2024年の春闘では、賃上げ率が5.10%に達し、33年ぶりの高水準を記録しました。一方で、大企業と中小企業との格差が浮き彫りとなり、社会的な懸念材料となっています。本記事では、この歴史的な賃上げの背景や、賃上げ率の推移、大企業と中小企業の格差の理由など、春闘の賃上げにまつわる情報をまとめて解説します。
さらに、賃上げが難しい企業でも取り組みやすい賃上げの形として、近年広く注目を集めている「第3の賃上げ」についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
2024年春闘の結果概要|33年ぶりの高水準を達成
2024年7月3日、連合は2024年春闘の最終集計を発表しました。 平均賃上げ率が5.10%に達し、1991年以来、実に33年ぶりの高水準を記録しています。まずは、最終集計の結果の概要を、厚生労働省の調査結果も参考に解説します。
ベースアップと定期昇給の内訳
2024年春闘の最終集計によると、平均賃金方式で回答を引き出した5,284社の平均賃上げ額は15,281円(前年10,560円)で、賃上げ率は5.10%(前年3.58%)です。さらに、昇給分とベア分が明確に分かる3,639社に絞って見ると、平均賃上げ額は15,818円、賃上げ率は5.20%(ベア分3.56%)となっています。
賃上げ率5.10%は、1991年の5.66%以来33年ぶりの高水準です。一方で、物価高も急速に進行し、実質賃金はマイナスの状態が長期間続いています。
各企業は積極的に基本給の底上げを行っているものの、いまだ労働者の実質的な収入増加には至らない現状を示す結果となりました。
参考:連合|労働・賃金・雇用 春季生活闘争 2024年春闘
参考:厚生労働省|毎月勤労統計調査 令和6年5月分結果確報
厚生労働省発表の賃上げ状況
2024年8月2日に厚生労働省が発表した「令和6年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によると、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業348社の平均妥結額は17,415円でした。前年の11,245円から6,170円増加しており、現行ベースに対する賃上げ率は5.33%となっています。
この結果は、大企業を中心に積極的な賃上げが行われたことを裏付けています。
連合と厚生労働省|調査結果の比較
連合の集計と厚生労働省の調査結果を比較すると、両者ともに5%を超える高い賃上げ率を示しています。この理由として考えられるのが、調査対象の違いです。
厚生労働省の調査は大企業中心ですが、連合が集計している企業規模はより広範囲です。そのため、連合の集計結果(5.10%)が厚生労働省の結果(5.33%)よりもやや低くなっていると考えられます。
この差は、大企業と中小企業の賃上げ格差を反映しているものと推測されます。
春闘賃上げ率の推移と背景
春闘の賃上げ率の推移を見ると、日本の経済状況の変化がはっきりと分かります。今後の流れを読むヒントとして、過去5年間の賃上げ率の推移と、その背景を解説します。
2020年〜2024年|春闘賃上げ率の推移
2020年から2024年までの春闘賃上げ率の推移を見ると、明確な上昇トレンドが確認できます。2020年の1.90%から徐々に上昇し、2024年には5.10%まで達しました。この5年間の変化は、日本経済と労働市場の変化を如実に表しています。
年 | 定期昇給込み賃上げ計 | |
平均賃上げ額 | 平均賃上げ率 | |
2020年 | 5,506円 | 1.90% |
2021年 | 5,180円 | 1.78% |
2022年 | 6,004円 | 2.07% |
2023年 | 10,560円 | 3.58% |
2024年 | 15,281円 | 5.10% |
参考:連合|労働・賃金・雇用 春季生活闘争 >連合結成以降の賃上げ要求の推移|2013闘争以降の平均賃金方式での賃上げ状況の推移
2020年〜2021年|コロナ禍の影響
2020年から2021年にかけて、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による経済停滞の影響で、賃上げ率は低迷しました。2020年は1.90%・2021年は1.78%と、2%を下回る水準です。この時期、多くの企業が業績の悪化や先行きの不透明感から、賃上げに慎重な姿勢を示していました。
2022〜2024年|政府の賃上げ要請と企業の対応
2022年以降、政府は積極的に賃上げを要請し、「賃上げ促進税制」などの賃上げ促進制度を拡充しました。これを受けて企業の姿勢も変化し、2022年は2.07%・2023年は3.58%と賃上げ率が上昇します。2024年の5.10%という結果は、こうした政府の要請と企業の対応が相まって実現したものといえます。
参考:国税庁|No.5927 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(大企業向け賃上げ促進税制)
参考:国税庁|No.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)
関連記事:賃上げ促進税制の基本を分かりやすく解説!別表記載時の注意点も
2024年春闘で高水準賃上げが実現した理由
2024年春闘で高水準の賃上げが実現した背景には、複数の要因が絡み合っています。ここでは、主な3つの理由について解説します。
とまらない実質賃金の減少
厚生労働省が2024年7月25日に公開した「毎月勤労統計調査 令和6年5月分結果確報」によると、2024年5月の現金給与総額は前年同月比2.0%増の297,162円でした。しかし、消費者物価指数も上昇しているため、実質賃金は前年同月比で-1.3%となり、26カ月連続でのマイナスが続いています。
この状況は労働者の生活水準の低下を意味し、企業にとっても人材確保・定着の観点から看過できない問題です。高インフレ下での実質賃金の減少が賃上げ圧力となり、今回の高水準賃上げにつながったと考えられます。
なお、2024年8月8日に発表された「毎月勤労統計調査 令和6年6月分結果速報」によると、実質賃金は前年同月比で1.1%増となり、27カ月ぶりにプラスに転じました。これは、春闘での賃上げ効果が現れ始めた可能性を示唆しています。しかし、この一度のプラス転換で長期的な傾向が変わったと結論づけるのは早計で、今後の推移を注視する必要があります。
参考:厚生労働省|毎月勤労統計調査 令和6年5月分結果確報
参考:厚生労働省|毎月勤労統計調査 令和6年6月分結果速報
経済好循環への期待
賃上げによる個人消費の拡大は、企業業績の向上につながります。企業の業績が向上すれば、さらなる賃上げも可能です。この日本経済全体での好循環への期待が、賃上げ機運をより高めたと考えられます。
多くの企業が、この経済好循環のサイクルを意識した経営判断を行っています。特に、デフレ脱却が長年の課題とされてきた日本経済において、賃上げを通じた需要拡大は重要な戦略です。
深刻化する人手不足
少子高齢化による生産年齢人口の減少は、多くの産業で人手不足を引き起こしています。特に、サービス業や介護・医療分野では深刻な人材不足に直面しています。
この状況下で、企業は人材確保・定着のために賃上げを重要な戦略として位置づけるようになりました。高水準の賃上げは、人材獲得競争における企業の積極的な姿勢の表れといえます。
広がる大企業と中小企業の格差
2024年春闘の結果を詳細に分析した結果、明らかになったのが、大企業と中小企業の間に存在する明確な賃上げ格差です。この格差は、日本経済の二極化という課題を浮き彫りにしています。
大企業の賃上げ動向と背景
連合が公開した2024年春闘の最終集計によると、組合員数300人以上の1,468社における組合員数と平均賃上げ額との関係は以下の通りです。
組合員数 | 定期昇給込み賃上げ計 | |
平均賃上げ額 | 平均賃上げ率 | |
300〜999人 | 14,032円 | 4.98% |
1,000人〜 | 16,362円 | 5.24% |
300人以上計 | 15,874円 | 5.19% |
また、経団連の「2024年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況[了承・妥結含](加重平均)」によると、大手企業(従業員数500人以上)の平均賃上げ率は5.58%に達しています。これは前年比で1.7ポイントも上昇した数字です。
大企業がこのような高水準の賃上げを実現できた背景には、好調な業績・国際競争力強化のための人材投資・政府の賃上げ要請への対応などが挙げられます。
参考:連合|~2024 春季生活闘争 第 7 回(最終)回答集計結果について~
参考:週刊 経団連タイムス|2024年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況(第1回集計) (2024年5月30日 No.3638)
中小企業の賃上げ課題
同じく連合が公開した2024年春闘の最終集計によると、組合員数300人未満の3,816社における組合員数と平均賃上げ額との関係は以下の通りです。
組合員数 | 定期昇給込み賃上げ計 | |
平均賃上げ額 | 平均賃上げ率 | |
〜99人 | 9,626円 | 3.98% |
100〜299人 | 12,004円 | 4.62% |
300人未満計 | 11,358円 | 4.45% |
組合員数300人未満の企業における平均賃上げ率は4.45%でした。300人以上の平均賃上げ率が5.19%であるため、0.74ポイントの差があります。
また、経団連の「2024年春季労使交渉・中小企業業種別回答状況[了承・妥結含](加重平均)」では、中小企業(従業員数500人未満)の平均賃上げ率は3.92%です。大企業の5.58%とは1.66ポイントもの開きがあります。
中小企業の賃上げが難しい主な背景には、以下のようなものが挙げられます。
- 価格転嫁の難しさ:企業間の力関係から、原材料費や人件費の上昇分を製品・サービス価格に転嫁しづらい
- 資金力の不足:大規模な賃上げを実施するための資金的余裕がない
- 生産性の問題:大企業に比べて生産性が低く、賃上げの原資を生み出しにくい
これらの課題に対応するためには、政府の支援策や、中小企業自身の経営改善努力が不可欠です。
参考:連合|~2024 春季生活闘争 第 7 回(最終)回答集計結果について~
参考:週刊 経団連タイムス|2024年春季労使交渉・中小企業業種別回答状況(第1回集計) (2024年6月27日 No.3642)
「第3の賃上げ」新たな人材確保戦略としての福利厚生
従来の定期昇給やベースアップに加え、近年注目を集めているのが「第3の賃上げ」と呼ばれる福利厚生を通じた実質手取りアップの施策です。この新しいアプローチは、特に中小企業にとって効果的な人材確保・定着策となる可能性があります。
「第3の賃上げ」の定義と意義
「第3の賃上げ」とは、従業員の実質的な収入を増やすために、給与以外の福利厚生を充実させる方法を指します。定期昇給・ベースアップに連なる三つ目の賃上げ方法として「第3の賃上げ」と名付けられました。
出典:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
福利厚生を活用することにより、企業は経費として計上でき、従業員の課税対象にもなりません。給与として支給するよりも、企業側のコストは抑えられ、従業員の実質的な手取りを増やせます。
結果として、双方にとって有利な形で実質的な賃上げ効果を得ることができるのです。
関連記事:「第3の賃上げ」実態調査報告|福利厚生でかなえる賃上げと採用力強化
食の福利厚生サービス「チケットレストラン」の活用
「第3の賃上げ」の実践策として、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」が注目を集めています。
「チケットレストラン」は、全国25万店舗以上の加盟店で利用できる食事補助の福利厚生サービスです。サービスが導入されている企業の従業員は、専用のICカードで支払いをすることにより、加盟店での食事代金が半額になります。
加盟店はコンビニ・ファミレス・カフェなど豊富なジャンルが取り揃えられ、勤務時間内であれば利用する場所や時間も問いません。残業時・夜勤時・リモートワーク時・出張時など、いつでも通常通り利用できるのが大きな魅力です。
このように、さまざまな魅力が高く評価され「チケットレストラン」は、大幅な賃上げが困難な中小企業を中心に、すでに2,000社以上の企業に導入されるサービスとなっています。
食事補助のような日常的に利用できる福利厚生は、従業員のエンゲージメント向上に効果的です。同業他社との差別化が図られることで、採用活動における競争力強化も期待できるでしょう。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
2024年春闘が示す日本経済の転換点と企業の対応
2024年春闘の結果は、日本経済が大きな転換点を迎えていることを示唆するものです。33年ぶりの高水準賃上げや、実質賃金のプラス転換は、デフレマインドからの脱却と持続的な経済成長への期待を反映しています。
賃金上昇が経済成長につながる好循環の実現に向けて、企業は従来の賃上げ手法に加え「第3の賃上げ」のような革新的かつ持続可能なアプローチを検討する必要があります。特に中小企業にとっては「チケットレストラン」をはじめとする食の福利厚生サービスの導入が、コスト効率の良い実質賃上げ策として有効です。
今後は、持続可能な賃上げ戦略と福利厚生の充実を組み合わせた総合的な報酬戦略が、人材確保と企業成長の鍵となるでしょう。賃金上昇トレンドに対応する企業戦略として、ぜひ「チケットレストラン」の導入を検討されてはいかがでしょうか。