人事DXとは、デジタル技術を活用して、人事の業務効率化や業務体制の変革を行うことです。人事DXを進めることで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?実際の事例とともに、人事DXを進める手順や役立つシステムを見ていきましょう。
人事DX(HRDX)とは
人事DXは、人的資源を意味するHR(Human Resource)とDX(Digital Transformation)を合わせて、HRDXともいいます。
人事の業務にデジタル技術を活用する人事DXのポイントは、単に人事に関係するデータを管理するだけでなく、蓄積したデータをもとに業務の質を高めていく点です。
戦略的な人事が可能となり、企業のパフォーマンス向上にもつながります。
関連記事:【2030年問題】IT人材不足の時代を生き抜く企業戦略とは?
中小企業のDX実施状況
中小企業でのDXの実施率は、中小企業基盤整備機構の「中小企業のDX推進に関する調査(2024年)」によると18.5%で、取り組みを検討している企業と合わせても42.0%と半数に達していません。
情報処理推進機構の実施した「DX動向2025」の調査結果では、以下に示すように、規模の小さな企業ほど取り組んでいる割合が低いことが分かります。
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企業規模 |
全社戦略にもとづき全社的にDXに取り組んでいる |
全社戦略にもとづき一部の部門でDXに取り組んでいる |
部署ごとに個別でDXに取り組んでいる |
合計 |
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100人以下 |
15.2% |
15.9% |
15.7% |
46.8% |
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101人以上300人以下 |
26.7% |
27.9% |
28.7% |
83.3% |
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301人以上1,000人以下 |
38.9% |
29.7% |
20.9% |
89.5% |
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1,001人以上 |
57.7% |
24.3% |
14.1% |
95.9% |
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全ての企業 |
34.4% |
24.0% |
19.4% |
77.8% |
参考:
中小企業基盤整備機構|中小企業アンケート調査|中小企業のDX推進に関する調査(2024年)
情報処理推進機構|「DX動向2025」日米独比較で探る成果創出の方向性「内向き・部分最適」から「外向き・全体最適」へ
中小企業の人事DXの事例
人事DXを実施するときには、具体的にどのような取り組みを行えばよいのでしょうか。自社での取り組みをイメージしやすくなるよう、人事DXに取り組んでいる中小企業の事例を紹介します。
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西機電装株式会社
西機電装株式会社では、大型クレーンなどの電気室や制御盤の設計・制作を行っています。同社では生産管理システムの導入に失敗した経験から、DXへの取り組みに心理的な抵抗が生まれていました。
そこでまず始めたのが、人事台帳アプリの作成です。人事DXから小さく始めて、心理的ハードルを下げ、徐々に業務系のアプリ開発にも取り組みました。
現在は業務効率化のコンサルティングも行っているそうです。
株式会社旭ウエルテック
株式会社旭ウエルテックは多品種少量生産に対応するため、経験と技術を持つ職人の存在が欠かせません。将来の企業の存続を考えると、次世代へ職人のノウハウを継承する必要があります。
そこで取り組んだのが、職人のノウハウの見える化でした。製品ごとに職人が工夫した点・苦労した点などをデータベース化して、必要なタイミングで表示されるようにしています。
現場で働く職人が利用しやすいシステムにしたことで、人材育成のDX化に成功している事例です。
株式会社モリエン
塗料の販売を行っている株式会社モリエンは、積極的にデジタル人材教育に取り組んでいる企業です。
新卒採用時にデジタル人材育成につながる資格取得を促しています。加えて、1カ月に1度のペースで実施している面談では、ITやAIの活用を評価項目として取り入れています。
この体制により、同社の在籍する従業員は、業界内で突出したデジタル活用スキルを持つようになりました。
人事DXの実施により得られる成果
東京商工会議所の「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」によると、デジタルシフトやDXを進めることで「成果が出ている」と回答した企業の割合は77.9%です。
併せてデジタルシフトやDXの成果が出た企業に具体的な成果について質問すると、以下の項目が上位10番目までにあがりました。
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デジタルシフトやDXで得られた成果 |
成果として回答した割合 |
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業務効率化 |
81.0% |
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業務の見える化 |
50.7% |
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従業員の働きやすさ向上 |
35.6% |
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標準化 |
32.5% |
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社内コミュニケーション促進 |
31.3% |
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テレワークの導入・定着 |
24.9% |
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人手不足解消 |
18.8% |
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顧客満足度向上 |
17.6% |
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顧客・取引先との接点拡大 |
14.4% |
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販路・売上拡大 |
14.0% |
これらの成果は、人事DXの取り組みによっても得られる可能性があります。それぞれの成果について見ていきましょう。
参考:東京商工会議所|「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」 集計結果 ~積極的なデジタル活用が着実に進む。取組の効果は「業務効率化」に加え「人手不足解消」も増加~
業務効率化につながる
デジタルシフトやDXで「成果が出ている」と回答した企業のうち、業務効率化の成果が得られたと回答した企業は81.0%と最も多くなっています。
例えばデータをデジタルで管理すれば、書類の作成やデータの参照などにかかる時間を短縮できますし、ミスの防止にもつながります。業務効率化により、従業員が人事本来の業務に集中しやすくなるでしょう。
関連記事:BPRとは?簡単には「業務プロセスの根本見直し」業務改善との違いも
業務の見える化につながる
デジタルで業務を管理するようになると、いつ・どこで・誰が・どのように・何をしているのかが明確になり、今の業務の流れや分担などを正確に把握できます。
これにより、業務の負担が特定の部署や個人に集中していると分かれば、適切な配分になるよう調整も可能です。
働きやすさの向上につながる
デジタルシフトやDXは従業員の働きやすさ向上にもつながります。業務効率化や業務の見える化によって、業務の負担が軽減したり効率的に取り組めるようになったりするためです。
中小企業個人情報セキュリティー推進協会の実施した「25卒就活生の企業選びに関する意識調査」によると、就職先を選ぶときにDX推進への取り組みを重視すると回答した就活生は41.5%でした。
DX推進の取り組みを重視する理由で最も多いのは「将来性があると感じるため」ですが、中には「働く環境が整っていそう」という意見も見られます。働きやすさの向上により、スムーズな採用にもつながりやすくなることが期待できます。
関連記事:【2024年度版】働きやすい職場ランキング|働きやすさのポイントは?
標準化につながる
業務の標準化につながるのも、デジタルシフトやDXの成果の1つです。業務の見える化で業務をどのように進めているのかを把握できれば、より短時間で正確に業務を終えられる方法をマニュアルに落とし込めます。
マニュアルを参照すれば、誰がその業務を担当しても一定以上の質で仕上がるようになります。担当者の休暇や退職などにも対応しやすくなりますし、スピーディーな人材育成も可能です。
社内コミュニケーションの促進につながる
DXに取り組む過程で、紙の資料を使用したやり取りの頻度は減っていきます。社内SNSやチャットツールを活用してコミュニケーションを行ったり、遠方にいる相手とは空いた時間にオンラインで意思疎通をはかったりすることも可能です。
社内コミュニケーションがこれまでより素早く簡単にできるようになり、意思決定までの時間も短くなることが期待できます。
関連記事:職場コミュニケーションの成功法則!活性化させる具体的な方法と事例
テレワークの導入・定着につながる
企業のDXが進めば、テレワークを導入したり定着したりしやすくなります。
例えば人事に関する情報を紙で管理している場合、人事担当者は出社しなければ仕事ができません。一方、管理システムを導入していれば、人事担当者はテレワークでも仕事ができます。
テレワークの導入・定着により、従業員の働きやすさの向上がさらに進みやすくなるでしょう。
関連記事:【2025年最新調査】出社回帰の実態と対策|出社したくない理由と解決法
人手不足解消につながる
国内では業種を問わず人手不足が広がっています。帝国データバンクの「人手不足倒産の動向調査(2024年度)」によると、2024年度の人手不足倒産件数は350件と過去最多です。
このような中、デジタルシフトやDXへの取り組みは、企業の存続とも関わっています。デジタル技術の活用による業務効率化が実現すれば、今より少ない人数で業務を行える可能性があるためです。
例えば人事DXで人事の業務効率化に成功すれば、人事担当者の人数を調整して、売上に直接つながる部署の人材を充実させることもできます。
人手不足で十分な人材を採用できない場合でも、DXで人手不足を解消できるかもしれません。
参考:帝国データバンク|人手不足倒産の動向調査(2024年度)
関連記事:人手不足倒産とは何か?人不足倒産の現状や原因・対策をチェック
顧客満足度向上や顧客との接点拡大につながる
DXで業務効率化できれば、従業員は本来の業務に専念できます。営業担当者であれば顧客との接点を持つことに集中できますし、製造であればより高品質の製品作りに集中可能です。
人事担当者であれば、コア業務である採用につながる業務に勤務時間の多くを使えます。蓄積した情報を活用して、個々の従業員の能力や経験に即した配置転換を行ったり、人材育成に役立つプログラムを提供したりもできるでしょう。
人事DXを推進するときの課題
人事DXを企業が進めたいと考えていても、さまざまな課題により計画通りに進まないこともあります。ここでは代表的な課題として「既存システムとの連携」「人材不足」「必要性に対する温度差」について見ていきましょう。
既存システムとの連携
業務を管理するためにシステムを導入している企業では、人事DXに向けて新たにシステムを導入すると、うまく連携できないことがあります。これまで必要に応じて、その都度システムを追加してきた場合には、連携が複雑になりすぎている可能性があるためです。
全社的に新しいシステムに一新しようとしても、必要なデータを取り出すのに膨大な時間がかかるケースや、データが取り出せないケースもあります。
ただし連携や移行がうまくいかないからと断念すると、将来的なセキュリティーリスクにもつながりかねません。タイミングを見て、新たなシステムの導入を検討する必要があります。
人材不足
人事DXを進めたいと思っても、DX人材が不足している場合もあるでしょう。
中小企業基盤整備機構の実施した「中小企業のDX推進に関する調査(2024年)」では、DXに取り組むときの課題について聞いています。これによると企業の25.4%が「ITに関わる人材が足りない」、24.8%が「DX推進に関わる人材が足りない」と回答しています。
人材不足による人事DXが進められない状況があるなら、ITやDXに関する専門知識や経験を持つ人材を採用したり、今いる従業員のリスキリングによってITやDXに携わる人材を育成しなければいけません。
DXに携わる人材を育成する場合には、人材開発支援助成金を活用できます。要件を満たせば助成金の支給を受けられるため、負担を抑えつつ人材育成の取り組みを進めることが可能です。
※助成金支給対象に該当するか否かのご相談については事業所がある自治体窓口までお問い合わせください
参考:
中小企業基盤整備機構|中小企業アンケート調査|中小企業のDX推進に関する調査(2024年)
厚生労働省|人材開発支援助成金
関連記事:【社労士監修】人材開発支援助成金の条件は?活用事例をチェック
必要性に対する温度差
人事DXに対する社内の温度差が原因で、導入が進まないこともあります。経営者やDXを推進する担当者が必要性を説明しても、実際に業務を担当している従業員がDXの推進に協力的でない場合には、システムを導入しても利用されないかもしれません。
従業員が人事DXに積極的ではない場合、初めからシステムを導入して業務の進め方を変えると反発が大きくなる可能性もあります。最初は直接業務の変更が生じないようなアプリの導入から始めるとよいでしょう。
併せて、人事DXがなぜ必要なのか、導入した先にどのような変化を期待しているのかなども、丁寧に説明する必要があります。
人事DXの実施手順
ただ単にシステムを導入するだけでは、人事DXで望む成果を出すのは難しいでしょう。人事DXを成功させるには、以下の手順で進めていく必要があります。
- 目標を定める
- 人事業務の現状を把握する
- デジタル化する業務の優先順位を決める
- システムやツールを導入する
- 結果を確認し、必要に応じて改善する
それぞれの手順について解説します。
目標を定める
まずは人事DXの目標を明確にしましょう。最終的な目標が明確になっていないままシステムやツールを導入すると、導入しただけで終わってしまいかねません。
「人事の業務効率化で残業を50%削減する」「データを生かした採用活動で採用コストを20%削減する」など、数字で客観的に分かる目標を立てます。
目標を明確にして従業員と共有すれば、全員が同じ方向を目指して人事DXに取り組めますし、目標を達成できたかできていないかを数値で振り返ることも可能です。
関連記事:人材戦略とは?4つの要素と立案に役立つフレームワークを解説
人事業務の現状を把握する
人事の業務について現状把握も行います。どのような業務があり、どのような手順で行っているのかを明確にしましょう。全体に共有しやすいよう、フローチャートを作成するのも有効です。
現状を確認することで、業務を進めていく上で課題になっている部分も分かってきます。
DX化する業務の優先順位を決める
1度に全ての業務をDX化するのは難しいため、どの業務からデジタル化を進めるかも決めなければいけません。
業務の難易度や課題の深刻さなどを比較して、早期に解決すべき課題のある業務から取り掛かります。
DX化の方法を検討し実行する
DX化する業務が決まったら、どのような方法で解決するかを決定します。新しいシステムやツールを導入する方法もあれば、今あるシステムを改善する方法もあります。場合によっては業務フローそのものの見直しが必要な場合もあるでしょう。
業務そのものや、明確になった課題などに合わせて、最適な方法を検討して実行します。このとき、システムやツールに合わせた業務フローの変更も、同時に検討しましょう。
結果を検証し、継続的に改善する
システムやツールを導入したり、今あるシステムを改善したり、検討した方法を実行したら、必ず結果を確認します。最初に立てた目標を達成していればそのままの運営方針でよいですが、目標を達成していない場合には改善が必要です。
目標を立て、実行して、見直し、改善することを繰り返して、目標達成を目指します。
人事DXに役立つシステム
人事DXに取り組むときには、新たなシステムやツールの導入を検討することもあるでしょう。ここでは人事DXに役立つシステム・ツールを紹介します。
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システム |
システムの特徴 |
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HRIS |
・従業員のデータ管理や組織設計を行うための人事情報管理システム |
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タレントマネジメントシステム |
・従業員の個人情報・スキル・経験などの幅広い情報を一元管理できる |
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エンゲージメントツール |
・従業員の企業への愛着や貢献意欲を測定するツール |
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採用管理システム |
・採用活動に関する業務を効率化する |
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RPA |
・あらゆる業務の自動化に役立つシステム |
人事DXで業務効率化や人手不足解消を
人事DXとは、デジタル技術を人事の業務に役立てることです。目標を設定して課題を解決できるシステムやツールを活用すれば、業務効率化につながるでしょう。
加えて人事DXは人手不足解消にもつながります。就活生の41.5%は、就職先を選ぶときにDX推進の取り組みを重視するという調査結果から、人事DXへの取り組みは採用活動にプラスに働くといえるでしょう。
人事DXで業務効率化に成功すれば、人材を採用しない場合でも、工数が減り人手不足を解消できる可能性もあります。
人手不足の解消には、従業員の実質的な手取りアップで待遇改善につながる、食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」もおすすめです。就活生や今いる従業員に魅力的な制度を整えることで、スムーズな採用や離職率の低下につながります。
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