監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
昇給額や昇給率の平均はどのくらいなのでしょうか?物価高が続く中、2023年の春闘では大幅な昇給が実現した企業も少なくありません。企業規模や業種ごとに、どのくらい昇給しているのかを紹介します。併せて昇給以外にできる従業員へのサポート方法として、福利厚生の充実度アップについても見ていきましょう。
昇給の平均を紹介
2023年の春闘ではどのくらい昇給したのでしょうか?日本労働組合総連合会の「2023 春季生活闘争まとめ」によると、従業員の平均賃金の引き上げ額による昇給を行う平均賃金方式での昇給が決まった5,272組合では、昇給額は定期昇給分を含めた加重平均で1万560円、昇給率は3.58%です。
2022年の昇給額6,004円、昇給率2.07%と比べて、大幅な昇給が実現しています。また比較できる2013年春闘以降では、最も高い昇給額・昇給率となりました。
大企業の昇給の平均
企業の規模によって、昇給額や昇給率は異なります。昇給の妥結額が明確で資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある364社の集計結果をまとめた、厚生労働省の「令和5年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」で、昇給額や昇給率を見ていきましょう。
妥結した昇給額の平均は1万1,245円、昇給率は3.6%で、「2023 春季生活闘争まとめ」の平均賃金方式で決まった昇給額・昇給率と同水準です。
参考:厚生労働省|令和5年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況
中小企業の昇給の平均
中小企業の昇給額と昇給率は、日本労働組合総連合会の「2023 春季生活闘争まとめ」に記載されている、従業員数別の数値をチェックします。平均賃金方式で定期昇給分を含む加重平均の数値です。
従業員数 |
昇給額 |
昇給率 |
99人以下 |
8,333円 |
3.36% |
100人以上299人以下 |
9,387円 |
3.62% |
300人以上999人以下 |
1万139円 |
3.68% |
企業の規模が大きいほど、昇給額も昇給率も上がることが分かります。
業種別の昇給の平均
平均の昇給額や昇給率は業種ごとにも異なります。日本労働組合総連合会の「2023 春季生活闘争まとめ」によると、業種ごとの昇給額・昇給率は以下の通りです。
業種 |
昇給額 |
昇給率 |
製造業 |
1万1,819円 |
3.92% |
商業流通 |
1万146円 |
3.54% |
交通運輸 |
6,813円 |
2.50% |
サービス・ホテル |
8,792円 |
2.97% |
情報・出版 |
5,864円 |
2.85% |
金融・保険 |
9,240円 |
3.20% |
その他 |
9,307円 |
3.26% |
業種ごとの平均賃金方式の昇給額・昇給率の加重平均を見ると、全体の平均昇給額1万560円と平均昇給率3.58%を超えているのは、製造業のみと分かります。特に情報・出版は低く、2022年の昇給額と比べても差は577円のみです。
昇給率で従業員や求職者へアピール
自社の昇給額を決めるときには、昇給率についても考えて決定すると良いでしょう。全体の平均昇給額1万560円と同額の昇給を行ったとしても、「昇給額÷昇給前の月給×100」で計算できる昇給率が平均を下回ると、従業員や求職者にマイナスの印象を与えかねません。
昇給率を平均よりも高く設定することで、自社の成長度合いや、給与の上がりやすさをアピール可能です。
昇給とベースアップの違い
昇給もベースアップも給与が上がる点では同じです。ただし昇給が個々の従業員を対象としているのに対し、ベースアップでは従業員全員の給与を一斉に引き上げる点が異なります。
ベースアップは物価上昇による生活水準の低下を防ぐことや、従業員のモチベーションアップなどを目的に行われることが多い取り組みです。ただし1度上げた基本給の引き下げは簡単にはできないため、増加する固定費についてよく検討した上で実施する必要があります。
昇給の種類
昇給は「定期昇給」「臨時昇給」「自動昇給」「考課昇給」「普通昇給」「特別昇給」の6種類に分類できます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
定期昇給
定期昇給は決まったタイミングで行われる昇給です。「毎年4月に昇給」「毎年4月・10月に昇給」というように、時期を決めて実施している企業が多いでしょう。
ただし定期昇給の制度があるからといって、必ず昇給が必要とは限りません。個人の成績や企業の業績が条件をクリアしていれば昇給のチャンスがあるという制度のため、場合によっては昇給しないこともあります。
臨時昇給
臨時昇給は時期が設けられていない昇給です。業績が好調なときや、優秀な成績をあげた従業員がいるときに行うことがあります。
自動昇給
業績や成績などに関係なく自動的に昇給するのが自動昇給です。社内規程に応じて、年齢や勤続年数などによって昇給します。
考課昇給
実績や能力によって昇給するのは考課昇給です。日々の仕事の努力や工夫が給与につながるため、従業員のモチベーションアップにつながる昇給制度といわれています。
ただし実施するには従業員一人ひとりの査定を行わなければならず、手間がかかる昇給制度です。
普通昇給
技能が上がり、企業が定めている昇給の要件を満たしたときに給与が上がる制度を普通昇給といいます。
特別昇給
携わる業務が特殊な場合や、特別な功労がある場合に給与が上がるのが特別昇給です。普通昇給ではカバーできない範囲で昇給が必要な場合に用いられます。
2023年の春闘を振り返る
春闘とは2~3月ごろに労働組合が企業に対して行う労働条件の交渉のことで、「春季生活闘争」の略です。具体的には定期昇給やベースアップについて協議します。2023年の春闘ではどのような結果となったのでしょうか。
30年ぶりの賃上げ水準
日本は長くデフレが続き、大きな賃上げが行われない時期が続きました。2023年の春闘では、近年の物価高の影響から、およそ30年振りとなる高水準の賃上げが行われています。
大幅な賃上げの背景
大幅な賃上げが行われたのは、物価高による相対的な給与水準の低下により、賃上げへの期待感が高まっていたためです。デフレからインフレへ転換した経済状況に合わせた賃上げといえます。
また人材不足が顕著になってきている中、必要な従業員数を確保するために賃上げが必要と考える企業が増えていることも、大幅な賃上げの要因です。
昇給以外で従業員をサポートする方法
物価高が続く中、企業が従業員へ実施できるサポートには、昇給の他に福利厚生の充実度アップがあげられます。具体的にどのような福利厚生を導入すると良いのでしょうか。
ビズヒッツが、働く男女501人を対象に実施した「あったら嬉しい福利厚生に関する意識調査」の、あったら嬉しい福利厚生ランキングをもとに、おすすめの福利厚生を紹介します。
ランキング |
あったら嬉しい福利厚生 |
1位 |
家賃補助・住宅手当 |
2位 |
特別休暇 |
3位 |
旅行・レジャーの優待 |
4位 |
社員食堂・食事補助 |
5位 |
スポーツクラブの利用補助 |
6位 |
資格取得・教育支援 |
7位 |
保養所 |
8位 |
生理休暇 |
9位 |
慶弔金の支給 |
10位 |
通勤手当 |
家賃補助・住宅手当
従業員が住んでいる家の住宅費をサポートするのが家賃補助・住宅手当です。支給するときの基準は企業ごとに定めて構いません。例えば「従業員本人が世帯主として住んでいる賃貸物件の家賃を月1万円まで補助する」「従業員本人が世帯主として住んでいる持ち家であり、住宅ローンを組んでいる場合に月1万円支給する」などです。
企業によっては「入社10年目まで支給する」というように支給する期間を限定している場合や、「居住場所から勤務先までの距離が〇km以内」「居住場所から勤務先までの公共交通機関が〇駅以内」というように家が勤務先に近い場合に支給する場合もあります。
特別休暇
法律で定められている有給休暇の他に、企業が独自で定める休暇が特別休暇です。心身の疲労回復のための「リフレッシュ休暇」、病気にかかったときの「病気休暇」、従業員本人の結婚や家族に不幸があったときの「慶弔休暇」、結婚記念日といった記念日に取得できる「アニバーサリー休暇」などがあります。
休暇は単に制度を整えただけでは機能しません。必要なときに従業員が気兼ねなく制度を利用できるよう、休暇の取得を促し、実際に取得させる必要があります。制度を機能させるには、業務配分の見直しが必要な場合もあるでしょう。
また土日や祝日などと組み合わせて、長期休暇を取得できるようにするのも有効です。
旅行・レジャーの優待
休暇を利用して「旅行に行きたい」と考えていても、費用負担が大きいとなかなか行けません。日ごろ仕事で頑張っている従業員を労うために、旅行・レジャーの優待を用意するのも良いでしょう。日常から離れリラックスして過ごすことで、心身のリフレッシュにつながります。
優待制度を提供できる福利厚生サービスのパッケージを導入すると、比較的手間を抑えつつ運用可能です。
社員食堂・食事補助
毎日の食事の負担を補助する社員食堂や食事補助も、従業員に喜ばれる福利厚生のひとつです。昼食代にかかる費用を抑えやすくすることで、給与のうち従業員が自由に使える金額を増やせます。
小規模な企業でも比較的導入しやすいのは食事補助です。オフィスに厨房や食堂を設置する社員食堂と異なり、初期費用を抑えつつ制度を整えられます。
一定の要件を満たすと、食事補助にかかった費用を福利厚生費として計上できるため、法人税を計算するときに損金として益金から差し引けるのもポイントです。
物価高が続く中、支出を抑えるために食費を下げている従業員は少なくありません。コストパフォーマンスを重視することで、栄養バランスが乱れがちな従業員の食生活改善にもつながる福利厚生です。
食事補助を導入するときには、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を利用すると、導入や運用の手間を最小限に抑えられます。
スポーツクラブの利用補助
「運動不足解消のためにスポーツクラブに通いたい」と考えていても、毎月の費用負担が重く感じて実行できずにいる人もいます。企業がスポーツクラブの利用補助を行えば、今より積極的に運動に取り組む従業員を増やせるかもしれません。
定期的な運動は健康にもプラスに働きます。従業員の健康管理に経営的な視点から戦略的に取り組む「健康経営」にもつながる福利厚生です。
従業員の運動習慣に役立つ福利厚生には、他にもオフィス内へのジムコーナーの設置、講師を招いたストレッチ教室、エクササイズの指導を受けられるアプリの導入などがあります。
資格取得・教育支援
資格取得・教育支援も従業員に喜ばれる福利厚生です。業務に必要な資格を取得するとき、勉強や試験にかかる費用を会社が負担する仕組みがあれば、従業員の資格取得へのモチベーションを高められます。
支給する範囲は企業によってさまざまです。専門学校の学費やテキスト代などが対象になるケースもあれば、試験の費用のみ対象の場合や、合格したときの試験の費用のみを対象としていることもあります。また費用の補助に加え、有資格者の先輩社員による社内講習会を実施している企業もあります。
積極的に資格を取得する従業員が増えれば、質の高い商品やサービスの提供につながるため、企業の利益につながりやすくなる福利厚生です。
保養所
「もっと安価に旅行に行きたい」「宿泊費用を抑えて食事やレジャーを充実させたい」と考えている従業員向けには、保養所の提供が向いています。
費用を抑えて保養所を従業員に提供するには、会員制リゾートのサービスを導入するのがおすすめです。企業は施設の管理にかかる費用が発生しませんし、従業員は全国にある施設を自由に利用でき、双方にメリットがあります。
生理休暇
生理休暇は労働基準法の第68条には、以下の通り記載されている、法律で定められている休暇です。
「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。」
本来であれば、どの企業であっても、希望すれば取得できます。ただし「あったら嬉しい福利厚生」にランクインしていることから、正しく運用されていないケースが多いと考えられます。
休みたいけれど忙しくて休めない、制度に対する理解が不十分で「自社には生理休暇がない」と考えている、といった事情があるのかもしれません。企業は生理休暇の制度について従業員へ周知し、希望する人が気兼ねなく使える体制を整えることが重要です。
慶弔金の支給
結婚・出産・子どもの入学・誕生日などのお祝い金や、香典・見舞金などのことを慶弔金といいます。従業員本人やその家族・親族の慶事・弔事に支給する手当です。慶弔金を充実させることで、従業員はもちろん家族のことも気にかけているという企業の姿勢を伝えられます。
ただし、全ての従業員に支給できない可能性がある点には注意が必要です。例えば結婚するとお祝い金が支給される制度は、結婚しなければ支給されません。出産祝いの支給を決めれば、子どもの有無や人数で支給額に差が生じます。
不公平感が出ないよう制度作りに注意が必要です。
通勤手当
通勤手当も従業員に喜ばれる福利厚生です。通勤にかかる費用の負担がなければ、その分従業員が自由に使える給与が増えます。
支給のルールは企業ごとに自由です。上限を設けず全額支給する企業もあれば「月3万円まで」と上限を決めて支給している企業もあります。
手当を支給する通勤方法を指定している企業もあります。電車やバスを利用したときのみ手当の対象となるケースや、マイカー通勤のガソリン代を距離に応じて支給するケースなどです。
立地によっては、無料で使える駐車場や駐輪場を完備していることもあります。
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昇給や福利厚生で従業員をサポート
2023年の春闘は平均で昇給額1万560円・昇給率3.58%と、約30年振りとなる高水準の賃上げが行われました。企業規模や業種によっては昇給額や昇給率が低いこともありますが、全体的に従業員をサポートする体制が作られています。
昇給以外で従業員をサポートしたいと考えているなら、福利厚生を充実させる方法も有効です。特に日常生活に必要な費用を補助する「家賃補助」や「食事補助」は、従業員の可処分所得を増やすことにもつながります。
食事補助の提供を検討しているなら、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」がおすすめです。全国にあるコンビニやファミレスなどで利用できるため、勤務場所によらず全従業員が公平に使えるサービスです。自社に合うサービスか検討するために、まずは資料請求をしてみませんか。