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【社労士監修】 福利厚生費とは?該当条件や要件、具体例を説明

2021.12.10

「福利厚生」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか?おそらく多くの方が、食事補助やフィットネスクラブの利用割引、企業が保有している保養所利用など、従業員が受けられるサービスを思い浮かべるのではないでしょうか。これらは「福利厚生費」として企業が負担しています。しかし企業が負担しているものはそれだけではありません。福利厚生費は非常に幅が広く、様々な費用が福利厚生費として計上されています。今回は、そんな福利厚生費の内容と基準、そして勘定項目などについて解説します。

監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)

福利厚生費とは何か?

福利厚生費とは、福利厚生目的で会社が従業員のために支出する費用のことを指します。従業員の満足度をあげるための「サービス提供費」といってもいいでしょう。

  • 社会保険料(健康保険や厚生年金など)
  • 食事補助
  • 住宅補助
  • 社員旅行費用
  • 保養所の設備費用

以上のように、賃金以外に従業員へ支給される費用を指します。しかし、従業員に提供している費用がすべて福利厚生費になるわけではなく、一定の条件に該当するものが福利厚生費として計上することができます。

福利厚生費に該当する条件

福利厚生費に該当するためには、次の条件をすべて満たさなければいけません。一つでも条件に該当しない場合は「給与」に該当し、計上する勘定科目が変わることになります。

条件は次の通りです。

  1. 賃金以外であること
  2. 従業員全員を対象としていること
  3. 妥当な範囲の金額であること

①賃金以外であること

福利厚生費は賃金以外ものでなければなりません。賃金とは「労働の対償として従業員に支払うもの」をいい、基本給や役付手当、賞与などのことをいいます。

福利厚生 賃金

上記のような賃金が毎月従業員に支払われていた場合「通勤手当以外」は賃金に該当します。「通勤手当」は自宅から職場までの通勤にかかる費用になるため、賃金には該当せず福利厚生費になります。

②従業員全員を対象としていること

従業員全員を対象としていなければ福利厚生費となりません。例えば「女性だけ対象」「管理職だけ対象」など、限定した人だけが受けられるものにかかる費用は福利厚生費に該当しません。

③妥当な範囲の金額であること

妥当な範囲とは「常識的に考えて妥当な金額」ということです。例えば、社員旅行の費用に「1人100万円補助する」のように、常識的に考えて妥当ではない金額は福利厚生費として認められません。

金額の範囲は法律では決められていないため、企業に任せられています。ただ、中には明確に基準が決められている場合があるので注意が必要です。

例えば、社員レクリエーション費用を福利厚生費とするためには「旅行の期間が4泊5日以内であること」「旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること」が条件になります。

福利厚生を導入する際は、事前に国税庁のホームページなどでご確認のうえ、導入するようにしましょう。以上、3つの条件を満たすと福利厚生費として計上が可能です。もし条件を満たさなければ勘定科目が「給与」となり、所得税の課税対象となります。

法定福利費と福利厚生費の違い

福利厚生費は大きく分けて、「法定福利費」「福利厚生費(法定外福利費)」の2つがあります。

[社労士監修] 法定福利費と福利厚生費の違い

福利厚生費と課税・非課税

福利厚生費は条件や項目によって課税・非課税(不課税)になるケースがあり、「所得税」と「消費税」で取り扱いが異なります。

[社労士監修]福利厚生費は課税される?要件や事例をわかりやすく解説

福利厚生費でも消費税の課税になるものと不課税になるもので分かれています。消費税が課税となるのは「国内で事業の対価を得て行う取引」になるものです。

[社労士監修]福利厚生費の消費税課税基準は?健康診断など場合分けに説明

個人事業主の福利厚生費

個人事業主が一人で経営している場合や、家族経営をしている場合は、福利厚生は利用できません。ただし、個人事業主が従業員を雇っている場合は利用できます。また、個人事業主がいずれ法人成りした場合であっても、社長一人の会社であれば福利厚生費を計上できません。一人の会社に福利厚生費を認めてしまうと、事業に必要な支出か、個人的な支出かの線引きが難しくなるからです。基本的に福利厚生費は、従業員の福祉を目的としているため「従業員がいる」ことが前提となります。

[社労士監修]個人事業主が福利厚生費を活用できる条件とは?知っておきたいポイント

福利厚生費の勘定項目と会計処理

会計上の勘定項目は「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」に分かれます。そのうち「資産」「負債」「純資産」は貸借対照表に、「収益」「費用」は損益計算書に使われる項目です。福利厚生費はこの5つの中で「費用」の勘定項目に該当します。会計処理上は給与と同様の「販売費及び一般管理費」にあたり、損益計算書の人件費として計上されます。

[社労士監修]福利厚生費は人件費?人事・総務が知っておきたい福利厚生費の役割

また、下記記事にて課税に関して給与との違いに関して詳しく説明しています。

[社労士監修]福利厚生費と給与の違いは?課税・非課税になる要件も

福利厚生費の計算方法

法定福利費は、決められた方法で計算をします。また、おこなう事業によっては計算のやり方が異なる場合があります。以下の記事で、計算方法を紹介しています。

[社労士監修]福利厚生費と法定福利費の計算方法・計算式を解説


福利厚生費の上限

結論から申し上げると、福利厚生費には上限はありません。中には食事補助や通勤手当のように金額に上限が設けられているものもありますが、ほとんどの福利厚生費には上限がなく、会社側で決定します。ただし、福利厚生費として認められる条件として「妥当な金額」であることが条件です。行き過ぎる金額を福利厚生費として計上すると税務調査で指摘されますので、ご注意ください。

[社労士監修]福利厚生費の上限は?勘定項目別の上限も

企業が福利厚生を充実させるメリット・デメリット

福利厚生は従業員に多くのメリットをもたらしますが、なかにはデメリットもあります。次は企業が福利厚生を充実させるメリットとデメリットを解説していきます。

福利厚生を導入する場合のメリット

①採用時に人材が集まりやすい
福利厚生がどのくらい充実しているかは、良い人材を確保するうえでは欠かせない事項です。

求職者は「家賃を補助してくれるのか」「食事補助があるのか」「資格を取ったら給付金がもらえるのか」など、福利厚生の内容は必ず見て判断します。つまり福利厚生が充実していれば良い人材が集まり、良い人材が集まれば会社の業績も良くなるということです。

②従業員の満足度が上がる
福利厚生を充実させると、従業員の満足度が上がるため「離職率を低下させる」効果が期待できます。

特に食事補助や住宅補助など、日常で必要な経費を補助してくれる福利厚生を導入すると満足が上がりやすいでしょう。優秀な人材を社内にとどめる一つの方法としては、福利厚生が充実していることも重要になります。

③節税効果がある
福利厚生費を計上することで、法人税で節税効果があります。福利厚生費は法人税では「損金」に該当し、法人税の計算からは除外されるためです。

福利厚生を導入する場合のデメリット

①費用負担が大きい
福利厚生費を充実させようとすると、当然ですが企業の費用負担が大きくなります。新しく導入する前は「どのくらい費用がかかるのか」を算出して、予算を考えながら導入するようにしましょう。

②管理や運営、手続きが大変
福利厚生を導入することで、総務や人事など管理部門の負担が増えます。細かい手続きや費用計上、従業員への案内など様々な仕事が増えるので、導入しすぎると労働時間が増加し、人件費の負担が増える可能があります。

③すべての従業員ニーズに応えることが難しい
福利厚生の条件の一つとして「全ての従業員を対象にすること」が条件になっています。しかし、全ての従業員のニーズに応えることは困難です。

中にはニーズに合わず、ほとんど使われない場合あるので、導入前にアンケートを取るなど、ニーズを確認してから導入するとよいでしょう。

福利厚生費の具体例

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福利厚生費は様々なものがありますが、中には「給与」か「福利厚生費」か迷うものも出てくると思います。次は福利厚生費の当てはまる具体例と、当てはまらない具体例をそれぞれ5つご紹介します。

①食事補助

食事補助は代表的な福利厚生の一つです。なぜなら会社に勤めていれば必ず食事をとりますが、食事代は基本的に自腹です。つまり従業員全員にニーズがあり、かつ毎日の出費が抑えられるので、従業員にとって満足度が高いということです。食堂のある企業が人気の理由は、必ず全員に給付されるからだといってもいいでしょう。

条件としては「従業員が食事代の半分以上を負担」し、「会社が負担する額が月額3,500円以下(税抜)」である場合に限ります。また勤務後の食事なども食事補助として認められますが、お酒が含まれていると福利厚生費と認められないので注意しましょう。
また忘年会・新年会・親睦会など、社内行事にかかる飲食代は課税対象となります。

食事補助は全ての従業員を対象としていなければならず、特定の従業員だけの飲食代を負担した場合は「給与」、または「交際費」となる可能性が高くなります。とはいえ、大きい組織であれば部署ごとに行うことは当然なので、結果的に参加しなかった従業員がある程度いても福利厚生費として認められます。

社員食堂にはデメリットも多い…従業員が求める新しい「食事補助」とは

②通勤手当

通勤手当は自宅から職場までの通勤にかかる費用を支給する手当です。一定額までは非課税となり福利厚生費として計上が認められています。通勤手当は役員・社員・パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず支給することが可能です。また、自動車や自転車で通勤する従業員に対しても距離に応じた分を支給することができます。

非課税の限度額は国税庁が定めており、電車やバスなどの公共交通機関を利用した場合は1ヵ月15万円が非課税の限度額です。また、自動車や自転車などで通勤する場合は、距離に応じて非課税限度額が異なっています。ただ、非課税限度額を超えた場合は、超えた分が給与として課税対象になるので、給与で毎月の支給する際は注意しましょう。

③予防接種

インフルエンザやその他ウイルスの予防接種にかかる費用は、次の条件を満たせば企業が負担する分を福利厚生費として計上できます。

①業務上必要である
②全従業員を対象とし希望者全員の費用を負担する
③不相当に高額でないこと
(所得税基本通達36-29)

インフルエンザにかかってしまうと会社の業務が滞ってしまいます。予防接種は業務上必要であり、費用も5,000円程度で高額ではありません。希望者全員の費用負担をするのであれば福利厚生費として費用計上しても問題はありません。

④資格取得費用

従業員が資格を取得にかかった費用を会社が負担した場合は福利厚生費として計上できます。ただし「業務上必要な資格」に限ります。例えば、不動産会社では「宅地建物取引士」、建築会社では「一級建築士」など業務上必要な資格を取得するための費用負担ならば福利厚生費して認められます。

ただし、経理担当者だからという理由で「税理士」の資格取る費用を会社が負担する場合は、業務上必要とは認められない可能性もあるので、注意しましょう。「経理担当は必ず税理士資格を持っていなければならない」というわけではないからです。

⑤福利厚生代行サービス利用料

外部に福利厚生サービスをアウトソーシングする場合は、その利用料が福利厚生費として計上できます。福利厚生代行サービスは、代行会社が提携している宿泊施設・レジャー施設・スポーツジム・カルチャースクールなどを割安な料金で利用することができるサービスです。福利厚生業務をアウトソーシングすることで、会社の総務や人事など、担当者にかかる負担を減らすことができ、結果的に人件費の削減にもつながります。

当てはまらない具体例

①商品券・クオカード
商品券やクオカードは現金に換金が可能なため、福利厚生費になりません。商品券やクオカードを渡す機会がある場合は福利厚生ではなく、給与として課税になります。

②カタログギフト
誕生日や結婚を記念して、会社からカタログギフトが送られる場合があります。カタログギフトは、従業員が自由に商品を選べるとこから、現金と同じ扱いになり、給与として課税対象となります。

③住宅手当
住宅手当は、現金で支給する場合は、給与として課税対象となります。
例えば「従業員の家賃の〇〇%を支給する」「住宅ローンの〇〇%を支給する」など、給与で支給すると福利厚生費にはなりません。

ただし、従業員から家賃の50%以上を「徴収」することを条件として、会社が残りの家賃を負担する場合は、会社負担分が福利厚生費となります。

④資格取得奨励金
資格を取得した従業員に対して支払われる資格取得奨励金は給与として課税になります。例えば、簿記を取得したら1万円。税理士を取得したら20万円など、会社から資格取得をしたことを条件に支給される奨励金などです。現金を支給するので「給与」に該当し、福利厚生費にはなりません。

⑤一時的な報奨金
売上アップの功績や目標達成などで奨励金として支給される一時金は給与として課税されます。例えば「インセンティブ」として個人単位で売上目標を達成した従業員に支給されるもの。社長賞として業績を表彰された場合に現金で渡される金一封などです。報奨金は個人の労働の対価として支払われるものなので「給与」に該当し、福利厚生費にはなりません。

おわりに

福利厚生費とは、福利厚生目的で会社が従業員のために支出する費用のことです。

種類としては、大きく分けて「法定福利費」と「法定外福利費」の2つに分かれます。法定福利費は「社会保険料」、法定外福利費は「会社が独自に設けた福利厚生にかかる費用」です。

福利厚生は採用や離職率の低下に効果はありますが、管理側の負担や会社の費用負担が増えるため、むやみに増やすと人件費の増加につながります。新設する場合は、条件や従業員のニーズ確認し、導入するようにしましょう。

最後に、「同一労働同一賃金」を意識することも忘れてはいけません。

同一労働同一賃金とは「同じ職場・同じ業務に携わる従業員は、賃金や待遇を同じにすべき」という考え方で、福利厚生も含まれています。「アルバイトだから結婚祝い金がない」「派遣だから食事補助がない」など、合理的な理由がない雇用形態による待遇の差別は禁止されています。自社の福利厚生が同一労働同一賃金の観点から逸脱していないか意識するようにしましょう。

監修者:久米和子(Reiwa社会保険労務士事務所)

<参考資料>
No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行/国税庁
No.2594 食事を支給したとき/国税庁
給与等に係る経済的利益/国税庁
No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当/国税庁