監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
中小企業倒産防止共済制度は、中小企業倒産防止共済法に基づいて設けられている共済制度です。取引先の倒産がきっかけで起こる連鎖倒産の防止を目的としています。具体的な制度や加入手続きについて見ていきましょう。
中小企業倒産防止共済制度とは
中小企業倒産防止共済制度とは、取引先が倒産したときに、貸付を受けられる仕組みのことです。経営セーフティ共済ともいいます。まずは制度の概要をチェックしましょう。
関連記事:【税理士監修】中小企業経営強化税制とは?制度の概要から手続きまで分かりやすく解説
中小企業倒産防止共済制度の目的
中小企業倒産防止共済制度は、連鎖倒産を防ぐために設けられた共済制度です。1社が倒産すると、その1社と取引関係にある企業も売掛金の回収ができずに倒産することがあります。このような事態を避ける目的で、企業が貸付を受けられる制度です。
また国内にある企業のうち99.7%を占める中小企業では、全労働者の69.7%が働いています。中小企業の倒産を防ぐことで、雇用の安定を図ることにもつながる制度です。
中小企業倒産防止共済制度の貸付を受けられる条件
企業が中小企業倒産防止共済制度の貸付を受けられるのは、取引先が以下の倒産となった場合です。
- 法的整理
- 取引停止処分
- でんさいネットの取引停止処分
- 私的整理
- 災害による不渡り
- 災害によるでんさいの支払不能
- 特定非常災害による支払不能
取引先が夜逃げをした場合は、倒産に該当しないため、貸付の対象にはなりません。
中小企業倒産防止共済制度の毎月の掛金
掛金は5,000円~20万円の範囲内で、5,000円単位で設定できます。加入後の増額・減額も可能ですが、減額には一定の要件を満たしている必要がある点に注意しましょう。
掛金総額が800万円になるまで積み立てが可能です。また掛金総額が月額の40倍に達すると掛け止めもできます。
中小企業倒産防止共済制度の借入額
取引先事業者が倒産した場合の中小企業倒産防止共済制度の借入額は、8,000万円を上限に、売掛金や債権の金額と掛金総額の10倍相当のいずれか少ない金額です。
例えば掛金総額200万円の企業は、掛金総額の10倍にあたる2,000万円まで借入できますが、取引先の倒産で1,000万円の売掛金が回収不可能になった場合には、1,000万円が借入できる限度額になります。
中小企業倒産防止共済制度の一時貸付金制度
中小企業倒産防止共済制度に加入すると一時金貸付制度も利用できます。一時貸付金制度は、取引先が倒産していなくても利用できる制度です。
貸付限度額は解約手当金額の95%の範囲内と定められています。解約手当金額は掛金の納付月数によって異なるため、貸付限度額は以下の計算式で算出可能です。
掛金納付月数 |
一時貸付金の貸付限度額 |
1~11カ月 |
0円 |
12~23カ月 |
掛金総額×75%×95% |
24~29カ月 |
掛金総額×80%×95% |
30~35カ月 |
掛金総額×85%×95% |
36~39カ月 |
掛金総額×90%×95% |
40カ月以上 |
掛金総額×95%×95% |
掛金総額が800万円 |
800万円×100%×95%(760万円) |
借入限度額の範囲内で、30万円以上5万円単位で借入できます。
例えば月3万円の掛金を100カ月納付している場合、掛金総額は300万円です。「掛金総額×95%×95%」に当てはめると、貸付上限額は270万7,500円と計算できます。
このとき250万円を借入れる場合、振り込まれるのは、借入額から利息を差し引いた金額です。
中小企業倒産防止共済制度のメリット
中小企業倒産防止共済制度に加入すると、取引先の倒産という万が一の事態に備えられます。併せて一時金貸付制度を利用できるのもポイントです。
加えて制度ならではのメリットもあります。具体的にどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
無担保・無保証人で借り入れられる
中小企業倒産防止共済制度は、無担保・無保証人で借入できるのがメリットです。企業が融資を受けるときには、経営者が連帯保証人になるケースもあります。制度を利用することで、経営者が連帯保証人になることなく必要な資金を借入られます。
掛金を損金算入できる
毎月の掛金を損金算入できるのも中小企業倒産防止共済制度のメリットといえます。損金とは課税所得を計算するときに、益金から差し引ける金額のことです。損金が多いほど課税所得が低くなるため、税額も少なくなります。
解約手当金が受け取れる
掛金納付月数が12カ月以上になると、解約手当金を受け取れるのもメリットの1つです。40カ月以上掛金を納付していれば、任意解約でも掛金を100%受け取れます。解約手当金は以下の割合で計算可能です。
掛金納付月数 |
任意解約 |
機構解約 |
みなし解約 |
1~11カ月 |
0% |
0% |
0% |
12~23カ月 |
80% |
75% |
85% |
24~29カ月 |
85% |
80% |
90% |
30~35カ月 |
90% |
85% |
95% |
36~39カ月 |
95% |
90% |
100% |
40カ月以上 |
100% |
95% |
100% |
例えば月3万円の掛金を33カ月納付した場合、掛金総額は99万円です。このタイミングで任意解約をした場合、解約手当金は89万1,000円と計算できます。
掛け捨てではないため将来的に解約するとしても無駄になりません。
中小企業倒産防止共済制度の加入資格
中小企業倒産防止共済制度に加入できる企業は、株式会社・有限会社・合名会社・士業法人・合資会社・合同会社のいずれかで、1年以上事業を続けている中小企業です。
併せて、業種ごとに以下の「資本金の額または出資の総額」か「常時使用する従業員数」のいずれかを満たす必要があります。
業種 |
資本金の額または出資の総額 |
常時使用する従業員数 |
製造業・建設業・運輸業・その他の業種 |
3億円以下 |
300人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
小売業 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
ゴム製品製造業(自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業と工業用ベルト製造業を除く) |
3億円以下 |
900人以下 |
ソフトウェア業・情報処理サービス業 |
3億円以下 |
300人以下 |
旅館業 |
5,000万円以下 |
200人以下 |
また個人事業主が加入するには、1年以上事業を継続しており、上の表の「常時使用する従業員数」の条件を満たしていなければいけません。
組合であれば、1年以上事業を継続している、企業組合・協業組合・事業協同組合・事業協同小組合・商工組合が対象です。
※共済制度の加入資格を満たしているかの判断は、中小機構の問い合わせ窓口へご相談ください。
関連記事:【2025年最新】中堅企業と中小企業の違いとは?定義や政府支援策を解説
中小企業倒産防止共済制度への申し込みの流れ
企業や組合が融資取引のある金融機関で、中小企業倒産防止共済制度に加入する手続きを行う流れを紹介します。
※共済制度の申し込みについては中小機構の問い合わせ窓口へご相談ください。
必要書類を揃える
まずは申し込みに必要な以下の書類を揃えましょう。
提示書類 |
注意事項 |
確定申告書類 |
税務署で受理されたことが分かるもの |
確定申告書に記載された法人税の納付を証明する書類 |
納税証明書、確定申告書に記載されている中間・確定の税額を納付したことが分かる証明書 |
履歴事項全部証明書 |
法務局で発行された日から3カ月以内の原本 |
また納付する法人税が中間申告でも確定申告でも0円であれば、書類は必要ありません。
中間申告時にのみ法人税を納付している場合には、納付時の領収書か確定申告時の還付通知書を提示します。いずれもない場合には納税証明書を用意しましょう。
ダイレクト納付やクレジットカード払い・インターネットバンキングなどで法人税を納付した場合にも、納税証明書を用意します。
申込書に必要事項を記入して提出する
申込書を資料請求フォームから取り寄せたら、申込者の情報や月額の掛金など必要事項を記入しましょう。
掛金の前納を希望する場合には「希望する」に丸を付けて何カ月分の掛金をいくら前納するか記入します。前納を希望しないときには「希望しない」に丸を付けましょう。
書類を全て揃えたら、金融機関か委託団体の申し込み窓口へ直接持参します。審査に通過して契約が成立すると、申し込み窓口へ書類を提出してから2カ月ほどで中小機構から書類が届きます。
オンライン手続きの流れと事前準備
中小企業倒産防止共済制度はオンラインでも申し込みの手続きが可能です。
事前準備として、まずはgBizIDのアカウントを取得しましょう。3種類あるgBizIDのうち、オンライン手続きで必要なのはgBizIDプライムのアカウントです。SMS受信用のスマートフォンや携帯電話・印鑑証明書・登録印を用意して、アカウントを作成します。
加えて「確定申告書類」「確定申告書に記載された法人税の納付を証明する書類」「履歴事項全部証明書」を揃えておきましょう。
加入申込書への記入は、経営セーフティ共済オンライン手続きポータルへログインして行います。事前に作成したgBizIDプライムのアカウントでログインして、必要事項を記入し終えたら申し込むと、登録メールアドレスに受付完了メールが届きます。
申し込みボタンを押すと「PDFダウンロード」ボタンが表示されるため、クリックして申込書類をダウンロードしましょう。ダウンロードした書類を印刷したら、金融機関か委託団体の申し込み窓口へ直接持参します。
中小企業倒産防止共済制度の注意点
中小企業倒産防止共済制度は連鎖倒産の防止や雇用の安定のために有効な制度です。ただし注意点もあるため事前に確認しておきましょう。
解約手当金は益金になる
中小企業倒産防止共済制度は、解約時に掛金総額のうち決められた割合を解約手当金として受け取れる仕組みです。
掛金が無駄にならない点はメリットですが、解約手当金が全て益金となる点には注意しましょう。損金が例年通りの場合、課税所得が大きくなる可能性があります。
解約後2年間は掛金を損金算入できない
2024年10月1日から租税特別措置法の改正により、中小企業倒産防止共済制度を解約すると、2年間は再加入しても掛金を損金に算入できなくなりました。
掛金を損金算入できることから「税制上の優遇措置があるため」という理由で、脱退と再加入を繰り返すケースが目立ったためです。
解約後の2年間も共済制度への加入はできますが、掛金の損金算入のメリットは得られません。
中小企業倒産防止共済制度の目的とメリットを知って活用しよう
中小企業倒産防止共済制度とは、中小企業の連鎖倒産を防ぐために作られた制度です。取引先が倒産すると、8,000万円を上限に掛金総額の10倍までか、回収できなくなった売掛金や債券のうち、どちらか少ない金額の貸付を受けられます。
無担保・無保証人で借入ができる点や、掛金を損金算入できる点、解約手当金が受け取れる点などがメリットです。加入しておくと、万が一に備えられます。
ただし解約手当金が益金になる点や、解約後2年間は再加入しても掛金を損金算入できない点には注意が必要です。
一定の条件下で導入すると、かかった費用を損金算入できる制度の1つに、エデンレッドジャパンの提供している食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」があります。
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