監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
派遣社員は期間の定めのある有期契約で勤務している割合が高い雇用形態です。そのままでは3年ルールにより、同じ職場では3年を超えて働けません。3年経過後の選択肢の1つが無期転換です。派遣元企業の人材管理に役立つよう制度の概要や3年ルールとの関連性をチェックし、人材確保に役立てていきましょう。
無期転換導入の背景と派遣スタッフの現状
2013年4月1日から、有期契約の派遣社員は条件を満たすと無期転換の申し込みができるようになりました。無期転換はなぜ導入されたのでしょうか?背景や意義を解説します。
無期転換ルール導入の背景
派遣社員を含む有期契約労働者の無期転換ルールが導入されたのは、有期契約労働者の働く実態に合わせるためです。
1年契約で働いている有期契約労働者であっても、契約の更新は形式的なもので、実態としてはその職場に必要不可欠の人材となっているケースが少なからずあります。
常に在籍しており戦力に組み込まれているなら、実態としては無期契約労働者です。企業と従業員が働き方の実態に合う契約を結べるよう、無期転換ルールができました。
派遣スタッフの現状
「派遣社員WEBアンケート調査結果2023年度」によると「現在派遣で働いている」と回答した人のうち、有期契約労働者は78.2%、無期契約労働者は18.0%でした。
また有期労働契約者が同じ派遣会社で雇用されている期間は以下の通りです。
通算期間 |
割合 |
1年未満 |
37.4% |
1年以上2年未満 |
22.0% |
2年以上3年未満 |
11.8% |
3年以上5年未満 |
12.3% |
5年以上 |
16.6% |
そもそも有期契約で派遣スタッフとして働く人材は、時間や勤務地などの自由度の高さを理由にしているケースが多く、流動性の高さがうかがえます。
ただし有期契約の派遣スタッフを今後もずっと継続したいと考えている人材は多くありません。4年目以降の働き方として、無期契約の派遣スタッフを希望する人は18.5%、限定正社員を含む正社員を希望する人は42.5%です。
参考:日本人材派遣協会|派遣社員WEBアンケート調査結果2023年度
派遣スタッフの3年ルールとは
厚生労働省の資料によると、2015年9月30日以降に労働者派遣契約を締結したか更新した派遣スタッフは、労働者派遣法により、原則として同じ事業所で働ける期間の上限が3年間と決まっています。
3年後に企業が取れる選択は5つ
派遣スタッフの3年ルールでは、原則として同一の派遣先に3年を超えて勤務できません。契約や更新から3年経過すると、有期契約の派遣スタッフとの契約はどうなるのでしょうか?3年経過後に企業が取れる選択肢を紹介します。
派遣先での直接雇用
派遣先から「引き続き勤務してほしい」と望まれており、派遣スタッフも「働き続けたい」と考えているなら、派遣先での直接雇用へ切り替えるとよいでしょう。派遣元の企業が仲介し、条件交渉を実施した上で直接雇用となります。
同じ派遣先の異なる課への派遣
3年を超えて有期契約の派遣スタッフが同じ事業所で働くには、過半数労働組合等への意見聴取を行った上で、これまでと異なる課へ派遣しなければいけません。
例えば事業所Aの総務課で3年間勤務した派遣スタッフが、引き続き事業所Aで勤務するには、次の3年間は人事課や営業課など総務課以外の組織単位で働くこととなります。
新しい派遣先への派遣
有期契約の派遣スタッフが同一の派遣先で勤務できるのは、原則として3年間です。その後の選択肢として、新しい派遣先へ派遣することもあります。
派遣元での無期転換
派遣スタッフと派遣元との契約を変更し、無期転換する方法もあります。無期契約の派遣スタッフであれば3年ルールの対象外となるため、3年を超えて同じ派遣先で勤務可能です。
契約終了
3年を超えて同じ事業所へ勤務できないことから、契約や更新から3年たったタイミングで契約を終了するという選択肢もあります。
派遣スタッフの無期転換ルール
有期契約の派遣スタッフを無期転換するときには、労働契約法第18条に定められているルールに従う必要があります。正しく手続きができるよう、厚生労働省の「無期転換ルールハンドブック」をもとに、無期転換ルールについて見ていきましょう。
1年間の有期契約の場合
雇用契約が1年間の有期契約なら、無期転換申込権が発生するのは、通算5年を超えて更新を行った場合です。派遣スタッフが無期転換を申し込むと、契約終了の日の翌日から無期労働契約となります。
3年間の有期契約の場合
派遣スタッフとの雇用契約が3年間の有期契約なら、契約を締結もしくは更新してから3年間経過すると、更新後の3年間は派遣スタッフに無期転換申込権が発生します。1回目の更新時には通算契約期間が6年間になるためです。
無期転換申込権が発生している期間中に、派遣スタッフが無期転換を申し込むと、有期労働契約が終了する日の翌日から無期労働契約に切り替わります。
無期転換ルールが適用されないケース
有期契約が5年間を超えても、無期転換ルールが適用されないケースもあります。2種類の特例は以下の通りです。
無期転換ルールの特例 |
要件 |
有期契約労働者が高度な専門知識を持つ場合 |
高度な専門知識を持ち高収入な有期契約労働者が、その専門知識を必要とする5年を超える一定期間のプロジェクトに参加するとき、都道府県労働局長から雇用管理に関する計画の認定を受けていると10年までは無期転換申込権が発生しない |
有期契約労働者が定年後引き続き雇用される場合 |
定年後に引き続き同じ企業で有期契約労働者として雇用されるとき、都道府県労働局長から雇用管理に関する計画の認定を受けていると、無期転換申込権が発生しない |
有期契約の派遣スタッフを無期転換するときの流れ
有期契約の派遣スタッフを無期転換するときには、以下の4ステップで進めていきます。
- 就労実態の調査
- 業務の整理と配分
- 労働条件の検討と就業規則の作成
- 運用と改善
4ステップの詳細を見ていきましょう。
就労実態の調査
まずは自社で働く有期契約の派遣スタッフについて、現状把握が必要です。以下の項目を参考に、自社の状況に合わせた調査を行います。
- 人数
- 業務内容
- 労働時間
- 契約期間
- 更新回数
- 通算契約期間
- 今後希望している働き方やキャリア
- 無期転換申込権の発生時期 など
業務の整理と配分
無期転換に向けて、自社が手がけている事業に関する業務にどのようなものがあるのか、今一度洗い出して整理していきましょう。整理するときには、その業務が「基幹的か補助的か」「一時的か恒常的か」で分類します。
恒常的な業務は無期契約労働者に、一時的かつ基幹的な業務は高度な専門知識を持つ有期契約労働者に、一時的かつ補助的な業務は一般の有期契約労働者に向いています。
労働条件の検討と就業規則の作成
無期転換した派遣スタッフの労働条件をどのように定めるか決め、就業規則を作ることも必要です。
新たに無期契約の派遣スタッフ向けに就業規則を作る場合には、無期契約の派遣スタッフが正社員の就業規則の対象とならないよう、正社員の就業規則も調整に向けて見直しましょう。
また無期契約の派遣スタッフが、正社員と同等の業務や責任を負うなら、同一労働・同一賃金となるよう考慮が必要です。
運用と改善
準備が整ったら実際の運用に移ります。重要なことは、制度設計をする段階から、労使でよく話し合うことです。協議の場を設け、お互いに納得のいく制度を作ることで、スムーズな運用が実現します。
派遣スタッフの無期転換によるメリット
有期契約の派遣スタッフの無期転換は、人材確保に有効です。国内では少子高齢化が進み、さまざまな業種で人手不足が進行しています。そのような中、人材を安定的に雇用できる無期転換を実施することで得られるメリットを確認していきましょう。
【企業】人材を安定的に確保できる
無期契約の派遣スタッフは期間の定めなく働き続けられます。有期契約では企業が引き続き働き続けてほしいと希望していても、派遣スタッフが契約終了を希望するかもしれません。
契約終了となれば人材の補填が必要ですが、新しい人材がすぐに見つからないケースも考えられます。
無期転換を行えばこのような事態を回避可能です。人材確保が安定的に行われることで、長期的な事業展開を見越した戦略を立てやすくなります。
【企業】教育の手間を減らせる
派遣スタッフの3年ルールにより、毎回3年間で派遣スタッフが交代していると、派遣先企業ではその都度教育をし直さなければいけません。
派遣元企業で無期転換を行えば、派遣スタッフは3年を超えて同じ職場で勤務できるため、派遣先企業で新たな派遣スタッフに業務を教える手間を減らせるメリットを提供できます。
派遣スタッフのキャリア形成しやすい
期間の定めなく働き続けられる無期契約の派遣スタッフであれば、同じ業務に継続的に従事できます。その中で知識やスキルが高まっていくことが考えられるでしょう。
同じ職場で働き続けられるならと、業務に役立つ資格取得に挑戦するというような、キャリア形成に向けた学びに積極的になりやすいことも期待できます。
派遣スタッフの無期転換によるデメリット
人材確保の面でメリットの大きな無期転換にはデメリットもあります。派遣スタッフの無期転換を実施するときには、デメリットも把握した上で取り組みましょう。
人材が過剰となったときの調整が難しい
無期転換申込権が発生し派遣スタッフが申し込めば、今の契約が終了した翌日から無期契約の派遣スタッフとなります。企業側には拒否権がないため、勤務態度や能力が気になる場合であっても、無期転換に応じなければいけません。
また有期契約の派遣スタッフのように、契約期間満了による雇い止めも不可能です。
現時点では人手不足であったとしても、業務効率化によって人材が過剰となる可能性もあります。有期契約の派遣スタッフであれば、契約満了時の雇い止めにより人材を調整できますが、無期契約の派遣スタッフではそれができません。
派遣スタッフにとっては労働条件が変わる可能性がある
無期転換したあとの労働条件は、原則としてそれ以前と同じです。ただし就業規則により別段の定めを設けていれば、労働条件の変更が認められます。
例えば就業時間・転勤・給与の減額などが考えられるでしょう。派遣スタッフの希望に合わない労働条件の変更となる可能性もあるため、あらかじめ無期転換後の労働条件の説明や、派遣スタッフの希望のヒアリングを実施するとよいでしょう。
2024年4月から加わった企業の義務
労働契約を締結・更新するときには、企業が労働者へ労働条件を明示しなければいけません。2024年4月からは、労働条件の明示事項として、無期転換に関する事柄を伝えることが義務付けられました。
厚生労働省の資料をもとに、新しく追加された明示事項の中から、有期契約労働者への明示事項を見ていきましょう。
参考:厚生労働省|2024年4月から労働条件明示のルールが変わります
更新上限
有期労働契約の締結時・更新時には、更新上限を明示するよう定められました。更新上限は通算契約期間もしくは更新回数の上限として示します。
また有期労働契約締結後に更新上限を新たに設ける場合や、契約締結時もしくは更新時に明示した更新上限より短縮する場合には、あらかじめ有期契約労働者に説明しなければいけません。
無期転換申込機会
無期転換申込権が発生したときには、更新のタイミングで無期転換へ申し込めることを明示するよう定められています。無期転換申込権が発生しても有期契約を更新した場合には、更新ごとに無期転換申込権について伝えなければいけません。
無期転換後の労働条件
無期転換申込権が発生したら、無期転換申込権についての明示とともに、無期転換したあとの労働条件についても明示します。
また無期転換後の労働条件を決めるときに、正社員といった他の従業員の業務内容・責任の範囲・異動の有無などとのバランスを考慮するときには、そのことについても説明が必要です。
派遣スタッフの無期転換は人材確保に効果的
有期契約の派遣スタッフには3年ルールが設けられており、原則として同一の事業所では3年を超えて勤務できません。ただし無期転換申込権が発生すると、無期契約の派遣スタッフとして勤務し続けられます。
派遣スタッフにとってはキャリア形成しやすい安定的な仕事を得られ、企業にとっては人材不足の解消や教育の手間削減につながる制度です。
人材不足の解消に向けて有期契約の派遣スタッフの無期転換を検討しているなら、同時に社内制度の見直しも進めるとよいでしょう。例えば従業員が求める福利厚生を整備すれば、今いる従業員の離職防止や新たな人材の採用につながるかもしれません。
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