「2030年問題」は、少子高齢化にともなう人材不足が原因で生じる複合的な問題を指します。特にIT分野では、2030年までに最大79万人の人材不足が予想され、企業の競争力低下や経済損失といったリスクが懸念されています。これらのリスクに対処するためには、IT人材の確保と定着が不可欠です。本記事では、「2030年問題 IT」に焦点を当て、その対策と効果的な方法を詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
2030年問題とは
「2030年問題」とは、少子高齢化の進行により、2030年頃に生じることが懸念される諸問題をいいます。
少子化が進み、生産年齢人口が減少する一方で高齢者の数が増えるため、雇用・医療・社会保障などさまざまな面で構造的な問題が生じ、複合的かつ深刻な問題が発生することが予想されています。
中でも、企業にとって大きな問題となるのが人手不足です。そもそもの人口が減少し続けているため、優秀な人材を獲得することはますます困難となります。
2030年問題への対策は、国はもちろんのこと、企業にとっても無視できない喫緊の課題です。
関連記事:2030年問題とは?社会や企業へ与える影響と、取るべき対策を解説
2030年IT人材不足の衝撃 |最大79万人の危機
2030年問題を考えるにあたり、重要なトピックとなるのが、IT業界が直面する深刻な人材不足です。詳しく見ていきましょう。
IT人材不足の背景と要因
経済産業省が2019年に公開した「IT人材需給に関する調査(概要)」によると、IT関連産業への入職者は、採用拡大等を背景に増え続けています。一方で需要が供給を上回る状況が続き、2030年には最小で約16万人・最大で約79万人の人材不足に陥るとされています。
IT人材不足の背景には、複数の要因が絡み合っています。まず挙げられるのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速によるIT需要の急増です。あらゆる産業でデジタル化が進み、IT人材の需要が高まっています。
次に、技術革新のスピードが挙げられます。AI・IoT・ビッグデータなど、新しい技術が次々と登場し、それに対応できる人材の育成が追いついていません。さらに、日本社会全体の問題である少子高齢化も大きな要因です。労働人口の減少にともない、IT業界でも若年層を中心とした人材の確保が一層難しくなっています。
これらの要因が重なり、2030年に向けてIT人材不足が深刻化すると予測されているのです。
「2025年の崖」とは何か
「2025年の崖」とは、多くの日本企業が抱える老朽化したITシステムにより、2025年頃に引き起こされる諸問題を指す言葉です。
具体的には、システムの保守や運用が困難になる・セキュリティリスクが高まる・デジタル競争に後れを取るなどの問題が予想されています。これらの問題が適切に解消されない場合、2025年以降、1年あたり最大12兆円の経済損失が生じる可能性が指摘されています。
この「2025年の崖」を乗り越えるためには、システムの刷新とともに、それを担うIT人材の確保が不可欠です。しかし、IT人材の不足により、多くの企業がこの課題に十分に対応できない可能性があります。
「2025年の崖」問題は、2030年のIT人材不足問題と密接に関連しており、企業にとって喫緊の課題となっているのです。
参考:経済産業省|DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
深刻化するIT人材不足の影響
IT人材不足は、単に技術者が足りないという問題にとどまりません。その影響は、企業の競争力や日本経済全体にまで及ぶ可能性があります。詳しく見ていきましょう。
企業の競争力低下
IT人材不足は、企業の競争力低下に直結します。
デジタル化が進む現代のビジネス環境において、ITは単なる業務効率化のツールではなく、新たな価値を創造するための重要な要素です。しかし、IT人材が不足すると、新しい技術の導入や活用が遅れ、結果として競争力の低下につながります。
競争力の低下は、企業の存続自体を危うくするものです。このリスクを回避するためにも、企業はIT人材の確保と育成が急務となっています。
セキュリティリスクの増大
IT人材不足は、企業のセキュリティリスクを高める大きな要因のひとつです。
サイバー攻撃の脅威が増大する中、セキュリティ対策の重要性は年々高まっています。しかし、十分な人材が獲得できない場合、セキュリティ専門家の不足が避けられません。
セキュリティ対策が不十分だと、データ漏洩や不正アクセスなどの事故リスクが高まります。こうした事故は、企業の信頼を大きく損なうだけでなく、多額の損害賠償金や事業の中断など、深刻な影響をもたらす可能性があります。
IT人材、特にセキュリティ専門家の確保は、企業のリスク管理においても重要な課題となっているのです。
DX推進の遅れと国際競争力の低下
IT人材不足は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進にも大きな影響を与えます。
DXとは、単なるIT化ではなく、デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革し、新たな価値を創造することです。しかし、IT人材が不足するとDXの推進が遅れ、結果として企業の変革や成長が妨げられる可能性があります。
さらに、グローバル競争が激化する中、DXの遅れは国際競争力の低下にもつながります。世界中の企業がデジタル技術を駆使してビジネスを展開する中、日本企業がDXに後れを取れば、世界市場でのシェア低下や、新たな市場参入の機会損失などが生じる可能性が否定できません。
IT人材の確保と育成は、企業の未来を左右する重要な経営課題なのです。
企業がおこなうべきIT人材不足対策7選
IT人材不足の深刻な影響を回避するためには、各企業が今から対策を講じる必要があります。ここでは、IT人材不足に備えるために企業が取るべき具体的な対策について解説します。
既存IT人材の育成と再教育
既存のIT人材を最大限に活用し、その能力を高めることは、IT人材不足対策の第一歩です。
技術の進歩が速いIT業界では、継続的な学習が不可欠です。企業は社内研修の充実や、外部の教育プログラムの活用など、従業員のスキルアップを支援する体制を整える必要があります。
特に、AI・クラウド・セキュリティなどの最新技術に関する教育は、企業全体の技術力向上に貢献するものです。また、非IT部門の従業員に対してもデジタルリテラシー教育を行うことで、全社的なIT活用能力を高めることができます。既存人材の育成は、即効性のある対策として効果的です。
新卒採用戦略の見直し
IT人材の確保には、新卒採用戦略の見直しも重要です。従来の採用基準にとらわれず、ITスキルや適性を重視した採用を行うことで、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。
また、インターンシップの充実や、大学との産学連携強化など、早い段階から学生とのつながりを持つことも効果的です。IT系の学部や学科だけでなく、数学や物理など関連分野の学生にもアプローチすることで、採用の幅を広げることができます。
なお、採用後の育成プログラムを充実させることも大切です。生産年齢人口が減少の一途をたどる今、即戦力でなくとも将来性のある人材を採用し、育てることが求められています。
中途採用の強化とスカウト
即戦力となるIT人材を確保するためには、中途採用の強化が有効です。特に、AI・クラウド・セキュリティなどの専門性の高い分野では、経験豊富な人材の採用が急務となっています。
そのためには、従来の採用方法だけでなく、SNSやビジネス特化型のSNSなどを活用したスカウトも効果的です。また、フリーランスのIT人材との協業や、副業・兼業の容認なども検討する価値があります。
さらに、海外のIT人材の採用も視野に入れることで、グローバルな視点を持つ人材の確保にもつながります。中途採用やスカウトを強化することで、企業のIT人材不足を迅速に解消することができるでしょう。
外部リソースの活用
IT人材不足を補うもう一つの方法として、外部リソースの活用があります。
IT業務の一部をアウトソーシングすることで、社内のIT人材不足を補うことができます。クラウドサービスの活用や、ITベンダーとの協業・フリーランスのIT人材の活用なども効果的です。外部の専門家やサービスを利用することで、高度な技術やノウハウを効率的に取り入れることができます。
ただし、外部リソースの活用にあたっては、セキュリティやコンプライアンスの観点から適切な管理が必要です。
IT人材を確保し、定着させるためには、魅力的な職場環境を整えることが不可欠です。IT業界の人材獲得競争が激化する中、優秀な人材を引き付け、長く働いてもらうためには、従来の働き方や職場環境を見直す必要があります。
柔軟な働き方の導入
IT人材、特に若い世代の従業員にとって、柔軟な働き方は重要な魅力の一つです。リモートワークやフレックスタイム制の導入は、ワークライフバランスの向上につながり、従業員の満足度を高めます。
また、プロジェクトベースの働き方や、裁量労働制の導入も効果的です。IT業務の特性上、必ずしもオフィスにいる必要がない場合も多いため、場所や時間にとらわれない働き方を可能にすることで、生産性の向上も期待できます。
なお、副業や兼業を認めることは、従業員のスキルアップや、新たな知見の獲得にもつながる施策です。柔軟な働き方を導入することで、IT人材にとって魅力的な職場環境を作り出すことができます。
継続的な学習機会の提供
IT業界では、技術の進歩が速いため、継続的な学習の機会を提供する必要があります。社内外の研修プログラムの充実や、オンライン学習プラットフォームの活用、技術カンファレンスへの参加支援など、さまざまな形で学習機会を提供することが効果的です。
また、新しい技術に触れる機会を増やすため、先端技術を用いたプロジェクトへの参加を促すことも有効です。さらに、社内での知識共有の場を設けることで、従業員同士が学び合える環境を作ることができます。
継続的な学習機会の提供は、従業員のスキルアップにつながるだけでなく、企業の技術力向上にも寄与します。IT人材にとって、常に最新の技術に触れ、学べる環境は大きな魅力です。
キャリアパスの明確化
IT人材の定着率を高めるためには、キャリアパスを明確に示すことが重要です。技術者としてのスペシャリストコース、マネジメントへのキャリアアップコースなど、複数のキャリアパスを用意し、従業員が自身の将来像を描ける仕組みを整えましょう。
また、定期的なキャリア面談を実施し、個々の従業員の希望や適性に応じたキャリア開発を支援することも重要です。社内公募制度や、ジョブローテーションの導入により、従業員が新しい分野にチャレンジできる機会を提供するのも効果的でしょう。
キャリアパスを明確にすることで、従業員の長期的なビジョンを支援し、モチベーションの向上と定着率の改善が期待できます。
IT人材のモチベーション向上策
IT人材の確保と定着を実現するためには、モチベーション向上のための施策が欠かせません。高度な専門性を持つIT人材は、引く手あまたなだけに、モチベーションを維持できない=離職へとつながりやすいからです。彼らのモチベーションを高め、長期的に活躍してもらうための施策を紹介します。
評価制度の見直し
IT人材のモチベーションを高めるには、特性に合わせた評価制度の構築が重要です。従来の年功序列や、単純な業績評価だけでなく、技術力や創造性・問題解決能力などを適切に評価する仕組みが必要です。
例えば、技術的な成果や、革新的なアイデアの提案を評価項目に加えることで、IT人材の専門性を正当に評価できます。また、チーム全体の成果を評価する指標を取り入れることで、協調性も促進できます。
さらに、短期的な成果だけでなく、中長期的な視点での貢献も評価対象とすることが重要です。公平で透明性の高い評価制度を構築することで、IT人材のモチベーション向上と、組織全体の競争力強化につながります。
プロジェクト選択の自由度
IT人材のモチベーション向上には、プロジェクト選択の自由度を高めることも効果的です。興味のあるプロジェクトや、新しい技術に挑戦できる機会を提供することで、仕事へのやりがいが増します。
具体例としては、社内公募制度を導入し、従業員が自ら参加したいプロジェクトに応募できるようにすることが考えられます。また、一定の時間を自由な研究開発に充てられる「20%ルール」のような制度を取り入れることも有効です。
より積極的な対策をするのなら、社内ベンチャー制度を設け、新しいアイデアを実現する機会を提供するといった方法もよいでしょう。プロジェクト選択の自由度を高めることで、IT人材の創造性と挑戦意欲を引き出し、イノベーションの促進にもつながります。
福利厚生の充実
IT人材のモチベーション向上には、充実した福利厚生も重要な要素です。単に給与を上げるだけでなく、生活の質を向上させる施策が効果的です。
例えば、健康管理サポート・メンタルヘルスケア・家族も含めた余暇支援など、従業員の well-being を重視した制度が求められます。また、自己啓発支援制度や、資格取得支援なども、IT人材の成長意欲を満たす重要な施策です。
そのほか、オフィス環境の改善やリフレッシュ休暇の導入なども、働きやすさを高める効果があります。
食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」が人気
福利厚生の一環として、食事補助サービスの活用も注目されています。IT業界では長時間労働や不規則な勤務が多いため、健康的な食生活のサポートは重要です。
中でも、中小企業でも取り入れやすい福利厚生として近年特に注目を集めているのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」を導入した企業の従業員は、専用のICカードで支払うことにより、全国約25万店舗以上の加盟店での食事を半額で利用できます。
場所や時間にとらわれずに利用できる斬新な食事補助の福利厚生サービスとして、「チケットレストラン」はすでに2,000社以上の企業に導入されています。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
2030年IT人材不足に立ち向かう企業戦略
2030年に向けたIT人材不足の課題は、企業の存続にも関わる重要な問題です。しかし、適切な対策を講じることで、この危機を乗り越え、さらなる成長の機会とすることができます。
2030年のIT人材不足は避けられない課題ですが、今から準備を始めることで、競争力のある強い組織を築くチャンスにもなります。
IT人材の確保と育成を経営戦略の中核に据え、未来に向けた投資として取り組んでみてはいかがでしょうか。