監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
外国人労働者の受け入れは、人手不足解消やグローバル化推進など多くのメリットがある一方、文化の違いや手続きの複雑さといったデメリットも存在します。本記事では、外国人労働者を受け入れるメリット・デメリットを詳しく解説。受け入れが進む背景や成功させるポイント、注意点まで、外国人労働者の受け入れについて企業が知っておきたい情報を分かりやすく紹介します。
外国人労働者の受け入れにまつわるよくある質問
外国人労働者の受け入れについて、メリット・デメリットをはじめ、多く寄せられる質問をQ&A形式で紹介します。
Q1. 外国人労働者を受け入れるメリットは何ですか?
A. 人手不足の解消や、多言語対応、企業のグローバル化などです。
特に人材確保が難しい業種では、外国人労働者の受け入れは現実的な選択肢として検討されています。製造業や建設業、宿泊・飲食サービス業といった分野では、日本人の採用が難航する中、外国人労働者が重要な戦力となっています。また、訪日外国人への対応力向上や、海外展開を見据えた組織づくりにも有効です。
Q2. 外国人労働者を受け入れるデメリットはありますか?
A. 文化や言語の違い、手続きの複雑さ、法的リスクなどです。
外国人労働者の受け入れは、事前の理解と準備が十分でない場合、トラブルにつながる可能性があります。例えば、働き方に対する価値観の違いから、残業や休暇取得を巡って意見が対立するケースもあります。また、在留資格の確認や各種申請手続きなど、日本人雇用とは異なる対応が求められる点も負担になりがちです。
Q3. 外国人労働者の受け入れは難しいですか?
A. 手続きや配慮すべき点はありますが、ポイントを押さえれば過度に難しいものではありません。
実際に多くの企業が受け入れを進めており、令和6年10月末時点で外国人労働者数は約230万人に達しています。在留資格の理解や文化的配慮が必要ですが、登録支援機関や行政書士などの専門家を活用することでスムーズに進めることが可能です。
参考:厚生労働省|「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)
Q4. 外国人労働者を受け入れる際に、企業が特に注意すべきことは何ですか?
A. 在留資格や法令の理解、文化・言語の違いへの配慮、受け入れ後のフォロー体制が重要です。
在留資格の種類によって就労可能な業務が異なるため、採用前に必ず確認する必要があります。また、文化や価値観の違いを理解せずに日本の常識を押し付けると、トラブルの原因になるため注意が必要です。業務面だけでなく、生活面の支援も含めたフォロー体制を整えることが、定着率向上の鍵となります。
外国人労働者の受け入れが進む背景と現状
外国人労働者の受け入れが進む背景には、国内の労働市場や産業構造の変化など、さまざまな要因があります。まずは、現在の受け入れ状況と、その背景にある要因について解説します。
外国人労働者数の増加

出典:厚生労働省|「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)
日本で働く外国人労働者の数は年々増加しており、さまざまな規模や業種の企業で受け入れが進んでいます。
厚生労働省の発表によると、2024年10月時点での外国人労働者数は約230万人に達し、前年比で約25万人増加しました。これは、届出が義務化された平成19年以降、過去最多の記録です。
増加率を見ても、12.4%と前年と同率を維持しており、その総数は今後も安定的に増加していくことが予想されます。外国人労働者は、すでに日本の労働市場において欠かせない存在となっているのです。
関連記事:人手不足対策に外国人労働者を!受け入れメリット・デメリット 成功事例も紹介
深刻な人手不足が受け入れを後押し

出典:内閣府|令和4年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)|1 高齢化の現状と将来像
少子高齢化の進行により、国内の労働力人口は減少が続いています。
「令和4年版高齢社会白書」によると、1995年のピーク時には約8700万人だった生産年齢人口が、2021年には約7400万人まで減少しました。
特に、中小企業や特定産業の採用難は深刻で、求人を出しても応募が集まらない、面接まで進んでも辞退されるといったケースが珍しくありません。
国内だけで人材を確保することが難しくなった今、企業の持続的な成長を支える重要な役割を担っているのが外国人労働者なのです。
特定の業種で急速に拡大

出典:厚生労働省|「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)
外国人労働者は、製造業、サービス業など、人手不足が深刻な業種を中心に受け入れが進んでいます。
「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、2024年10月末時点の外国人労働者の割合は、製造業が全体の約26%を占め、もっとも多い業種となりました。次いでサービス業が15.4%、卸売業・小売業が13.0%と続きます。
特定技能制度の創設により、これまで外国人労働者の受け入れが難しかった分野でも雇用が可能となったこともあり、業種・地域を問わず受け入れ拡大が続いています。
外国人労働者の受け入れにまつわる政府の見解
労働力不足が構造的な問題である以上、外国人労働者の受け入れは一時的な対策ではなく、中長期的な経営課題として捉える必要があります。
公益社団法人 経済同友会は、2025年5月の政策提言において、外国人材が活躍できる環境整備の重要性を訴えました。
政府も外国人材の受け入れと共生社会の実現を重要な政策課題と位置づけており、外務省では「外国人との共生社会の実現に向けた取組」として制度整備や支援体制の充実を進めています。
こうした世の中の動きを受け、各企業における受け入れ体制の構築や多様性への対応が、今後の重要なテーマとなっています。
参考:経済同友会|目指すべき外国人材との共生社会とステークホルダーの果たすべき役割 ~外国人材の人口1割時代に向けて〜
参考:外務省|外国人との共生社会の実現に向けた取組
外国人労働者を受け入れるメリット
外国人労働者の受け入れは、企業に多くのメリットをもたらします。ここでは、特に注目したいメリットを4つ紹介します。
人手不足の解消につながる
少子高齢化により国内の労働力人口が減少する中、日本人だけを対象に採用活動を行っても、応募者が集まらない、採用しても早期離職してしまうといった悩みを抱える企業が増えています。
外国人労働者の受け入れは、こうした慢性的な人手不足を補う現実的な選択肢です。求職者の母数が広がることで、これまで採用が困難だった職種でも人材を確保できる可能性が高まります。
実際に、製造業や飲食サービス業・卸売業・小売業といった分野では、外国人労働者が業務の中核を担うケースが増えています。
訪日外国人への対応力が向上する(多言語・インバウンド対応)
小売業や飲食・宿泊サービス業等では、訪日外国人への対応が日常業務の一部となっています。こうした状況を踏まえると、外国人労働者の採用は、顧客満足度を高める施策としても有効です。
例えば、多言語での対応を進めることにより、母国の文化や習慣を理解したきめ細かな接客ができるようになります。外国人目線でのサービス改善提案も期待できるため、インバウンド需要の取り込みの観点からも有利です。
政府が観光立国を掲げる中、訪日外国人旅行者数は今後も増加が見込まれています。企業としての競争力を高める上で、外国人労働者の重要度は今後ますます高まっていくことが予想されます。
海外事業の進展や企業のグローバル化につながる
外国人労働者は、海外市場や現地事情に関する知見を持つ存在です。海外展開や外国企業との取引を視野に入れる企業にとって、外国人労働者の受け入れは、社内にグローバルな視点を取り込む大きなきっかけとなります。
実際に海外への事業展開を進めるにあたっては、外国人労働者を通じて現地のネットワークを活用することにより、取引先の開拓やパートナー企業の選定もスムーズに行えます。
海外ビジネスの可能性を広げる上で、多様な文化背景を持つ人材が社内にいることは大きなメリットです。
日本人従業員に新たな学びや成長の機会を与えられる
異なる文化や価値観を持つ人材と協働することで、日本人従業員の視野が広がり、組織全体のダイバーシティ理解やコミュニケーション力の向上につながります。
例えば、時間の使い方や意見の伝え方、仕事とプライベートのバランスなど、異なる考え方に触れることで、柔軟な思考が育まれます。また、外国人労働者へのサポートを通じて、指導力やマネジメント能力が向上する日本人従業員も少なくありません。
多様性を受け入れる組織風土が根付けば、イノベーションの創出や生産性向上にもつながります。
外国人労働者を受け入れるデメリット
外国人労働者の受け入れには、制度・文化・運用面で特有の課題も存在します。ここでは、事前に把握しておくべき代表的なデメリットを紹介します。
文化や価値観の違いによるトラブルが生じやすい
外国人労働者の受け入れでは、働き方や仕事に対する考え方、上下関係の捉え方などが異なることで、意図しない摩擦や誤解が生じることがあります。
また、日本では暗黙の了解や空気を読むコミュニケーションが重視されますが、海外では明確な指示がなければ動かないのが一般的です。こうした違いを理解せずに接すると、「やる気がない」「協調性がない」といった誤解を招きます。
さらに、宗教上の理由で食事や礼拝の時間に配慮が必要な場合もあるため、事前の理解と準備が欠かせません。
言語・コミュニケーションの壁がある
外国人労働者の受け入れでは、日本語能力の差や表現のニュアンスの違いにより、業務指示や安全管理が十分に伝わらないリスクがあります。
特に、製造業や建設業など、安全管理が重要な現場では、指示が正確に伝わらないことが事故につながる可能性もあります。日本語能力試験でN2やN3を取得していても、専門用語や業界特有の表現まで理解できるとは限りません。
また、「たぶん大丈夫です」「検討します」といった曖昧な返答の真意が読み取れず、認識のズレが生じる可能性も想定しておかなければなりません。
関連記事:【社労士監修】【2025年度版】外国人雇用に関する助成金・補助金一覧!自治体の支援も
受け入れまでに時間がかかる|手続きが複雑
外国人労働者を受け入れる際は、在留資格の確認や各種申請手続きなど、採用決定から実際の就労開始までに一定の時間と手間がかかります。
在留資格の変更申請には通常2週間から1カ月程度を要し、海外からの呼び寄せの場合はさらに時間がかかります。また、在留資格によって就労可能な業務が異なるため、採用前に在留資格の種類と業務内容が合致しているか確認が必要です。
申請書類も複雑で、雇用契約書や事業内容を説明する資料、給与や勤務条件を証明する書類など、多数の書類を揃えなければなりません。専門知識がない担当者にとっては負担が大きく、行政書士などの専門家への依頼も検討する必要があります。
法的リスクが発生する(在留資格・不法就労など)
在留資格の条件を誤って理解すると、不法就労助長罪などの法的リスクを企業側が負う可能性があります。
例えば、就労が認められていない在留資格で働かせた場合や、在留期限が切れた外国人を雇用し続けた場合、企業は罰則の対象となります。不法就労助長罪が成立すれば、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があるため注意が必要です※。
また、在留資格で認められた業務範囲を超える仕事をさせることも違反にあたります。外国人雇用特有の注意点として、在留カードの確認や雇用状況の届出など、法令で定められた手続きを確実に実施する体制が求められます。
※2024年6月に成立した改正入管法により、最高懲役5年・罰金500万円への厳罰化が決定済み。
参考:厚生労働省|外国人の雇用
外国人労働者の受け入れを成功させるポイント
メリットとデメリットを踏まえたうえで、企業が外国人労働者の受け入れを円滑に進め、定着につなげるためには、いくつかの共通したポイントがあります。ここでは、受け入れを成功させるためのポイントを解説します。
在留資格・法令を正しく理解し、リスクを防ぐ
就労可能な在留資格の確認や法令遵守は、受け入れを成功させる前提条件のひとつです。
在留資格には、それぞれ従事できる業務内容が定められているため、採用前に在留カードを確認し、在留資格の種類と在留期限、就労制限の有無をチェックしましょう。
また、外国人を雇用した際は、ハローワークへの雇用状況届出が義務づけられています。在留期限が切れる前に更新手続きを案内する、在留資格で認められた業務範囲を超える仕事をさせないなど、法令を遵守した運用が求められます。
不明な点があれば、出入国在留管理庁や行政書士に相談し、適切な対応を確認することが重要です。
参考:厚生労働省|外国人の方を雇い入れる際には、就労が認められるかどうかを確認してください。
文化・価値観の違いを前提に受け入れる
外国人労働者の受け入れにまつわるトラブルを防止するためには、日本の職場文化を一方的に前提とせず、価値観の違いを理解したうえで受け入れる姿勢が大切です。
外国人労働者は、日本とは異なる環境で育っているため、働き方や時間の使い方、コミュニケーションのとり方に違いがあって当然です。
また、宗教上の配慮が必要なケースでは、礼拝時間の確保や食事内容への配慮を行うことで、安心して働ける環境を整えられます。異文化理解研修を実施し、受け入れ側の意識改革を進めるのもひとつの方法です。
言語の壁を踏まえたコミュニケーションを行う
分かりやすい指示や情報共有、多言語対応など、言語面の工夫が現場の混乱を防ぐポイントとなります。
日本語能力が十分でない外国人労働者には、やさしい日本語を使った説明や、図解・写真を活用した視覚的な情報提供が効果的です。また、業務マニュアルや安全手順書を多言語化することで、理解度が格段に向上します。
重要な指示や安全に関わる内容は、理解できたかどうかを必ず確認し、必要に応じて繰り返し説明することも大切です。外国人労働者の日本語学習をサポートする制度づくりや、翻訳アプリの活用も有効です。
関連記事:外国人介護人材を受け入れるには?4つの制度と成功のポイント
受け入れ後のフォロー・支援体制を整える
外国人労働者の定着を左右するのは、業務面だけでなく生活面の不安にも配慮したフォロー体制です。住居探しや銀行口座の開設、役所での手続きなど、日本での生活に必要な支援の提供に加え、定期的な面談をはじめとする困りごとや悩みの早期把握も重要です。
なお、特定技能1号の在留資格を持つ外国人労働者を受け入れる場合は、支援計画の作成と実施が義務づけられています。自社での対応が難しい場合には、登録支援機関に委託することも可能です。
生活支援の一環として、福利厚生制度を充実させ、直接的に暮らしのサポートをする企業も増えています。
外国人労働者の暮らしを支える食事補助
従業員の暮らしをサポートする福利厚生として、近年注目度を高めているのが、エデンレッドジャパンが提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」を導入すると従業員は、企業との折半により、全国25万店舗を超える加盟店での食事を実質半額で利用できます。
加盟店のジャンルは、コンビニ・ファミレス・三大牛丼チェーン店・カフェなど幅広く、利用する人の国籍や年代・嗜好を問いません。 Uber Eats を通じ、モスバーガーやスターバックスなどの人気ファストフードも利用可能です。
こうした柔軟性の高さが評価され、すでに3,000社を超える企業に導入されている人気サービスとなっています。
【チケットレストランの導入事例】
北海道で自動車の販売・修理・整備を手掛ける日免オートシステム株式会社では、持続可能な整備サービスを推進するため、毎年定期的に外国人採用を行っています。2018年からは、外国人技能実習生や特定技能外国人を受け入れていますが、外国人従業員からも「チケットレストラン」は評判が良いとのことです。
日免オートシステム株式会社の詳細な導入事例は「こちら」
関連記事:【2025年最新】チケットレストランとは?採用・定着・健康経営を支える「食の福利厚生」
外国人労働者の受け入れは「理解と準備」が鍵
外国人労働者の受け入れには、人手不足の解消や多様性の促進といったメリットがある一方、文化の違いや手続きの複雑さといった課題も存在します。
しかし、在留資格や法令、文化的な違いを正しく理解し、「チケットレストラン」のような福利厚生をはじめとする受け入れ後のフォロー体制を整えることで、これらの課題は十分に対応可能です。
企業の持続的な成長の第一歩として、多様な人材が活躍できる環境づくりを進めてみてはいかがでしょうか。
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社会保険労務士 吉川明日香
