優秀なシニア人材への訴求にも効果的な福利厚生として、すでに3,000社を超える企業に導入され、数々の有名メディアでも取り上げられています。
「チケットレストラン」の詳細は「こちら」からお問い合わせください。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
まとめ|制度改正を追い風に高齢人材活用を
2025年の年金改革により、2026年4月以降、在職老齢年金の支給停止調整額が現行の51万円から62万円に引き上げられることが決まりました。
この制度改正に伴い、これまで働き控えをしていたシニア人材が顕在化すると予想されることから、企業にとっては、深刻な人手不足を解消するチャンスでもあります。
とはいえ、優秀な人材を獲得するには、他社との差別化が必要です。具体的には、再雇用制度や報酬・処遇設計の見直し、「チケットレストラン」などが挙げられます。
在職老齢年金の制度改正を正しく理解して、長期的な人材定着やエンゲージメントの向上を目指しましょう。
参考記事:「#第3の賃上げアクション2025」始動、ベアーズが新たに参画~中小企業にこそ“福利厚生”による賃上げを! “福利厚生”で、より働きやすく、暮らしやすい社会へ~
:「賃上げ実態調査2025」を公開~歴史的賃上げだった2024年も“家計負担が軽減していない”は7割以上!
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