監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
在職老齢年金は、2022年以降2024年まで毎年見直しが行われ、基準額が引き上げられています。この基準額(支給停止調整額)は、シニア人材の働き控えの基準ともなることから、人手不足に悩む企業にとって他人事ではありません。本記事では、シニア人材の活用を検討する企業向けに、在職老齢年金の見直しの経緯や2026年に向けた予想・シニア人材を活用するメリットなど、具体的な事例を交えながら解説します。
「在職老齢年金」とは?
在職老齢年金とは、働きながら(厚生年金に加入したまま)老齢厚生年金を受け取っている高齢労働者を対象とする制度です。給与と年金の合計が一定額を超えた場合に、年金の一部または全部が支給停止されます。
対象となるのは、次の条件を満たす労働者です。
- 60歳以上
- 厚生年金に加入している
- 厚生年金を受給している
この制度は、高齢者の就労を促進しつつ、現役世代との給付バランスを保つことを目的としています。一方で、収入によってはいわゆる「働き損」となるため、高齢者の働き控えの要因ともなっています。
近年の基準額(支給停止調整額)見直しの流れ
在職老齢年金制度の基準額(正式には支給停止調整額、わかりやすく以後「基準額」と表記)は、例年4月に見直しが行われています。ここでは、近年の基準額見直しの流れと、2026年に向けた政府の見直し方針について解説します。
2022年〜2024年の見直し
在職老齢年金制度の基準額は、現役の男性被保険者の平均月収(賞与を含む)をもとに設定されています。
かつての基準額は「60歳以上65歳未満」と「65歳以上」とで異なっていましたが、2022年4月に47万円へ統一されました。その後、2023年4月に48万円、2024年4月に50万円と、段階的に引き上げられています。
この流れは、高齢者の働き控えの抑止力となり、企業の人手不足解消に寄与しています。
参考:厚生労働省|年金制度の仕組みと考え方_第10_在職老齢年金・在職定時改定
参考:厚生労働省|令和6年度の年金額改定について
2026年に向けた政府の見直し方針
厚生労働省は、2026年4月に向けて、在職老齢年金の基準額を現行の50万円から62万円へ引き上げる案など、大幅な引き上げが検討されているようです。
実際に、2025年4月から、在職老齢年金の基準額を現行の50万円を51万円に引き上げることが決まっています。
2024年1月に開催された同省の年金部会では、昨今の人手不足や年金財政の悪化を踏まえ、在職老齢年金の将来的な廃止を求める声も多く挙がりました。基準額の引き上げは、最終的な廃止を目指す上での経過措置との見方もあります。
一方で、実際に基準額を現行の50万円から62万円へ引き上げた場合、高齢者への年金給付額は2200億円増加する見込みです。
現役世代が将来受け取る厚生年金額に影響することから、更なる議論が求められています。
参考:47NEWS(よんななニュース)|満額年金、26年4月から拡大 シニアの月収62万円に引き上げ
参考:社会保険研究所|年金制度改正の議論を読み解く|12 在職老齢年金、標準報酬月額上限の見直し
シニア人材を活用するメリットとは
企業の人材戦略上、シニア人材の活用は多くのメリットをもたらします。ここでは、中でも特に注目したいメリットを6つピックアップして紹介します。
少子高齢化時代における人材不足の解消
深刻化する労働力不足は、多くの業界で共通の課題です。特に中小企業では、人手不足を原因とする倒産数が過去最高を記録する事態となっています。
このような状況下において、シニア人材の活用は人材不足を補う有効な選択肢です。
豊富な実務経験を持つシニア人材は、現場での即戦力として活躍し、業務の質を維持しながら人手不足を解消することができます。
また、現役世代に比べ、短時間勤務や週3日勤務などの柔軟な働き方に対応しやすい点も、人材不足解消の観点から大きなメリットとなっています。
参考:株式会社 帝国データバンク[TDB]|人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)|(2024年10月4日)
関連記事:人手不足倒産の帝国データ最新版(2024上半期)の動向をわかり易く解説
豊富な経験や知識を活用できる
シニア人材特有の強みは、数十年にわたる実務経験から得た専門知識と、業界特有の慣習への深い理解です。
長年の経験に基づく判断力は、複雑な業務プロセスの改善や、予期せぬトラブルへの対応において大きな価値を発揮します。また、取引先との関係構築においても、業界での人脈や商慣習への理解によってスムーズなコミュニケーションが可能です。
さらに、過去の成功事例や失敗事例を知っているシニア人材は、効率的な問題解決能力やリスク回避能力が高く、組織全体の業務効率向上にも貢献します。
即戦力として活躍できる
シニア人材の採用は、新人を雇用した場合の教育コストと時間を大幅に削減できるメリットがあります。
基本的なビジネスマナーや職場での振る舞いを熟知しているため、採用直後から実務に取り組むことが可能です。また、長年の経験から培われた判断力により、明確な指示がなくても自律的に業務を遂行できます。
さらに、業界特有の専門用語や業務フローへの理解も深いため、新しい職場環境にもスムーズに適応することができます。
このように、採用から戦力化までの期間を最小限に抑えられることは、企業にとって大きなメリットです。
若手従業員の育成ができる
シニア人材は、若手従業員の成長を支援する重要な役割を果たします。
シニア人材が若手従業員へ提供するのは、技術的なスキルだけではありません。仕事への取り組み方や問題解決の考え方など、実践的な知識を次世代に伝えることができます。
また、長年の経験から得た人材育成のノウハウを生かし、若手従業員の個性や能力に応じた効果的な指導も期待できます。このような世代間の知識・技能の伝承は、組織の持続的な発展において重要な要素です。
離職率の低下と企業への高い貢献意欲
シニア人材は、自身の経験や技能を生かせる職場で長期的なキャリアを築くことを望む傾向があります。この傾向から、長期的かつ安定した活躍が期待できます。
また、シニア人材は生活基盤が安定しているのが一般的です。給与面だけでなく、やりがいや社会貢献を重視する傾向があり、企業の理念や価値観に共感を持って働くことができます。
このような特徴は、組織の安定性向上と、持続的な成長に寄与する重要な要素となっています。
企業イメージの向上が期待できる
シニア人材の積極的な採用は、企業の社会的責任(CSR)の観点からも重要です。
年齢に関係なく、個人の能力や意欲を重視する企業姿勢は、社会から高い評価を得やすいのが一般的です。また、多様な世代が活躍できる職場環境の実現は、企業のダイバーシティ推進の象徴となり、ブランド価値の向上や投資家からの注目度向上にも貢献します。
なお、企業イメージが良好で、ブランディングに成功している企業は、優秀な人材の獲得もしやすい特徴があります。世代を超えた人材の活用は、企業の持続的な成長と社会的価値の向上に大きく寄与するのです。
他社との差別化の鍵「福利厚生」
在職老齢年金制度のもとで優秀なシニア人材を獲得する手段として、福利厚生の充実が注目されています。ここでは、充実した福利厚生がシニア人材の獲得や活躍に有効な理由や、おすすめの福利厚生サービスについて紹介します。
福利厚生がシニア人材活用に効果的な理由
在職老齢年金制度にともなう働き控えによって、シニア人材の賃金は実質的に一定の範囲内に抑えられる傾向にあります。これは、企業が優秀なシニア人材の獲得を目指すにあたり、賃金による他者との差別化を図りにくくなっていることを意味します。
こうした状況下において、他者との差別化を図る手段のひとつが、福利厚生の充実です。
シニア人材の活用における福利厚生は、複数の側面から重要な役割を果たしています。たとえば、健康管理に関連する福利厚生では、シニア人材の生産性向上や、安定的かつ長期的な勤務に寄与します。また、食事補助に関連する福利厚生は、シニア人材の食費をサポートや健康的な食生活の推進に効果的です。
このように、充実した福利厚生の提供は、他者との差別化による優秀なシニア人材の獲得はもちろんのこと、あらゆる世代の従業員のモチベーション向上につながる魅力的な施策です。
食の福利厚生「チケットレストラン」
数ある福利厚生の中でも、近年、特に注目を集めているのが食事補助に関する福利厚生です。食事は日々の健康維持に直結し、かつ経済的負担も大きい項目であることから、シニア人材の支援策として人気度を高めています。
そんな食事補助の福利厚生として、日本一の実績を持つサービスが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」は、全国25万店舗以上の加盟店での食事が一定の利用条件下において半額になるサービスで、勤務時間内であれば時間や場所の制限がありません。正規従業員・非正規従業員・アルバイト・パートなどの雇用形態を問わず提供できる平等性も魅力です。
加盟店のジャンルはコンビニ・ファミレス・カフェなど幅広く、若手従業員からシニア人材まで、あらゆる年齢層の従業員が利用しやすい点も人気の秘密となっています。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
シニア雇用に「チケットレストラン」を活用している企業の事例
自動運転向け高精度3次元地図データを手掛けるダイナミックマッププラットフォーム社では、20代から60代まで幅広い世代が活躍しています。
同社では、60歳超の嘱託社員のモチベーション維持を重要課題と位置づけ、定年後の給与ダウンによる影響を緩和するためにエデンレッドジャパンが提案する「第3の賃上げ」として「チケットレストラン」を導入しました。正規従業員と同様の福利厚生を提供することで、シニア人材の待遇改善に取り組んでいます。
このように、ダイナミックマッププラットフォーム社では、世代を超えた人材の活用と待遇面での工夫により、シニア人材が活き活きと働ける環境づくりを実現しています。
関連記事:パート・アルバイト・契約社員 にも「第3の賃上げ」を!ラウンドテーブルを開催~“年収の壁”を抱える非正規雇用にも、福利厚生で実質手取りアップを実現~
シニアの力で企業が変わる!新たな成長のカタチ
シニア人材の活用は、今や企業の成長に欠かせない重要な戦略です。シニア人材が持つ長年培った経験と知識は、組織に新たな価値をもたらすだけでなく、若手の育成や企業文化の醸成にも大きく貢献します。
2026年4月には、在職老齢年金のさらなる制度改正が予想されており、シニア人材の活躍の場はより一層広がることが予想されています。
「チケットレストラン」をはじめとする福利厚生の充実を通じ、シニア人材にとって魅力的な職場づくりを目指してはいかがでしょうか。
参考記事:「#第3の賃上げアクション2025」始動、ベアーズが新たに参画~中小企業にこそ“福利厚生”による賃上げを! “福利厚生”で、より働きやすく、暮らしやすい社会へ~
「賃上げ実態調査2025」を公開~歴史的賃上げだった2024年も“家計負担が軽減していない”は7割以上!
新キャンペーンのお知らせ:従業員の生活支援に!「第3の賃上げ」導入応援キャンペーン開始 ~食事補助サービス「チケットレストラン」で“手取りアップ”を実現~
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