2025年春闘では、平均賃金方式で全体として16,356円、5.25%と昨年を上回る賃上げを実現しました。しかし、これは企業の収益向上による「攻めの賃上げ」ではなく、政府や社会からのプレッシャーを受けた「守りの賃上げ」が実態です。
本記事では、限られた予算でも実現できる人手不足対策を、最新のトピックとともに解説します。「賃上げしたいが予算が限られている」「優秀な人材が他社に流出している」といった課題がある中小企業が無理なく実現できるアプローチなど、ぜひ参考にしてください。
人手不足で賃上げせざるを得ない現状
人手不足から賃上げをする流れが加速しています。人手不足倒産、賃上げ疲れ、防衛的賃上げという2025年賃上げで押さえておきたいキーワードとともに、現状を把握しましょう。
「人手不足倒産」の増加
人手不足倒産とは、企業が事業を運営する上で必要な人材を確保できないことが原因となり倒産してしまうことです。
帝国データバンクによると、2024年度の人手不足倒産は350件発生し、2年連続で過去最多を更新しました。さらに2025年上半期では202件発生しています。
特に中小企業にとって人材の確保・定着は厳しい局面を迎えており、賃上げ余力のない小規模事業者を中心に、今後も人手不足倒産は高水準で推移することが見込まれます。
出典:帝国データバンク|人手不足倒産の動向調査(2024年度)
出典:帝国データバンク|レポート人手不足倒産の動向調査(2025年上半期)
続く賃上げニーズと「賃上げ疲れ」
賃上げ要請、続く物価高、春闘賃上げ率連続更新といった話題を聞くたび、多くの企業は人事戦略に頭を悩ませます。このように繰り返し賃金の引き上げをすることに対して、企業が感じるプレッシャーを「賃上げ疲れ」と表現します。
帝国データバンクが実施した「人手不足に対する企業の動向調査(2025年1月)」によると、2025年度に正規雇用の従業員の賃上げを予定している企業は全体の半数を越える61.9%でした。2007年の調査開始から最高値を更新すると同時に、賃上げがないと見込む企業が過去最低の13.3%を更新しています。
調査からは、企業が「やらざるを得ない賃上げ」に直面している実態が示されています。
出典:帝国データバンク|賃上げする企業は初の 6 割 台、ベースアップは 56.1% が予定し過去最高を更新
「防衛的賃上げ」の選択肢
昨今の賃上げの特徴として、いわゆる「防衛的賃上げ(※)」を行う企業が多く見られます。
2025年6月に公表された日本商工会議所の「中小企業の賃金改定に関する調査」では、2025年4月から5月にかけて3,042社の賃上げ実態を調査し、防衛的な賃上げの割合は60.1%(昨年比0.2ポイント増)に上りました。
中小企業に限ると、防衛的賃上げの割合は62.8%(昨年比0.7ポイント増)と割合を高めています。
防衛的賃上げを行う理由に「人材の確保・採用」、「物価上昇への対応」を挙げる企業が約7割を占め、人材採用強化や定着率向上に取り組む必要性に迫られていることがわかります。
なお、賃上げをしないと回答した企業の最大の理由が「売上の低迷」、続いて「資金面で余力に乏しい」となっていることから、賃上げ財源に苦慮している企業が多い現実も示唆されています。
※業績の改善が見られないにもかかわらず、人材確保や競合対策のために実施する賃上げのこと。
出典:日本商工会議所|「中小企業の賃金改定に関する調査」の集計結果について~中小企業の賃上げ率は正社員全体で4.03%、20人以下の小規模企業で3.54%~
人手不足で「賃上げ」せざるをえない中小企業
「中小企業の賃金改定に関する調査」公表後の報道で、日本商工会議所の会頭は、賃上げ機運が高まっていると評価しました。一方で、深刻化する人手不足を理由に賃上げせざるを得ない企業が多いと指摘しています。
実態として「中小企業の賃金改定に関する調査」では、2025年4月時点で昨年度よりも0.41ポイント高い4.03%の賃上げ率が示されました。
このような状況について、アメリカの関税措置の影響による不安もある中、人材確保・定着が企業経営の重要課題となっていることが浮き彫りとなっています。
出典:NHK|日商 会頭 “中小企業 人手不足に賃上げせざるをえない状況”
人手不足が企業に与える影響
人手不足を避けるための賃上げが増えているのは、人手不足が企業に与えるマイナスの影響が無視できないからです。具体的な影響を見ていきましょう。
労働環境の悪化と離職の悪循環
人手不足により一人当たりの業務負担が増大すると、長時間労働が常態化し、有給休暇の取得率も低下してしまいます。従業員の肉体的・精神的負担が増加すれば、健康リスクが高まり、働くモチベーションも低下しかねません。
慢性的に忙しい状況が続くと、従業員は転職を検討するようになり、さらなる人手不足を招く悪循環に陥ってしまいます。
生産性と競争力の低下
人手不足により、商品やサービスの生産に十分な人材を配置できなくなると、企業の生産力は低下します。
- 製造業:生産ラインの稼働率低下
- 飲食業:営業時間の短縮や休業日の増加
- サービス業:顧客対応品質の低下
また、日々の業務を回すことで精一杯となり、マーケティングや事業開発といった中長期的な成長に必要なコア業務に人員を割くことが難しくなってしまいます。
企業の成長には、新しいアイデアやスキルの創出が欠かせません。しかし、人手不足で忙しい状況が続くと、研修や勉強会などの能力開発の時間が確保できなくなります。その結果、従業員のスキルが磨かれず、企業全体の競争力が徐々に低下していく可能性が高まります。
事業縮小・倒産リスクの増大
人手不足が深刻化すると、顧客への円滑なサービス提供が困難となり、利益の低下や事業縮小に直面します。
岐阜県飛騨地方でJA系のスーパーを展開していたAコープでは、人手不足により銀行の支店長がスーパーの店長を兼任するなど、本来業務以外の負担が増加し、最終的に2023年に1店舗を残して一斉閉店することになりました。
前述のとおり2024年は「人手不足倒産」は過去最多を更新しており、事業の継続性を確保するためにも、人手不足対策を最優先課題として取り組む必要があります。
出典:日経ビジネス|「賃上げ」できなければ退場 人手不足で淘汰加速 生産性高め、乗り越えよ
賃上げで得られるメリット
深刻な人手不足の影響を回避するため、多くの企業が「賃上げ」という手段を選択しています。では、賃上げによって企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。
賃上げによりもたらされる主なメリットは、以下の3つです。
- 優秀な人材確保
- 従業員満足度向上
- モチベーションアップ
それぞれ見ていきます。
優秀な人材確保
賃上げは、求職者にとっても現従業員にとっても企業の魅力を高める要素です。採用活動において他社よりも高い報酬を提示することで、多くの人材が自社を認知しやすくなります。優秀な人材との接点を持つ可能性も高まるでしょう。
また賃上げを公表することで、社会的な課題に取り組む企業としての評価を高める効果も得られます。
従業員満足度向上
高い報酬は従業員の満足度を向上させ、ひいては企業へのエンゲージメントや信頼感を高める効果が期待できます。従業員が自身の仕事に価値を感じ、企業の一員であることに喜びを感じる効果もあるでしょう。生産性の向上や離職率の低下にも繋がり、企業全体のパフォーマンス向上に貢献します。
従業員のモチベーションアップ
賃上げにより、従業員が今までと同じ業務内容であっても、より多くの収入を得られるようになるため、労働意欲の向上に直結します。これにより、従業員は仕事に対してより積極的に取り組む循環が生まれ、生産性の向上や定着率アップが実現しやすくなります。
賃上げがもたらす経済的な安定は、従業員の心のゆとりを生み出し、仕事への満足度を高める重要な要素となるのです。
賃上げのデメリット
特に従業員にメリットが多い賃上げですが、コスト面など企業ではデメリットを考えなくてはなりません。
コスト増加
企業にとって、賃上げには財政的な負担が伴います。とりわけ中小企業において、賃上げ資金の調達は大きな課題です。賃上げに伴う社会保険料の負担も考慮しなくてはなりません。
価格転嫁や生産性向上に取り組み、増えるコスト分が確保できる体制を整える必要があります。
持続可能性
一度上げた賃金水準を引き下げることは容易ではありません。従業員のモチベーション低下だけでなく、労使の信頼関係にも大きな影を落とすこともありえます。持続可能な形で賃上げを実現できるかという観点で、自社の財政状況と照らして十分な検討が求められます。
賃上げが厳しいならば、次のセクションで解説する賃上げ以外の方法も視野に入れておきましょう。
賃上げしない企業のための人手不足解決策
コスト面から賃上げに踏み切れない企業であっても、人手不足解消に取り組むことができます。以下に紹介するように多方面からのアプローチが可能です。
ここでは、厚生労働省の令和6年版労働経済白書を参考として企業が人手不足対策を遂行する上で大切になる考え方を解説します。中小企業などで財源に余力がなく、賃上げしない方向で検討している場合に参考にしてください。
労働生産性の向上
人手不足への根本的対応として、労働生産性の向上が不可欠です。人手不足を「とにかく人を増やす」だけで解決しようとすると、企業が賃金を上げずに人数で対応してしまい、結果的に賃金が下がる圧力になる可能性があります。
重要なのは、ロボット・AI・ICTなどの技術を使って単純作業を自動化したり、現場の知見とデータ分析を組み合わせたりすることで、顧客へより価値の高いサービスを提供することです。
生産性向上への投資を支援する制度があります。例えば、中小企業は業務改善助成金で新しい設備の導入費用を、人材開発支援助成金や教育訓練給付で従業員のスキルアップ費用の支援を受けることが可能です。
関連記事:【社労士監修】2025年4月最新|賃上げ関連の助成金・補助金まとめ
雇用対象者の拡大
労働経済白書によると、就業希望はあるが求職活動をしていない無業者が約460万人存在します。このうち「仕事を探したが見つからなかった」「希望する仕事が見つかりそうにない」「知識・能力に自信がない」といった理由の方が72万人ほどに上ります。
潜在的な労働力を活用するため、企業は従来の採用基準を見直し、雇用対象者を拡大することも視野に入れていきましょう。具体的には、求人票の応募要件を「必須」と「歓迎」に分ける、未経験者向けの研修制度を整備する、ブランクがある方への復職支援プログラムを導入するなどの工夫です。
これまで採用対象として考えていなかった層にも門戸を広げることで、人手不足の解消と多様性のある職場づくりを実現できます。
女性の活躍推進
女性の就業における課題はパート比率が高く、年齢が上がるほど正規雇用比率が下がる傾向があることです。背景には、出産・育児を機に多くの女性が正規雇用を断念していることが挙げられます。
企業ができる対策には、育児休業制度の充実による就業継続支援、時短勤務やテレワーク等の柔軟な働き方の整備、復職後のキャリア形成支援などがあります。また、キャリアアップ助成金を活用し正規従業員への転換促進、収入を意識せずに働ける環境づくりへの取り組みも効果的です。
女性が出産・育児というライフイベントを経ても継続的にキャリアを積める職場環境を整備することで、優秀な人材の確保と定着を実現できます。
シニアの活躍推進
日本では、60歳以降になると正規雇用から非正規雇用への移行が進む傾向があります。65歳以降は失業したり、非労働者へ移行するケースも多いようです。しかし、まだまだ働ける高齢者は貴重な労働力です。
体力や身体機能の個人差を考慮した職場環境を整備し、作業内容の見直しを行うことで、意欲ある高齢者が適切な待遇で生き生きと就労できる環境が実現します。
出典:厚生労働省|令和6年版労働経済白書 第2章 人手不足への対応
関連記事:人手不足でも賃上げしない中小企業の人材定着に効果的な施策とは
賃上げを補完できる福利厚生に注目
賃上げがすぐに難しい状況でも「賃上げの代替策としての福利厚生」なら取り組める可能性があります。
一定の利用条件を満たす福利厚生は、経費として計上することが可能です。この仕組みを活用すると、企業の法人税を削減する効果があり、さらに従業員の所得税に影響しないため、賃金として支給するよりも従業員の実質的な手取りを増やすことができます。特に財務面で課題を抱えがちな中小企業にとって、課題解決の糸口となるでしょう。
福利厚生のメリットは金銭面だけではありません。その他に企業が得られる主なメリットを簡潔にまとめます。
- 採用力向上:求人応募数の増加
- 定着率向上:離職コストの削減
- 生産性向上:業績の改善
- コスト削減:法人税の軽減効果
- ブランド向上:企業価値の向上
毎日20万人以上が使う食の福利厚生「チケットレストラン」
数ある福利厚生の中でも、近年特に注目度を高めているのが、エデンレッドジャパンの食の福利厚生サービス「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」は、全国25万店舗以上の加盟店での食事代が実質半額になる食事補助の福利厚生サービスです。一定の利用条件を満たすことで、食事補助は月額3,500円(税別)まで所得税が非課税となるため、従業員の手取り収入を実質的に増やすことができ、賃上げと同様の効果を得られます。
サービスの魅力の一つは、使い勝手の良さです。利用する場所やタイミングに制限がないため、内勤・外勤、リモートワーク中や出張中の従業員も平等にメリットを受けられます。
企業にとっても導入しやすい仕組みで、運用は月1回のチャージのみ、少額から利用可能です。人員や資金に課題を抱える中小企業でも無理なく導入でき、すでに3,000社を超える企業が活用しています。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
サービス導入で新卒採用者数が倍増した事例
「チケットレストラン」は、従業員の食生活をサポートする縁の下の力持ちの役割を果たします。鍼灸接骨院・整体院を展開する株式会社ほねごり(従業員数680名)では、従業員の熱烈なリクエストから「チケットレストラン」を導入。福利厚生の充実と独自の人事施策を組み合わせることで、2025年の新卒採用者数が前年の2倍に増加しました。
人材不足解決に何から着手していいかわからない、若手の採用に効果的な施策を探している、といった企業にもおすすめできます。
導入事例:株式会社ほねごり
人手不足時代を乗り切るための第一歩
「企業の存続をかけて人手不足を解消しなければならない、そのためには賃上げしなくてはならない」と頭を悩ませる一方で、賃上げの財源がなく、どのように企業の方向性を定めていけばいいのかと思うこともあるでしょう。
賃上げ以外にもできることから試す価値はあります。本記事で紹介した労働生産性の向上、雇用対象者の拡大、女性・シニアの活躍推進など、自社の状況に応じた施策を組み合わせることが可能です。
また、「チケットレストラン」のような食事補助による福利厚生充実も効果的な選択肢の一つです。福利厚生の改善により従業員一人ひとりを大切にする姿勢を継続的に示すことで、人が集まり定着する企業への変化を実現できます。
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