監修者:森田修(社労士事務所 森田・ミカタパートナーズ)
家族手当と聞いてすぐにどのような手当か説明できますか?
昨今では、少子高齢化や、ライフスタイルの多様化、さらには同一労働同一賃金などにより、家族手当の支給にはさまざまな検討事項が必要となってきています。
本記事では、家族手当とはどのようなものなのか、支給の条件や扶養手当とのちがい、考慮すべき事項など、わかりやすく解説します。
家族手当とは?
家族手当とは、法律で定められた手当ではなく、企業の裁量により備える法定外福利厚生にあたります。
家族手当は戦時中から設けられている制度で、基本給に含まれない賃金として支給される手当です。
似たような手当に児童手当などがありますが、児童手当は、国が公費により支給する制度で、企業が支給する家族手当とは異なります。
最初にお伝えした通り、家族手当は企業に法的な支払い義務はありません。
家族手当を支給しない企業もあります。
家族手当は企業が独自に支給要件を定めることができ、最低基準などはありません。
とはいえ、家族手当を備えている企業は、主に扶養家族がいる従業員に支給していることが多いようです。
家族手当と扶養手当のちがい
家族手当と混同されやすい手当に、扶養手当があります。ちがいはどこにあるのでしょうか。
家族手当は企業の裁量により支給要件が決められるため、必ずしも家族を扶養していなければならないということはありません。
扶養手当は「扶養している家族」であることを必須要件とする企業が多いです。
扶養の範囲が税扶養であるか、保険扶養であるかは企業によります。
*税扶養とは:所得税法上の基準による扶養のこと
*保険扶養とは:社会保険の基準による扶養のこと
家族手当においても支給条件に扶養家族であることが含まれていることが多いため、同じ意味合いで使用されていることがあるようです。
簡潔に整理すると以下の違いです。
家族手当:家族の収入による上限がない場合もある
扶養手当:家族の収入による上限がある
家族手当を支給する条件
企業が家族手当を支給する条件を定める場合に、検討すべき主な項目をご紹介します。
自社で家族手当制度を導入する際の参考にしてみてください。
- 対象とする家族の範囲の定義
- 対象とする家族の年齢の制限
- 対象とする家族の収入の上限設定
- 対象とする家族同居の有無
- 対象とする家族が同一生計内か否か
まずは、配偶者や子どもの人数、両親など、対象とする家族の範囲を定めます。
配偶者を含めるか。子どもの年齢は何歳までにするか。両親は何歳以上にするか。
支給の基準となる家族の範囲の定義は明確にしておく必要があります。
対象とする家族の範囲の定義が定まったら、収入の上限設定です。
収入による上限を設けている企業では、扶養手当同様に扶養している家族かどうかを基準にしていることが多く見受けられます。
同居の有無や同一生計内かどうかは、たとえば、対象の子どもが一人暮らしをしており別居であるが、家賃や生活費は保護者である従業員が賄っているなどのケースなどをどうするかです。
同居が条件となっていれば一人暮らしをさせている子どもは対象外となります。
その他、子どもの人数による支給額なども一律にするのか、人数により変動するのかなども決めておく必要があります。
家族手当を導入する企業の現状
昨今、実は家族手当を廃止する企業が増えてきているのではないかと言われています。
なぜでしょうか。廃止する企業が増えている理由は後ほど解説します。
ここでは現状、家族手当を導入している企業がどのくらいあるのか、金額はいくら支給しているのかを見ていきましょう。
導入している企業は7割程度
家族手当を導入している企業は、令和3年人事院の民間給与の実態(※1)によると74.1%でした。
企業規模でみても従業員が500人以上73.8%、100人以上75.9%、50人以上69.1%と小規模企業でも7割ほどの企業が導入していることがわかります。
そのうち配偶者を家族手当の対象にしている企業をみてみると、500人以上66.7%、100人以上87.7%、50人以上90.9%と企業規模が小さいほど配偶者を家族手当の対象にしていました。
支給額の相場
家族手当の支給額の相場はいくらくらいなのでしょうか?
支給額の相場をみてみると、従業員1人あたりの平均支給額は17600円程度になります。
厚生労働省の令和2年就労条件総合調査(※2)によると家族手当、扶養手当、育児支援手当などの平均支給額は以下のように報告されています。
企業規模が大きくなるほど平均額は増える傾向にあるようです。
支給額の合計の相場はわかりました。では、内訳はどうなっているのでしょうか。
東京都産業労働局の中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)(※3)に家族手当の支給状況の報告がありましたので紹介します。
一律支給の場合およそ1万円程度。
家族別支給の場合、配偶者はおよそ1万円程度、子どもは1人につき5千円程度が相場のようです。
家族手当のメリット
家族手当は従業員の能力や評価によらず支給される手当です。
企業が家族手当を備え、毎月一定額が支給してくれることは、従業員の経済的な負担が軽減されるため、従業員満足度の向上につながります。
企業にとっては、家族手当は基本給に含まないので、残業代などの割増賃金を計算する場合には除外できるメリットがあります。
ただし、家族手当が扶養人数に関係なく一律に支給されている手当は家族手当という名称であっても家族手当とはみなされないため割増賃金の基礎に入ります。
家族手当のデメリット
ライフスタイルが単一的であった時代には家族手当は有効なものでした。
昨今ではライフスタイルが多様化し、生涯未婚率も上がっています。
既婚者でも子どもを持たない家庭もあります。
家族手当はその性質から独身などはもらえないことが多いものです。
不公平感を生み出し不満に思う従業員が出てくる可能性があります。
共働き夫婦も増えており、別企業で働いている場合それぞれの企業での二重取りをどうするかなども検討が必要となり、管理が複雑化するデメリットが考えられます。
家族手当を廃止する企業が増えている理由
家族手当を廃止する企業が実は増えてきているとお伝えしました。
ここではその理由を解説していきます。
家族手当を廃止する企業が増えている理由として2つのポイントにわけてみていきましょう。
同一労働同一賃金の施行
働き方改革による同一労働同一賃金の導入に伴い、雇用の継続が予測されるパートタイム従業員などに支給しないのは不合理な待遇差に当たる可能性が出てきます。
同じ仕事をしているのに月に1~2万円の差がでるのは、同一労働同一賃金の観点からすると不満がでる可能性があります。
こうした格差是正などの観点においても企業は家族手当制度の見直しを始めました。
配偶者特別控除の改正
働く女性の能力発揮の妨げとなる就業調整を緩和するため、配偶者特別控除の上限の引き上げが実施されました。
これまで扶養家族であることを条件としていた企業にとって、支給対象の配偶者が増えることになります。
企業は負担増加を抑えるため制度の見直しをするケースが増えてきています。
実際、家族手当の見直しをした企業の事例を見ていきましょう。
自働車メーカーのトヨタ社では、女性の就労と子育て支援を強化するため、配偶者手当を廃止し、子どもへの手当を4倍に増額することで労使の合意にいたりました。
子ども手当は1人あたり2万円となっています。
共働きでも夫婦のうちどちらかしか働いていない場合でも支給金額は同等となっています。
厚生労働省においても、家族手当を見直すことを推奨しています。
配偶者を対象とした複数の事例の報告がなされていますので、下記リンクをご参考までにご覧ください。
配偶者を対象とした手当に関する見直しが実施・検討された事例等/厚生労働省
さいごに
従業員のライフスタイルの多様化が進む世の中にあって、既存の手当の見直しが急務となってきました。
今ある制度を時代に合わせた新しいものに変えていく時期に来ています。
少子高齢化や女性の就労促進など働き方改革にもつながる「家族手当の見直し」について、より従業員の満足度を上げられる制度へと変えていきましょう。
参考資料
(※1)
民間給与の実態(令和3年職種別民間給与実態調査の結果)/人事院
(※2)
令和2年就労条件総合調査/厚生労働省
(※3)
中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)/東京都産業労働局