監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
住宅手当とは、企業が従業員の住宅にかかる費用をサポートする制度のことです。福利厚生における住宅手当は、企業が独自に定める制度のため、企業の裁量によって支給要件等を決められます。ただし給与として扱われるため、課税対象である点に注意しましょう。
従業員の住宅にかかる費用をサポートするとき、非課税で導入できる制度はあるのでしょうか?住宅手当と税金の関係について解説します。
住宅手当は課税される
住宅手当は、給与とみなされるため課税対象です。所得税・住民税・社会保険に影響します。
国税庁のタックスアンサーNo.2508「給与所得となるもの」でも以下のように記載されています。
手当
役員や使用人に支給する手当は、原則として給与所得となります。具体的には、残業手当や休日出勤手当、職務手当等のほか、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当なども給与所得となります。
例えば基本給25万円の従業員に住宅手当を3万円支給している場合、この従業員の月給は28万円です。税額や社会保険料額の計算は、住宅手当を含めた月給をもとに行われます。
関連記事:【社労士監修】住宅手当とは?押さえておきたい基礎知識と減少・廃止の理由
住宅手当の課税額
住宅手当を支給した場合、どのくらい税額は増えるのでしょうか。所得税を例に計算してみましょう。住民税や社会保険への影響についても解説します。
住宅手当の支給と所得税額
例えば年収が300万円の従業員の所得税を計算するときには、まず給与所得控除を行います。年収300万円なら給与所得控除は「収入金額×30%+80,000円」で計算するため98万円です。
年収300万円から給与所得控除98万円を差し引くと、所得額は202万円と分かります。ここでは社会保険料控除や配偶者控除など、その他の所得控除はないものとして計算していきましょう。
課税対象となる所得が202万円と分かったため、税率10%をかけ、控除額9万7,500円を差し引くことで、所得税額は10万4,500円と分かります。
次に年収300万円に加えて、住宅手当月3万円(年間36万円)の支給を受けている従業員の所得税を計算していきましょう。住宅手当は給与として扱われるため、この従業員の年収は336万円です。
先の例と同じように給与所得控除額を計算すると「年収336万円×30%+8万円=108万8,000円」と分かります。年収336万円から給与所得控除額108万8,000円を差し引くと、課税対象となる所得は227万2,000円です。
適用される税率は10%、控除額は9万7,500円のため「227万2,000円×10%ー9万7,500円=12万9,700円」です。所得税額は住宅手当を支給しないときと比べて、2万5,200円の負担増となることが分かります。
住宅手当を充実させて支給額を増やせば、その分従業員の負担する所得税額が増えることを理解しておくとよいでしょう。
参考:
国税庁|No.1410 給与所得控除
国税庁|No.2260 所得税の税率
住宅手当の支給と住民税額
住宅手当の支給により影響を受けるのは、所得税額だけではありません。住民税の所得割も所得額をもとに税額を算出する税金のため、住宅手当の支給により年収が増えれば、その分税額が増えます。
住宅手当の支給と社会保険料額
住宅手当を支給すると、厚生年金や健康保険などの社会保険料の金額にも影響します。社会保険料を計算するときには、住宅手当を含む給与をもとに作成される標準報酬月額が用いられるためです。
厚生年金は将来受け取れる年金額が増えるため、従業員にとってメリットもありますが、手取り額が減る点はデメリットといえるでしょう。
また厚生年金や健康保険は企業と従業員で保険料を折半するため、企業の負担額が増えることも押さえておく必要があります。住宅手当のコストに加えて、社会保険料の負担についても考慮して支給額を決めなければいけません。
住宅に関する福利厚生を非課税で従業員に提供する方法
住宅に関する福利厚生を非課税で従業員へ提供するには、社宅の制度を活用するとよいでしょう。一定の要件を満たすことで、従業員の負担を増やすことなく、住宅にかかる費用をサポートできます。
寮や社宅・借り上げ社宅を提供する
従業員に非課税で住宅に関する福利厚生を提供するには、寮・社宅・借り上げ社宅の制度を利用するとよいでしょう。
住宅手当が住宅にかかる費用を現金で支給する福利厚生であるのに対し、寮・社宅・借り上げ社宅は住宅そのものを提供する福利厚生です。
一定の要件を満たした上で提供すれば非課税のため、従業員の税金の負担を増やしません。
ただし社会保険料の計算においては、寮・社宅・借り上げ社宅は現物給与扱いとされます。現物給与の計算方法は、住宅を提供する場合には、各都道府県ごとに定められている畳1畳あたりの住宅の利益の額をもとに計算可能です。
例えば東京であれば1カ月の住宅の利益の額は、畳1畳分につき2,830円と定められています。玄関・台所・トイレ・風呂などを除く居住用スペースが10畳であれば、1カ月の住宅の利益の額は2万8,300円です。
ここから従業員が負担している家賃の金額を差し引くことで、現物給与の報酬とされます。徴収している家賃が1万円なら、社会保険料を計算するときの標準報酬月額を定めるときには、1万8,300円が現物給与として給与の額に上乗せされます。
寮・社宅・借り上げ社宅を非課税で提供するための要件
住宅を非課税で提供するためには、国税庁の示す以下の計算の合計額として求められる「賃貸料相当額」の50%以上の家賃を、企業が従業員から受け取っている必要があります。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
例えば「賃貸料相当額」が5万円の借り上げ社宅を従業員へ提供する場合、非課税にするには、賃料として2万5,000円を従業員から徴収しなければいけません。
役員に非課税で住宅を提供するための要件
役員の場合は3つパターンがあります。
A)小規模な住宅
法定耐用年数が30年以下の建物の場合には床面積が132平方メートル以下である住宅、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積が99平方メートル以下(区分所有の建物は共用部分の床面積をあん分し、専用部分の床面積に加えたところで判定します。)である住宅を言います。
B)豪華社宅
床面積が240平方メートルを超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等各種の要素を総合勘案して判定します。
C)一般の住宅
A)とB)以外
ここで非課税対象とできるのはA)の小規模な住宅と、C)の一般の住宅です。
B)の豪華社宅は対象外となります。
A)小規模な住宅の要件
「賃貸料相当額」は従業員の算出方法と同じです。
ただし役員は50%以上という優遇措置はありませんので、こちらで算出した「賃貸料相当額」を100%徴収しなければなりません。
C)一般の住宅の要件
小規模住宅や豪華社宅に該当しない住宅の場合は、国税庁のタックスアンサーNo.2600「役員に社宅などを貸したとき」に以下の記載があります。
役員に貸与する社宅が小規模住宅に該当しない場合には、その社宅が自社所有の社宅か、他から借り受けた住宅等を役員へ貸与しているのかで、賃貸料相当額の算出方法が異なります。
(1) 自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じます。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
(2) 他から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記(1)で算出した賃料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
上記から、役員へ貸与する社宅が一般の住宅に該当する場合は、賃貸料相当額と実際に支払う家賃額の半分の金額をくらべ多い方の額の徴収が必要ですので、注意してください。
借り上げ社宅を提供できる福利厚生サービス「freee福利厚生」
「freee福利厚生」は従業員に借り上げ社宅を提供できる福利厚生サービスです。企業は物件オーナーとの間で賃貸借契約を結び、従業員に賃貸住宅を提供して、従業員の給与から賃貸料相当額を天引きします。
従業員の給与の一部を住宅の現物支給とすることで、従業員の税負担を抑えて実質的な手取り額を増やしつつ、企業の社会保険料の負担も抑えることが可能です。コストをかけずに従業員にも企業にもメリットのある仕組みを導入できます。
加えて導入や運営の手間がかからないのもポイントといえます。自社で一から借り上げ社宅の制度を作り運用するとなると、担当者の仕事を増やしてしまいかねません。従業員の負担はそのままに、住宅に関する福利厚生を充実させられるサービスです。
参考:freee biz(フリービズ)株式会社|freee福利厚生 コストをかけずに従業員の手取りが増やせる
他にもある非課税になる福利厚生
非課税になる福利厚生は、社宅以外にもあります。一覧で見ていきましょう。
非課税になる福利厚生 | 概要 |
通勤手当 | 勤務先へ出社するときにかかる交通費を支給する |
出張手当 | 出張費用や出張の疲れを慰労する目的で支給する |
宿日直手当 | 宿直や日直をしたときに支給する |
在宅勤務手当 | 在宅勤務のための環境整備や通信費などの実費を支給する |
資格取得手当 | 業務に必要な資格の取得にかかる費用を支給する |
食事補助 | 従業員の食事代を支給する |
関連記事:【税理士監修】所得税が非課税になる手当を一覧で確認!非課税となる要件も解説
食事補助とは?
一定の要件を満たすことで非課税となる福利厚生の中から、従業員の食事代を企業がサポートする食事補助について解説します。非課税として、従業員の負担を増やすことなく提供するには、以下の要件を満たしていなければいけません。
(1)食事価額の50%以上を従業員が負担していること
(2)1カ月あたりの会社負担が3,500円(税別)以下であること
この要件を満たして食事補助を導入するには、エデンレッドジャパンの提供する食の福利厚生サービス「チケットレストラン」を活用するとよいでしょう。手間とコストを抑えつつ、従業員満足度の高い福利厚生を導入できます。
関連記事:食事補助とは?福利厚生に導入するメリットと支給の流れ
非課税で提供できる福利厚生を活用しよう
現金で支給する住宅手当は給与とみなされるため、従業員の税金や社会保険の負担を増やします。非課税で住宅に関する福利厚生を提供するには、寮・社宅・借り上げ社宅を検討するとよいでしょう。一定の要件を満たすことで、所得税や住民税の負担を増やすことなく提供可能です。
このように要件を満たすと非課税になる福利厚生は他にも複数あります。例えば従業員の食事代をサポートする食事補助もそうです。従業員の手間を抑えつつ導入するなら、エデンレッドジャパンの提供する食の福利厚生サービス「チケットレストラン」がおすすめです。
住宅に関する福利厚生とともに、検討してみてはいかがでしょうか。