2025年の春季労使交渉では、5.25%という33年ぶりの高水準の賃上げ率を記録しました。インフレ局面における賃金上昇は統計上前向きですが、個人消費は力強さを欠いたまま推移しています。この背景には、従業員が賃上げの持続性に確信を持てていないという課題があります。
本記事では、令和7年度経済財政白書や各種調査データをもとに、消費不振の実態と企業が取り組むべき対策を解説します。
賃上げ実現の実態:世代別の給与増加率
令和7年度経済財政白書によれば、2025年4〜6月平均の所定内給与の伸び率は、すべての年代で2024年を上回りました。給与計算代行企業のビッグデータ分析では、前年同月比との比較において以下の結果が示されています。
- 20歳代:7.0%増
- 30歳代:5.4%増
- 40歳代:5.0%増
- 50歳代:3.2%増
若年層だけでなく中高年層にも賃上げの効果が及んでいます。

消費不振の実態:平均消費性向の低下
賃金上昇にもかかわらず、可処分所得に対する消費支出の割合を示す「平均消費性向」は、働く世帯で低下傾向にあります。内閣府の調査では、支出を減らしている項目を複数回答で尋ねたところ、4割超が「食費(外食以外)」や「外食」と回答しました。
出典:内閣府|令和7年度 年次経済財政報告 第2章 賃金上昇の持続性と 個人消費の回復に向けて
これについて、経済財政白書では、勤労世帯でコロナ禍に急落した平均消費性向が回復せず、コロナ禍前の水準を下回って推移していると報告されています。賃上げが実現しているにもかかわらず、家計は節約志向を強めており、収入増に見合った消費の伸びが見られない状況です。

出典:内閣府|令和7年度 年次経済財政報告 第2章 賃金上昇の持続性と 個人消費の回復に向けて
賃上げ不信の実態:5年後給与予測が示す課題
消費が低迷する背景には、賃上げの持続性に対する懐疑的な見方があります。内閣府が消費者に5年後の給与所得を尋ねたところ、以下の結果となりました。
- 今と変わらない:38.6%
- 低下する:18.4%
合計では、6割近く(57%)が賃金増加を予想していません。特に昇給が一段落した中高年層で「変わらない」と答える人が多い一方、若年層でも賃上げへの不信感が見られます。

出典:内閣府|令和7年度 年次経済財政報告 第2章 賃金上昇の持続性と 個人消費の回復に向けて
若年層も賃上げに確信を持てていない
20歳代・30歳代では「上昇する」との回答が5割程度と比較的高いものの、3割以上が「今と変わらない」と答え、1割以上は「低下する」と回答しています。
5年間の給与の伸びについて「10%以上の上昇」を想定する割合は2割程度にとどまりました。この10%増は、連合が集計する賃上げ率で2022〜2024年の3年間で実現されている水準です。つまり、若い年齢層においても、今後5年間で年2%程度以上のペースの賃上げを想定しているのは全体の2割程度に過ぎません。
経済財政白書では、この結果について「賃金の据置きを想定するという意味でのデフレマインドが依然として一定程度染み付いている様子がうかがえる」と指摘しています。
賃上げ実感が消費拡大につながらない要因
経済財政白書では、賃上げが実施されているにもかかわらず、その実感が広がらず消費拡大につながらない背景として、以下の3つの要因を挙げています。
賃金上昇の持続性への不信
家計が賃金上昇を持続的なものと受け止めるに至っていないことが、消費抑制の背景にあります。
バブル崩壊後に就職した世代は、入社当初に描いていた給与上昇カーブと実際の給与推移にギャップがありました。長年にわたる賃金停滞の経験が、賃上げに対する信頼感を損ねています。
また、より若い世代では、名目上の給与は定期昇給も含めて順調に伸びています。ところが物価上昇を差し引いた実質賃金ベースで見ると、購買力の向上は限定的です。こうした経験が、賃金の継続的な上昇を当然のものとして受け止めることを難しくしています。
物価上昇による心理的な影響
物価が上がり続けるという見通しが、消費の抑制効果になっていると考えられます。特に中高年層では、実際に体感した値上げ幅が将来予測に直結しやすい傾向があります。また、経済財政白書では、年齢が高いほど「値上げ前に買っておこう」という前倒し消費の動きが弱いことも指摘しました。
将来不安による貯蓄志向
老後資金への不安から、使える収入があっても貯蓄に回す動きが強まっています。経済財政白書では、特に右肩上がりで増えている単身世帯で、予備的貯蓄率が高い傾向が顕著に表れていると分析しています。
出典:内閣府|令和7年度 年次経済財政報告 第2章 賃金上昇の持続性と 個人消費の回復に向けて
消費不振は食費にどう影響しているか
食事代は調整しやすい支出項目として、消費控えの対象になりやすい傾向があります。ここで、株式会社エデンレッドジャパンが2025年5月に実施した「ビジネスパーソンのランチ実態調査2025」を用いてランチの節約意向の変化を把握しましょう。
物価高と家計への影響
調査で家計の苦しさを尋ねたところ、「昨年以上に苦しい」との回答は半数以上(52.0%)に達し、2024年の44.0%より上昇しました。
ランチ代は変わらずも、4人に1人が欠食
勤務日のランチ代平均は2024年と同様424円となり、同水準にとどまりました。一方で、4割近く(34.8%)が「ランチ代が減った/やや減った」と回答。ランチでかかる金額は上昇傾向ではあるものの、ランチ代は変化がなく、家計の悪化により使える金額自体が減っている現状があると考えられます。
深刻なのは、4人に1人(24.3%)が「勤務日にランチを食べないことがある」と回答し、そのうちの半数以上(52.7%)が週2〜3回以上の頻度で欠食している点です。ランチを食べない人に仕事への影響を尋ねたところ、7割以上の人が悪影響を実感。「やる気・集中力の低下(45.9%)」「仕事のペースの低下」「判断力・思考力の鈍化」を欠食によるデメリットとして挙げています。食費を抑えたい心理は理解できるものの、生産性の低下は企業にとって見過ごせない課題と言えます。
出典:エデンレッドジャパン|ビジネスパーソンのランチ実態調査2025~コメ高騰でランチの主食危機⁉ 7割近くが“影響あり”と回答~
企業が取り組む対策
経済財政白書は、個人消費の力強い回復に向けて、以下の対策の必要性を指摘しています。
持続的な賃金上昇の実現
実質賃金が伸び続ける環境を整え、「賃金は毎年上がるもの」という認識を定着させることが求められます。安定的な物価上昇を早期実現させるために、企業は生産性向上はもちろんのこと、リ・スキリングによる能力向上支援、ジョブ型人事の導入、労働移動の円滑化からなる三位一体の労働市場改革等を進める必要があります。
中小企業の賃上げ
中小企業では、取引先への価格転嫁を進めやすくする環境整備が欠かせません。同時に、省力化投資による生産性向上や、事業承継・M&Aを通じた経営基盤の強化も求められます。これにより、2020年代に全国平均1,500円という最低賃金目標の達成を目指していくことが求められます。
社会保障制度への信頼向上
年金制度など社会保障の持続性に対する信頼を高めることで、老後への不安を和らげ、消費回復につなげることが期待されます。
企業が今すぐ実施できる対策:福利厚生の充実
賃上げと並行して、企業が取り組みやすい施策が福利厚生の充実です。人材不足が深刻化する中、新卒者の採用から中堅層の早期離職防止まで、離職率を下げ従業員満足度を高めることは喫緊の課題です。職場環境改善や働き方改革とともに福利厚生を充実させれば、従業員のモチベーションアップと定着率向上につながります。
特に食事補助は、前述のように支出を抑える項目として挙げられる食費に直接アプローチでき、従業員の生活を支える制度として注目されています。
食事補助で食費における消費不振を緩和
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、食事補助の非課税枠を活用する形で企業と従業員が費用を負担し、食事を実質半額で利用できる食事補助の福利厚生サービスです。勤務中のランチ・飲み物・軽食などの用途に使え、食費の負担を軽減できます。
一定の利用条件下において従業員は所得税が非課税、企業は損金として計上でき、経営面でも効率的な投資として福利厚生です。
全国25万店舗以上の加盟店には、コンビニ・ファミレス・三大牛丼チェーン店・カフェなどがあり、バリエーションが豊かです。勤務中にとる食事であれば勤務場所や勤務時間を問わず利用できます。
2025年に実施したエデンレッドジャパンの調査では、企業での食事補助制度の導入率は約3割(28.3%)となり、2022年の調査開始以来、過去最高の数値となりました。物価高の影響が長期化する中で、従業員の生活を支える施策として注目が高まっています。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
「第3の賃上げ」としての導入も増加
物価上昇の局面において、「チケットレストラン」を実質的な手取りアップがかなう福利厚生や、暮らしの負担を軽減する福利厚生の導入による「第3の賃上げ」(株式会社エデンレッドジャパンが定義)として導入するケースや、人材確保・定着を目的として導入する企業が増えています。2024年の新規導入企業数は2021年比で約7.3倍まで伸長しました。
長期的には、食事の充実による健康状態の改善、職場でのランチコミュニケーション活性化、魅力的な制度による採用強化・人材確保といったメリットも期待できます。
2024年12月にエデンレッドジャパンが「第3の賃上げ」の導入企業にその満足度を聞いたところ、8割近く(75.2%)が「第3の賃上げ」に満足と回答しました。中小企業では約9割(89.5%)と回答し、効果は上々です。
以下では、「チケットレストラン」導入後、人材確保や満足度向上につながったと実感されていることがわかります。
出典:エデンレッドジャパン|「賃上げ実態調査2025」を公開~歴史的賃上げだった2024年も“家計負担が軽減していない”は7割以上!~
参考:「#第3の賃上げアクション2025」始動、ベアーズが新たに参画~中小企業にこそ“福利厚生”による賃上げを! “福利厚生”で、より働きやすく、暮らしやすい社会へ~
賃上げが自然な社会へ 第3の賃上げも併用
賃上げが実施されても消費不振が続く背景には、従業員が賃上げの持続性に確信を持てていないという根深い課題があります。企業には、持続的な賃金上昇の実現とともに、日常的な生活支援を行う福利厚生の充実が求められています。
「チケットレストラン」は、従業員の経済的負担を軽減しながら、実質的な手取りアップにつながる食事補助の福利厚生サービスです。賃上げと福利厚生の両輪で、従業員の生活を支え、消費マインドの改善につなげていくことが、今後の企業経営において欠かせない視点となっています。
当サイトにおけるニュース、データ及びその他の情報などのコンテンツは一般的な情報提供を目的にしており、特定のお客様のニーズへの対応もしくは特定のサービスの優遇的な措置を保証するものではありません。当コンテンツは信頼できると思われる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性、適時性、適切性または完全性を表明または保証するものではなく、お客様による当サイトのコンテンツの利用等に関して生じうるいかなる損害についても責任を負いません。
エデンレッドジャパンブログ編集部
福利厚生に関する情報を日々、ウォッチしながらお役に立ちそうなトピックで記事を制作しています。各メンバーの持ち寄ったトピックに対する思い入れが強く、編集会議が紛糾することも・・・今日も明日も書き続けます!
