監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
2024年10月にいよいよ従業員数51人以上の企業も社会保険の適用範囲になります。週の所定労働時間が多い従業員は、社会保険の加入が義務化される可能性があるため、企業主導でコミュニケーションを取り、円滑に対応を進めなければなりません。本記事では、社会保険適用拡大による変更点と、パートタイマーやアルバイト従業員への対応などを解説します。
社会保険適用拡大とは?
社会保険適用拡大とは、これまで社会保険が適用されていなかった企業や労働者が、新たに社会保険の加入対象に含まれることです。これまで段階的に進められている施策ですが、2024年10月より、従業員数51人〜100人の企業に対して、短時間労働者の社会保険加入が義務化されます。詳しい適用条件は、後ほど解説します。
社会保険とは?
そもそも、社会保険とはどのようなものなのでしょうか。社会保険は、国民の生活を守るために憲法に基づいて設けられています。病気やけが、災害などの際に、経済的な補償や生活の支援を目的として制度化されたものです。
社会保険では、一般的に、健康保険、年金、介護保険、労災保険、雇用保険を総称したものを言います。このうち、健康保険、年金、介護保険を狭義の社会保険と呼び、労災保険と雇用保険は労働保険と区別されます。2024年10月の適用拡大では、健康保険、年金、介護保険の3つが対象です。次に、狭義の社会保険3つについて、解説します。
健康保険
健康保険は、労働者やその扶養家族の病気、けが、出産、死亡などに関して、医療費の一部負担や各種給付を行う制度です。健康保険は国民の生活の安定と福祉向上を目的としており、病気やけがなどのリスクに備える重要な制度だと言えます。具体的に得られるメリットは以下のとおりです。
- 医療費の自己負担が一般的に3割となる
- 病気などで働けない場合に給付金を受け取れる
- 出産時に出産育児一時金などが支給される
- 死亡時に葬祭料が支給される
厚生年金保険
厚生年金保険は、労働者が高齢になったときや障害を負った場合、死亡した際に、生活を支える年金を給付する制度です。国民年金に加えて、一定額の年金を受給できます。高齢化や障害、死亡などのリスクに備え、労働者とその家族の生活の安定を図ることを目的とした社会保険制度です。具体的には、以下があります。
- 老齢年金:65歳から支給される
- 障害年金:障害がある場合に支給される
- 遺族年金:遺族に支給される
介護保険
介護保険は、高齢や病気などで介護が必要になった場合に、介護サービスの利用料の一部を給付する制度です。40歳以上の国民が加入し、要介護状態になったときに、以下のような支援を受けられます。
- 介護施設での介護サービスを利用できる
- 訪問介護やデイサービスなどの在宅サービスを利用できる
- 介護サービス利用料の一部が給付される
社会保険のメリット・デメリット
社会保険に加入することで得られるメリット、デメリットも押さえましょう。
加入によるメリット
社会保険に加入すると、厚生年金保険と健康保険に加入できます。国民年金に加えて厚生年金が上乗せされるため、老後・障害・死亡の3つの保障が手厚くなるのがメリットです。健康保険加入によるメリットには、要件に該当する場合に、「傷病手当金」、「出産手当金」という2つの手当金が受け取れることが挙げられます。
社会保険の種類 | メリット |
厚生年金保険 加入 |
• 厚生年金が上乗せされる*1 • 障害年金が受け取れる*2 |
健康保険加入 |
• 傷病手当金(病休期間中に給与の3分の2相当)が受給できる(同一傷病については、通算1年6カ月で打ち切られます) • 出産手当金(産休期間中に給与の3分の2相当)が受給できる |
*1 国民年金には「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」があります。厚生年金保険に加入すると「老齢厚生年金」「障害厚生年金」「遺族厚生年金」の分も保障が加わることにより、年金支給額が増え、受給条件が広がる(障害年金の対象等級)、要件により加算される場合など、保障が手厚くなります。
*2 障害年金は国民年金でも受け取ることができます。
加入によるデメリット
社会保険に加入すると、保険料は個人の収入に応じて決められ、企業と本人で折半して保険料を支払わなければなりません。保険料は給与天引きであるため、本人負担分は確実に納付されます。つまり、社会保険制度は国民生活の安全網として機能する一方で、加入により一定の保険料負担が課されます。
社会保険の対象企業となる要件
2024年10月から対象企業となるのは、従業員数51人〜100人となる企業です。従業員数とは、フルタイムの従業員数と週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員の合計、すなわち、現在の厚生年金保険の適用対象者となります。従業員数の条件により、3段階にわけて適用拡大された最終段階が2024年10月です。これまで、2016年10月より従業員数501人以上の企業、2022年10月より従業員数101人以上の企業が対象となりました。
出典:厚生労働省|社会保険適用拡大ガイドブック
短時間労働者が社会保険の適用対象となる5つの要件
短時間労働者が社会保険の適用対象となるには、以下5つすべて要件を満たす必要があります。さらに、2024年10月からは適用範囲が拡大され、要件の1つである「企業の規模」の対象が拡大します。従業員数51人以上の企業で働く場合も適用対象となるため、注意が必要です。以下5つの要件のうち、企業の規模で社会保険の加入を回避していたケースで、社会保険加入が義務化されます。
- 使用される従業員が常時101人以上であること(2024年10月からは51人以上に変更)
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
- 2か月を超える雇用の見込みがあること
- 学生ではないこと
要件1:使用される従業員が101人以上であること(2024年10月からは51人以上に変更)
要件の1つに「使用される従業員数」がありますが、従業員の数え方についても確認しましょう。使用される従業員とは、特定の短時間労働者を除いた厚生年金保険の被保険者となる従業員数を指します。フルタイム労働者と、一定基準以上の労働時間の短時間労働者の合計数です。直近12か月のうち、従業員数が6か月以上で101人を超えている場合は「常時101人以上」の要件を満たすと判断されます。具体的には、フルタイム従業員に加えて、以下に該当する短時間労働者の数を加えた総数です。
- 週所定労働時間がフルタイムの4分の3以上
- 月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上
要件2:週の所定労働時間が20時間以上であること
「週20時間」とは雇用契約上の所定労働時間を指し、たまたま残業して実労働時間が20時間を超えた場合は該当しません。ただし、契約時は週20時間未満でも、2か月を超えて実質的に週20時間以上働いていれば、3か月目から適用となります。
要件3:所定内賃金が月額8.8万円以上であること
月額賃金が8万8,000円を超える労働者も加入対象です。この金額は、残業代や手当を除いた基本給与のみで判断されます。
要件4:2か月を超える雇用の見込みがあること
「2か月を超えて雇用される見込みがある」に該当するかどうかは、契約書に「更新の可能性あり」と記載があるかどうかです。同じ待遇で2か月超の雇用者がいる場合も、実質的に2か月超の雇用の見込みがあると判断されます。
要件5:学生ではないこと
基本的に昼間学生である場合は、社会保険の加入対象とはなりません。しかし、卒業後も継続して働き続ける場合や休学中である場合など、状況により社会保険の加入対象となる可能性があります。
【2024年10月1日施行】社会保険の適用拡大について
社会保険の適用拡大について、政府が推進する背景やその内容を解説します。
改正の背景
改正の背景にあるのは、我が国の少子高齢化です。厚生労働省「我が国の人口について」では、2025年には、75歳以上の人口が全人口の約18%となり、2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%になると推計されています。2040年には、3人に1人は高齢者です。
労働者が加入する社会保険には、健康保険・厚生年金保険・介護保険の3つがありますが、多く労働者が加入すれば、これまでと同じ水準の制度の持続可能性を高められます。社会保険料の増加により、財政が危ぶまれている年金制度の維持への貢献も期待できるでしょう。労働者にとっても社会保険加入により、将来の手厚い支援を受けられる、万が一の病気やけがでの生活保障が得られる、といったメリットが得られます。
出典:厚生労働省|我が国の人口について
施行にあたって改定される法律
2022年6月に公布された年金制度改正法により、社会保険適用拡大などの改正が盛り込まれました。同法で改正された健康保険法、厚生年金保険法などに、社会保険適用拡大の規定があります。なお、この年金制度改正法には、社会保険適用拡大のほかに、年金受給資格や確定拠出年金の加入要件緩和なども盛り込まれました。
参考:厚生労働省|年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました
改正後の適用対象者
事業所の適用要件である「使用される従業員数」が、従来の「常時101人以上」から「常時51人以上」に引き下げられます。労働時間、賃金水準などその他の適用要件については改正はありません。これまで適用が除外されてきた51人以上の小規模な事業所に雇用される短時間労働者についても、一定の要件を満たせば社会保険に加入が義務付けられる点が大きな変更点です。
パートタイマー・アルバイト
社会保険適用拡大の影響を受ける主な対象者は、これまで社会保険に加入していなかった「週20時間以上働く非正規雇用者で、月給88,000円以上の従業員」です。
これまで多くの企業ではパートタイマーやアルバイトの労働時間を週30時間程度に抑えることで、社会保険加入対象から外れるようにしていました。しかし、この改正により、こうした働き方はできなくなり、以下のどちらかの選択を迫られます。
- 現状の労働時間を維持し、社会保険に加入する。
- 週20時間未満に労働時間を減らし、社会保険の加入を回避する。
現状と同じ基準を維持し、社会保険に加入してもらえる場合はよいですが、社会保険に加入しない選択をする場合、企業側としては、労働時間短縮による人員不足が懸念点です。
そのため、企業は従業員と話し合い、適切な対応を検討する必要があります。人材確保が困難な場合は、社会保険料の負担増を補うため、従業員の賃上げなど手取り減少への対策も視野に入れなければなりません。
被扶養者
近年、共働き世帯が増加する中で、配偶者の扶養範囲内で短時間働くケースが多く見られます。これまでは月額108,000円程度、年収130万未満に労働時間を調節すれば、社会保険の加入を避け、配偶者の健康保険で扶養に入ることができていました。しかし、2024年10月から社会保険の適用が拡大されると、意図せずに社会保険の被保険者となり、配偶者の扶養から外れてしまうケースが増えることが懸念されています。
「社会保険適用拡大」に向けて事業所が必要な準備
2024年10月からの社会保険適用拡大において、万が一正当な理由もなく加入義務を怠ると、罰則を科される可能性があるようです。また、従業員の働き方をヒアリングするなど、ある程度時間をかけて丁寧に進めなければなりません。どのような手順を踏んで対応するのか、以下に解説します。企業として計画的に対応を進め、スムーズな制度移行を目指しましょう。
ステップ1.加入対象者となる従業員の洗い出し
短時間労働者の中から、労働時間や収入など新しい基準を満たす人を特定します。その人数と企業が負担する保険料総額を概算して、対応方針を決めましょう。
ステップ2.加入対象者への丁寧な説明
パートタイマー・アルバイト従業員の場合、配偶者の扶養内で働いている人も多く、被扶養者資格の有無、保険料負担など、一人ひとりにわかりやすく丁寧に説明することが大切です。説明では、社会保険加入により厚生年金保険や健康保険の給付が充実するメリットも伝えましょう。厚生労働省がホームページ上で提供しているチラシ「〜あなたの年金が変わる〜大切なお知らせ」やガイドブック「社会保険適用拡大ガイドブック」をぜひ活用してください。実例の紹介もあり、従業員の理解を促せます。
出典:厚生労働省|〜あなたの年金が変わる〜大切なお知らせ
出典:厚生労働省|社会保険適用拡大ガイドブック
ステップ3.必要書類の準備
新たに社会保険加入となる対象者全員分の社会保険加入手続き書類を用意しましょう。企業にとっても、パートタイマー・アルバイト従業員にとっても制度変更の影響は大きいです。早めに内容を確認し、スムーズな移行に向けて準備を進めましょう。
「社会保険適用拡大」に向けて企業が活用できる支援制度
社会保険適用拡大の準備は、企業にとって負荷がかかります。社会保険料は労使折半であるため、資金面での企業負担も大きいです。そのような苦しい状況下でも企業が適用拡大に対応できるよう、政府が設けた支援制度がありますので、活用しましょう。
キャリアアップ助成金
短時間労働者の労働時間を延長する場合に活用できる助成金がキャリアアップ助成金です。「正社員化支援」と「処遇改善支援」を活用できます。
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)
参考記事:【社労士監修】キャリアアップ助成金正社員化コースが拡充!改正ポイントと注意点
社会保険適用促進手当
社会保険適用促進手当とは、企業が従業員の社会保険料の負担を減らすために支給する手当です。事業者が従業員の社会保険料の一部を補助することで、社会保険加入時に税負担が増えて手取り収入が減る負担を軽減できます。キャリアアップ助成金の処遇改善支援における「社会保険適用時処遇改善コース」を選択する際に手当を活用することが可能です。
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース
参考記事:【社労士監修】社会保険適用促進手当とは?「年収の壁」対策を解説
従業員の処遇改善に福利厚生を活用しませんか?
社会保険適用拡大で、新たに社会保険加入が義務付けられる従業員が増えます。国が推し進める動きにより、なかば強制加入となり、配偶者の健康保険上の扶養から抜けなければならないケースも多いでしょう。いくら労使折半とはいえ、社会保険料を支払わなければならなくなるなど、今後の働き方を選択することに対する負担が伴います。しかし、社会保険加入により、企業と従業員のつながりがより強固になることも事実です。長く働きたい企業として、従業員に信頼されることが求められます。
一方で、社会保険に加入しない選択をするケースもあるでしょう。その場合、同じパートタイマー・アルバイト従業員でも、社会保険に加入する者と加入しない者が出てきます。加入する場合、社会保険適用促進手当などを活用すれば、待遇の違いが出ると考えられます。
そこで注目されているのが、働き方を問わず、全従業員を対象にできる待遇改善策です。食事補助など一定の福利厚生を導入すれば、所得税非課税で社会保険料にも影響しない形で、間接的に可処分所得を増やせます。
食の福利厚生サービス「チケットレストラン」
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、食事代の半額を企業が補助する食事補助サービスです。加盟店が全国に25万店舗以上あり、利用の自由度が高いため中小企業を中心に2,000社以上が導入しています。「チケットレストラン」は単純な賃上げだけでなく、福利厚生を上手く活用することで、パートタイマー・アルバイトなどの非正規雇用者を含めた全従業員の実質的な処遇改善とモチベーション向上を最小コストで実現できるのがメリットです。
「チケットレストラン」が中小企業に選ばれる理由
2024年10月より社会保険適用拡大の対象となる企業は中小企業です。一般的に、多くの中小企業が抱えている課題が人材確保です。東京商工会議所と日本商工会議所が実施した「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」では、実に中小企業の65.6%が人手不足と回答しています。
「チケットレストラン」は、賃上げに加えて、人手不足解消や採用力アップとして福利厚生を検討する企業にも選ばれる福利厚生です。物価高で食事にまで手が回らない従業員に対してランチ代をサポートすれば、従業員は喜びます。従業員エンゲージメント向上や離職率の低下にも効果的です。魅力的な福利厚生は、人材採用でほかの企業との差別化にもつながります。
利用状況を確認できる安心感も魅力
「チケットレストラン」は導入や運用が簡単な点も魅力です。企業の担当者は、月に1度のチェージ作業をするだけで、従業員に配布した専用のICカードにチャージできます。2024年4月より、企業担当者向けの管理者向けポータルに以下のような機能が追加されました。
- 利用状況のレポート
- 月別利用率
- 1ユーザーあたりの平均利用回数
- 1利用あたりの平均金額
「チケットレストラン」は、導入後の利用率が98%です。管理者ポータルでは、実際の利用状況などを簡単に確認できます。株式会社HQの調査結果では「せっかく福利厚生を導入したのに、形骸化する」ことに悩む企業も多いことが明らかになりました。「チケットレストラン」のように、利用状況を簡単に把握できれば導入効果を可視化でき、導入コストによるパフォーマンスを確認できます。
参考:PR TIMES|株式会社HQ 調査リリース ワーカーペインと福利厚生の利用実態に関する市場調査
参考:エデンレッドジャパン|[新機能:管理者向けポータル]利用状況ダッシュボードの提供を開始
福利厚生も活用し2024年10月に備えを
2024年10月の社会保険適用拡大に向けて、該当する企業は着実に準備をしなくてはなりません。従業員への丁寧な説明や加入の手続きには、時間とコストがかかります。制度理解のため、従業員からの質問も多く寄せられるでしょう。企業としてすべきことを理解し、着実に対応することが大切です。
社会保険加入の対象とならない従業員も企業にとっての貴重な労働力です。エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」など、所得税非課税で社会保険料にも影響しない食の福利厚生であれば、雇用形態を問わず平等にサービスを提供できます。