監修者:吉川明日香(社会保険労務士・吉川社会保険労務士事務所)
ジョブ型人事制度とは、従業員の行った仕事に対して給与を支払う仕組みのことです。日本企業で一般的であったメンバーシップ型人事制度とはどのような違いがあるのでしょうか。ジョブ型人事制度で用いられる職務給の仕組みや、メリット・課題とともに見ていきましょう。
ジョブ型人事制度とは
欧米で主流のジョブ型人事制度は、入社後に担当する職務を明確にした上で人材を採用する仕組みです。
職務に適した人材の採用や配置を行うために、職務内容や責任の範囲・求めるスキルなどの詳細を記載した職務記述書(ジョブディスクリプション)を作成します。
職務に対してどのようなスキルが求められるのかが明確なため、労働者は希望するキャリアに合わせて、自ら必要なスキルを身に付けられます。
また給与が職務に対して支払われる仕組みであるのも、ジョブ型人事制度の特徴です。
関連記事:ジョブ型人事制度とは?メリット・デメリット 40代への影響も解説
メンバーシップ型人事制度との違い
メンバーシップ型人事制度とは、入社後の職務や勤務地を限定せずに人材を採用する人事制度のことです。ジョブローテーションを行いながら、長い年月をかけて人材育成を行います。
終身雇用や年功序列と結びついている雇用制度です。日本企業で多く採用されているため日本型雇用とも呼ばれます。
新しい資本主義が目指すジョブ型人事
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」では、構造的な賃上げの定着を目的とした三位一体の労働市場改革として、リスキリングによる能力向上支援・ジョブ型人事の導入・労働移動の円滑化の推進に取り組む方針を示しています。
ジョブ型人事の導入に向けては、「ジョブ型人事指針」の周知・普及や、ジョブ型人事の導入状況を開示するよう人的資本可視化指針の見直しなどに取り組む計画です。
関連記事:新しい資本主義実現会議とは?基本方針と実現に向けた計画をチェック
参考:内閣官房|新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版
ジョブ型人事指針をチェック
「ジョブ型人事指針」とは、企業がそれぞれの状況に合わせてジョブ型人事制度を導入するときの参考になるよう、20社の導入事例を掲載した資料です。各社のジョブ型人事制度について、以下の項目を公開しています。
- 制度の導入目的、経営戦略上の位置付け
- 導入範囲・等級制度・報酬制度・評価制度等の制度の骨格
- 採用・人事異動・キャリア自律支援・等級の変更等の雇用管理制度
- 人事部と各部署の権限分掌の内容
- 労使コミュニケーション等の導入プロセス
参考:内閣官房|新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|ジョブ型人事指針
ジョブ型人事制度では職務給が基本
職務に必要なスキルや経験を持つ人材を採用したり配置したりするジョブ型人事制度を導入している企業では、担当する職務やその成果に応じて給与が決まる職務給が基本です。
厚生労働省の「職務給の導入に向けた手引き」によると、85.9%の企業が職務給を導入しています。何らかの形で職務給を導入している企業は、全ての業種や企業規模で80%を超えており多数派です。
参考:厚生労働省|職務給|職務給の導入に向けたリーフレット・手引き
職務給のメリット
職務給は企業にも従業員にもメリットがある仕組みです。厚生労働省の「職務給の導入に向けた手引き」の調査結果を見ていきましょう。
参考:厚生労働省|職務給|職務給の導入に向けたリーフレット・手引き
企業が感じている職務給のメリット
厚生労働省の「職務給の導入に向けた手引き」では、企業が感じている職務給のメリットについての調査結果を確認できます。回答数が多かったメリットは以下の通りです。
|
企業が感じている職務給のメリット |
回答の割合(※複数回答) |
|
従業員に求める役割・職務の要件が明確になる |
56.2% |
|
仕事に応じた賃金を支払うことができる |
51.4% |
|
管理職層の人材確保につながる |
49.4% |
|
従業員の仕事に対する意欲が高まる |
41.6% |
|
中堅社員の確保や定着につながる |
37.4% |
|
若手人材の確保や定着につながる |
30.2% |
ジョブ型人事制度を導入して職務給を採用するときには、従業員に任せる職務の内容や範囲を明確に定めなければいけません。任せる仕事が明確になるため、適切な給与や待遇につながりやすくなるでしょう。
頑張りが適切に評価される仕組みがあれば、従業員の仕事への意欲が高まることも期待できます。加えて年代や役職を問わず、人材確保にもつながるのもメリットです。
帝国データバンクの「「従業員退職型」の倒産動向(2024年)」によると、2024年の人手不足倒産342件のうち、従業員や経営幹部の退職がきっかけとなった従業員退職型の倒産は87件で過去最多となっています。
職務給の導入は、従業員の退職をきっかけとする倒産の回避にもつながる可能性がある方法です。
関連記事:賃上げ難倒産とは?広がる人手不足による倒産を避ける方法
参考:帝国データバンク|「従業員退職型」の倒産動向(2024年)
従業員が感じる職務給のメリット
職務給は従業員もメリットがあると感じている制度です。
厚生労働省の「職務給の導入に向けた手引き」によると、基本給の半分以上を職務給としている企業では、職務給の割合が半分以下の企業と比べて、以下の全ての項目で「そう思う」「ややそう思う」と回答した割合が高くなっています。
- 職務への責任感が高まる
- 給与への納得感が高まる
- 職務に関するスキルアップを目指したくなる
- 社内でのキャリアアップを考えやすくなる
- より高度な役割・職務に挑戦したくなる
- 転職市場での価値を把握できる
職務給では担当する職務に加えて、どのようなスキルや経験があれば給与アップにつながるかも明確になるのが特徴です。公平な評価が行われることで、従業員は給与への納得感を得やすくなり、スキルアップへの意欲も高まります。
社内でのキャリア形成をイメージしやすくなるのもメリットです。
関連記事:人事評価 × AIの活用術|メリットとデメリット・導入フローも徹底解説!
参考:厚生労働省|職務給|職務給の導入に向けたリーフレット・手引き
職務給の課題
職務給は企業にも従業員にもメリットがある反面、課題もあります。代表的な課題は以下の通りです。それぞれの課題について解説します。
- 適切な職務分析
- 適切な職務評価
- ミドルパフォーマーの待遇
適切な職務分析
職務分析とは職務に関する情報収集や整理のことです。適切な職務評価を行うために実施します。ただし企業によっては、職務分析に自信がないというケースもあるでしょう。
このような場合には、厚生労働省の作成している「職務分析実施マニュアル」が役立ちます。同マニュアルによると、職務分析の手法は以下の2種類です。また分析を行う手順についても解説があるため、参考にしながら進められます。
|
職務分析の手法 |
特徴 |
|
職務説明書を活用した職務分析 |
従業員一人ひとりの職務説明書を作成する手法。職務を詳細に洗い出せる |
|
職務構造表を活用した職務分析 |
所属する組織の上司・部下・同僚の関係から従業員の業務内容や責任の範囲を整理する手法。職務を構造的に理解できる |
参考:
厚生労働省|職務給|職務給の導入に向けたリーフレット・手引き
厚生労働省|「職務分析実施マニュアル」(令和3年3月)
適切な職務評価
職務分析を問題なく行えていても、職務評価とそれに伴う賃金水準の設定が難しい場合もあるでしょう。職務評価を適切に行うには、厚生労働省の発行している「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」が役立ちます。
職務評価の手法をチェックしましょう。それぞれの手法ごとに、異なるやり方で職務の大きさを評価します。
|
職務評価の手法 |
特徴 |
|
単純比較法 |
職務を細かく分類せずに全体として捉えて、1対1で職務の大きさを比べる手法 |
|
分類法 |
基準となる職務を選び職務レベル定義書を作成する。作成した職務レベル定義書をもとに、職務の大きさを評価する手法 |
|
要素比較法 |
職務の構成要素別にレベルの内容を定義する。職務を要素別に分解して、要素ごとに合致する定義のレベルを判断する。同じように定義を比較する分類法と比べて、より客観性が高い手法 |
|
要素別点数法 |
要素比較法のように職務の構成要素ごとに職務の大きさを評価する。要素比較法とは、要素ごとに付けたポイントの合計で比較する点で異なる手法 |
参考:
厚生労働省|職務給|職務給の導入に向けたリーフレット・手引き
厚生労働省|同一労働同一賃金特集ページ|職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル
適切な賃金設定
職務評価を実施したら、評価をもとに適切な賃金設定を実施します。賃金設定に自信がないという企業では、厚生労働省の発行している「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」に記載されている以下の手順を参考にするとよいでしょう。
- 従業員一覧の作成
- 職務評価の実施
- 活用係数の設定
- 時間賃率の計算
- 均等・均衡待遇のチェック
同一労働同一賃金の実現に向けた、制度の検討方法も解説されています。
参考:
厚生労働省|職務給|職務給の導入に向けたリーフレット・手引き
厚生労働省|同一労働同一賃金特集ページ|職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル
ミドルパフォーマーの待遇
ジョブ型人事制度により職務給を導入するときには、社内の大多数を占めるミドルパフォーマーの待遇にも注意が必要です。
職務給は担当している仕事の内容や成果で評価されるため、優秀な人材は早い段階で重要なポジションに抜擢され昇給していきます。
その一方で、ミドルパフォーマーは常に一定の成果を出しているにもかかわらず、職務に変化がないことから、早い段階で給与が頭打ちになりかねません。
適切な賃金設定を行うには、ミドルパフォーマーの安定的な仕事に対する評価も加味する必要があります。
ジョブ型人事制度は職務給の課題を把握しよう
ジョブ型人事制度では、担当する仕事の内容や成果で給与が決まる職務給が基本です。従業員の意欲向上や人材確保に役立つなどのメリットがある制度ですが、実施するには適切な職務分析や職務評価などが必要です。
加えて一定の成果を出しているけれど、職務が変わっていかず昇給が期待できないミドルパフォーマーの待遇にも注意して、適切な制度設計を行いましょう。
従業員の待遇を考えるときには、福利厚生の拡充も役立ちます。例えば食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」を導入すれば、従業員の食事代をサポートするとともに、実質的な手取りアップも可能です。
給与制度を見直すとともに、福利厚生による従業員の待遇改善も検討してみてはいかがでしょうか。
当サイトにおけるニュース、データ及びその他の情報などのコンテンツは一般的な情報提供を目的にしており、特定のお客様のニーズへの対応もしくは特定のサービスの優遇的な措置を保証するものではありません。当コンテンツは信頼できると思われる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性、適時性、適切性または完全性を表明または保証するものではなく、お客様による当サイトのコンテンツの利用等に関して生じうるいかなる損害についても責任を負いません。
エデンレッドジャパンブログ編集部
福利厚生に関する情報を日々、ウォッチしながらお役に立ちそうなトピックで記事を制作しています。各メンバーの持ち寄ったトピックに対する思い入れが強く、編集会議が紛糾することも・・・今日も明日も書き続けます!
