日本能率協会総合研究所(JMAR)が2024年9月に公開した「働きがい1万人調査|働きがいに関するアンケート」によって、従業員エンゲージメントが高い層でも約4割が転職を検討しているという衝撃的な結果が明らかになりました。本記事では、従業員満足度・エンゲージメント・働きがいの違いを整理した上で、25〜34歳の半数以上が転職を視野に入れている現状を分析。選ばれる企業になるために必要な具体策を、最新の調査データから読み解いていきます。
「従業員満足度」「従業員エンゲージメント」「働きがい」の関係性
「従業員満足度」「エンゲージメント」「働きがい」は、企業の人材マネジメントにおいて欠かせない概念です。しかし、これらの概念は時に混同され、結果として効果的な施策立案の妨げとなっているのが現状です。企業が真に「選ばれる企業」となるためには、まずこれら3つの概念の違いと関連性を正確に理解する必要があります。
「従業員満足度」は働きやすさを測る指標
「従業員満足度」は、主に労働環境や条件に対する従業員の満足度を測る指標です。具体的には、給与・福利厚生・労働時間・職場の雰囲気・上司や同僚との人間関係などが評価対象となります。
高い満足度は、従業員の幸福感や定着率の向上につながるため、企業にとって重要な要素です。しかし、満足度が高いからといって、必ずしも積極的な貢献意欲を生み出すわけではありません。たとえば、良好な労働条件が整っていても、仕事の意義や成長機会が感じられない場合、従業員は受動的になりがちです。
このように、満足度は従業員の感じる「働きやすさ」を反映し、不満を防ぐ衛生要因として機能する一方で、組織への深いコミットメントを促すものではないことを理解することが重要です。
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「従業員エンゲージメント」は組織との結びつきを示す指標
「従業員エンゲージメント」は、従業員の組織に対する愛着や貢献意欲を表す指標です。この概念には、組織のビジョンや目標への共感・自発的な努力・主体的な行動などが含まれます。生産性向上や業績向上と深い関わりを持つ、企業にとって非常に重要な要素です。
エンゲージメントは、従業員の内発的動機を反映します。具体的には、以下の二つの要素が重要です。
- 自分の仕事が組織全体にどのように貢献しているかを理解すること
- 自分自身の成長と組織の成功がリンクしていると感じること
これらの要素が満たされ、エンゲージメントが高い状態にある従業員は、自ら率先して行動し、困難な状況でも積極的に解決策を見出そうとする特徴があります。
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なぜ満足度が高くてもエンゲージメントは低下するのか?
従業員満足度が高くてもエンゲージメントが低いケースは珍しくありません。このような場合には、いくつかの理由があります。
まず、労働条件や環境が良好でも、仕事の意義や成長機会を感じられない場合、エンゲージメントは低下するのが一般的です。たとえば、高額な給与や充実した福利厚生があったとしても、日々の業務に対する興味や情熱が欠けていると、自発的な貢献意欲は育まれません。
また、組織の目標や価値観との不一致も、エンゲージメント低下の要因となります。従業員が自分の価値観と企業文化との間にギャップを感じると、自らの役割に対する帰属意識が薄れ、その結果としてエンゲージメントも低下します。
「働きがい」は満足度とエンゲージメントを含む総合指標
「働きがい」は、従業員満足度とエンゲージメントの両方を統合した包括的な概念です。単に労働条件への満足や組織への帰属意識に留まらず、従業員が仕事を通じて意義や成長を感じ、企業の成功に積極的に貢献する状態を指します。
働きがいのある職場では、従業員は労働条件に満足するだけでなく、自身の仕事が組織全体に与える影響を理解し、個人の成長が企業の発展につながると実感できます。これにより、組織と個人の目標が一致し、従業員のモチベーションや生産性が大幅に向上するのです。
満足度が「働きやすさ」を、エンゲージメントが「組織との結びつき」を示すのに対し、働きがいはこれらを統合し、「働きやすさ」と「やりがい」の両立が実現している状態を表すものです。このバランスが、従業員の継続的な充実感とパフォーマンス向上の鍵となります。
なお、働きがいは、一般的に「やりがい」とほぼ同じ意味で使われますが、狭義では異なる部分もあります。「やりがい」は仕事そのものに対する満足感や達成感を指すのに対し、「働きがい」は働きやすい環境が整い、やりがいも感じられる包括的な状態を意味します。これにより、従業員が職場での一体感や充実感をより深く実感できるのです。
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エンゲージメントが高くても4割が転職を検討する時代
JMARは、300人以上の企業に勤務する正社員1万人を対象に「働きがいに関するアンケート」を実施しました。この調査から明らかになったのは、エンゲージメントが高いとされる層でも、約4割にあたる36.9%が転職を検討しているという事実です。この数字から、従来型の人材マネジメントでは対応しきれない、新たな課題が存在することが明らかになりました。
25-34歳の過半数が転職を視野に
調査結果によると、25〜34歳の若手・中堅層において、転職活動中が8.9%・直近3年間に転職を考えたことがある層が44.1%に上ることが判明しました。
特に25〜29歳では、55.5%が転職を視野に入れており、エンゲージメント層に限定しても36.9%が転職を検討しています。この年代は、専門性が高まり企業にとって重要な戦力となる時期であり、その半数以上が転職を考えているという事実は、企業経営に大きな警鐘を鳴らしています。
若手層の意識変化と、それに対応できていない企業の現状が浮き彫りの結果になりました。
転職を考えない主な要因
同調査によると、25〜34歳の会社員が「直近3年間で転職を考えたことがない」理由のトップは「仕事のやりがい」(26.9%)でした。続いて「今の会社の勤務地に満足しているから」(26.4%)、「今の会社の給与に納得しているから」(22.9%)と続きます。
従業員が転職を検討せず、職場に満足して働き続ける上で「働きがい」が果たす役割の大きさがよくわかる結果となりました。
転職をせずにとどまっている主な要因
同じく、25~34歳の「直近3年以内に転職を考えたことがあるが、転職はしていない」理由を調べたところ、「今の会社で柔軟な働き方ができているから」が14.4%と最多でした。以下、「今の会社の勤務地に満足しているから」(14.1%)・「今の会社の給与に納得しているから」(13.5%)と続きます。
この結果からは「働きやすさ」という、目に見えない指標の重要性がわかります。
参考|画像出典元:日本能率協会総合研究所 マネジメント&マーケティング研究事業本部|【働きがい1万人調査】|働きがいに関するアンケート
世代によるエンゲージメントの変化
20〜24歳の若手層では、エンゲージメント層が31.1%ともっとも多い水準を示しています。しかし、この数値は年齢が上がるにつれて低下していき、特に25〜29歳ではもっとも低水準まで下がります。
一方、25〜29歳で底を打ったエンゲージメント層の割合は、30〜34歳から再び上昇に転じ、35〜39歳でいったん減少しつつも以降伸び続けていくことが調査結果から明らかになりました。
20代前半のエンゲージメントが高い理由として考えられるのが、新卒入社直後の高いモチベーションや期待感です。また、25〜29歳で低下する背景には、現実の仕事と理想とのギャップ・キャリアパスの不透明さ・責任の増加に伴うストレスなどが影響している可能性があります。
30代以降でエンゲージメントが再び上昇する要因としては、キャリアの方向性の明確化・組織内での役割の確立・仕事と私生活のバランスの改善などが挙げられます。また、管理職への昇進や専門性の向上により、仕事への満足度が高まることも一因かもしれません。
この変化パターンは、入社直後の高いエンゲージメントをいかに維持・向上させていくかが、企業にとって重要な課題であることを示唆しています。
参考|画像出典元:日本能率協会総合研究所 マネジメント&マーケティング研究事業本部|【働きがい1万人調査】|働きがいに関するアンケート
「選ばれる企業」になるための具体策
この大転職時代において、優秀な人材から「選ばれる企業」になるためには、世代や職種による価値観の違いを踏まえた複合的なアプローチが必要です。ここでは、「働きやすさ」と「働きがい」を両立する具体的な取り組みを紹介します。
即効性の高い環境改善
JMARの「働きがい1万人調査|働きがいに関するアンケート」が示すのは、日常的な職場体験の質が働きがいに大きな影響を与える事実です。
特に「柔軟な働き方」(14.4%)や「勤務地」(14.1%)といった環境面の要素が、転職を思いとどまらせる重要な要因となっている点は無視できません。
リモートワーク・フレックスタイム・時短勤務といった、働き方の自由度を高める制度は、こうした潜在的な要求に応える効果的な施策です。これらは育児介護支援にもつながることから、女性人材を発掘する効果も期待できるでしょう。
長期的な働きがい形成策
働きがい形成の長期的な視点では、キャリア支援との連携が重要です。「働きがい1万人調査|働きがいに関するアンケート」では、研究開発職のエンゲージメント率が33.0%と高い水準を示していますが、これは専門性の追求や裁量権の広さが働きがいに直結している証といえます。
一方、技能職では23.6%と低い水準に留まっており、職種の特性に応じた育成施策の必要性が示唆されています。具体的には、評価制度の見直しや組織文化の醸成など、中長期的な視点での取り組みが必要です。
福利厚生の充実
近年、より多くの人材から選ばれる企業としての差別化を図る目的で、福利厚生の充実に力を入れる企業が増えています。
福利厚生には、健康保険や厚生年金保険のような、提供が義務付けられている「法定福利厚生」と、企業が独自で提供する「法定外福利厚生」の2種類があります。ここで話題になっているのは、義務ではない「法定外福利厚生」です。具体的には、社宅の提供や食事補助・慶弔見舞金・メンタルヘルスサポートなどがこれにあたります。
福利厚生を充実させるメリット
選ばれる企業になるための具体策の中でも、特に注目度が高いのが、福利厚生の充実です。特に、日常的に利用できる福利厚生施策は、単なる従業員満足度の向上だけでなく、組織の一体感醸成や人材定着にも大きく貢献するものです。福利厚生を充実させることにより、企業が得られる主なメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
従業員満足度の向上
日常的に利用できる福利厚生は、従業員の継続的な満足度向上につながります。
休暇制度が整備され必要に応じて休暇を取れるようになれば、プライベートと仕事を両立しやすくなり、従業員のワークライフバランスが整います。
また、資格取得支援制度があれば、経済的なサポートを受けながらのスキルアップが可能です。さらに、住宅手当や食事補助があれば、使える金額が増えて暮らしに余裕が生まれます。
従業員が日々実感できる具体的な支援は、従業員満足度を向上させるのはもちろんのこと、仕事に対するモチベーションやパフォーマンスの向上にもつながることが期待できるのです。
人材確保・離職防止
近年、求職者が企業を選ぶにあたり、福利厚生の充実がひとつの重要な評価基準となっています。
それというのも、社宅の提供や食事補助・慶弔見舞金といった福利厚生は、企業にとって提供する義務のない「法定外福利厚生」であり「提供している企業=従業員を大切にする企業」とのブランディングがなされるからです。
求職者が就職先を選ぶにあたっては、従業員を大切にし、さまざまな施策を検討・実施している企業を選びたいものです。充実した福利厚生の提供は、こうした求職者のニーズを満たすため、より多くの優秀な人材の獲得・定着が期待できます。
関連記事:福利厚生の拡充で得られるメリットは?導入しやすいサービスも紹介
企業価値の向上
適切な福利厚生施策は、従業員の健康維持や働きやすい環境づくりを通じ、直接的な生産性の向上に寄与します。また、人材の定着率向上は、採用コストの削減や技術・ノウハウの蓄積につながります。
ESG投資の観点からも、従業員への積極的な投資は企業価値向上の重要な要素です。さらに、福利厚生の充実は企業ブランド価値の向上にもつながり、取引先や顧客からの信頼獲得にも効果があります。
このように、福利厚生への投資は、企業の持続的な成長を支える重要な経営戦略のひとつとなっているのです。
日本一の実績を持つ食事補助の福利厚生「チケットレストラン」
福利厚生にはさまざまな種類がありますが、中でも近年、多くの企業が注目し、導入を進めているサービスに、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」があります。
「チケットレストラン」は、一定の条件下で食事代が半額になる食事補助の福利厚生サービスです。コンビニやファミレス・三大牛丼チェーン店など、全国25万店舗以上の加盟店で利用可能で、勤務時間内であれば、利用する場所や時間も選びません。
支払いは専用のICカードで行えるほか、アプリの利用で残高の確認や近隣の加盟店検索も可能です。運用は月に1度のチャージのみのため、バックオフィスの負担もありません。
こうした利便性が高く評価され、すでに3,000社を超える企業に導入されている人気のサービスです。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
「働きがい1万人調査」から学ぶべきこと
JMARが行った「働きがい1万人調査|働きがいに関するアンケート」の分析から明らかになったのは、従来の人材マネジメントの常識が通用しなくなりつつある事実です。エンゲージメントが高い従業員でも4割が転職を検討し、25〜34歳の過半数が転職を視野に入れている現状は、企業に根本的な変革を迫っています。
こうした現状にあって、優秀な人材を獲得・定着させるには、冷静な現状の分析と、思い切った新たな施策が欠かせません。「チケットレストラン」のような、人気の福利厚生の導入は、その選択肢のひとつです。
JMARは「“働きやすさ(柔軟な働き方)”は、検討した転職を思い留まらせる・“働きがい(仕事のやりがい)”は、転職を考えさせないカギ」と総括しました。
これからの時代に選ばれる企業を目指し「働きやすさ」と「働きがい」の両立に取り組んでみてはいかがでしょうか。
参考|画像出典元:日本能率協会総合研究所 マネジメント&マーケティング研究事業本部|【働きがい1万人調査】|働きがいに関するアンケート