監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
2024年、中小企業の賃上げを支援する補助金・助成金制度がさらに充実しました。物価の高騰や優秀な人材の確保に頭を悩ませる中小企業にとって、これらの支援策は重要な経営改善の鍵となります。本記事では、6つの主な支援制度について、その概要と活用方法を詳しく解説しています。ぜひ貴社の効果的な賃上げ戦略の参考にしてください。
【2024年】中小企業向け賃上げ支援策の全容
2024年度、政府は中小企業による賃上げを促進するため、さまざまな支援策を強化しました。これらの施策は、人材の確保や生産性の向上といった、中小企業の直面する課題に応えるものです。まずは、賃上げ支援策が重視される背景と、主な6つの制度の概要について解説します。
賃上げ支援が強化された背景
中小企業向けの賃上げ支援策が強化された背景には、複数の社会的・経済的要因があります。
まず挙げられるのが、近年の物価上昇にともなう従業員の生活水準の低下です。物価が上昇すると、従業員の実質的な賃金は減少します。つまり、事実上の賃下げが起きているのが現状です。
また、少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少によって、人材の確保・定着が困難になっていることも、賃上げ支援策が重視される重要な要因のひとつです。特に多くの中小企業は、大企業との賃金格差による人材の流出を課題としています。
こうした課題に対応し、賃上げにともなう企業のコスト負担の軽減や、賃上げを通じた消費拡大と経済の好循環を実現するため、政府は中小企業向けの支援策を強化しているのです。
2024年度|中小企業向け賃上げ支援制度一覧
2024年度に中小企業が活用できる主な賃上げ支援制度は以下の6つです。各制度の概要を簡潔に紹介します。
業務改善助成金 | 生産性向上のための設備投資等を行い、事業場内最低賃金を引き上げた場合に助成 |
キャリアアップ助成金 | 非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を実施した場合に助成 |
中小企業向け賃上げ促進税制 | 一定以上の賃上げを実施した場合に法人税等から税額控除 |
中堅・中小成長投資補助金 | 大規模な設備投資と賃上げを行う場合に補助 |
ものづくり補助金 | 生産性向上のための設備投資等を行う場合に補助(賃上げ実施で加点) |
IT導入補助金 | ITツール導入による業務効率化を行う場合に補助(賃上げ実施で加点) |
これらの制度は、企業の状況や目的に応じて選択・併用することができます。詳細は、後述の各制度の説明をご参照ください。
中小企業が活用できる補助金・助成金
2024年現在、中小企業の賃上げを支援するさまざまな補助金・助成金制度があります。ここでは、6つの主な支援制度について、その概要・対象者・支援内容・申請方法などを詳しく解説します。各制度の特徴を理解し、自社に最適な支援を選択しましょう。
業務改善助成金
「業務改善助成金」は、中小企業・小規模事業者が生産性向上のための設備投資等を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、その費用の一部を助成する制度です。
対象となるのは、以下の条件を満たす中小企業・小規模事業者です。
- 中小企業・小規模事業者
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない
以上の要件を満たした事業者が、事業場内最低賃金の引上げ計画ならびに設備投資等の計画を立て、事業場所在地を管轄する都道府県労働局に申請を行います。
助成額は、賃金の引上げ幅と引上げる従業員数に応じて決定され、最大600万円です。
出典:中小企業庁|最低賃金引き上げに伴う支援を強化しています
関連記事:【社労士監修】賃上げで最大600万円の業務改善助成金とは?その他の支援制度も解説
キャリアアップ助成金
「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の正社員化や、処遇改善を実施した事業主に対して助成する制度です。同制度には、以下の6つのコースが用意されています。
正社員化支援 | 正社員化コース | 有期雇用労働者等を正社員化した場合 |
障害者正社員化コース | 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換 した場合 | |
処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース | 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用させた場合 |
賃金規定等共通化コース | 有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用した場合 | |
賞与・退職金制度導入コース | 有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施した場合 | |
社会保険適用時処遇改善コース | 短時間労働者に以下のいずれかの取組を行った場合 1.新たに社会保険の被保険者となった際に、手当支給・賃上げ・労働時間延長を行った場合 2.労働時間を延長して新たに社会保険の被保険者とした場合 |
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)(リーフレット)
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金
助成額は、企業規模や対象者数によって異なります。たとえば正社員化コースでは、1人当たり最大80万円です。申請は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局へ行います。
関連記事:【社労士監修】年収の壁対策はキャリアアップ助成金を活用!待遇改善に役立つ福利厚生も
賃上げ促進税制
中小企業向け「賃上げ促進税制」は、一定以上の賃上げを実施した中小企業に対して、法人税(個人事業主の場合は所得税)から一定額を税額控除できる制度です。
適用条件は以下の通りです。
- 中小企業者等、または青色申告書を提出する常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主であること
- 継続雇用者給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加していること
税額控除額は、雇用者給与等支給増加額の最大30%です。さらに、教育訓練費増加や子育て支援に取り組む企業は、最大45%まで控除率が上乗せされます。
申請は確定申告時に行い、所定の明細書を添付する必要があります。
参考:経済産業省|中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック
参考:国税庁|No.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)
関連記事:賃上げ促進税制の基本を分かりやすく解説!別表記載時の注意点も
中堅・中小成長投資補助金
「中堅・中小企業の賃上げに向けた省⼒化等の⼤規模成⻑投資補助⾦(中堅・中小成長投資補助金)」は、大規模な設備投資を行い、生産性向上と賃上げを両立する中堅・中小企業を支援する制度です。
補助対象となる主な要件は以下の通りです。
- 投資額が10億円以上であること
- 補助事業の申請時に、具体的な賃上げ目標を設定すること(補助事業終了後3年間の対象事業に関わる従業員等1人当たり給与支給総額の年平均上昇率が、事業実施場所の都道府県における直近5年間の最低賃金の年平均上昇率以上)
補助金額は最大50億円で、補助率は原則1/3以内です。また、申請は公募期間中にjGrants(電子申請システム)を通じて行います。
なお、申請時に設定した賃上げ目標を達成できなかった場合、未達成率に応じて補助金の返還を求められる可能性があります(天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合を除く)。持続的な賃上げを実現するための制度です。
参考:経済産業省|中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化などの大規模成長投資補助金
ものづくり補助金
「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)」は、中小企業・小規模事業者等が行う革新的な製品・サービス開発や生産プロセスの改善に必要な設備投資等を支援する制度です。
補助対象となる主な要件は以下の通りです。
- 付加価値額 年平均成長率+3%以上増加
- 給与支給総額:年率+1.5%以上増加
- 事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上
この補助金は、給与支給総額を平均6%以上増加させ、かつ事業場内最低賃金を地域別最低賃金+50円以上の水準にした場合、加点要素となって優先的に採択される仕組みがあります。
補助率は1/3~2/3で、補助上限額は最大8,000万円です。さらに一定の賃上げを行う場合、上限額が最大2,000万円引き上げられます。なお、申請は公募期間中にjGrants(電子申請システム)を通じて行います。
参考:ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト|トップページ
参考:経済産業省|ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金について
IT導入補助金
「IT導入補助金(正式名称:サービス等生産性向上IT導入支援事業)」は、中小企業・小規模事業者等がITツールを導入し、業務効率化や売上アップを図る取り組みを支援する制度です。
補助対象となる主な要件は以下の通りです。
- 国が認定したITツールを導入すること
- 生産性向上に係る数値目標を設定すること
補助率は1/2~4/5で、補助上限額は最大450万円です。この補助金も、賃上げに取り組む事業者に対して加点措置があります。具体的には、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させ、かつ事業場内最低賃金を地域別最低賃金+50円以上とすることです。
申請は、公募期間中にIT導入補助金事務局のウェブサイトを通じて行います。
参考: IT導入補助金2024|トップページ
参考:中小企業庁|IT導入補助金 (令和6年9月時点版)
「福利厚生」による実質的な賃上げもおすすめ
賃上げに積極的に取り組みたいと思いつつも、企業体力などの原因で取り組めずにいる中小企業は少なくありません。そのような企業の中で、注目を集めているのが、賃上げの代替策としての「福利厚生」です。詳しく見ていきましょう。
福利厚生を充実させるメリット
福利厚生を充実させることで、以下のようなメリットを得られます。
- 法人税の減税効果:福利厚生費は経費として損金算入が可能なため、法人税の節税につながります
- 従業員の手取り額増加:給与での支給に比べ、所得税等の負担が少なくなるため、従業員の実質的な収入が増えます
- 従業員満足度の向上:直接的に生活をサポートすることで、金銭的価値以上に従業員満足度を高める効果が期待できます
- 人材確保・定着の促進:充実した福利厚生は、優秀な人材の採用や既存従業員の定着に寄与します
たとえば、月額1万円の賃上げを行う場合、給与で支給すると手取りは6,000〜7,000円程度となりますが、同額を食事補助などの福利厚生として提供すれば、従業員は全額のメリットを享受できます。
このように、福利厚生の充実は、コスト以上のメリットをもたらすと考えられています。
選ばれる食事補助の福利厚生「チケットレストラン」
数ある福利厚生の中でも、近年特に人気を集めているのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」は、全国25万店舗以上の加盟店で利用可能な食事補助の福利厚生サービスです。
「チケットレストラン」を導入した企業の従業員は、一定の条件を満たすことにより、加盟店での食事を半額で利用できます。勤務時間内であれば時間や場所の制限がないために、通常勤務の従業員をはじめ、残業中や出張中・リモートワーク中の従業員も不自由がありません。
福利厚生としてのアピール度も高く、賃金を補完する福利厚生として、特に十分な賃上げが難しい状況下でも従業員のモチベーション維持に貢献します。
こうした多角的な魅力が高く評価され「チケットレストラン」はすでに3,000社を超える企業に導入されている人気のサービスとなっています。
関連記事:チケットレストランの加盟店は全国25万店舗以上!使えるお店を確認
中小企業向けの補助金・助成金を賢く活用しよう
2024年、中小企業向けの賃上げ支援策は多岐にわたり、それぞれの企業の状況に応じた選択が可能となっています。「業務改善助成金」や「キャリアアップ助成金」などの直接的な支援策に加え「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」といった、生産性向上を通じた間接的な支援策も充実しています。
これらの支援策を効果的に活用することで、中小企業は従業員の賃上げを実現し、人材確保や生産性向上といった課題に取り組むことが可能です。また、直接的な賃上げが難しい場合でも「チケットレストラン」などの福利厚生の充実を図ることで、実質的な処遇改善を行うことができます。
重要なのは、自社の状況を正確に把握し、最適な支援策や福利厚生制度を選択することです。ぜひ支援策を活用し、従業員と企業がともに成長できる環境づくりに取り組みましょう。